ジョンガリ・Aは白内障によってほとんどの視力を失ってはいるが、まったく目が見えないというわけではない。
くわえて、卓越した狙撃手としての感覚と彼のスタンドで気流を読むことによって建物の位置や人の存在は察知できた。
光ささぬその瞳は、常人が見えている範囲より多くの物事を見通していた。
だが、彼はこの殺し合いの場において幸か不幸かでいった場合、不幸な状況にあった。
地図や名簿といった薄っぺらな紙は彼になんの情報も与え得なかったからである。
敬愛すべき主君も、幼き頃より見知っている神父も、この場にいるかすらわからない。
放送を聞き終えた彼がまず情報を欲したのは、当然ことだといえる。
空条承太郎と、その同族が最初のステージで死に、そして
空条徐倫が死んだ。
死んだ者がそれだけだったならば彼にとって疑問はない。
この殺戮のゲームはジョースターの血統を根絶やしにするために行われており、なすべきことは参加者の殺害。
そうシンプルな結論に落ち着く。
しかし、あまりに死者が多すぎた。
ンドゥール、そしてDIO様に似た空気をまとった青年の存在……。
ジョースターの血統に仇なす者たちもまた同様に集められ、一緒くたに殺し合いを強要されているのではないか。
そうなれば、と彼は考える。
俺のすべきことはDIO様の護衛。
二度とあの方を失わないチャンスがここには存在しているのだ。そのためにはまずあの方を見つけださなければならない。と。
皆殺しか、情報収集か。
ジョンガリ・Aは、その両方をとった。
すなわち、情報を得つつ殺害を行う。
放送を経て決心したジョンガリ・Aが察知したのは、南から北上する青年の姿だった。
* * *
――
山岸由花子を放置するべきではなかったかもしれない。
あらためて、現状を鑑み、
花京院典明はそう考えていた。
山岸由花子は空条承太郎を知らなかったようだが、このゲームにはジョースター家に類する者、そして彼らに関わりを持った人間が多く存在する。
何名かはDIO様と空条承太郎がたどった「歴史」を知っているのだろう。
つまり、間接的にも、空条承太郎の仲間は多く存在していることになる。
DIO様の敵が多いということは、とどのつまり私が始末すべき敵が多いということを意味する。
だというのに……!!
『花京院典明』という人間が『DIO様の敵である空条承太郎を抹殺しようとしている』。
そのことを山岸由花子は知っている。
山岸由花子が殺害をもくろんでいた広瀬康一はたくさんの仲間に囲まれていた。
どうせ返り討ちにあうだろうと彼女を放置したが、彼女がなんの情報ももらさず死亡する確証はない。
彼女は私のことを憎い相手と認識していただろう。空条承太郎に関係がある相手と出会った場合、私の情報を漏らす可能性は十二分にある。
触れるだけで相手の記憶や思考を読みとる能力――そのようなスタンドも存在しないとは言い切れない。
『未来の花京院典明』は空条承太郎の仲間だったと
アレッシーは語った。
ジョースターの一味と信頼関係を築いていたのならば、彼らは自分を見て、仲間だと認識したかもしれない。アレッシーのように。
現在の私には「仲間になった」という未来を知っているアドバンテージがある。
空条承太郎や他の仲間の寝首をかけるステータスが私には備わっている。
しかし、最初から疑われていたのでは不意を打てる可能性は大いに下がってしまう。
――あの方のお役に立ちたいと願ったのなら、どんなミスも犯すべきではなかったのに……。
名簿もなかった状況では、本名を名乗るべきですらなかったのかもしれない。
山岸由花子から信頼を得ようとしたところで、なんの意味もなかったのだから。
