「指定は『第4回放送後に会場の中央』、だったわよね? そこに来れば、首輪を外す……って」
トリッシュの指摘。
プロシュートは把握していない情報だったものの、何を言いたいのかは大方察した。
――時と場所の指定が曖昧すぎる。
カーズの名のもと、参加者を一点に集めたいのが本命で、首輪の解除云々は『餌』としか考えられない。
場所、という点では、カーズが歩を進めた先にあった建造物がそうなのだろうし、曖昧さは払拭される。
だが、『会場の中央』と言うには語弊がありそうだった。
「マンハッタントリニティ教会……」
プロシュートが呟く。
教会の所在地は【D-4】の北方寄りといったところ。
地図のエリア区分で見るなら、会場の中心地は【D-5】になるはずだが――と疑問をはさむ隙もなく、カーズは教会に堂々と侵入。
プロシュートにとって一度立ち寄った施設で、教会内部の密な探索はしていなくとも、罠や伏兵を疑う余地はなく。
カーズに続いて、教会へと足を踏み入れる。トリッシュも同様に。
「わが流法は光……人を寄せるために、おれ自身が光となって呼び寄せれば済む話」
カーズが掲げた右手から、閃光がほとばしる。
2秒もすれば収まったが、夜闇に慣れた双眸には鮮烈で、プロシュートとトリッシュは一瞬目をくらませる。
「あまりに【D-5】に参加者が集まるようなら、お前たちどちらかに『遣い』となってもらうのもいいかもしれんが……状況次第だな」
突然の光が片頭痛を巻き起こしたのか、眉間を押さえながらふらつくトリッシュ。
そんなトリッシュに寄り添うこともなく、プロシュートはターゲットから目を離すまいと、カーズに一層近づく。
「なぜマンハッタントリニティ教会に入るのか、を答えるために、そうだな。
解明した首輪の謎について伝えておこうか」
荘厳なステンドグラスを背に語るカーズ。
夜闇が支配する真夜中でも、月明かりのお陰か、ガラス細工は妖しく、複雑に輝く。
「もしお前たちを『遣い』とするなら、当然知っておくべきであろう?
それに……信用ならない、という顔を向けられるのも飽き飽きなのでな」
まばらな色に曝されたカーズの姿、神聖ささえあった。
★
「説明にあたって、きさまらの名前を聞いておこうか。
『そこの男』『そこの女』では味気ないし……何より、いずれ人数が増えるだろうしな」
カーズの態度、教壇に立つ教授のような。経典を説く教祖のような。
堂々たる出で立ち、首輪の解明結果に微塵の疑いも持っていないことが伺えた。
「トリッシュよ」
「……プロシュートだ」
並び立った二人が、簡潔に名乗る。
よろしくお願いします、などと二の言が続くはずもない。
猜疑、嫌悪……なんであれ、友好関係を築くには、取り除くべき前提が多すぎる。
敵対関係と言えるほどの因縁もない。淡々と、カーズのご高説が進行していくのだろう。
「お前たちが『干からびた遺体』のことを、どれほど知っているかは知らんが」
カーズは『遺体の左脚』を自らの肉体から引きずり出し、見せびらかす。
「この左脚を手に入れた途端、傷が塞がった。我が一族は人間より遥かに自然治癒能力に優れているが、それを上回る速度で、だ。
『完治』と言っていいほど元通りにな。おかしいとは思わないか?」
「……別に? ただ、そういうアイテムだったってだけでしょう」
「……前提となる情報が足りないと見える」
カーズがトリッシュに向ける、細め見下す目つき……機械に疎い老祖父母に、パソコンの操作方法を問われた時のような。
『何もしてないのに壊れたんだけど』と問われた時のような、憐憫を見せる。
「我が一族は人間より優れた治癒能力を持つと言ったが、『太陽に弱い』という弱点がある。
スタンド使いであろうお前たちに伝わる言い方をするなら、そうだな……。とあるスタンドは、傷を治せても本体自身の傷を治せないという制約がある」
「何が言いてえんだ?」
「対価や代償のない治癒をしてのけた、ということだ。それこそ『奇跡』としか言いようがない」
