(さて、どう動くか………あんまり時間はかけられねーな)
グイード・ミスタは柄にもなく悩んでいた。
物陰に隠れた彼の視線の先には地面に倒れているミキタカと、それを囲む二人組みの姿。
ミキタカを追ってここまできたものの不用意に飛び出すわけにはいかず、かといって放っておくわけにもいかなかった。
「クソッ、なんでよりによって二人なんだよ………あいつらとミキタカとオレで、『四人』になっちまうじゃねーか………」
ミスタは誰にも聞こえないようひとり呟く。
単に縁起が悪いというだけでなく、相手が一人だけならば例え危険人物でもやりようはあった。
あるいは相手の人数がさらに多ければ、少なくとも全員が殺し合いに乗っている可能性は極めて低くなるため、素直に出て行くことも出来た。
そういう意味で相手が二人というのは最も判断が難しい微妙な数だったのである。
(拡声器も閃光手榴弾も、ダメだな………)
腰に下げた道具をちらりと見て思案するが、すぐに首を横に振る。
拡声器で注意をひきつけるとしても、おそらく片方が残ってもう片方が様子を見にくるのが関の山であり、結局二人を相手にしなければならない。
この場から閃光手榴弾を投げ込むにしても、気絶したミキタカを背負って逃げきるのは難しいだろう。
第一そんなことをすればこちらが危険人物と判断されて攻撃されるのが落ちだ。
(となりゃあ出て行くしかねーか、だがその前に………)
ミスタはその場で『ピストルズ』を発現する。
六人組のスタンドを並べ、ミスタは声を落として指示を出した。
「ピストルズ、誰か一人あいつらのそばまでいってこい」
『エエーッ!?ミスタ、ソリャナイゼーッ』
『下手スリャソノママヤラレチマウゼッ!』
「言ってる場合か!あーもう、行ってくれた奴には後でメシの量を多くしてやるから」
『ンナコト言ッテ、メシノ当テモネージャネーカ!』
ミスタが考えたのはまずピストルズを一人だけ接触させること。
これなら二人組みの意思を確認できるだろうし、やられてもダメージは六分の一で済むという寸法だった。
だが………
『ウウーッ、人使イガアライゼッ』
『オレヤダヨーッ』
『コウユーノハNo.5ノ役目ダローッ』
『うえええ~~ん オシツケルナヨーッ』
ゲーム開始から満足に食事をしておらず、また時間もいきなり日中から深夜に移ったため寝る時間もずれて気が立っているピストルズはなかなか言うことを聞いてくれない。
―――このような状況において適切なのは『誰か行け』ではなく特定の相手を指して『おまえが行け』と指示することである。
何故ならば、前者だと責任の分散が発生し『自分がやらなくとも誰かがやってくれるだろう』という認識をする者が多いからだ。
だが焦りからかミスタが『誰か一人』と言ってしまったために押し付け合いとなり、行動が遅れてしまう。
そしてしばし口論が続いた後………
『チキショー、コウナッタラジャンケンデ………ッテミスタ!ウシロダァーッ!!』
「………? 後ろ………ッ!!?」
『一人漫才というやつか?………ヒマつぶしなら他でやれ』
いつのまにか背後に忍び寄っていた妙な文字模様のスタンドが振り下ろした手刀を頭に受け、ミスタはあっさり意識を失ってしまったのだった。
―――誤解のないよう付け加えるが、彼自身は至極真面目にやっていた、と言っておく。
ただ今回の彼には、ツキがなかった。
#
「まったく、何故わたしがこんなことを……」
大聖堂内部の片隅で一仕事終えた
ホット・パンツは呟く。
そんな彼女の足元には意識のない男二人が寝かされていた。
(こうなったきっかけは……この男が馬に乗ってきたことがそもそもの始まりだったな……)
―――今からおよそ一時間ほど前のことである。
聖堂の見張りをしていたら、夜が明けるか明けないかというところでDioの馬、シルバー・バレットに乗った男が広場に進入してくると同時に気絶していた。
馬をおとなしくさせてもらい、どう対応するかを相談していると神父が突然「妙な気配がした、様子を見てくる」と言って歩き出していき、しばらくして別の気絶した男を抱えて戻ってきた。