山岸由花子は爆音の響いた方へ向かった。
追いかければ、山岸由花子かあるいは広瀬康一とやらが殺されかかっている状況に間に合うかもしれない。
広瀬康一を助けるふりをして山岸由花子を殺害すれば……。
花京院典明の足は自然と北へとむかう。
しかし彼は山岸由花子に追いつくことができなかった。
先行させたスタンドの視覚が、ライフルを背負った長髪の男の姿をとらえていた。
* * *
「殺害を依頼した相手までリストに載せるバカがいるか……?」
地図でいうところのF-8北側にある民家の一室で、男の嘆息が漏れた。
そこは、しがないサラリーマンの住居とはにわかに信じられないような洋風二階建ての戸建て。
川尻浩作が毎月13万円の家賃を支払い、家族と住んでいた家屋である。
いまそこにいるのは、川尻浩作の格好をした川尻浩作ではない男。川尻浩作の心情を永遠に理解し得ないであろう男、
ラバーソール。
彼の指先はびっしりと文字が書き込まれた紙片を摘んでいた。
陽に透かし、風に泳がせ、なんの変哲もない紙であることを確かめる。
「殺しの依頼にしちゃ、まぁ、いろいろと不自然だ、が……
この紙切れ以外にはなんもねえようだしな」
彼の視線の先には黄色いスライム状の物体の中でもがくハトがいる。
ラバーソールのもとへ名簿を運ぶこととなった不幸なハトであった。
この殺し合いのゲームが新しい依頼であり、参加者を皆殺しにすれば報酬が貰えると考えていたラバーソールにとり、『名簿』と放送の内容はやや予想外のものであった。
依頼人にとっては、殺し屋だろうが一般人だろうが関係ねぇ。
誰が誰を殺してもOKってことになる。
そこから察するに、この殺し合いは誰を殺したかによって賞金の額が異なる。
川尻浩作が100ドルだとして、空条承太郎は100000ドルってな具合にな。
名簿にそれが載ってないのは不自然だが、『三日間生き残れ』ってのには説明がつく。
三日間で殺した人間の賞金の合計額が生き残ってるやつに支払われるってわけだ。
放送では空条承太郎と
川尻しのぶ、そして
サンドマンとかいう野郎の名が呼ばれるのを期待したが、結果は惜しくも大ハズレ。
死んだのは早人っていう、川尻浩作のガキだけだった。
変装がばれ、珍しくヒヤっとする体験をしたわりに得たものはほぼ皆無。
『川尻浩作』と、もうひとりを喰ってやってからろくな目にあってねぇ。
ったく、アンラッキーとしかいいようがないぜ。
ブジュル
ラバーソールの苛立ちを反映し『黄の節制』が膨張する。
もがいていたハトの姿は完全に飲み込まれ、動かなくなった。
それにしても放送が終わってからしばらくたったが、誰もこの近辺を通りかからねぇ。
やる気のあるやつらはすでにDIOの館なんかに行っちまってるってことか?
それで、殺しあいなんてまっぴらだって臆病なやつらは、地図の端の方の施設でふるえてるわけだ。
俺は? 当然、乗ってる側だ。
泣きわめいて命乞いをするやつらを端から潰していくのも一興だが、すでに76人も死んじまってるからな。ここからは飛ばしていくぜ。
とはいえ、問題は『誰』でいくかだな。
空条承太郎もさっきのやつらも俺を追ってきている気配はないが、まだこの辺をうろついている可能性は捨てきれん。
正直、空条承太郎のわけがわからん能力も、『黄の節制』をスパッとやっちまったサンドマンの能力も、ハンサムのラバーソール初の障害ってやつだ。
俺の『黄の節制』に弱点はない。が、相打ちにならねえとも限らねぇ。
見た目で警戒されるのは避けとくべきだ。
となると…………。
* * *
「ジョナサン、僕から質問をしてもかまいませんか?