カーズの例えの出自はどうあれ、プロシュートにも『制約』には覚えがあった。
『グレイトフル・デッド』の老化能力は、老化速度の個体差――体温上昇率の低下で老化が遅延する、という制約がある。
殺し合いが始まってからは、プロシュート自身にも体温如何では老化が効くというハンデも付与された。
「参加者の能力は、元来からか、後付けかは知らんが、制限や制約がある。
本来であれば、我が一族は首を切り離した程度では死なないのだ。治癒力に後付けの制限が加わっているとわかる。
ここまで言ったのだ、さすがに不自然さに気付いてほしいものだがな」
「……殺し合いを行うってのに、タダで治療をするのはおかしい、ってか?」
「少しは頭が回るようだな。でなければ話し甲斐がないが」
挑発なしで喋れないのか、と呟きかけてやめるプロシュート。
むしろ、調子に乗らせて情報を引き出すのが役目。
千帆が言った通り、遺体にまつわる謎を突き止める絶好のチャンスなのだから。
「参加者間の力量差を埋めるのに支給品が存在する、これはわかる。
だが、決着をいたずらに引き延ばす支給品があるのは不自然だ」
カーズは傷の修復を『完治』と称した。
再現性があるのかわからないが、再現性がないとしても、遺体そのものは摩耗することなく健在だ。
客観的に言って、奇跡の恩恵に再度あずかる期待を持つには、十二分。
「だからこそ、この遺体は『殺し合いを続けるための道具』と言える」
「早速、矛盾してるじゃあねえか」
「まあ聞け」
カーズが鼻で笑う。
プロシュートのリアクションはカーズの予想通りだったのだろう。
理想的な聞き手と言えば聞こえはいいが、勿体ぶられているままのプロシュートには癪に触った。
「生者の首輪を破壊――スティーブン・スティールの言葉を借りれば、『無理やり破壊しようとしたとき』、だ。
首輪は爆発し、参加者は死亡する。しかしそうならなかった事例がある。
おれが遺体を持った参加者の首輪を肉体ごと縦に切断した時、首輪は爆発しなかった。
切断は一瞬のことだ。切断前に死亡したなどありえないし、現にそいつは半身でありながら、最後のあがきとして足首を捉える動きをした」
首輪ごと切断、つまりは縦一文字。
人体を薪割りのように裂くことなどできるのか――偽証や誇張を考慮する余地はない。
カーズほどの傑物が『一瞬』と評するのだ。カーズはやれるのだ。やってのけたのだ。
異論をはさむことなく、カーズの講釈に聞き入る二人。
「ヤツは――おれが切断した参加者は、遺体をデイパックに収めていた。首輪が爆発すれば巻き込まれてしまっていただろうな。
『殺し合いを続けるための道具』が破損してはマズい、ということだ。
要は奪い合ってほしいのだ。重要なものとして、便利な道具として、な」
カーズは
マウンテン・ティム殺害時、首輪の火力を確かめている。
音を立てて爆発し、脳髄が撒かれるほどの威力。頭部と胴とが離れ離れになるのも当然にして、必然。
それほどの威力なら、デイパックを巻き込まないはずがないのだ。
「主催者が遺体の破損を恐れて、首輪の爆破を取りやめるよう、何かしら操作したってことかしら?」
「そんなこと、できるはずなかろう」
トリッシュのもっともらしい推理に、カーズが遮るように異を唱える。
「自分で言っておいて、否定すんのかよ」
「そうではない。トリッシュは『主催者が操作したのか』と言った。それは不可能だと言ったのだ。
主催者は始末されたスティールと、ヴァレンタイン……明かしていないだけで、他にもいるのかもしれんが。
いくら集団で監視したところで、だれがどの支給品を持っているかとか、このカーズが次にどう動くか、などと一切合切を把握できるはずもない」
プロシュートは秘匿しているが、監視カメラによる中継が今なお行われていると、参加者でない宮本輝乃輔が明かしている。
