何処とも分からぬ場所で、モニターが光を放っている。
その画面に映ているのは、一枚の地図だ。
中央に森があり、北東に山、南に竹林―――そう、この殺し合いの会場の地図なのだ。
その地図上にはいくつもの点が表示され、点の近くには名前が書かれている。
この殺し合いの参加者達を示しているのだろう。
今もなお命を賭けたゲームを行っている者たちも、図面の上では小さくなると考えると、滑稽ともつかぬ気持ちになる。
そのモニターをじっと見つめる二人がいる。
ひとりは太田順也と言い、メガネをかけた細面の男だ。その手にはお猪口が握られている。
もう一人は荒木飛呂彦。本当の年齢が読み取れないその顔を、退屈そうに歪めていた。
「うーん。やっぱりなぁ、こうやって場所しか分からないって言うのは面白みが薄くなってくるなぁ。
盗聴器なりなんなり仕掛けるべきだったかな」
「ンフフ、まあそう言わないで下さいよ荒木先生。分からないからこそ想像する楽しみもありますよ」
荒木は腕を組みながらつまらなそうに呟き、太田はそれにお猪口を呷りながら答えた。
実は彼らの言うとおり、二人には参加者が今どこにいるかは分かっても、
参加者が今何をしており、どのような事を考え話しているか分からない。
その事に太田はそこまで頓着していないが、荒木は既に少し不満を感じ始めていた。
「それに、今からどうやって設置します? そんなことしたら、彼らに我々のいる場所がばれますよ」
「別に僕はそれでもいいと思うけどね。そうなった方が楽しそうだ」
「冗談に聞こえませんよ」
「冗談で言ってないからなぁ」
そう言うと、荒木は溜息を一つつき、隣の太田はお猪口に酒を注いでいた。
と、そんな時である。荒木が何かに気が付いたのは。
「アレ、メールだ」
彼らの近くにあったパソコン、その画面にメール受信の通知が表示されていた。
荒木はデスクトップにあるアイコンをダブルクリックし、メールを起動する。
「……なあ、太田くん」
「何ですか、荒木先生」
「面白い事思いついた」
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D-3、魔法の森。丁度、廃洋館から見て南に位置する場所。
その木の枝に、しゃがむ者が一人いる。
ツインテールが印象的な少女、
姫海棠はたては、高下駄だというのに器用に枝の上にいる。
彼女が烏天狗だからこそ成し得る技である。
(さっき念写した巫女と男は、もういないみたいね)
森の中から川岸を見渡す。そろそろ日で照らされるだろうその川岸には、人っ子ひとりいない。
あの
博麗霊夢も
空条承太郎も既にどこかに移動したようだ。
(まあ、いないならいないで都合がいいか。なんてったって巫女は”勘がいい”からねぇ)
はたての目的。それは最高の新聞記事を執筆する事。
そのために殺し合いの現場を押さえねばならないし、場合によっては「作る」必要もある。
その行いは、この”殺し合い異変”への加担と見られる可能性もある。
その状態で異変解決の専門家である巫女に出会うのは避けたかったのだ。
「しかし、こっちまで逃げてきたのはいいけれど、これから何処へ行こうかな。
あの二人がいるから南方面には行きたくないし」
徐倫と魔理沙から逃げてきた手前、あの二人にすぐ出会うわけにはいかなかった。
とはいえ、彼女も”何処で殺し合いが発生するか”など察する方法もない。
行先を決めあぐねいていた時だった。
ピロロロロッ! ピロロロロッ!
「えっ何!?」
突然の音に彼女は驚いた。電子音は彼女の持つ携帯電話が発している。
画面を見てみると、電話の呼び出しを知らせる通知は表示されていた。
電話番号と対応した機器は書かれているが、それらを誰が持っているかまでは分からない。
無論、はたてに電話したがっているこの人物が誰か、彼女にも分からない。
恐る恐る、はたては相手に会話を試みる。
「も、もしもし」
けれど、電話の向こう側から聞こえてきたのは、ある意味で”既知の相手だった”。
「やあ、ゲーム開始以来だね。君は確か、姫海棠はたて……で合ってたかな?」
「その声、荒木ッ!?」
なんと、その電話をかけてきたのは、他ならぬゲームを仕掛けてきた張本人、荒木飛呂彦だったのだ。
「いやさ、今しがた君の書いたメールマガジンを拝見してね」
「ッ!?」
何という事か。はたての携帯に登録されていたアドレスの中には、あろうことか主催者たちのものまであったのだ。
「まさか、私に警告するためにかけたの?」
もしかしたら主催者たちは、自分が行った行動が問題だと電話してきたのか、そうはたては思った。
最悪、あの豊穣の神のように殺されるかもしれない――そう彼女が思い始めていたのだが、
「いやいや、別に僕は君の行動を制限も禁止もしない。むしろ援助しようかと思ってね」
それ故に、荒木のその言葉があまりに衝撃的だった。
「えっ、援助……ですって?」
「そうそう。いやさぁ、君の書いた記事読ませてもらったけど、なかなかいいと思ったんだよ。
ガンマン二人の決闘、そしてその結末。こういう風なのをもっと書いてほしくってさ」
「それって、貴方たちにどんなメリットがあるの?」
「単刀直入に言うと、僕はただ楽しみたい。それには君の記事がベストなんだよ。
それに、君が知りたい情報を僕らは持っている。話に乗らない手はないと思うけどな」
「……」
確かに、彼らと組めば彼女の知りたい事件の現場が分かる。
更なる記事執筆を望む彼女にとっては魅力的だった。
「けどさ……」
そう思いながらも、はたては言葉を続けた。
「仮に情報をもらえても、それって後出しでしょ?
