地上最強の生物と呼ばれる父親がいる。
強靭で無敵で最強だと評価される究極の龍がいる。
あたいは最強だと自負する妖精もいる。
地球人最強と呼ばれる武闘家もいる。
白い死神と呼ばれる最強の狙撃手もいた。
彼らはどうして最強であり続けたのだろうか?
……お待たせ。約束通り話をしよう。
●●●
どこからともなく響いてきた放送は、空中の二人と一匹の耳にも届いてきた。だがしかし。
「……ちっ」
そう小さく舌を鳴らすのは
サーレー。
敵対する連中の隙がこの放送で発生すれば、などと考えていたのが甘かった。
たとえ聞き逃そうとも放送の内容なんざ別の相手から聞き出せば良い、あるいは最初から興味がないか。
彼らは一瞬たりともお互いから目を離さないままであった。
とはいえ『戦闘』という言葉で表現する程派手なドンパチは行っていない。
ペット・ショップはサーレーが己の氷塊を固定してきた段階で次弾の発射を止め、警戒態勢を取りながら周囲を飛行するに留めている。
チョコラータは自分のスタンドの特性を殺さぬようにサーレーのやや下に陣取ったまま。
そんな連中に警戒されっぱなしのサーレー当人は――
「おいチョコラータよぉ、まずはあの鳥公から片付けるぜ」
「まずは、か……ククク」
「ニヤニヤすんな、気持ちわりぃ。ホレ俺が固定しといた『鳩三羽』だ。さっさと使いな。さっき聞いたお前の能力にはおあつらえ向きだろ?」
「そう――おあつらえ向きだ。それを理解し、協力させるために私はあえて能力を明かしたのだよ、サーレー君」
そう言ってチョコラータに“弾丸”を提供した。あるいはそれは“爆弾”と言っても良いかもしれない。
名簿を提供しに来た鳩達を、その任務を全うさせる前に空中に固定していたのだ。
そこからはまさに秒殺。
殺しという行為に後ろめたさを感じぬ者たちだからこその鮮やかさであった。
地面に叩きつけられる二人と一羽。
立ち上がったのは――?決着は――?
――作者から――
スタンドバトルでは格闘技や銃撃戦などの常識は全く通用しない。
……というのは決着がすごく一瞬で起こるのだ。
スタンドの値打ち(能力)を知らない敵のスタンド使いはいったい何が起こったのか見当もつかず、すぐ殺されてしまう。
しかしここの世界では殺すことは悪いことではない。
ハメられて殺されてしまったやつが間抜けなのである!
ここで決着の顛末を解説しよう――
チョコラータがグリーン・デイの腕力でもって虚空に向け三羽の鳩を投擲。
ペット・ショップは自分に直接向けられたものではないそれをヤケクソの苦し紛れと判断、見送った。
――が、それこそ二人の思惑である。
固定の能力によって羽ばたくことが出来ない三羽の鳩はそのまま『爆弾』となって黴をまき散らしながら降り注ぐ。
眼下の二人に意識を向けていたペット・ショップは一瞬遅れてこの策に気付いた。
咄嗟に氷ミサイルで撃墜する。が……“カビる前”に氷漬けにしていれば『超低温で生まれる生物がいない』ように彼への攻撃はストップしていたかも知れない。
ペット・ショップは“一手”しくじった。
傷ついた体ですべての黴を避け切ることは彼にとっては不可能な芸当。
結局のところ黴まみれになった鳩のうち一羽の体当たりを受け無様に落下していった。
そして!その落下はそのままサーレーへの攻撃へと変換される!
「言ったよなァ、“まずは”鳥公だ、と。お前自身が」
そんなチョコラータの言葉を背中に聞きながらサーレーはニヤリと口元を歪める。
「そうさ。……“次は”お前だよ、バイキンマン」
言うが早いか、サーレーは思い切り空中に飛び出したッ!そこには固定できる小石も何も無いというのに!
当然、一瞬の浮遊感の後に一気に落下する。もちろん黴に蝕まれながら。しかし!それでも彼は空中に自分を留めようとしなかった。
「ククク……ハハハハハッッ!諦めたかサーレー!この私に敵わぬと知って!」
サーレーが気絶したのだろう。固定の能力が解けチョコラータ自身も落下を始めるがそれを意に介せず声を上げて笑う。
「どれ!見せてみろ!貴様の恐怖に歪んだツラを!この俺にッ!
もっとも、この声が届いてるとは思えないがなァ~~ッ」
絶望した奴が自分より上に位置するというのは彼にとって妙な感覚ではあるが、それでも勝利には変わりない。
――そう思った一瞬の後だった。
「いや、恐怖するのはテメェだけだ。
カビは皮膚に触れてる部分だけ固定してる。他が動いてるから気付かなかったな。
そしてこのカビの分、俺には『空気抵抗』が出来た。どっちが先に地面にキスするんだろうなァ!?