とはいえ、死角が存在しないとは言い切れないし、そもそも宮本が生成した『紙』に包まれている支給品もある。
『紙』の状態で支給品をシャッフルしたとしたら、中身を言い当てるのは支給した主催者でも無理難題と化す。
「じゃあ、誰が首輪の制御をしたって言うんだ?」
「遺体だ」
「「……は?」」
プロシュートとトリッシュ、同時に当惑を口にする。
口を開けたままの二人を無視して、カーズが『遺体の右脚』を掲げながら、高らかに宣言する。
「遺体が首輪を制御している。稼働から、爆発の威力に至るまで、な。
この遺体の正体は、言うなれば……『殺し合いの継続を望む意思そのもの』だ!」
掲げた遺体を、カーズは実に、憎々しげに見つめていた。
「……飛躍が過ぎないかしら?」
「このカーズに間違いなどありえない」
冷笑ともとれる態度のトリッシュに臆することなく、胸を張ったまま、カーズは言ってのける。
ドイツの哲学者、アルトゥル・ショーペンハウアーは『天才は平均的な知性よりは、むしろ狂気に近い』と言った。
幾世紀の時を生き、積み重ねたカーズの絶対的自信――狂気というか、狂信的なレベルに達している。
仮説や検証が抜け落ちた結論。結論が先んじる結論。だというのに迷いなく信じ切っている。
(合っている……かもしれねぇ)
一方のプロシュートには、迷いが生じていた。
仮説や検証が抜け落ち、結論が先んじるカーズの結論を後押しできる情報を有していたから。
――できればあなた達にはこれ以上遺体と接触しないでほしい。可能であれば見つけ次第処分してください。
――とにかく重要なのは、遺体は聖なるものではない。忘れないで下さい。
参加者でない
宮本輝之輔は、何か事情を知っているようだった。
『殺し合いの継続を望む意思』――確かに、『聖なるもの』という表現と対角線上にある。
具体的な情報を聞き出せなかったことに、プロシュートは思わず歯噛みする。
(主観的な情報だからと、重要性が低いと見くびっちまった)
洒落た言い回しより確実な情報を求めていたプロシュートだったが、カーズの考察を聞いて認識を改める。
大統領を倒したという
ジョニィ・ジョースターのように、聞く人が聞けばわかる言い方なのかもしれない。
しかし、無いものはねだれない。参加者でない宮本から聞き出せなかった後悔をするより、カーズの考察を深堀りするのが賢明だ。
「沈黙が続くなァ。考え事か、プロシュート?」
黙り続けると不自然に映る。
プロシュートは、半ば反射的に、ありきたりな質問をぶつけた。
「遺体は『殺し合いの継続を望む意思そのもの』……だとして、それがどうして首輪の解除の話につながるんだ?」
「フフフ……いいではないか。型にはまったありきたりな質問。しかし理想的で、模範的な返答だぞ」
いい質問ですねと言わんばかりのカーズの笑み。
テレビのコメンテーターかよ、とプロシュートは冷めた視線を向ける。
「これが『殺し合いの継続を望む意思』と聞けば、壊してしまえば……と、短絡的に考える者もいるだろう。
わが輝彩滑刀でバラバラにしてしまう、とかな」
カーズがスナップさせた前腕から、青白く輝く刃物が伸びた。
プロシュートもトリッシュも、攻撃の意はないと理解していながらも、本能的に身じろぐ。
参加者を縦に切断した、という説明に疑いを持っていなかった二人だが、前腕を凌ぐ刃渡りからして両断は容易いだろうと納得する。
なら、なおさら遺体の解体など造作もないのでは、との問いに答えるかのように、カーズの言葉は続く。
「時間をかければ可能かもしれないが……そもそも、労力に見合わない可能性がある」
「どういうこと?」
「真っ二つにしたり細切れにしたり、粉微塵にしたり燃やして灰にしたり……したところで、効力が失われなければ意味がなかろう」
カーズとトリッシュの会話を尻目に、内心、舌打ちをするプロシュート。
(言われてみればそうだ……! 何が『見つけ次第処分してくれ』だ! テキトーなこと言いやがって宮本ォ!)