かと思えばすぐに「おそらく危険人物ではない。適当なところに寝かせておいて起きたら知らせて欲しい、わたしはやることができた」とだけ言い残して聖堂の奥にこもってしまったのである。
(ちょっと待て、女性一人だけで力仕事をやらせる気か、それに危険人物でないという保証はどこにあるんだ、そもそも何故その男も気絶しているんだ)
聞きたいことは山ほどあったがその時既に神父の姿は見えなくなっていた。
同時に『放送』も始まったため、重要な点は逃さないようにメモを取りながら聞き、改めて男達をどうするか思案する。
馬に乗せて運ぼうにもシルバー・バレットは座り込んだまま動かなかったので、仕方なく自力で一人ずつ聖堂内へと引きずり込む。
入り口から見えるところに置く、というのは誤解を招きそうだったので左手奥のほうに二人を並んで寝かせるとようやく一息つくことが出来た。
そこで自然と口をついて出たのが先程の一言である。
ホット・パンツは男達が目を覚ますまでの間、名簿の中身に目を通していた。
トラップを警戒して直接身に着けているものには手をつけていないが、念のため男たちのデイパックと鳩が運んできた名簿は全て回収してある。
『放送』で死者の数には驚いたものの、呼ばれた名前には特に思うところはない―――最も、知り合いの名が呼ばれていたとしても、彼女はここを『基本世界』とは認識していないのだからショックは少なかっただろうが。
むしろ彼女の目を引いたのは名簿に記されている生存者のほうであった。
中でも特に気になったのが………
この世界の大統領はダイヤモンドを集めているだろうから彼女は列車内のような姿にはなっていないだろうし、大統領側としても『基本世界』のようにルーシーをそばに置く理由はないはずだ。
すなわち彼女がいること自体は別にありえないことではない。
だが、主催者であるスティーブン・スティールは妻をこんな殺し合いのゲームに参加させる男ではなかった………そこまで考えてホット・パンツには『ピン』と来るものがあった。
(そうか………スティール氏が放送時に妙な言いかたをしたのは、『そういうこと』かッ!!)
あそこまで自分のフルネームを強調して話す理由は一つ、参加者達に名簿でただひとり自分と同じ姓を持つルーシーに気付かせるためだろう。
そうすればこのバトルロワイヤルに反発する者達は主催者の手がかりにつながると考え、こぞってルーシーと『接触』あるいは『生け捕り』を試みるはずだ。
すなわちどちらに転んでも彼女は『生かされる』可能性が高い。
つまり、あれはスティール氏の『ルーシーを死なせないで欲しい』という意味を持つメッセージだったと考えられる。
(となれば、スティール氏自身は全ての黒幕ではない。背後にいるのは『大統領』か………?
いや………『はさまれる』方法で戻れない以上そうではない可能性もあるか。
だが別人だとしても、わたしたちをここに連れてきたならば『戻りかた』ぐらいは知っているだろう。
どちらにせよ敵は『真の』主催者………辿り着くには『情報』と『協力者』がいる………
わたしはこの六時間、なにをやっていた? いたずらに時を消費して、たいしたものも得られずにッ!)
ホット・パンツはゲーム開始からの行動を思い返し、悔やむ。
参加者の半数が死亡したこの六時間で、自分は無傷どころか争いにすら巻き込まれていないのは幸いだが、代わりに『外部』のことは何一つ分かっていない。
篭城の結果、この聖堂を訪れたのはこの妙な男二人だけ―――さらに目的も出来た今、これ以上自分がこの場にとどまる意味はない。
すぐにでも神父にこのことを話して行動を開始するべきだ、そう考えた矢先のことだった。
「う、ううーーーん……ここは……?」
「ン!………気がついたか」
「えっ? あ、おはようございます」
二人の男のうち馬に乗って来た方がようやく目を覚ます。
きょろきょろと辺りを見回すその様子は、とても見知らぬ相手に警戒しているようには見られない。
それでも注意は怠らずにホット・パンツは口を開いた。
「おはよう、さっそくだが用件を言う―――お前は何者だ?」
「……よくぞ聞いてくれました。実はわたし、マゼラン星雲からやってきた『宇宙人』なんです」
「………………………」
ブシュウウウウ!
