絶対的な強者として現れた敵が味方サイドについた途端に弱体化――

なんてことはフィクションの世界ではよく話題にあがる現象だ。
これは何もインフレがどうのとか、ご都合主義でどうのとか、そんなくだらないモノじゃあない。
いつか君らに話した“曲げないやつが強い”という俺の持論で言うなら当然起こりうるものだと思う。

そして……そういった意味ではカンノーロ・ムーロロはかなり『強い男』だといって良いだろう。少なくとも俺はそうだと思う。
だってそうだろう?

ハラワタが煮えくり返る思いをしながら。激痛の走る身体に鞭打ちやっとの思いで立ち上がりながら。
――それでも銃をぶっ放して会場を走り回るような馬鹿な真似は絶対にしない。
襲撃に備えて簡単にではあるが身を隠し、同時に自らのダメージを確認。スタンドの動きに意識を戻す。
そうやって自分がどういう状況にあるかを俯瞰した視点で見ることができる。まごうことなき暗殺者だったからだ。


ところで。


暗殺と聞いてどんなイメージを持つだろうか。
辞書を引き、本来の意味に目を向けてみるとこう書いてある。
『主に政治的、宗教的または実利的な理由により、計画を立てて要人を殺害すること』
……つまり、語源の意味を考えれば、なにも必殺シゴトニンのように暗闇に紛れて殺害をすることが暗殺というわけではないんだそうだ。
パレード中の車上で顔を出してるところを狙撃してもいいし、レストラン前の路上で腹から自動車を飛び出させてもいい。
相手の死が周囲に大きな影響を及ぼす殺人、それこそを暗殺と呼ぶ、ということである。

もちろん、ターゲットが要人であればあるほど周囲の警備も固くなる。要人が用心するってな……オホン。
ま、まぁそんなだから結局は闇夜に紛れて、とか、病死を装って、とかいう手段や結果になり、勘違いされたほうの意味で広まってしまったのだろうけど――

まあ、どっちでもいい。
重要なのは、カンノーロ・ムーロロが『どちらの意味でも強い暗殺者』だということだ。
先ほどの意味合いを考えると、暗殺という言葉に強い弱いという概念はないんだが……

索敵、追跡に優れたスタンドを携え。
自分の命を含めて物事を損得の二択で考えることができ。
それでいてアドリブにも対応できる頭と舌の回転の速さがあり。
やる時には『やる』という躊躇のなさを持つ。

これだけの要素を詰め込んだ暗殺者が『弱い』訳がないだろう。

え?何が言いたいかって?うーん……一言で言うなら。
評価してるんだよ、彼のとった行動について。


カンノーロ・ムーロロはこの状況に立たされてなお、他の参加者のそばに立つ選択をした。

団結、利害、主従と。それぞれ名目はともかく多くの人間が徒党を組んでいる現状。一対多というのはそれだけで不利である。
自分の身体の具合を鑑みても、単独で行動するのは最後の最後、その一瞬だけでいいと判断した。判断できるから流石だよ本当。
となれば問題は“誰のそばに立つか”だが。この取捨選択でさえも間違えることをしなかった。
現在会場を飛び回っているカードは約半分で、そのうえ先ほどのゴタゴタで情報の整理に多少のラグこそあれ、それでも現在生存者がおよそどの位置でなにをしているかはわかるからな。


――せっかくだ。皆もムーロロの立場で選んでいってみよう。ハイ名簿。


それでは順番に見ていこう。
さてまずは『暗殺』のターゲットから。
最終的に狙うのはジョルノ・ジョバァーナ――主催の大統領はとりあえず置いておこう。それはそれ。
……となれば同行してるジョセフ・ジョースターと合わせてギリギリまで対峙したくはない。ってことでバツ。
ではカーズはどうだ。カーズ側についていれば、ほぼ間違いなくジョースター一行と対峙し、全滅とは言わずともダメージを受けるのを相手側の視点から見られる。それを考慮すれば弱ったところを狙うのには最適だ。
だが『カーズ討伐同盟』を持ち掛けた自分がそちらについている、という画はさすがに誰が見てもまずい。ゆえにこれもバツ。百歩譲っても限りなくバツに近いサンカクだろう。

次に顔見知り連中。ムーロロの場合は一方的に知ってる相手がほとんどだろうけど。とにかく。
フーゴと同行していたシーザー・ツェペリは対カーズという意味で手元に置いておきたいが、ここでフーゴと自分に関りがあるというのがネック。
何を吹き込まれているかわからないうえ、間の悪いことに今まさにジョルノの同僚であるナランチャ一味と合流しようとしている。これも決め手になってバツ。
ということでシーザー、イギー、トリッシュにナランチャ、ついでに玉美がリストから外れる。
ちなみにフーゴ本人はといえば死にかけてるのでもはや監視すらしていない。これを今引き入れて何になると?ということでハズレ。