吸血鬼や屍生人について、詳しいことが知りたいんです。
たとえば、その化け物たちが呼吸を必要としない生物なら『エアロスミス』のレーダーでは感知できないかもしれない。
レーダーで追えるのはあくまで二酸化炭素の反応だけですから。
それに、君にとっては『スタンド』の方が信じがたいと思われるかもしれませんが、僕には吸血鬼や屍生人なんてファンタジーやメルヘンの中の存在としか思えないんです」
「そうだね、ナランチャにもきちんと伝えていなかったから、さっきは危なかった。
ふたりは『石仮面』について、聞いたことは……?」
E-6のアクセサリーショップの中では、主にジョナサンとフーゴの間で綿密な情報交換が行われていた。
フーゴが第一に問いただしたのは、吸血鬼と屍生人について。
彼がそれについて真っ先に触れたのには理由があった。
ジョナサンにもナランチャにも伝えることのできない問題がフーゴにはあったためだ。
すなわち、自分の知るナランチャはすでに死亡しているという事実と、吸血鬼は死者を蘇らせるというジョナサンの言葉。
ナランチャが屍生人という存在だと、フーゴには到底思えない。
しかしジョナサンの前で、『ナランチャ、君はすでに死んでいるはずだ』と、問題提起する勇気はどうしても持てなかった。
ジョナサンの知らないジョースターの血統――時間軸の違いをフーゴは確信しつつある。
それはジョナサンより進んだ時間から連れてこられたゆえに気付けたのであり、吸血鬼による死者の蘇りを信じるジョナサンに罪はない。
それでも。
ナランチャは屍生人などではないと、完全に否定できる材料をジョナサンの口から得たかった。
確固たる証拠がそろってから説明したいと思ってしまう自分の弱さもフーゴは自覚している。
アバッキオのことは保留するとして、なんの説明もなしに、ナランチャ同様死んだはずのブチャラティに、かつて『パッショーネ』に属していた者たちに出会えば、いずれはどこかで混乱が生じ、隙が生じる。
ジョナサンは誤解から他人を殺めてしまうような人間には見えないが、仲間内でのいざこざの種は潰しておくべき、彼はそう考えていた。
それに、吸血鬼、屍生人について詳しく知れば、アバッキオを救う手だてがあるかもしれない。
ジョジョの夢をともに追う、誰も欠けることのない、ブチャラティチーム……。
儚い夢とうしろめたい気持ちをかかえながらフーゴは話を続ける。
* * *
――エメラルドスプラッシュ
弾かれた弾丸がどこか遠くの壁に命中し、鋭い音をはなった。
花京院典明は舌打ちとともに神経をスタンドへ向ける。
――まさか、あの距離から撃ってくるとは思わなかった。
北方300mはあろうかという距離から放たれた銃弾は、正確に足元を狙っていた。
スタンドの視覚によって男の動向に気付くことができたから、どうにか銃弾を逸らせたものの、一瞬でも判断が遅れていれば骨もろともやられていたに違いなかった。
男のものと思われるスタンドの存在は感知できていたが、それを介さない純粋なライフルによる狙撃。だというのに、おそろしく判断が早く、狙いは正確だった。
接触を試みるか、ひとまず撤退するか。
そうこう悩んでいるうちに、狙撃手は空薬莢を抜き、次の一撃の準備をし終えようとしている。
――見境なく撃ってくる相手と話が通じるとも思えない……。
この狙撃手が山岸由花子を処分していることを願いながら、花京院は進路を南に取った。