ホット・パンツは無言で『クリーム・スターター』のスプレーを相手の口元に吹きかける。
スプレーから放出された肉の泡は男の口と鼻をふさぎ、呼吸を封じてしまった。
「?………!?………!!」
「暴れるな、すぐ元に戻してやる。だが次にふざけた答えを……何ッ!?」
「ぷはぁ~~ッ、いきなり何をするんですか!」
男の顔が『変形』し、吹き付けた肉をかき分けて出てきた口が文句を言う。
その人間離れした光景を見てホット・パンツは僅かだが、引いた。
「………予想外だ……お前、本当に何なんだ……?」
「あ、自己紹介ですね? うっかりしてました。わたしの名は
ヌ・ミキタカゾ・ンシ、ミキタカでかまいません。職業は宇宙船のパイロットで―――」
「………わかった、もういい………………」
ホット・パンツは額に手を当てながら相手の言葉を遮る。
(こいつ、スタンド能力者のようだが反撃してくる様子も逃げ出す様子もない以上、敵意はないと見ていい。
そして名乗った名前も確かに先程まで見ていた名簿の中にあった。だが、『こいつはいったい何を言っている』?)
今まで出会った人間とは比較にならないレベルで言っていることがまるでわからないのに彼女は動揺を隠せなかった。
詳しい話は後で神父を交えてすることにして、会話をさっさと切り上げるべく未だ気絶したままのもう一人の男を指差して聞く。
「それで、そこの男はお前の知り合いか?」
「あ、はい。彼はミスタさんです。そういうあなたは―――」
「ミキタカ………といったか、悪いが質問は後にしてもらおう。お前はここで待っていろ、神父様を呼んでくる」
相手が質問に肯定するのを聞くとホット・パンツはミキタカに背を向け歩き出す。
最低限の警戒はしていたものの、それ以上に彼女は未知との遭遇によって疲弊していた。
(神様、この男はなんというか………なんというか、なんなのでしょう)
頭を抱えながら二人から見えない位置まで移動するとトランシーバーを取り出し、プッチと連絡を取ろうとする。
………ところが。
「神父様、馬に乗ってきたほうの男が目覚めました………神父様?」
トランシーバーに向かって何度も喋るが、応答がない。
何かあったのだろうか―――そう考えると彼女は表情を引き締めて再びスタンドを構え、慎重に聖堂の奥のほうへと歩いていった。
―――誤解しようもないが、彼女は常に真面目である。
故に気苦労も多い。
#
―――ミキタカが目覚める少し前。
侵入者の処遇そっちのけで
エンリコ・プッチ神父は聖堂の奥で何をしていたかというと………彼は偏にDISCの記憶を見るのに没頭していた。
「おもしろい」
先程馬から抜き取った記憶DISC………その中身は彼にとって実に興味深いものであった。
19世紀のアメリカで行われているレース『スティール・ボール・ラン』。
参加者である『
ディエゴ・ブランドー』、『
ジョニィ・ジョースター』、『ホット・パンツ』、そして『ヴァレンタイン大統領』。
断片的ではあるが、まさにホット・パンツが語った話そのものが、そこにはあった。
「どうやらあの女、嘘偽りない真実を言っていたらしい………そしてこの名簿………これもまた、おもしろい」
名簿に記されている数々の聞き覚えがある名前へと目を向ける。
幾人ものジョースター、空条親子に
ウェザー・リポート、さらに………
「きみもいたんだな………DIO………」
プッチは見ようによってはまるで恋人のことを思うかのような安らいだ表情を浮かべる。
彼の脳裏に浮かぶのはある意味で唯一無二といえる友。
DISCの記憶でその姿は何度も見てきたが、本人と最後に話したのは既に20年以上も前―――彼にとっては懐かしき思い出であった。
またそのすぐ上にある『ディエゴ・ブランドー』―――ホット・パンツの話によれば別世界のDIOの名にも興味は尽きない。
馬の記憶で見た彼は、自分の知るDIOと雰囲気も、スタンド能力も異なる。
だが彼もまた間違いなくDIOである………そう思わせるだけの何かがあった。
(DIOの息子や親戚………そんな次元の話ではない。ぜひ一度、彼とも話してみたいものだ)
さらにもう一人、気になる人物がいた。
プッチは広場に侵入してきた馬とその乗り手らしき男を見たとき、ある仮説を立てていた。
