インタビュー・ウィズ・プリズナー

(えーと…廃洋館。少なくともあそこは撮影出来た)

C-4地点、アリスの家の寝室内。
椅子に座ってカチャカチャと自身のカメラのボタンを弄りながら、新聞記者『姫海棠はたて』は思案する。
ベッドの上に寝かせている魔理沙と長身の女が目を覚ますまでにネタ集めも兼ねて何度か念写を試してみたのだ。
彼女は自分の念写について実験してみたいことがあったのだ。

『廃洋館』の撮影を確認出来た後、試しに『廃洋館付近の人物』をイメージして念写を行った。
それにより思わぬ人物を撮影することに成功した。博麗の巫女こと『博麗霊夢』だ。
大柄な体格の男と共に川辺を歩いている姿を念写で確認出来た。
霊夢とはあまり面識が無いので詳しい人物像は知らないし、あの番長みたいな男のことはそもそも知らない。
とはいえ、異変解決を生業とする巫女のことだ。十中八九殺し合いには乗らないだろう。

(あの主催者は能力に制限を掛けてる、って言ってたけど…理解してきたわ)

何度かネタ探しと実験を兼ねて念写を行い、彼女はあることに気付き始める。
「廃洋館」の付近を念写した際に他の施設の撮影も試していたのだ。
紅魔館、ジョースター邸の撮影には成功したが、ジョースター邸から見て北方に位置するGDS刑務所は幾ら念じても撮影することが出来なかった。
これを踏まえ、はたては地図の表記で現在位置から刑務所とほぼ同じくらいの距離と思われる命蓮寺をイメージして念写。結果は失敗。
続いて、かなり離れた位置に存在する永遠亭をイメージして念写。同じく結果は失敗。
それだけではない。念写を何度か行ってから、自分の身に軽く疲労感にも似たような感覚を覚えたのだ。
現在位置からより距離が離れている施設を念写した時ほど疲労感が大きいということにも気付いた。
「1エリア1km2」の地図と念写の結果を照らし合わせ、先程の疲労感も重ね合わせて彼女は推測する。

(この会場での念写の『有効射程』は、恐らく撮影者“わたし”の現在位置から1エリア分の距離。
 そして、念写の際には少なからず『霊力』を消費する…消費量は多分『撮影者と被写体の距離』に比例ね。
 被写体との距離が遠ければ遠い程、念写の際の霊力消費が大きくなる)



地図のエリア一つ分、即ち念写の射程距離はおよそ1km前後。
普段の念写の『有効範囲』はこんなものじゃない。自宅に籠ってても念写を使えば幻想郷のあちこちの風景を撮影出来たのだから。
それに念写の際の疲労感(どうにもスクープに対する昂揚感で忘れていたが)は、まるで弾幕で攻撃を行った時のような疲れだ。
彼女はそれが『霊力の消費によるもの』だということに気付いた。
それ故に、この「1エリア分の射程距離」と「念写の際の霊力消費」こそが自身に課せられた制限なのだと結論付けた。

カメラをまじまじと見つめながら思考を重ねていた最中。
ベッドで寝かしていた長身の女が小さく呻き声を上げた。

(あ、お目覚めかしら?こいつの『支給品』、勝手に引き抜いちゃったけど…まーいいよね)

呻き声に気付いたはたては、少し前に気絶している二人のデイパックの中身を確認した。
その際に「長身の女のデイパック」から引き抜いたランダムアイテムのことを思い出す。
(後で気付かれて変に恨みを持たれるのも嫌だったので、基本支給品には手出しをしなかったが)

少し前に『あのアイテム』の使い方も試してみたが、何となく理解することが出来た。
あれは中々いいものだ。取材においても活用出来るかもしれない。
内心で長身の女にほんの少し感謝をしつつ、はたてはほくそ笑んだ。


(そういえばさっきの念写に写った『学ラン男』とこの『長身の女』、ちょっとだけ似てない?)