DIOへの忠誠――心中をともにする二人ではあったが、互いにそれを気付くすべはない。
遮蔽物の多い道をジグザグに走行しながら、行く先へスタンドを先行させた。
どうやら狙撃手は追ってきているようだ。
脳漿までぶちまけそうな鋭い一撃が髪先をかすめ飛んでいく。
いまや見慣れてしまったタイガーバームガーデンに突き当たり、東へまわりこむ。
E-6の南側、スタンドの視界がガラス張りの建物の中に数人の影をとらえた。
周囲に警戒しながらなにかを話し合っているようだ。
正義感の強い人間ならば、銃撃を受け、逃げこんできた人間を無碍に扱ったりはしないだろう。
うまく取り入り、狙撃手を撃退し、情報交換を行う。
ジョースターに与する者ならば、そのまま仲間のふりをし、折りをみて一網打尽にする。
彼らがこのゲームに乗り気な者たちであっても、こちらが無力なふりをすればまずは狙撃手への対抗を試みようとするだろう。
狙撃手にとっての的は増える。
どちらにせよ彼らに接触を試みるのは悪くない……。
南東へと足を向けかけた花京院の目が、にわかに見開かれる。
その目、いや、先行させた彼のスタンドの目がとらえていたものは、『己自身の姿』だった。
* * *
狙撃する瞬間において、筋肉を信用せず骨をささえとすることを信条としてきたジョンガリ・Aにとって、逃げ出した青年――花京院を自らの足で追うことは苦渋の選択だった。
動けば動くほど筋肉は震え、骨はきしむ。
遠距離から一方的に狙撃できるというライフルの利点をむざむざ手放す行為でもある。
しかしこの数時間、誰にも会わずにきたことが彼を焦らしていた。
地図のほぼ中央にいるのに、主君はおろか敵の姿さえ発見できずにいる。
彼の周囲にほかに撃つべき相手の選択肢があれば、ジョンガリ・Aはリスクの高い行動を選択しなかったはずである。
ジョンガリ・Aからの狙撃を起点とした無言の追いかけっこが続く。
青年がスタンド使いであることはジョンガリ・Aもすでに気付いていた。
銃弾をかわしたときの気流の乱れ、そして現在も逃げつつスタンドでなにかしようとしている。
罠にはめられる前に追跡をあきらめるべきか……。
ジョンガリ・Aがそう思ったときと、青年がつ、と立ち止まったのはほぼ同時だった。
いぶかしんだ瞬間に『なにか』に足をとられ、ジョンガリ・Aの体勢が崩れる。
膝を突き、地面に転がるのは阻止したものの、あっけにとられ、気流を読みとることをわずかな間、完全に放棄してしまっていた。
我にかえって自分の失態に気付くもすでに青年の姿はどこにも見えない。
足をとられたのがスタンドによる攻撃ならば、追撃があるはず……と構えるも、気流は朝靄のように沈澱しなにものも動き出そうとしない。
かわりにバラバラとガラスが砕けるような音がほど遠くから聞こえてきた。
音のした方へ向かうと、200mほど離れた建物の一階に、数人の人間が集まっているのが見える。
大柄な男と、少年ふたりの計三人。
さきほどまでは室内にいたため存在を見逃していたが、表のガラスが割られたことで彼らの姿がくっきりと気流に浮かび上がるようになっていた。
どうやら青年がスタンドで表のガラスを破壊していったらしい。
銃弾を弾くほどのスタンドならば、ガラスを割ることだって造作もないだろう。
――かわりの獲物を用意したとでもいいたいのか……?