その“足のないスタンド”でどうやって着地する!?」
長々と解説臭い台詞を吐かれたチョコラータの眼が見開かれた。サーレーは気絶など最初からしていなかった。能力の解除は任意だったのだ!
言い終わるが早いか、サーレーは四肢を大きく広げスカイダイビングのような体勢をとる。
こうなってしまえば確かにチョコラータが地面に激突するのは避けられない。
サーレーの言うとおり、半身がないと表現して差し支えないグリーン・デイでは手を使って受け身を取らざるを得ないし、それは事実上の両腕骨折も意味する。
そう、何の装備もなければの話だが。チョコラータは背負ったデイパックから一枚の紙を取り出した。
落下の風圧で開かれたそれに書かれていた文字は『ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)』。
下手くそな文字で顔の描かれてあるその人形にしがみつきながら叫ぶ。
「フン――褒めてやるぞ、ここまで私を追い詰めたのは!だがやはり“次は”貴様に変わりない!」
だが、だがしかし。勝ち誇った人間は既に敗北している、という法則があるのもまた事実。
いくら高度の空中で戦ったと言えどそこはせいぜい上空数百メートル。パラシュートの展開から着地までに身体を減速させるにはあまりにも低すぎた。
一方のサーレーもまとわりつく黴を次々と固定し即席の翼を作り上げるが、それでも安定した減速は望めないし、まして肉体を食われながらである。
メ メ タ ァ
ド グ チ ア ッ
●●●
「よぉ……生きていたか、鳥公よ」
生きていたのがアイツなら尚のこと良かったんだがよ、とは口にしなかった。そんなのはマンモーニが言うセリフである。
しかし心には誓った。『ティッツァを殺した奴をぶっ殺した』と言い切るまでは戦い続けると。
そのために利用できるならやかましい刀だろうと言葉通じぬ隼だろうと利用する。
スクアーロの心は完全に固まった。
声をかけられたペットショップの身体から緑色の黴はとうに消え去っている。
黴にまみれながら落下したペットショップは、グリーン・デイの能力の法則性を見出していた。
先の戦闘で受けた傷を止血していた氷。そこにだけ黴が生えないことを発見しすぐさま全身を氷の中に包み込み、黴の繁殖を防いだのだ。
あとは“敗者”を演じながら決着を待っていればいい。案の定というべきか、間もなくして二人とも落っこちてきた。
落下のショックで二人とも死んだのかどうかは定かじゃあないがとにかくスタンド能力は解除された。カビも消えたし空中から石やらピアノやらが降ってくる。
そこで初めて防御態勢を解く。そこにちょうどよくスクアーロが登場したという訳だ。
「おい、犬野郎は逃げたぜ。お前も負傷しているがプライドの傷のが大きいんじゃあねーのか?
俺はお前に借りを作りたくはねーからな、とりあえず先に追ってやるよ」
未だ動かないペット・ショップに一瞥をくれて歩き出す。ついて来いと言わんばかりに。
――数瞬の後、スクアーロは背中に強い衝撃を受ける。
何が起きたと視線を落とす。そこには胸から顔を出す氷柱が。
このクソ鳥、俺にまで八つ当たりかよ、結局誰でも良いってのかッ!?
……そう言いたくとも肺や器官が潰れ碌に声も出ない。
倒れこみながら振り向く。そこにはアヌビス神をつかみ飛び上がろうとするペット・ショップの姿が。
常人ならばダメージのショックや出血、あるいは絶望感などからここで意識を手放し、そのまま死にゆく運命だったろう。
だがしかし、スクアーロは違った。胸の氷柱を思い切り引っこ抜いた!
大量の血があたりに飛び散る。
その行動が何を意味するかを解らぬペット・ショップではない。その血を浴びる訳にはいかないと飛行の軌道を変える。
しかしそれも傷ついた体ではほとんど敵わず。さらに言うなら地面に撒き散らされた血液も攻撃の範囲。そこから逃れることはもはや不可能だった。
目にもとまらぬ速度で飛びかかるクラッシュ。最初から欲を捨てアヌビス神を無視し飛んでいればあるいは結末が変わったのかもしれない。
だがそれらはすべて結果論。スクアーロの分身は見事にペット・ショップの腹を食い破った。
●●●
「なるほど……この三人と一匹は『共倒れ』か……『全滅』ではなさそうだ」
そう一人呟くのはGDS刑務所から物音を聞きつけ参上した
ディ・ス・コである。
状況をひと通り認識した彼は、しばし顎に手を当て考え込んだのち、その場に倒れ伏す連中を引っ掴み歩き出す。
ディ・ス・コは命を受けた。
『私にとって不要なジョースターどもやその他参加者を始末してきてくれよ』と。
そして『もう少し首輪のサンプルがあればとも思っている。持ってきてくれないか』とも。
この“瀕死の連中”を連れて行けばDIO様に首輪も生き血も提供することも出来るし、あるいは自分が知らされていないDIO様の友人たちかもしれない。
なんだかんだ言ってもジョースターの連中は自らの手で始末したいかもしれない。
全てはDIO様のために。
一度に全員を運び込むのは無理だが、それでも確実に彼は手足を動かす。
ずるり、ずるり。
数分の後、静かな音を立てて刑務所のドアが閉じられた。
●●●
――え?