ほんの少しだけ引っ掛かるものを覚えつつ。


◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆

目をゆっくりと開くと、木製の天井が目に入った。
その身体に感じる感触から、自分はベッドで寝かされているということも何となく理解する。
まるで記憶が抜け落ちたような感覚に陥っている。
自分は、眠っていたのか。…いや、『気絶』していたのか。
意識を取り戻していた彼女は、現状の把握を試みる。


まだ意識が朦朧としている。

その上、頭がズキズキと痛んで気持ち悪い。

不調のせいか、さっきまでの記憶も曖昧だ。

私の身に、何が起こったんだったっけ?

未だに記憶がはっきりとしないが…落ち着こう。

落ち着いて、さっきまでのことを思い出そう…

…そうだ。私は、さっき…えーと?

確か…竹箒を荷物から取り出して?

ちょっとムラッと来て、ご無沙汰してたから…つい『一人エッチ』に興じて?

それから?

それから――――、

―――――ッ!



「そうだッ!あいつは―――」


ようやく自分が気絶に至った経緯を思い出した思い出した。
あの時私は、魔女みたいなカッコの女の子に気絶させられたんだ!
それにあいつは確か「指先から弾丸を放つスタンド使い」!
確か私の方もあいつに攻撃を叩き込んだのだが―――
あいつは、結局あいつはどこに行ったんだ!?
彼女――――『空条徐倫』はバッと身体を起こし、周囲を見渡そうと顔を左側へと向けた。

すると。
自分の直ぐ隣で寝ている、あの魔女みたいな女の子の姿が視界に入った。
それも、同じベッドの上で。

「―――うおああぁぁぁぁっ!!?」

素っ頓狂な声と共に思わず身体が跳び上がる。
何で私は『コイツと一緒に』寝ているんだッ!?
あいつにスタンドのパンチをブチ込んでやったのは覚えてる!
だけど、だからって何で同じベッドで寝てる!?
一体私は…な、何をされたッ!?


「やっと起きたわね!」



唐突に側面から聞き覚えのない声が徐倫の耳に入ってくる。
その瞬間、徐倫は気を取り直したようにすぐさまそちらの方へと顔を向けた。
視線の先にいたのは、ベッドの傍らに置かれた椅子の上に足を組んで座っている少女だ。
ツインテールの髪にチェック柄のスカートといった格好が目立つ。

「……あんた、」
「誰だ?って言いたそうな顔してるから自己紹介させてもらうわ」

ぽかんとした徐倫の問いかけを遮る様に少女が口を挟んだ。
少女は右手に携帯電話を握りながら、ニヤッと笑みを浮かべて徐倫を見つめている。

「私は、新聞記者の姫海棠はたて!貴女の名前は?」
「…空条、徐倫」

呆気に取られつつも徐倫は自らの名前を一応名乗る。
はたては手元のカメラでその名前をメモする。

「徐倫ね、解ったわ。これから貴女に質問を―――」
「…むしろ質問したいのはこっちの方」

はっきりとした声で発せられた徐倫の一言によってはたての発言は遮られる。
問いかけようとした所で遮られたことを不服に感じたのか、はたてはむすっとした表情で軽く頬を膨らませている。
やれやれだわ、と小さくごちりながら徐倫は口を開く。


「私達をベッドまで運んだのはあんたなのよね?」
「…イグザクトリー、その通りよ」

「私にも、あのコにも、変な真似はしてないんだろうな?」
「…保障するわ」

「…もう一つ聞くわ。あんたの目的は何だ?わざわざこんなマネしてくれてるワケだし、殺し合いには乗ってないと思うけど」
「よくぞ聞いてくれました」


徐倫の質問に対し手短に答え続けるはたて。
相変わらずむすっとした表情を続けていたが、最後の問いかけを聞いた途端に再びにこりと笑みが戻る。
その質問を待っていましたと言わんばかりに。
彼女はびしっとカメラを構えながら、高らかにその目的を宣言した。


