時刻は24時、日付が変わる真夜中の時間だ。
24時と0時、意味が同じようで異なる。
24時は一日の終わりを指し、0時は一日の始まりを指す。
これより第四回放送を始める。
放送は前回に引き続きこのファニー・ヴァレンタインが、担当させてもらう。
前回、代役を立てると言ったが、結果的にウソになってしまったな。
ウソは背信行為だ。責められるべきものだと思う。
だが――そんなことは問題にならないほど、このバトル・ロワイアルにおいて重大な背信行為が見られた。
禁止エリア、および死亡者の発表を終えた後、その『背信行為』に関する話をしよう。
それではまずは禁止エリアから。
事後報告となるが、前回の放送で設定された禁止エリアからだ。
B-1
D-8
G-8
この3か所だ。そして、今回の禁止エリアは……
いや、先に18時から24時までの間に脱落した者たちを発表する。
今回脱落したものは……
以上 11名だ。
さて、物事には順序がある。
本題の『背信行為』について語る前に、前置きとしての話をしよう。
一言で言うなら――ガッカリだ。
君たち参加者には本当に、失望させられた。
決着を先延ばしにし、『宝探し』『墓荒らし』に邁進し……そんな行為に何の意味がある?
残り人数は20人を切った。
退場者のペースが減るのは、致し方ない面もあるだろう。
複数名で動く者も多いから自明ではあるが――戦いに積極的でないものが大半だ。
そこまではいい。状況が煮詰まっている証左だし、戦いを避け、自らの運命から逃げようとする者の末路など決まっているからだ。
本題はここから。先ほどから言っている『背信行為』の件だ。
殺し合いのルールに反抗し、首輪の解析を目論み、あまつさえ会場からの脱出を目論む。そんな輩がいるのだ。
6時間前に『危険な綱渡りをしてもらう』と言ったが、あの程度では痛みが足りなかったようだ。
地図のマス目にして3/57……博打にしては分が悪すぎるゆえ、当然の結果と言えるが。
いや、問題は『反省が見られなかった』ことだ。
徒党を組み、反逆を企てる。よほど仕置きを受けたいか、ものともしない自信があるのか?
どうせ放送を聞いているのだ、あえて名指ししよう――
カーズ! 小賢しくも首輪解除を試み、他参加者を唆し、このゲームを転覆させようとする愚か者め!
絶対に貴様の思い通りにはさせん!
この放送に代理を立てなかったのも、そういうことだ。
『綱渡り』などというヌルいギャンブルより、もっとハッキリとした『罰』を言い渡すためだ。
この放送以降、1時間ごとに2人以上死者が出ない場合、会場全体を即座に禁止エリアにする。
ハッタリだと思うか? 残念ながら、スティール氏は最初に説明している。
『開催日程は三日、もしくはそれ以下』とな。
そう、三日たっても決着がつかなかった場合、会場全体を即座に禁止エリアに設定することで終了となる、というのが元々の予定だ。
やや説明不足だったかな?
放送時の禁止エリア設定はスティール氏に一任していたが、三日経過後――無効試合(ノーコンテスト)時の禁止エリア設定の権限は私にある。
こればかりは勝手に起動されるとマズいのでね。
無論、これだけでは最後の一人を目指す者にとって不利益な追加ルールだ。
『1時間ごとに2人以上の死者』というからには、例えば1時間以内に4人の死者が出た場合は? という疑問が生じる。
あくまで、進行が鈍るのが望ましくないという前提あってのルール追加だ。
1時間で3人以上殺すと損、という認識を持たれては進行速度のテコ入れにならない。
2人死者が出るごとに、1時間の延長を約束しよう。つまり先ほどの例なら、2時間分の猶予が生まれる。
そして、私もただ罰を与えるだけの、神様気取りな男ではない。ささやかな助け舟を出してやろう。
人数が人数……参加者が会場中央に集中していることは各々察しがついていることだろう。
実際、ほとんどの参加者が中央に集まるような動きをしている。
先ほど名を挙げたカーズも例外ではない。
――そう、カーズは放送を流している現在、【D-4 マンハッタントリニティ教会】にいる。
……ああ、今回指定した禁止エリアの話を忘れていたな。
【D-4】を禁止エリアに指定、なんて卑怯な真似はしない。
会場の端だ。A-1、A-9、G-1を指定してさせてもらったよ。
放送を行うための、便宜上の指定だ。気にする必要はない。
そして、忠告をもう一つ。
最初に言った通り、24時は一日の終わりを指し、0時は一日の始まりを指す。
『時刻は24時』と言ったのは、これが『終わりの放送』だからだ。
次の機会などない。君たち全員が死ぬか、最後に一人残るか。
二つに一つだ。
全てに決着をつけようではないか。
放送は以上だ。
★
「どういう……ことです?」
『首枷のない』
宮本輝之輔が放送を聞き終えてすぐ。
ヴァレンタインがマイクのスイッチを切るさまを見届けるや否や、問いただす。
「スティーブン氏の真似をしてみた――と言えば、笑ってくれるかね?」
対し、ヴァレンタインは質問に答えず、顔も向けないままオフィスチェアの背もたれに最大限寄りかかる。
肩をすくめ、ジョークの手ごたえを確認するかのような態度。
「どういうことです、と聞いたんだ。
カーズを突き放すようなことを言ったかと思えば、中央に集まれだなんて、カーズを支援するようなことを言ったり……。
ナルシソ・アナスイのことだってそうだ! 生存は明らかなのに、何で名前を読み上げたんだ!?