『共倒れじゃ誰が最強なんだ』ァ?
『一人無事なディ・ス・コが最強なのか』だと?
『負けぬが勝ちって言ったのはお前だろ』ォ?
……って、おいおい。
『負けぬが勝ち』…………?
それは君らが勝手に聞き間違えて解釈した法則。
直訳は『“曲げぬ”が勝ち』
強い信念を最初から最後まで貫き通せるものが最強と俺は呼んでいる。
――もちろん、さっき話した『勝利の定義』は否定するつもりはないけどね。
となれば、今回の話で誰が“最強”かはどうなるか?考えてみようか。
まずはチョコラータ。彼は『生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ』という行動方針だった。
この『ナニナニしつつも』という発想。歪んで曲がってるな。
次、サーレー。『とりあえず生き残る』ってなぁ。まっすぐも何も最初から線を引いてない感じだ。
あるいはその場その場でのみまっすぐな線を引けるだろうけど、それじゃ線は“放射線”になってしまう。
そのあと、先にスクアーロについて。『
ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい』と思っており、結果ティッツァが死に。
そしてその後は『ティッツァを殺した奴をぶっ殺したと言い切るまでは戦い続ける』なんてねぇ。方向転換も良いところだ。
行動の中心にティッツァーノがいるあたり、まぁ信念を貫いてるとも言えなくはないが、俺に言わせれば80点。
で、ペット・ショップ。今回の話で言えば俺の考える『最強』に最も近いのはコイツだな。
『サーチ・アンド・デストロイ』見つけて殺す。
空条徐倫への復讐やら何やらもあるが、動物の本能っていうかね。ある意味では真にまっすぐだ。
だが、これで何度目だ?“結果”が付いてこなかった。
それから最後の最後まで八つ当たりしたこと。これはアウトだろ。ゆえに彼は最強になれなかった。
――え?ディ・ス・コ?
だってほら、いくら信念やら何やらを持ってたとしても、DIO“様”に捻じ曲げられちゃったじゃん。最初から議論の外だよ。
……なんだよ?注文が多いな君らは。
だって俺は『最強について』の話をする、とは確かに言ったが。
『この話で生き残ったやつが最強なんだよ』とは一言も言っていないだろう?
さらに言うなら“これが正解”とも言っていないからな。あくまでこの俺が考える最強論だからな、そこは勘違いしないでくれよ。
ま、朝を迎えて行動の方針が大きく変わる奴もいると思う。そんな中で信念を貫き通す『最強』が現れることに期待してるよ、俺はね。
【E-2 GDS刑務所 外/一日目 午前】
【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:瀕死(落下による全身打撲および骨折、グリーン・デイによる黴の浸食)
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず生き残る
0.???
1.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留
【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:瀕死(落下による全身打撲および骨折)
[装備]:ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)
[道具]:基本支給品×二人分
[思考・状況]
基本行動方針:生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ
0.???
[備考]
間田の支給品は『ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)』でした、
[支給品紹介]
ナチス軍用機に搭載されていたパラシュート(人形付き)@2部
JC12巻にて登場。究極生命体となった
カーズに立ち向かうためにスピードワゴンやシュトロハイムが乗ってきた軍用機。それに搭載されていたパラシュートである。
墜落する軍用機からパラシュートで空中漂うジョセフのその姿はくもの巣に引っかかった蝶だとカーズに評価された。
……が、それさえもJOJOの策。人形を括り付けたそれを囮にカーズとともに火山に突っ込んだのだ。
ここで気になるのが人形。よくもまあ、あれだけの短期間に似顔絵まで書いた人形を用意できたものだ(胴体は布を丸めれば作れるだろうが足がある)
【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:瀕死(蓄積したダメージ、グリーン・デイによる黴の浸食)
[装備]:アヌビス神
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
0.???
1.DIOとその側近以外の参加者を襲う
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:瀕死(ホルス神による胴体貫通の穴、脇腹打撲、前歯数本消失)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノを殺したやつをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0:???
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康。肉の芽
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、
シュガー・マウンテンのランダム支給品1~2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために、不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
2.とりあえず瀕死のこいつらをDIO様に献上
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。
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最終更新:2014年03月09日 02:21