「―――取材よ!」


「取材ィ?…あんた、何言ってんの?」
徐倫はベッドから立ち上がり、はたてに問い詰める。
目を細めながら訝しむようにはたてを見る徐倫を前にし、はたてはすっと椅子から立ち上がる。
その瞳を輝かせながら、笑顔で受け答えする。

「何って、取材だってば!『ゲームの参加者への突撃インタビュー!』ってとこかしら?」
「はぁ…?」

参加者への突撃インタビュー。
目の前の新聞記者とやらから言われた意味の分からない目的を前に、徐倫は呆気に取られたような声を上げる。
その表情に浮かんでいるのははたてへのあからさまな疑心。

「さっ!この殺し合いへの―――」
「…悪いけど、あんたの冗談に付き合うつもりはないわ」

きっぱりと発せられた徐倫の発言が再びはたての言葉を遮る。
徐倫は鋭い視線をはたてに向けながら、言葉を紡ぎ出す。

「私はこの殺し合いを潰す為に戦う。それに、その過程で『やるべきこと』もある。
 だからあんたみたいなパパラッチのお相手をするつもりなんてない。
 悪いけど、質問したいんならそっちでぶっ倒れてる女のコにでも聞いてな」

そう言って徐倫ははたてを無視するように、近くのテーブルの上に置かれていた自身のデイパックを回収しようとする。
はたてを無視してこの場を去ろうとしたのだ。
しかしはたては、徐倫の発言を聞きすぐにニコッと笑顔を浮かべる。

「今私が質問しようとしたこと、「この殺し合いへの意気込みを語ってください」だったのよ?
 今の発言が返答だと受け取らせて頂くわ!」

嬉しそうに声を張り上げてそう言うはたてを徐倫は横目で流し見る。
徐倫の瞳に浮かぶのは当然の如く苛立ちの感情。
こいつ、私をおちょくってんのか…?脳内にそんな思考が過る。
軽く溜め息をつきながらはたてを無視し続け、その場を去ろうとした徐倫。

「ちょっと待った待った!まだ『インタビュー』は終わってないわよ?」

去ろうとする徐倫の目の前にはたてがスッと立ちはだかった。
徐倫には相変わらずニコニコしてるはたてが小賢しく感じてくる。
煩わしげな表情ではたてを睨むが、肝心のはたては構わず携帯電話のようなカメラを弄り始め。
その画面を徐倫に見せつけた。


「『花果子念報メールマガジン』、参加者達に配信した記念すべき第一号よ!」

「―――『ガンマン二人の決闘風景』!」

「この場で私が初めて『撮影』したゲームの現場よ?」


スッとカメラの画面を前に突き出して徐倫に見せつけたのは、メールマガジンの記事。

拳銃を構える二人の男の写真。

漆黒の殺意を秘めた瞳で互いに睨み合い、相対する二人の男の写真。


そして、決闘に敗れた男の『死体』の写真。



「…………。」
徐倫はその写真を目の当たりにし、眼を見開く。
はたての表情は相変わらず楽しげな笑顔のままだ。
だが、彼女が見せつけたのは『殺し合いの現場』の写真。
少女の明るい笑みには到底似合わないような、死の現場の写し絵。
頬に汗を流しながら、徐倫ははたてを見据える。

「…あんた…何やってるんだ?」
「何って、殺人現場の写真スクープだけど。感想聞いてみたくて、ちょっと見せてみたのよねー」

さも当たり前の様にそう答えるはたて。
徐倫が心中で抱いていたはたてへの疑心が、確信にも似た不信感へと変わっていく。
そんな徐倫の心情を知ってか知らずか、はたては口を開く。

「私はね、大スクープを取材したいのよ。『あいつ』にだって負けないような記事を書きたいの。
 解る?だからその為には些細なことでもでっかいことでも、兎に角ネタが必要なのよねー」