狙撃をかわされ、膝を突かされた青年のことは単純に憎らしい。
だがどこにいったかもわからなくなってしまった青年と、襲撃に慌てふためく眼前の三人、どちらがよりDIO様に近いだろう……。
あくまで冷静に、自らの目的を遂げる方法を、ジョンガリ・Aは模索し続けている。
* * *
「待てッ、花京院、俺だ!!」
「承太郎……! 君は、殺されたはずじゃ……」
E-7中央付近の路地裏で、ふたりの『学生』が対峙していた。
『花京院』と呼ばれた青年は目を見開き、驚きの表情をしている。
そこから10mほど離れ、呼びとめた手をゆっくり降ろしているのは『承太郎』と呼ばれた青年だった。
「ああ……確かに俺はあのとき死んだ。
それは間違いない。
だが俺はなぜかこうして生きている。それも事実だ」
「なにを言っているのかわからないが、本当、なのか……?」
目深にかぶった帽子の下、『承太郎』の瞳が奇妙に光る。
「この滅茶苦茶な地図を見ればわかるだろう。
俺たちスタンド使いの常識を越えるなにかが起きつつあるんだ。
俺が死んだはずなのに生きていること、それが不思議でないようななにかが……」
『花京院』は絶句している。
それを見た『承太郎』の口元がヒクヒクとひきつる。
『承太郎』――否、ラバーソールは笑いをこらえるのに必死だった。
そうそう、こういう反応を待っていた。
あいつらみてーな異常者に先に会っちまったせいでちっと自信をなくしていたが、俺の変装は完璧だ。
一瞬の迷いもなく俺を敵だと断じやがった空条承太郎や、人の話を聞こうともせず撃ってきやがった野郎とは違う。人の話を吟味しようって態度。
こういう態度が大事だぜ。
化けた『本人』を見つけちまったときには肝が冷えたが、ジョースター一行に会えたのはラッキーってやつだ。
ブヂュブヂュルつぶして、賞金ガッポガッポだぜぇ。
「参加者の半数が死んじまってるって状況でお前に会えたのはラッキーだったぜ。
ひとまず屋内に移動しないか?
ここでつっ立ってるのは的にしてくれと言っているようなもんだ」
「……屋内に移動するのは賛成です。
ですが…………」
「おう、じゃあさっさと……うぉッ?!!!」
一歩踏み出したつま先から俺の上半身めがけて光弾が撃ち込まれる。
『黄の節制』の能力はどんな物理攻撃も無効化するが、衝撃でスタンドはぐにゃぐにゃ拡散し、『空条承太郎』の胸板には不自然なへこみができた。
よくよくみれば足下にはかすかに発光する、なめくじが這った跡みたいな筋が走っている。
「情報を交換するのは、互いの立場が対等になってからだ。
偽りの、空条承太郎」
「てめぇ、最初から気付いてやがったのか」
驚きつつも親しげな雰囲気を出していた花京院の瞳がいっきに鋭く険呑の光を帯びる。
さきほどの光弾も、すでに這わせていたスタンドからの攻撃のようだ。
「あなたが『私の姿』で歩いているところからすべて見ていた。
それに気付かず路地裏に誘い込まれてくれるようなアホで助かったが……」
どういうわけだか空条承太郎の姿に変装するところから見られていたらしい。
どうしてこうも変装にひっかからないやつが多いのか。
ラバーソールは自分の不運を嘆きたくなった。
「だがどうする?
てめぇの貧弱なスタンドじゃあ俺には勝てねぇ。
ドゥーユゥーアンダスタンンンドゥ!」
「理解していないのは貴様の方だ。
人の話を聞いていなかったのか?」
「質問を質問で返すんじゃあねえ。
てめぇ頭がいかれてんのか。
俺のスタンドに喰われてオシマイなんだよてめぇはよぉ」
「確かに貴様のスタンドはなかなか攻略し難い能力をもっているらしい。
変装するしか能がないスタンドだと考えていたので誤算だった。
敵に回せば、私のスタンドでは勝てないだろう。『敵に回せば』、な」
どうも雲行きがおかしくなってきやがった。
たしかにこいつのスタンドは射程距離に優れていると聞いていた。
俺の変装が偽物だと見破っていたならわざわざ近づかせる必要はねぇ。
攻撃を仕掛けるにしろ逃げるにしろ、本体が俺に近づくことはなんのメリットもないはずだ。
そのとき、ラバーソールの中で、奇妙に老けていた空条承太郎、川尻しのぶが夫に言った空白の半年間、それらが一本の線のように結びついた。
「まさか…………」
「ようやく理解したようだな。
手を組まないかと言っているんだ。変装の能力を持つスタンド使い。
私の敵は、空条承太郎だ」
花京院典明と『空条承太郎』、横に並ぶ姿にまったく違和感のないふたりが手近な民家へと歩き出す。
『空条承太郎』は半信半疑ながら、絶対の自信を隠そうともしない狡猾そうな表情を浮かべている。
半歩さきをゆく花京院典明は……、目を細め、口の端だけを歪め、笑っていた。
のんきに歩いている『私』の姿を見つけたときには驚いたが、アレッシーから聞いていた話がここで役に立つとは……。
見るからに、殺し合いに乗り気のこの男、手を組むことに反対はしまい。
ジョースターたちへの敵意と、予想外に強力なスタンド。うまく扱えば確実にジョースターたちをしとめることができるだろう。
そして……、これでたとえ山岸由花子が誰かに私のことを話したとしても、彼女を脅し、軍人三人を殺したのはこの男になる。