『可能であれば』という申し訳程度の条件付けをしていたが、カーズの言うように無力化できなければ意味がない。
依頼するだけして方法は任せる、とは片手落ちだ。
『物質を完全に消し去る』能力――死者含めれば複数使い手がいるのだが、プロシュートの知るところではない。
「壊そうにも、遺体全てとなると骨が折れる。遺体が左脚と、お前たちが所有する部位だけということはあるまい。
頭やら胴やら手足やら……それぞれのパーツがある、というのはお前たちも承知済みだろう。ここにはいないが、他パーツの所有者もわかっていることだしな。
人体、かつ心臓のような重要な臓器も遺体に含まれているのなら、全て合わせると10から12のパーツと推察できる。
数という点でも、労力に見合わないだろうな」
プロシュートとトリッシュは、自身が所有する遺体の部位を明かしていない。
それでも、カーズは遺体の部位に臓器が含まれるとみなした。
遺体は、血は通わずとも腐らないまま肉を纏う。臓器も同様に腐らないと判断してのこと。
「そしてもう一つ。お前たちには感じ取れないかもしれないが……首輪のロックと遺体は連動している」
カーズが自らに架せられた首輪を、指先で音を立てて小突く。
「遺体を取り込んだ際、首輪に異変を感じた。最初は気づかなかったが……今、遺体を取り出した時にも感じ取れた。
遺体を取り込むことで、首輪の物理的な拘束が一部解除され、取り出せば元に戻る……遺体すべてを取り込めば、首輪は外れる。
だが仮に――いや、確定だろうが、主催者が遺体を持っているのならば、遺体を全て集めてのロック解除は非現実的だ。
この首輪解除方法はルールに則った正規の方法、と言うべきか……。優勝者をたった一人に絞るための措置、ということだろう」
トリッシュが胸元に手を当てる。
皆で協力して遺体を見つければ、などと楽観視できる情報ではない。
殺し合いの進行中には満たせないであろう条件が突き付けられただけのこと。
最後に生き残るのはたった一人、と第二回放送で明言された意味。カーズの論説によって現実味を帯びてきた。
「遺体は散らばって支給されている。
傷の治癒や首輪のロック解除という、一見、有利な効能を見せているのも、破壊させないため、奪い合いにさせたいため……。
簡単には一か所に集めさせないためだろう」
「なら、首輪はどう外すの?……壊してもダメ、すべてを集めるのも非現実的なら、どうやって」
トリッシュがたまらず、最大の要点を抑えに来る。
思い描いた絵図の通りに話題が運んでいるからか、カーズは嬉々として語り出す。
首枷に生殺与奪を握られているとは思いえないほどに。もはや何の障害にもならないと言わんばかりに。
「首輪ごと切断した参加者が首輪爆破を免れたことから、『殺し合いの継続を望む意思』すなわち『遺体』と『首輪』は連動している。
ここまでは説明したとおりだが、機械である以上、無限の範囲で首輪を稼働させることはできまい。
首輪を稼働させる『遺体の射程範囲』は、予想だが、地図の範囲より少し広めといったところだろうな」
一拍おいてカーズは、首輪の解除という無理難題、その解を示す。
「つまりだ。首輪の解除は……『遺体すべての効果範囲外まで離れたとき』に可能となる!」
シンプル。単純明快。言うは易し。
ゆえに問題が浮上する。
(カーズの言う通りだとして、問題は……誰が遺体を管理し、留めておくか、だ)
カーズの案を聞いたプロシュートは早々に、プラン実行にあたっての懸念事項が浮かんだ。
参加者でない宮本が与えた情報を当然カーズは知らないので、遺体は危険なものという前提で言葉を返すわけにいかない。
今までの会話の流れを汲み、自然なレスポンスを心掛ける。
「遺体がある限り、首輪は稼働し続ける……なら、遺体の目の届かない場所まで行けってことか。馬鹿げてるな。
ここにある遺体を独占したいお前の罠だろうが、どう考えても。遺体の正体が何にせよ……手に入れたやつが有利になるって話だったろ」
カーズ案では、遺体から離れる役と、遺体を留めておく役とに分かれる必要がある。
参加者に何かしらの効能を授ける遺体、確保したがる者はいるだろう――カーズとて例外ではない。
むしろカーズ案は、教会に集う三者の遺体を独り占めする口実ともとれた。
「何か誤解をしているようだが……遺体の位置が分かり次第、遺体から離れるのはこのカーズだ。
おれとて首輪を外したい。無論、お前たちにも遺体を手放してもらう必要があるがな」
そんな疑惑を、カーズは即座に払拭しにかかる。
「なに……!?」
「呆れたな……。きさまらに分かるよう、こうまで時間をかけて解説しているというのに。このカーズに、まだ首輪解除以外の思惑があると……?