はたては不敵に笑みを浮かべながら饒舌に語る。
『この取材』が記者として当然の義務であるかの様に、彼女は悠然と語る。
―――そんな彼女を、徐倫はキッと目を細めながら睨んでいた。
理解が出来ない。とにかく、理解に苦しむ。
こいつは無茶苦茶だ。この馬鹿げた殺し合いを単なる大スクープとしか捉えてないのか?
しかもそれを記事にして参加者達に送信してる?こいつは『殺し合い』の『火種』を撒くことに何の躊躇も持ってないッ!
このはたてとか言う女は、明らかに『異常』だッ…!

「あんた…それ、本気で言ってんのか」
「そりゃあ当たり前でしょ。冗談で言うと思ってるの?」

ニヤ、とはたては笑みを浮かべながら言ってのける。
そして彼女は、相変わらず面白気な態度で再び口を開いた。


「やっぱりこーゆう過激な殺人事件は、記事のネタとしても面白そうじゃないかなーって?」


平然と言ってのけたはたての一言。
直後に徐倫の心中で、プツリと何かが切れる音が響いた。
徐倫の表情に――――確かな『怒り』が浮かび上がった。




「ふざけてんのかテメエェェェェェェェェェェェーーーーーーーーッ!!!!」


次の瞬間、徐倫の傍に瞬時にスタンド『ストーン・フリー』が出現。
徐倫の表情に浮かぶのは、食ったような態度で殺し合いを茶化す目の前の少女への憤慨!
そのまま間髪入れず、はたて目掛けてスタンドが強靭な剛拳を放つ―――!

「おっと」

しかし、迫り来る攻撃を前にはたては即座に対応する。
身体をくるりと翻すように、瞬時に拳を躱したのだ。
放たれた拳はそのまま空を切り、はたての服の一部分を掠めるだけに留まる。
そのままはたてはスタンドの身体を潜り抜ける様に、一瞬で徐倫に接近し―――

「ッ!?」

一瞬の足払いを徐倫の片足に叩き込み、彼女を転倒させた。
徐倫は知らない。彼女が人間ではなく、『鴉天狗』という妖怪であることを。
目の前に居る少女が、幻想郷において最強格の力を持つ強大な妖怪の一人であるということを!

「…やっぱりガサツなタイプかぁ。あんたがどうゆう奴か、もうちょっと探りを入れてみたかったから記事を見せてあげたけど。
 あ、勿論感想聞いてみたかったのも本当だけどね?」

「ぐ、っ…!」
転倒しながらもすぐさま起き上がろうとした徐倫の右腕を、はたては下駄を履いた右足で踏み付ける。

「で、ふざけてるのかって?あのさぁ、一つ言わせてもらうけど」

はたては徐倫を冷ややかに見下ろしながら再び口を開く。その表情からは余裕すら伺える。
それも当然だろう。仮にも彼女は幻想郷における最強格の妖怪である鴉天狗の少女。
制限下とは言え、単純な身体能力では人間を軽く上回る。
徐倫の操る『ストーン・フリー』のスピードはB評価。疾さの数値としては十二分に高い。
しかし、相手は『幻想郷最速』と称される鴉天狗。スピードという点において右に出る者は居ない。
流石の徐倫も鴉天狗の瞬発力には敵わなかったのだ。
(とはいえ、咄嗟に避けたのではたて自身ほんのちょっぴり焦ったのも事実だが)

そして、徐倫の顔を覗き込む様にはたては言い放った。


「こちとら大真面目よ」


携帯電話のようなカメラをスッと構え、仰向けになる徐倫の顔面に向ける。
徐倫は右腕を踏み付けられる苦痛に堪えながらもはたてを見上げる。
はたてが上、徐倫が下。状況は圧倒的に徐倫が不利―――