顔見知りといえばさっきまで一緒だったルーシー・スティールもそうだな。とはいえこちらはフーゴたち以上に悪評を振りまいている可能性が大。
同行しているジョニィ・ジョースターとの直接の面識は少ないが、それでもあの黒く燃える瞳は危険だとわかる。利用価値云々とはまた別の脅威がある。どちらかといえばアレは暗殺『する側』だろう。

もう少々、顔見知りとは言わないが関りのあった双葉千帆周辺。
琢馬は外の空気を吸いに行くとか言いながらどこかに消えた。アレにもう価値は見いだせない。
同様の理由で千帆もバツ。戦力的にも使いどころがない。プロシュートは組織の暗殺チームだが、それゆえこちらを早々に切り捨ててくる可能性も少なからずある。

先ほど連絡をしたディエゴはビジネスライクな付き合いだから……今の自分の状況、そして奴の腹の底を考えてみても、手ぶらで出会うにはリスキーが過ぎる。
連絡したタイミングで接触していたのはセッコだったが、コレもコレでなんだか危うい感じがしていた。
いかにこの猛獣たちをつかず離れずの位置でコントロールできるかという意味で監視は解けないが、早急に接触する必要はない。

エニグマの少年と吉良吉影はどうか。
ムーロロとの関わりが限りなく薄いから付け入るスキは多分にあるが、カーズのために動いているというのが少々引っかかる。
カーズ本人をNGにしている以上、そちらと接触する可能性もまた限りなく避けたいところだ。

さて、となれば残るはジョースターの血統とその仲間たちだ。
とは言っても残るはジョナサンか承太郎で……承太郎はDioに話していたように『出会った瞬間にオラオラ』の危険性が少なくない。
という訳で承太郎および取り巻きの康一、エルメェス、アナスイにシーラEは無条件でバツ。
付け加えるならシーラEに至っては尾行していたカードを破かれている。自分がどう動いているかをよく理解しているだろう。


結果として消去法でもあったのだが――ムーロロはジョナサン・ジョースターとの接触を当面の目的に据えた。
だがムーロロ自身、この選択は最良だと思っているし、俺もこの判断力は流石だと思う。だからやっぱり『強い暗殺者』なんだなと。
さて、ジョナサン・ジョースターといえば根本的に甘ちゃん連中が多いジョースター一族の中でも、随一の大甘ちゃんだといって差し支えないだろう。
しかも、同じ『敵だろうと怪我してたら治療する』でも、そこに利用価値の有無を勘定に入れるジョルノとは訳が違う。上手くすればノーリスクで傷の治療をしてもらえるだろう。

何より彼がスタンド使いではないというのが大きな要因だ。
スタンドを視認しているような言動があったのはバトルロワイアル運営側のハンデか何かだろう。だがたとえスタンドとの戦いを経験していたとしても波紋法のような“技術”とスタンドは根本的に異なる。
このロワイヤル終盤に来て自分のスタンドについてシラを切るつもりはもはやないが、そのリスクを冒してでもなおジョナサンのそばに立つことには利があると踏んだ。


荷物をまとめ――るほど持ってないんだよな。
腹に入れておいた石……元ボヨヨン岬の岩の欠片をポイ捨てしつつ、同時に懐の銃をサッと確認だけして重い身体を引きずり歩き出す。
カードの情報で自分の現在位置がダービーズカフェ付近である事、そしてジョナサンもそこからエリア二つ程度と比較的近い場所にとどまっていることはムーロロにとって幸運だった。
決して早くないが、明確な目的を持ったその足取りに迷いはない。


が。ここでひとつ、ムーロロは“知らなかった”。いや、恥知らずだとかそういう意味でなく……

ムーロロが気付かぬ間にジョナサン・ジョースターがスタンド使いとして目覚めていることを。
そして、そんなジョナサンが今まさに『絶対的な強者として現れた敵とともに歩んでいる』ことを。
その『強敵』が能力に制限こそあれど……間違っても目に見えるような弱体化なんてしないであろうことを。

流石にこれを責めるのは酷だろう。
なにより、この決断で彼らにどんな運命が訪れるのかは、俺たちだってまだ知らないんだから。



【B-2南部中央、ダービーズカフェ付近 / 1日目 真夜中】


カンノーロ・ムーロロ
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:腹部ダメージ・大(患部確認、応急手当済)
[装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット
[道具]:遺体の脊椎
[思考・状況]
基本行動方針:他のことなんて知ったこっちゃない、ジョルノたちに「復讐」する
1.復讐のために自分ができることを。まずはジョナサン・ジョースターと接触する

※腹部のダメージは肋骨が折れて腹筋を傷付けている程度で、それに伴い声が出せません。
 移動ができる程度には手当しましたが、長く放置しすぎると死ぬかも。
※現在、手元に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
 会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。


【備考】
ムーロロが「第四放送までに(会場中央に)来い」と連絡したのはディエゴ(とセッコ)でした。
他にも同時中継で誰かに連絡していた、かも?



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最終更新:2022年02月13日 00:31