とはいえ、おれはおれ自身の首輪を確認できない。もうひとり『実験台』としてついてきてもらうのが理想だ。寄せ集めた者たちの中から、相応しい相手をな。
協力できないというのであれば、それでもいい。首輪解除はおれ一人で試せばいいだけのこと。次善策だがな」
カーズの本命は首輪の解除。というより、『遺体に価値を見出していない』様が、失望を帯びた口調に現れていた。
カーズからすれば遺体は『呪物』。傷の治癒は自力でできるし、首輪の稼働に関わるとあれば進んで手放す。
全部位を揃えた『ご褒美』も、そこに至るまでの道のりが険しいどころか、ヴァレンタインの遺体所持状況によってはお預けを食らわされかねない。
(カーズは『遺体』のパワーに頼る必要ないくらいに化け物……。
相当な自信家だし、遺体から離れようとするのは理にかなっている……。
だが、本当にそれだけか?)
カーズが開示した情報――全てを信用していいのか。虚実は織り交ざっていないか。
そもそもプロシュートは育朗やシーザーと異なり、カーズと戦う動機がない。
手を取り合うべき相手とは到底言えないが、下手に反抗して首輪解除の機会をみすみす失うのは果たして正しいのか。
眉間にしわ寄せ俯き、真意を測ろうとするプロシュートを無視し、カーズは手荷物にしていたデイパックを漁る。
「先に説明したように遺体の破壊や無力化、蒐集は現実的でないが、距離をとる案なら場所さえ分かれば問題ない。
問題となる遺体の位置の特定だが、あるスタンドがあれば確認が可能だ。
そう……参加者の中に、『探索』『遠隔視』を可能とするスタンドを持つ者がいるらしい。
本来であれば手の内をさらすなど愚策だが……大サービスだ、見せてやろう」
カーズは厚みある本を手にし、1ページを勢い良くちぎって、見せつける。
一枚紙には確かに、記載されていた。
腕を起点に伸びる茨のヴィジョン。
能力:遠くのものを映し出す『念写』の能力。
――スタンド名称:不明
「『スタンド名称:不明』……?」
「おそらく、スタンドが発現して間もないのだろう。あるいは本体が子供とか」
「そんな奴が都合よく生き残ってると思うのか?」
「さあな」
「さあな、って……」
「お前たちに心当たりがなさそうなのが残念だ。スタンド使いは運よく見つかれば御の字、といったところだな。
遺体の位置特定をしたいのはやまやまだが、時間はかけられないし、どちらにせよ、やることは変わりない」
肩をすくめるカーズの様は巨体に似つかわしくなく、演技や虚飾ではない落胆が見られた。
落胆しているのだから、二人のリアクションから『心当たり』を探っていたとも推し量れる。
観察されるばかりでは気に食わないと、再び探りを入れようと、プロシュートが切り返す。
「肝心な部分をまだ聞けてねえ。遺体の場所が分かったとして……効果範囲外ってのはどこの事だ?
遺体がどこにあろうと、遺体から遠くに離れようってんなら、マップ中央は明らかに非効率的だ」
「言われてみればそうね……。最初は、遺体を集めたいから中央に、って話だと思ったけれど。
ここに遺体を置いて、どこかに行くの? 地図に描かれていない外側とか」
「会場外はおそらく禁止エリアだ。ならば首輪が稼働できるのは、会場を超えた広範囲であると考えられる。
でなければ、会場は会場外への移動手段が限られる孤島のような場所を選んだはずだ。よって、目指すのは会場の外ではない」
会場外に出ても運営に問題がない、という推理を基にした、首輪の可動範囲の類推。
地図に記載された地形は、わずかな川を除けば地続きで、離脱は容易。
禁止エリアなのかは不明だが、何らかの対策が施されてしかるべきなので、カーズに異論をはさむ者はいなかった。
だからなおさら、地図を見る限りでは『遺体の効果範囲外』という聖域は存在しないのではないか。
否、カーズには聖域が見えていた。
「いまのおれは気分がいい。答えを教えてやろう。
おれが目指すのは、『会場外を含む禁止エリア以外の場所』、かつ『遺体から距離を置ける場所』だ。それがこのマンハッタントリニティ教会に来た理由だ」
「答えそのまますぎて、意味が分からないわね……」
「分からなければ、穴が空くほど地図を見てみることだな。お前たちが気付こうが気付くまいが……話したいことは一通り話し終えた。
あとは放送を待つとしよう。協力か反抗か、身の振り方は放送の後で決めるがいい」
そう言ってカーズは、高くそびえるステンドグラスを仰ぎ見る。
プロシュートとトリッシュに背を向ける形、一見隙だらけな佇まい。
奇襲、強襲などと出過ぎた真似をするわけもなく、二人はデイパックから地図を取り出して、カーズが投げかけた疑問を解消しにかかる。
相談などせず顔を見合わせることもせず、両者、視線の先は幾度も向き合ってきた方眼紙。
(もう、聞き出そうとしても無駄だろうな。答えになってねえ答えで、答える気があったのかも怪しいが。
だいたい、地図の範囲内で禁止エリアにならない場所なんてあるわけねえだろ。
もうすぐ第四回放送がある。ここが禁止エリアになったっておかしくない。どこでもそうだ)
プロシュートは、7×9=63マスで構成される長方形の領域をじっと見つめる。
明かされていない禁止エリアもある。侵入可能な箇所を諳んじることはできないが、それでも見つめる。
しばらく、くまなく眺めて、ふと思い立つ。
(逆に言えば『どこでもいい』ってことか……?