「…こーゆうの何て言うんだろうね、マジメにフマジメ?みたいな?まぁ何だっていいわ」

はたてはほんの少しだけ考え込んだような素振りを見せ、戯けた口調でそんなことをぼやく。

「もしかして、こんな私を『愚か』だとか考えてたりする?」

不敵に口の両端を吊り上げながら、はたては言葉を発し続ける。
徐倫の右腕を踏み躙りながら悠々と語り始めるその姿から感じられるのは余裕そのもの。

「自分を卑下するわけじゃーないけど、それで当たり前よ。
 ゴシップ好きで、妙に狡賢くて、ちょっぴり意地汚い。そんでもって図々しい。
 ヤな奴だって思うでしょ?でも、鴉天狗なんて―――新聞記者“わたしたち”なんてそんなもんよ」

自身の優位を確信したはたては饒舌に、どこか自慢げに語る。
その瞳に浮かぶのは僅かながらの優越感。人間を見下す鴉天狗の気質が剥き出しになっていた。
だけど、そんな人間でも記事にはなる。文々。新聞に勝つ為の『ネタ』にはなる。
この殺し合い自体がとんでもない大スクープなのだから。
そうゆう意味では、『ネタ』を提供してくれた空条徐倫に感謝していた。

歯軋りをしながらはたてを見上げる徐倫。
彼女は何も言わず、屈辱のままにはたてを睨んでいる。
はたては軽く鼻で笑う様に徐倫を見下ろす。
そして…無言を貫き通していた徐倫が、ゆっくりと口を開いた。


「……さっき、気付いたけど……」


「あんた……『腰』の所に………『いいモノ』隠し持ってるわね?」


先程のはたてと同じ様に、徐倫は『不敵に笑う』。
はたては眉を顰めて彼女を見下ろす。この後に及んで何を言っているんだろうか?
確かに腰にはデリンジャーを隠し持っている。だけど、今のこの女からは手が届くはずも無い。
あの『スタンド』で盗もうとしている可能性もあるが、こちらがすぐに回避に移ればいいだけの―――


「―――それ、『貸してもらうわよ』」


徐倫の一言。その時、ハッとしたような表情ではたては自身の腰を見る。
はたてが気付かぬ間に、徐倫の左足が『糸』のような状態へと変化していたのだッ!
『糸』と化した徐倫の左足はするりとはたての衣服の腰の部分に絡み付き、彼女が隠し持っていた『ダブルデリンジャー』を勢いよく引き抜く!
身体の糸化。予想だにしていなかった突然の出来事を前に、はたての行動は完全に遅れた。
そして、瞬時に糸が鞭の様にしなってデリンジャーを徐倫の方へと引き寄せられていく。



「ちょ、あんたッ、それ返しなさ――――」
ハッとしたような表情を浮かべ、はたては焦りながらデリンジャーを奪い返そうと左腕を伸ばした。

―――その直後。
倒れ込む徐倫の身体から抜け出る様に、ストーン・フリーの上半身が瞬時に姿を現したッ―――!!


「オラァァァァッ!!!」


腕を伸ばしたはたての腹部目掛け、ストーン・フリーは左拳のストレートを叩き込んだ!
デリンジャーを奪い返そうと動き出したはたては当然の如く避けられない。
徐倫の狙いはこれだ。デリンジャーを奪い取ろうとすることで、相手にスタンドの一撃をブチ込む為の隙を作りだす。
はたては糸と奪われたデリンジャーに意識の大半が向いてしまったことが裏目に出たのだ。

「ぐあ――――ッ!!?」

避ける間もない拳の一撃によって吹き飛ばされるはたて。
壁に叩き付けられ、かはっと苦痛の声を上げる。
吹き飛ばされながらもカメラを握り続けていたはたては、壁に凭れ掛かりながら何度も咳き込む。