騎手が振り落とされるほど全力で馬を駆けさせるというのは『何かから逃げてきた』ためではないかと。
となれば、周囲に『追手』が潜んでいる可能性がある―――そう考えて『ホワイトスネイク』で辺りを捜索したのだった。
その結果物陰に隠れていたマヌケな男―――ミスタにいち早く気がついて不意打ちで気絶させることに成功。
すぐにDISCから最近の記憶を読み取って事の顛末を知り、彼や馬に乗ってきた男―――ミキタカはゲームに乗っていないことを理解したのだった。
その際男の記憶の中に出てきた人物―――
ジョルノ・ジョバァーナ。
彼もまた、ディエゴほどではないが何かを感じさせるものがある―――例えるならば、あの三人の『DIOの息子たち』と非常に良く似た何かが。
だが彼に限っては同時にいいことばかりではなく、憂慮すべき事柄も存在していた。
「あの少年………ジョルノといったか。殺されたはずの彼が生きているということは
空条承太郎も同様に生きて、しかも万全の状態でいる可能性が非常に高いッ!」
彼は確かに、ゲーム開始前に空条承太郎と並んで殺害されたはずの男だった―――だが、その彼が生きているとなると、そこから考えは派生してゆく。
プッチは『放送』に加えて記憶で見た情報と名簿の名前を見比べて、現状の再確認を始めた。
(放送によれば
空条徐倫は死亡したらしい………だが空条承太郎はもちろん、わたしの『正体』を知っているウェザーや
ナルシソ・アナスイが残っている。
わたし自身はもちろん、DIOにとっても彼らは厄介な存在以外の何者でもない。それに
ジョンガリ・Aや
スポーツ・マックスなど死者の名前があるのも気がかりだ………
どうやらこのゲーム、わたしの想像を遥かに超越した『何か』があるのかもしれんな………
こうしてはいられない、DISCを見終えてあの二人の処遇を決めたら、すぐにでもここを発たねば)
そう考えるとプッチは再びDISCの記憶へと注意を向けるのだった。
記憶を見るのに雑音が入らないよう、トランシーバーのスイッチを切ったことをすっかり忘れて。
―――誤解されがちだが、彼は目的に向かって真面目に取り組む男である。
………目的の善悪は別として。
#
「………そう、カフェの近くから大きな音が聞こえてきて―――」
ミキタカはどこかに行ったホット・パンツの帰りをじっと待ちつつ、自身の記憶を回想していた。
カフェで待機していてサイレン音が聞こえるまでの出来事は簡単に思い出せる。
その後のことも、かろうじてだが記憶は残っていた。
「確か、そのすぐ後に嫌なサイレンの音がして………ああ、馬に乗って無我夢中で逃げてしまったんでしたね。
ミスタさんとジョルノさんには悪いことをしてしまいました………
―――彼らと一緒に逃げるべきでしたね」
微妙にずれた思考ながらも、彼自身迷惑をかけたという自覚はあった。
気絶したミスタに目を向けるが、彼は未だに目を覚ます様子はない。
その腰元に拡声器と閃光手榴弾があるのを見てふと周囲を見渡す。
自分たちのデイパックは………なかった。
おそらく運び込まれたときにでも没収されたのだろう、と推測する。
「それにしても、ここはどこなんでしょう? それにジョルノさんはどうなってしまったんでしょうか?」
見知らぬ場所で仲間も足りない状況ながら、危機感を全く感じさせない声で呟くミキタカ。
その余裕ぶりは他人が見ればむしろ頼もしく感じるかもしれないほどであった。
ところが、そんな彼の表情は一瞬の後に驚愕に染まることになる―――自分達の首輪から、突如声が聞こえてきたことによって。
『『おっと 自分の位置がわからないアホがひとり登場~~ 今いる場所が禁止エリアなの知ってたか?マヌケ』』
「………エッ!!?」
サン・ピエトロ大聖堂はその大部分がC-1に属している。
だが、地図をよく見るとわかるが南端の端の部分はわずかにD-1―――「現在の時刻である」7時に禁止エリアとなる区域に入っていた。
そして、その南端こそが今まさに彼らがいる位置だったのである。
ホット・パンツは放送を聞いており、メモも取っていた。すなわち直後に禁止エリアとなる場所へと移動を行うなど本来ありえないはずであった。