いや、この教会を選んだ理由があるはずだが……中央に近いからってだけか?)
地図を眺めても得る物がないと悟ったプロシュートは、カーズの言葉にヒントを見出そうとする。
カーズは集合場所を『地図の中央』『禁止エリア以外の場所』と指定した。
地図上のどこであろうと禁止エリアに指名されかねないので、特定の場所・施設でなければ計画が破綻するというわけではなさそうだ。
なおかつ、マンハッタントリニティ教会を『都合がいい』として選んだ理由があるはず。
(『穴が空くほど』……、!)
突如、プロシュートの脳裏に電流走る。
カーズの言意はなんてことない、字面通りの単純な謎かけ。その気付きを得た。
(地下……! 地下なら、指定されない限り禁止エリアにならない!
地上と地下――同じエリアだとして、仮に遺体が全て地上にあるなら、立体的に見て地下は遺体から離れる位置!
遺体の位置特定にそこまでこだわりを持っていない理由としても成立する!
なにより、この教会には地下にシェルターがある! 必要以上に地面を掘り進める必要もない!)
プロシュートは千帆とともに訪れたことで、カーズは地下の地図を観察したことで、地下シェルターの存在を認知していた。
誰もがシェルターの存在を知るわけでは無し、カーズが目指す場所としては『地下』が一応の正解、模範解答なのだろう。
事前知識なしのトリッシュは、早々に地図を眺めるのをやめてしまっていた。
トリッシュに真意を悟られまいとプロシュートは顔を地図で隠しつつ、更に考察を重ねようとする。
シェルターにはプロシュートしか知らない事実が、もう一つあったからだ。
(シェルターには――施錠されていないシェルターには、遺体があった)
――全てが集まらないようスティールさんがこっそり隠した筈なのに……
――こっそり隠した筈なのに……
――こっそり隠した
『首輪のない』宮本の言葉が、プロシュートの脳内でリフレインする。
(ずっと違和感があった。
スティールは、ヴァレンタイン大統領の名前を明かして反逆の意を示して始末された。
後々何か言うつもりだったのかもしれないが、名前を出されただけで始末したってくらいにヴァレンタインは慎重だ。
……慎重だってのに、スティールが重要な遺体を隠せるほどの隙を晒すか?
それに、『隠した』という割に、シェルターの扉はどうぞ見つけてくださいって感じに開けっぱなしだった)
遺体を格納するにあたって、会場と本部とを往復したはず。
会場と本部の行き来は必ず一人ずつ、さらに一度使うと五分は使えない、との宮本談だった。
名前以外を明かさせなかった男が、計十分も隙を見せるとは到底思えない。
別の移動手段など、もってのほかだ。宮本以上に切り捨てて良い関係なのに、宮本以上の特権を与えるなどありえない。
(もしかしたら、今なら理由がわかるかもしれない。
カーズの考察が、当たっているんだとしたら……。あの宮本が、何か勘違いをしているとしたら……。
隠す隙を晒したんじゃあなく、『ヴァレンタインが黙認していた』のだとしたら……)
スティールの第三回放送の暴挙、まぎれもなくヴァレンタインへの裏切り行為だった。
しかし、あまりにも突発的だった。
遺体隠しも同様に裏切りだとしたら、きっと計画的に行わなければ成り立たない――第三回放送時のイメージとは真逆。
つまり――『遺体隠しは裏切り行為ではない』。
(『スティールが遺体をシェルターに格納すること』は『バトル・ロワイアルの運営上、必須だった』! 地下であっても首輪を稼働させるために!