「殴られてもカメラを手放さないなんてね…大した執念だわ。やれやれ、って感じね」

糸化した足を元の形状に戻し、片手でデリンジャーをキャッチしながら徐倫は即座にその場から立ち上がる。
このはたてとか言う女は『危険』だ。直接的な暴力による脅威じゃあない。
興味本位だけで情報を拡散し、殺し合いの加速を促すことに何の躊躇いも持たないという意味での『脅威』!
それ故にはたてが握り締めているカメラを奪い取ろうと、デリンジャーを構えて彼女を牽制しながらゆっくりと歩み寄ろうとした。


《ふざけてんのかテメエェェェェェェェェェェェーーーーーーーーッ!!!!》
「何ッ!?」

背後から突然聞こえてきた声に気付き、ハッとしたように徐倫は振り返る。
後方から長身の女が自身に向かって迫って来ているのだ。
徐倫はその女の姿を見て、目を見開き驚愕する!
何故なら、迫り来る女の姿は――――『自分自身』!『空条徐倫そのもの』なのだからッ!


突然の現象に驚愕した徐倫は『自分自身』に攻撃を仕掛けようとする。
しかし、その対処に気を取られてしまったことではたての接近を許してしまうことになる―――!

「ごふゥッ!?」

徐倫の脇腹にはたての華奢な足から繰り出される回し蹴りが直撃―――そのまま彼女を吹き飛ばす。
細身の外見とは裏腹に鋭い蹴りの一撃を叩き込まれ、徐倫は軽く吹き飛ぶ様に転倒する。

「ふふ、あんたのデイパックからくすねさせてもらったわ」

勝ち誇ったような表情を浮かべるはたての傍に『もう一人の空条徐倫』が立つ。
頭部からカシャン、カシャンと音を鳴らす『もう一人の徐倫』の額にはタイマーのようなものが付いている。
そして、はたてがパチンと指を鳴らした直後。


「スタンドDISCを…『ムーディー・ブルース』をね!」


『もう一人の徐倫』の姿が、青紫色の奇妙な人型の姿へと変化した。

徐倫は目を見開きながらはたての傍に立つ『スタンド』を目にしていた。
彼女は脇腹の苦痛を押さえながら立ち上がろうとするも、はたてはすぐ傍に位置する窓を開く。
そして、その背中から鴉のような漆黒の翼を露にする―――。

「まっ、ここまで『記事のネタ』を提供してくれたことには感謝するわ!スタンドDISCもね!
 そうゆうことだから、じゃあねーっ♪」
「っ、待てッ!!」

すぐさまスタンドを傍に出現させ、はたてを攻撃しようとした徐倫。
しかしはたては風のようなスピードで翼を羽ばたかせて窓から飛び出し、逃げ出してしまった。
徐倫は窓辺へと駆け寄って外を確認したが、はたての姿はもう何処にも見えない。



「…クソッ…!」

―――あの女を取り逃がしてしまった。
あれほどのスピードでは追いかける事も出来ないだろう。
悔しさに歯軋りをしつつ、徐倫は拳を握りしめていた…。


【C-4 魔法の森/黎明】

【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)】
[状態]:体力消耗(小)、霊力消費(小)、腹部打撲(中)
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:記事のネタを掴むべく奔走する。
  掴んだネタはメールマガジンとして『姫海棠はたてのカメラ』に登録されたアドレスに無差別に配信する。
2:使えそうな参加者は扇動。それで争いが起これば美味しいネタになる。
3:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
4:文の奴には死んでほしくない。でも、あいつは強いからきっと大丈夫。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程距離は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
 念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。
 また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※「ダブルデリンジャー@現実」は徐倫に奪われました。
※徐倫のランダムアイテム「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」を奪い取っています。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※彼女がどこへ向かうのかは後の書き手さんにお任せします。


◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆


「いつまで寝てんのよ」
「…ぐえっ」

はたての逃亡から少しだけ時間が経った後のこと。
徐倫はベッドの上で横になっている魔理沙の眉間に右手でデコピンを叩き込む。
蛙のような間抜けな声を上げながら、魔理沙は頭を抑えつつゆっくりと瞳を開いた。