私はあくまでジョースターの仲間を演じればいい。
少なくとも、誰にも真相はわからない。
自らの欲望にのみ忠実そうなその下卑た笑い。
どうせDIO様から信用されていたわけではなかろう。
空条承太郎とその仲間を殺すことで、あの方にお役に立てることを喜ぶがいい。
【E-7 中央 / 1日目 朝】
【花京院典明】
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[状態]:健康、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:
基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.ラバーソールと情報交換し、手を組む。
2.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
3.機会があれば山岸由花子は殺しておきたい。
4.山岸由花子の話の内容、アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。
【備考】
※スタンドの視覚を使って
サーレー、
チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。
【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。
【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。ラヴ・デラックスの能力、射程等も説明済み。
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。詳細は不明だが、音を使うとは認識、説明済み。
東方仗助、
虹村億泰の外見、素行なども情報提供済み。尤も康一の悪い友人程度とのみ。スタンド能力は由花子の時間軸上知らない。
【ラバーソール】
[スタンド]:『イエローテンパランス』
[時間軸]:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
[状態]:疲労(大)、空条承太郎の格好
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、不明支給品2~4(確認済)、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.まずは花京院の話を聞く。役に立ちそうにないなら養分に。
※サンドマンの名前と外見を知りましたが、スタンド能力の詳細はわかっていません。
※ジョニィの外見とスタンドを知りましたが、名前は結局わかっていません。
* * *
「イタリアにはそんな話ぜんぜん流れてこねーけど、イギリスってやばい国なんだな」
屍生人となったいにしえの騎士との死闘、人体を一瞬で凍らせてしまう吸血鬼の能力、改めてジョナサンの話を聞きながら、ナランチャがのんきな感想をもらした。
「やっぱりジョナサンはすげーや」
「僕にはスタンドの方がよほど複雑で、未知の存在に思えるけどね」
ナランチャの純粋な賞賛に、話し始めて以降曇りがちだったジョナサンの表情がゆるむ。
それは一見微笑ましい光景であったが、内心フーゴはふたりの認識の差の原因を思い、暗澹たる気持ちをかかえていた。
「……ナランチャ、モニターに反応は?」
「なんだよ、ちゃんと見てるだろー? 反応なしだぜ」
不満げに言い返すナランチャに、ジョナサンの笑みが深くなった。
「仲がいいんだね、ふたりは……」
「ちげーよジョナサン。フーゴ、猫かぶってんだぜ。
いつもはフォークでオレのこと……」
「ナランチャ!!」
余計なことは言わなくていいと、フーゴが手で制す。
それを見て、さらにジョナサンが笑った。
「フーゴ、僕の方は知りうる限りのことを話したように思う。
君はずいぶん頭がいいようだから、この殺し合いについて、考えていることがあるなら話してもらえないか?」
そう、フーゴから見ても、すでにジョナサンから得るべき情報はすべて得られたように思える。
さりげなく水を向け、ジョナサンが19世紀末期の人間だということを確認し、ナランチャ、そしてジョナサンが屍生人や吸血鬼ではないということも確信している。
語らなければならない。
ジョナサンの知り合い――彼の父やスピードワゴン財団の創始者が、僕にとって全員過去の人間であることを。
アバッキオ、ブチャラティ、ナランチャが、ここにいる彼らから見た未来の彼らがすでに死んでいることを。
ジョナサンは彼の父に訪れた再度の死になにを思うだろう。そう考えると、フーゴの胸は苦しくなった。
「ジョナサン、……そしてナランチャ。
どうか僕が話し終えるまで質問は挟まないでください。
信じられなくても、落ち着いて、聞いてほしい」
「やっぱりなんか変だぜフーゴ」
茶化すナランチャとは対照的に、困ったように、しかし信頼のこもった瞳でジョナサンがうなずく。
「ジョナサン、僕とナランチャは21世紀初頭のイタリアからここへきました。