ヴァレンタインの指示のもと、その役目を負ったスティールは、遺体をシェルターに格納するだけして、施錠しなかった。
施錠したらエレベーターみたく降下して地下に格納される仕組み、ってところだったんだろうな。
スティールは首輪をしていなかったから、会場内のカメラは起動せず、監視を逃れた。遺体を格納したかのチェックは、所持品検査だけで済ませたのかもな。
宮本は……おそらくスティールも、なぜ遺体をシェルターに入れる必要があるか、その目的や意味を知らされてなかったんだろう。
宮本は遺体がなんなのかハッキリとは理解していなかったし、ヴァレンタインが持っている可能性も全く考慮していない口ぶりだった。
スティールが施錠しないままでいたのは……誰かが遺体を見つけることを期待していたんだ(確保を望んだか、破壊を望んだかまではわからんが))
ヴァレンタイン大統領、スティーブン・スティール、参加者でない宮本。
三者間の認識の齟齬――プロシュートだけが歯車をかみ合わせることができた。
そして、噛み合った歯車はカーズの理論をより補強する。
(日光に弱い怪物……なら地下に潜るなんて、お手の物だろう。
全ての遺体が地上にあるなら、カーズの考察が全て当たっているのなら、地下深く進めば首輪を外せちまうかもしれない。
いや……違う、そもそも考察が当たっている必要もないんだ! 地下深くに潜ったカーズに手出しできる参加者なんて、そうそういるはずもない!
アタリだろうとハズレだろうと、どっちに転んでもカーズが得をする結論! だからこそ、他の連中の首輪も外すだなんて大言をぬかしやがったんだ!)
今後のカーズの振る舞い、プロシュートが整理した結果はこうだ。
①実験台となる参加者がいない場合、カーズ自身が地下に潜り首輪解除を試みる。
首輪の起爆が行われない範囲に逃れられれば、そのまま首輪を外すだろう。
上手くいかないくても、地下深くに潜ったカーズに対し、攻撃手段のあるスタンドはほぼ存在しない。
カーズの身の安全は保たれ、下手をすれば籠城される。
②実験台となる参加者がいた場合、カーズと一緒に地下に潜り首輪解除を試みる。
首輪の起爆範囲外に着き、約束通り実験台の首輪を外したとしても。カーズの予想に反して首輪が起動し続けたとしても。
カーズは実験台を『始末する必要すらない』。帰還手段を与えるはずもなし、地下深くに放置しておくことだろう。
実験台が放置できないほど抵抗するようなら、殺して地下を埋め立てれば済む話。
カーズからしたら『首輪を外してやる』という約束を果たしたなら――果たさずとも、後のことは知ったことではない。
(このまま誰も来なければ、実験台はおれか、トリッシュのどちらかか……?
おれを実験台にするなら『グレイトフル・デッド』の『直』を叩きこめる……が、カーズに効くイメージが浮かばない。
育朗や
ワムウと接触したおかげか――化物は、老いを超越しているって確信がある。『衰える』イメージが湧いてこねえ。
なら、トリッシュを実験台にして暗殺を狙う……? いや、ボスに近づく手がかりを、むざむざ失うようなマネをしていいのか?
そもそも第四回放送前後でここに来るやつ次第では、事前の計画なんて意味を成さないかもしれない)
千載一遇の機会、というのは間違いないだろう。
ただ、何のチャンスと捉えるかは如何様にも解釈できる。
首輪を外すチャンスと捉えるべきか。
組織で成り上がるチャンスと捉えるべきか。
怪物の首を獲るチャンスと捉えるべきか。
(おれは……どうするべきだ?)