「あんた、ずっとブッ倒れてたわね…」

やれやれだわ、と呟きつつ徐倫は身体を起こした魔理沙を見る。
魔理沙はここまでずっと気絶していたが、パワーAのスタンドの打撃に顎を殴打されたのは流石に脳味噌にでも響いたのか。
軽い頭痛を煩わし気に思うような声を上げつつ、魔理沙は瞼をぱちぱちと動かし意識をはっきりとさせる。
そして、魔理沙の視界の徐倫が入った。

魔理沙の脳内で気絶前の記憶が一気に蘇る。
その瞬間に彼女の顔がボッとトマトのように真っ赤に染まり、すぐさまベッドの上で後ずさった。

「――――って、お、お、お前っ!!?さっきはよくも私の箒を――――」
「あー、悪かった!ゴメン!さっきは本ッ当に私が悪かった!あれ、あんたのだったんでしょ?だから…その、ホラ」

慌てふためく魔理沙を前にし、両手を合わせながら申し訳なさそうに頭を下げる徐倫。
徐倫は少し困ったような表情を浮かべつつ、回収してきた竹箒を上目遣いで魔理沙にスッと差し出す。
対する魔理沙はいやらしいものを見るような目で竹箒を見ていた。

「…か、返そうか?」
「いらない…」

竹箒の破棄は数秒足らずで決定した。


◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆

再び数分後。
徐倫が何とか魔理沙を宥め、一応の情報交換を行うことになった。
自分の方針のこと。互いの知り合いのこと。知っている危険人物のこと。
お互い殺し合いに乗っていないことを確認し、ある程度の情報は大雑把に共有した。

「それにしても、徐倫は元からスタンドを持っていたなんてな。驚きだぜ」
「むしろ私からすればスタンドDISCがあちこちで支給されていたことの方が驚きよ、全く」

魔理沙が掌の上に出現させたスタンド「ハーヴェスト」を眺めながら徐倫がごちる。
思えば、「はたて」とか言う女に奪われた残りのランダムアイテムがスタンドDISCだった。
それだけではなく、情報交換の際に魔理沙もまた支給されたスタンドDISCによってスタンドを発現していたことも知った。
もしかしたら他の参加者にもスタンドDISCが支給されている可能性だってある。
DISCと言えば、脳裏に浮かぶのはあの『ホワイトスネイク』だ。
やはりプッチ神父がこの殺し合いに関わっているのか?それともプッチ神父が蒐集していたDISCが主催者に奪われている?
とはいえ、今は情報が少ない。それ故に考察は後回しにすることにした。

徐倫は魔理沙が使っていた『指先から弾丸を放つ能力』についても聞いてみたが、あれは『魔法』によるものらしい。
聞き慣れないファンタジーな単語を耳にしたことで徐倫は疑問に抱くも、幻想郷についての説明を聞いたことで一応納得することに決めた。

「にしても、妖怪と人間が共存する世界…ねぇ。いまいち実感が湧かないわ」
「だけど徐倫は現に私の魔法を見ただろ?それに、鴉天狗の『姫海棠はたて』とも会ってる」
「まぁ、それは確かにそうだけど」

無論、あの「姫海棠はたて」の事も魔理沙に伝えた。
魔理沙の話によれば、最近になって姿を見る様になった鴉天狗の新聞記者とのこと。
もっとも、魔理沙自身もさほど面識が無い様子ではあったが。
徐倫が相対したと言うはたての情報を聞き、魔理沙も彼女を警戒することにした。
(同時に「取材優先ねえ。あいつら鴉天狗なら有り得そうだぜ」ともごちっていた)