だが、彼女は考え事をしながら作業をしており、また聖堂内から出ることがなかったのでここ数時間のうちに地図を開いていなかった。
そのため、前述した聖堂の南端がD-1に跨っている事実を失念していたのである。
あとは………強いていうならば北ではなく南に運ばれた彼らの『運』が悪かったのかもしれない。
―――閑話休題。
他人の言葉には比較的従順なミキタカであるが、さすがにこの状況で黙って待っているわけにはいかなかった。
「ちょ、ちょっとミスタさん!起きてください!なんだかヤバイです!!」
「………………」
身体を揺すりながら必死に叫ぶも、ミスタは目を覚まさない。
そうしているうちに首輪から聞こえてくる声はカウントダウンを始め、その数字は着々と減っていく。
迷っている暇は、なかった。
「ウウーッ、仕方ありませんッ………!」
ミキタカは素早く変身してスニーカーになり、ミスタの足に取り付くと無理やり移動を開始する。
ガツンッ!
「痛ッ! なっ、なんだぁああ~~ッ!?」
のけぞる姿勢になったことにより後頭部を床にぶつけて目覚めたミスタが叫ぶが、気にする余裕はなくほとんど彼の上半身を引っぱるような形で正面入り口の方へ向かう。
すぐに禁止エリアから出たらしく音はやんだが、ミキタカのパニックは収まっていなかった。
(『ここを動くな』。あの人は確かにそういってました………ひょっとしてこのことを知っていてわたしたちを始末するために………?
そういえば先程もいきなりわたしに攻撃してきたような気もしますし………き、危険です! 一刻も早くここから『脱出』しなくてはッ!!)
「お、おい何やってるんだオレの………足? ちょっと待て!勝手にどこ行く気だよ!」
「お目覚めですかミスタさんッ! それでは急ぎましょうッ!!」
「喋ったァ!? い、いやそれはともかく理由を言え―――ッ」
ミスタの抗議を無視してがらんとした大聖堂を見渡し、朝日が差し込む出口を見つけるとそちらへ一直線に駆ける。
奥のほうにいたプッチ達が彼らに気付くことはなかったが、たとえ気付いていたとしても二人分の速さで走る彼らに追いつくことなど到底出来なかっただろう。
座り込むシルバー・バレットにも気付かず、二人(といっても見た目は一人だが)はみるみる大聖堂から離れていく。
一直線に広場を抜け、道を走り、流れる川の近くまで来たところでようやく落ち着いたのか、ミキタカは動きを止める。
「フゥー、ここまでくれば一安心でしょうか」
「おいおい、何がどうなってやがるんだ? 説明を要求するぜ………まずオレの足っつーか、よく見たら妙な靴履いてるんだが、喋ってるおめーは何モンだ?」
「おお、そうでした。わたしですよ、ミスタさん」
ウジュルウジュルと音をたてながらミキタカが人の姿へと戻る。
ミスタは呆気に取られた様子でその一部始終を眺めていたが、やがて言った。
「あーー………えっと………………どちらさんでしたっけ?」
「………………え?」
―――プッチは最初にミスタを気絶させたとき、彼の記憶DISCを抜き取った。
中身をちらりと見て危険人物ではないことを確認したものの、ずっと聖堂に篭城していたプッチにとって『外部』の情報は貴重なものであった。
そのため後で詳しく調べようと『DISCを戻さないまま』彼をホット・パンツに預けたのである。
プッチ本人は不審に思われないよう調査が終われば返すつもりだったのだが、不幸にもそれより先にミスタは勝手に逃亡させられる羽目になってしまったのだった。
果たして、記憶を無くしてしまった不運を嘆くべきなのか。
あるいは、命までは失わずに済んだ幸運を喜ぶべきなのか。
それすらも今の彼にはわからない。
そんな彼の傍らには状況がよく飲み込めないミキタカが佇むのみであった。
「なんとなく『敵』じゃあねー気はするんだが………あークソッ、思いだせねェ~」
「ミスタさん、どこかで頭でも打ったのでは………あ、わたしのせいでした」
―――誤解も六階もない。彼が真面目かどうかは他者には判別不能である。
その真意は本人と神のみぞ知るところであろう。
様々な不幸に苛まれつつも、ゲーム開始から数えて自身の『四番目』となるエピソードを乗り切ったミスタ。
聖堂内に引きずり込まれ、ホット・パンツを引かせ、ミスタを引っ張りながらも『引力』とは全く無縁なミキタカ。