あなたは、このバトル・ロワイアルをどうしたいんです……!?」
「私の目的は最初から変わっていない」
即答。
目的を話す気がないのは明らか、つまり『聞くな』ということ。
無茶苦茶な禁止エリアの設定は、立場を晒すことが不利だからか、状況が芳しくないからか。
原因はどうあれ、もはや、なりふりかまっていられないのだと推察した宮本。
ならば、ヴァレンタインと同じように、身勝手に振る舞うまで。
「僕は行きます。次にここに来るのは……決着をつける時だ」
「それは『背信行為』かね?」
放送内容は不自然だった。
カーズの行動は『背信行為』というより『反逆行為』のほうがふさわしい言葉のように思える。
――自分に向けられた言葉?
宮本の頭を掠めた、ネガティブな思考。
一拍おいて、頭の靄を振り払うように、言い放つ。
「……『覚悟』だ」
その言葉を皮切りに、ヴァレンタインは座ったまま振り返り、棒状のものを投げつける。
宮本がとっさに片手でキャッチした『それ』は。
「よろしい。では、私も『覚悟』を示すとしよう」
『それ』は、ミイラのような腕。
「これは……『遺体』!?」
「そう、遺体の『左腕』だ。例の二人組――ああ、君は知らないんだったか? どっちでもいいが。ともかく回収させた。
そして、もともと遺体の『両耳』『右脚』は、私の手元にある」
見せびらかすように、遺体を取り出して見せたヴァレンタイン。
宮本は手にする遺体が引き合うような、磁石の力場のようなものを感じ取る。
両耳も右脚も本物だという確信を与えるために、わざわざやっているのだと。
「……貰ったまま、ただで済ませるとでも? うっかり壊してしまうかも」
今まで宮本が始末されていなかったのは、宮本が死ねばエニグマの紙の『中身』が消失するから、と宮本は考察していた。
逆に言えば、大切であろう『遺体』が揃った以上、いつでも始末できてしまう。
遺体の左腕を手にしていなければ、いつでも。
「『背信』していないのなら、何の心配もあるまい。それに、カーズの話は聞いていただろう?」
――真っ二つにしたり細切れにしたり、粉微塵にしたり燃やして灰にしたり……したところで、効力が失われなければ意味がなかろう
宮本は判断に悩む。
カーズの言葉は真実と見ていいのか。
ここでヘタに反応すれば、目論見がバレてしまうのか。
「……」
「理解できないから壊して終わり、とは、まるで癇癪を起こした子供ではないか?」
「……そう言う割に、何を知っているかは教えてくれないんですね」
つい、本音を漏らしてしまう宮本。
ヴァレンタインは椅子を180度回転させて背を向け、その表情は窺い知れない。
「無駄話はもう終わりだ。行くなら好きにしたまえ。君が何をしようが、いずれ決着はつくのだ。
例の二人組も、君と同じようなことを言って会場に降り立った」
「……失礼します」
宮本も振り返る。
互いに背を向け、その目線は交わることなく、宮本が先に消えていった。
「ようやくだ。ようやく悲願が成就するときがきた」
ヴァレンタインが手にする、遺体の『右足』と『両耳』。
自らの体躯にしまい込む様子は、ない。
「すべてに決着をつけようではないか」
モニターの光で、鈍く光った犬歯を見る者は、誰もいなかった。
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最終更新:2026年08月11日 11:09