それから何度か会話を交わし、一通り情報交換を終えた二人はアリスの家から移動することにした。
一先ずの目標は信頼が出来る知り合いとの合流、危険人物の撃破だ。
互いに「主催者を撃破し、この殺し合いを打破」するべく二人は同行することになった。



二人の少女はアリスの家の玄関から外まで出て、横に並ぶように歩き始める。
その際に、徐倫は魔理沙から声をかけられた。

「それと徐倫」
「何?」

目を細めて横目で徐倫を見つつ、魔理沙は言いづらそうに口を紡ぐ。

「箒のことは絶対に許してやんないからな」
「…はい、了解よ」

徐倫は心中で思った。
やれやれって感じだわ、と。


【C-4 魔法の森(アリスの家付近)/黎明】

【空条徐倫@ジョジョ第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:体力消耗(小)、左頬・後頭部を打撲(痛みは治まってきている)
[装備]:ダブルデリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品(水を少量消費)
[思考・状況]
基本行動方針:プッチ神父とDIOを倒し、主催者も打倒する。
1:魔理沙と同行。微妙に気まずいけど、気にしない。
2:エルメェス、空条承太郎と合流する。
3:襲ってくる相手は迎え討つ。それ以外の相手への対応はその時次第。
4:ウェザー、FFと会いたい。だが、無事であるとは思っていない。
5:姫海棠はたてを警戒。
6:しかし、どうしてスタンドDISCが支給品になっているんだ…?
[備考]
※参戦時期はプッチ神父を追ってケープ・カナベラルに向かう車中で居眠りしている時です。
※残りのランダムアイテムは「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」でしたが、姫海棠はたてに盗まれています。
※「ダブルデリンジャー@現実」を姫海棠はたてから奪い取りました。
霧雨魔理沙と情報を交換し、彼女の知り合いや幻想郷について知りました。
 どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。

【霧雨魔理沙@東方 その他】
[状態]:顎・後頭部を打撲、軽い頭痛
[装備]:スタンドDISC「ハーヴェスト」@ジョジョ第4部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。会場から脱出し主催者をぶっ倒す。
1:徐倫と同行。だけど『ホウキ』のことは絶対許してやんないからな…
2:このスタンド、まだまだ色々な使い道が有りそうだ。
3:適当に会場を移動。まずは信頼出来る霊夢と合流したい。
4:出会った参加者には臨機応変に対処する。
5:出来ればミニ八卦炉が欲しい。
6:何故か解らないけど、太田順也に奇妙な懐かしさを感じる。
7:姫海棠はたて、エンリコ・プッチ、DIOを警戒。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※徐倫と情報交換をし、彼女の知り合いやスタンドの概念について知りました。
どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。

※結局魔理沙の箒ではないことに気付かぬまま「竹ボウキ@現実」をC-4 アリスの家に放置することにしました。


<スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部>
破壊力:C スピード:C 射程距離:A(再生中) 持続力:A 精密動作性:C 成長性:C
空条徐倫に支給。
人型のスタンド。人物の過去の動きを『再生』することが出来る。
再生中はスタンド自身が『再生』する対象の姿に変わり、過去の動きを再現する。
形や大きさは再現できるが、スタンドを含めた特殊な能力と弾幕までは再現できない。
再生中は一切の攻撃と防御が出来なくなるが、再生の一時停止や巻き戻し、解除は自由に行える。
詳しい制限は今のところ不明。

058:Stand up~『立ち上がる者』~ 投下順 060:Rainy day,Dream away
055:世界を惑わす愚かなる髪型よ 時系列順 061:Lost://www~ロスト・ワールド・ワイド・ウェブ~ 前
039:最低のファースト・コンタクト 姫海棠はたて 078:禁写「過去を写す携帯」
039:最低のファースト・コンタクト 霧雨魔理沙 080:嵐の中で輝いて
039:最低のファースト・コンタクト 空条徐倫 080:嵐の中で輝いて

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最終更新:2014年11月05日 11:48