―――この妙なコンビの行く先と、聖堂にて彼らの逃亡が判明するのは共にもう少し先の話である……
【C-1 サンピエトロ大聖堂 / 1日目 朝】
【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー
[道具]:
基本支給品×3、閃光弾×2、地下地図
[思考・状況] 基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
1.プッチと今後について相談し、行動開始する。
2.おそらくスティール氏の背後にいるであろう、真の主催者を探す。
3.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!
【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイトスネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康、やや興奮ぎみ
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2、シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
[思考・状況] 基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.DISCを確認後、ホット・パンツと今後について相談、聖堂を出発する予定
2.DIOやディエゴ・ブランドーを探して話をしてみたい。余裕があればジョルノも
3.ホット・パンツを利用する。懐柔したいが厄介そうだ……
4.ホット・パンツの話に出てきた、「ジョースター」「Dio」「遺体」に興味
※シルバー・バレットの記憶を見たことにより、ホット・パンツの話は信用できると考えました。
※ミスタの記憶を見たことにより、彼のゲーム開始からの行動や出会った人物、得た情報を知りました。
【C-2 南東 / 1日目 朝】
【グイード・ミスタ】
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:記憶喪失
[装備]:閃光弾×2
[道具]:拡声器
[思考・状況]
基本的思考:なし(現状が全くわからない)
1.ここはどこ?あんた誰?っていうかオレ何してたんだっけ?
※第一回放送を聞き逃しました。名簿も未確認です。
※記憶DISCを抜かれたことによりゲーム開始後の記憶が全て失われています。
※ゲーム開始『以前』の記憶がどの程度抜き取られたかは次回以降の書き手さんにお任せします(ただし原作承太郎のように全ては奪われていません)。
【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】
[スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない
1.ミスタさん、どうしたというんでしょう……?
2.先程の建物にいた人物(ホット・パンツ)から逃げる
3.知り合いがいるなら合流したい
4.承太郎さんもジョルノさんと同じように生きているんでしょうか……?
※第一回放送を聞き逃しました。名簿も未確認です。
※ジョルノとミスタからブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの名前と容姿を聞きました(スタンド能力は教えられていません)。
※第四部の登場人物について名前やスタンド能力をどの程度知っているかは不明です(ただし原作で直接見聞きした仗助、億泰、玉美については両方知っています)。
[備考]
- シルバー・バレットは神父にDISCを抜かれて記憶を失い、広場に大人しく座っています。
- ミスタとミキタカは自分たちの現在位置がわかっていません。また地図も持っていません。
- 禁止エリアに入ると首輪が『誰か』の声で教えてくれるようです。
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最終更新:2014年06月09日 23:00