プロシュートは、数多ある選択肢から何を選ぶか。
何かを選び取れるのか。
★
カーズは説明を省いたが、カーズなりの答えに至るにあたって、もう一つの根拠があった。
(このカーズに語り掛けた、何者かの声。
背後からの感覚だったので、声だけか、実際に姿を現したかは定かではないが……。
『心が迷ったならやめなさい』『ここで立ち止まるのは、貴方にとって敗北ではない』と)
遺体を通しての、ルーシーの語り掛け。
今となってはルーシーの意図は分からず仕舞いだが、カーズは自身の考察の補強として捉えた。
(首輪の解析に励むこのカーズに対して、そう言ったのだ。首輪を外すために思慮を巡らせたら、『やめなさい』と。
『心が迷ったなら』は、首輪の構造に頭を悩ませるさまに対して。
『ここで立ち止まるのは敗北ではない』……立ち止まる、は、『首輪を外そうとするのをやめること』を意味している。
敗北――バトル・ロワイアルにとっての敗北の定義は、言うまでもない)
カーズに相反する意思の顕現、とカーズは捉えた。
(このカーズに迷いなどない。立ち止まることなどありえない。
なのに遺体はおれの意思に反した助言をした。わざわざ声を上げたのだ。
つまり――都合が悪いということだろう?)
ルーシーの囁きがカーズに何をもたらしたかというと、『最後の一押し』――残り1%の確信といったところ。
別の言い回しで言葉を紡いだとして、カーズの結論に変わりなかったことだろう。
事実や真実がどうだったか、に大した意味はない。カーズが首輪を解析し、どう外そうとするかか問題であって、声の主の正体を、真意を突き止める意味などない。
(遺体が何者かだとか、何が目的なのかだとか、そんなことは首輪を外した後でじっくり考えればいいことだ。
死体は死体らしくしていればいい。余計なマネはしてくれるなよ)
迷いのないカーズ。迷うプロシュート。間に挟まれるトリッシュ。
彼らの行く末、バトル・ロワイアルの行く末は――日を跨いだ後、そう遠くない未来に決着がつくことであろう。
その結末を止めることは、運命を止めることは、何人たりともできないのだ。
【D-4 マンハッタントリニティ教会 / 一日目 真夜中】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(小~中に回復)、疲労(なし~小に回復)
[装備]:なし
[道具]:
基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子/噴上)、壊れた首輪×2(
J・ガイル/億泰)
ランダム支給品1~5(
アクセル・RO:1~2/カーズ+由花子+億泰:0~1)
工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典、遺体の左脚
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる
0.第四回放送後にトリッシュとプロシュートから遺体を取り出し、首輪解除の実験を行う。実験台として同伴者をつけるかは他参加者の動き次第。
1.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる
2.ワムウと合流
3.エイジャの赤石の行方について調べる
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする(首輪解除後に実行)
[備考]
※スタンド大辞典を読破しました。
参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのは承太郎、吉良、宮本、ナランチャです。
まだ琢馬の事は詳細を聞いていない&見ていないので把握していません。
DIOが13巻で使用した、ハーミットパープルに酷似したスタンドも、名称不明のスタンドとして載っています。
※死の結婚指輪がカーズ、
エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
(そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『
BLOOD PROUD』参照)
→首輪の稼働や爆破威力の調整は、『遺体』によって制御されている(シュトロハイムの死亡状況から推察)。
カーズの考察では『遺体』から一定の距離を置けば、制御範囲から逃れることが可能。
実験台として他参加者を地下に引きずり込み、首輪を外す気はあるが、外した後は知ったことではない。外せなくても知ったことではない。
※カーズの首輪に「何か」が起きています。カーズ本人も異変には気づいています。
→『遺体』を取り込むことで、首輪の物理的ロックが解除される。首輪を外すには『遺体』の全部位を取り込む必要がある。
カーズの考察ではこちらが正規の解除条件(主催者側も遺体を所持している、という推理)
【
トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:健康
[装備]:
吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する
0.カーズの提案に乗る……?
1.さっきの声……ルーシー?今聞こえないのはなぜ?
※プロシュートが暗殺チームの一員だと知って(覚えて)いるかは不明です。
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 28/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品(水×6)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク、打ち上げ花火
ゾンビ馬(消費:小)、
ブラフォードの首輪、ワムウの首輪、 不明支給品1~2、ワルサーP99(04/20、予備弾薬40)
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.おれは、どうするべきだ……?
1.大統領に悟られないようジョニィに接触する
2.育朗とワムウの遺志はおれたち二人で"繋ぐ"
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
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最終更新:2026年08月11日 10:58