そして……、ナランチャ、僕の知る君は……」
瞬間。
フーゴの言葉は轟音に呑み込まれた。
とっさに身を屈めた三人にこまかな結晶がパラパラと降り注ぐ。
ショップ表側のガラスが、粉々に砕け散っていた。
「フーゴ! ジョナサン! 敵だッ!!」
「わかっていますナランチャ! いいから君はモニターを見て!」
「だめだ。見当たらない。
ずっと見ていたけど『敵は最初からいなかった』!!」
「ここから焦って逃げ出して、狙い撃ちにされるのが一番危険です。
ナランチャ、落ち着いてモニターから目を離さないで」
フーゴは素早く頭を巡らせる。
最悪のパターンはジョジョがコロッセオで戦ったというカビのスタンドのように、すでに敵の術中にはまりかけている場合。
僕がポンペイ遺跡で戦ったイルーゾォのように、本体・スタンドが見えずとも攻撃を加えられる能力も考えられる。
こちらにも広範囲を攻撃できるスタンドがあればいいが、エアロスミスの探索範囲を超える攻撃手段はない。
打って出るべきか?
しかし、すでに敵の攻撃が開始されている場合、さきほどわざわざガラスを割った攻撃の意味がわからない。
注意を外に向けさせるための攻撃か?
なら敵は上か、下か……。
ダメだ。考えすぎるな。
まず安全が確保できればいい。それは敵を倒すこととは違う。
フーゴの視線が、ジョナサンをとらえ、ついでナランチャの黒髪に注がれる。
――僕の目の前で、コイツを死なせるわけにはいかない……。
「おい、聞こえているだろう。
どこからか攻撃を受けた。なにか情報をくれ……」
――ムーロロ!!
【E-6 ローマ市街・ショップ内 / 1日目 朝】
【
ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人
ドゥービー撃破後、
ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中)、貧血気味、疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1~2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.敵の襲撃に対処。
1.『21世紀初頭』? フーゴが話そうとしていたことは……?
2.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?
3.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
4.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
【
ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額に大きなたんこぶ&出血した箇所は止血済み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1~2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.敵の襲撃に対処。
1.フーゴが話そうとしていたことは……?
2.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
【
パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.敵の襲撃に対処。ナランチャは死なせたくない。
1.ジョナサンと穏便に同行するため、時間軸の違いをきちんと説明したい。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?
【備考】
『法皇の緑』でガラスを割ったため『エアロスミス』のレーダーは花京院をとらえていません。
ジョンガリ・Aもいまは射程外にいます。
ふたりとも『エアロスミス』のレーダーに気付いているわけではなく偶然です。
【E-6 ローマ市街西側 / 1日目 朝】
【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:体力消耗(小)精神消耗(中)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(30/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済み/
タルカスのもの)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
0.三人を襲撃する?
1.情報がほしい。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。
3.DIO様に似たあの青年は一体?
【備考】
ジョンガリ・Aが三人を襲撃するかは次の書き手さんにおまかせします。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
最終更新:2014年06月09日 02:03