それじゃいくらもらっても、念写して記事になんてできないわよ」
はたては慎重に事を運ぼうとした。
先ほどの荒木の言葉には面を喰らったが、その声には偽りは感じられない。
それでも罠を仕掛ける可能性が拭いきれるわけではない。
第一、先ほどガンマンの決闘を念写出来たのはそのタイミングだったからであって
情報を貰おうが決定的瞬間が過去では意味がない。
だが、そんなはたての言葉で、荒木は止まらなかった。
「確かになぁ。だけど、それを解決する方法がある。
この電話を切ったあと情報をあげるから、その時に携帯の中身をもう少し探してみなよ。
君のその懸念を解消できる物が入っているはずだぜ?
放送直前になる毎にリストを送るよ」
それじゃぁ健闘を祈るという言葉と共に、荒木ははたてに構わず一方的に電話を切った。
その後すぐ、今度は携帯がメールを受信した事を知らせてきた。
メールを確認してみれば、先ほどの荒木の番号でメールが入っている。
そして本文を見てみると、確かに荒木の言うとおり、時間と場所、そして参加者の名前が書かれていた。
あの言葉の通りならば、これはそれぞれ死亡時間、死亡場所、そしてその場にいた者の名前と見ていいだろう。
更に、参加者の一部は赤字で書かれている。特に注釈は書かれてはいないが、死亡者と見て間違いない。
「……本当に送ってきたわね」
はたては一旦メールを閉じるとボタンを操作し始めた。
(荒木は本当に情報を渡してきた。つまりこの携帯には念写を補助する未知の機能があるはず)
携帯アプリをくまなく探す。カメラ、メール、アドレス帳の他にもなにやらアイコンはあるが、おそらくはこれらじゃない。
そしてメニューをボタン操作で動かしていき、最後のページで何かを見つけた。
何かの顔のようだが、目のある場所には数本のパイプが生えている、そうとしか形容できないアイコン。
そしてそのアイコン名は、
「”アンダー・ワールド”……」
はたてはアイコンを選択する。半分は自分の意思で、もう半分は誘蛾灯に引き寄せられた虫のように。
すると、画面上に文章が表示された。
――――――――――――――――――――――――――――――
このアプリは念写補助用アプリです。
起動後、念写に過去念写機能を追加します。
○過去念写機能について
この機能は過去の現象を念写する機能です。
現在から4時間前までの現象を念写する事ができます。
ただし、以下の事項に注意してください。
●この機能使用時の念写射程は通常時と同様です。
●この機能仕様時は、霊力消費量が一時間分毎に2倍になります。
●時間換算は切り上げとなります。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……へぇ」
はたては文章を見ながら、一人ニタリと笑う。
ここに書かれている通りなら、4時間前の事を念写すれば、霊力を同条件の通常の念写の16倍消費することになる。
それでも、取り逃がしたくない決定的瞬間を撮れる、それは彼女にとってあまりにも魅力的だった。
こうなれば彼女の予定は一つ、「取材、記事執筆の続行」以外にない。
「あの二人が本当は何を企んでいるのか分からない。
けど、このチャンスを逃す手はないわよね」
そう言うと、彼女は枝から降りて歩み始めた。
後退はアリス邸にいる二人のせいで出来ない。ならば前進するのみだ。
そう、前方にはあの場所がある。
「さっきのリスト、あの中に猫の隠れ里の情報があったわよね。
死亡者は
星熊勇儀と
魂魄妖夢。その場にいたのは
八雲紫。
取材するまで詳細は分からないけど、これは大スクープのニオイがプンプンするわねぇ」
魂魄妖夢――あの
西行寺幽々子に使える半霊の庭師。
そして八雲紫は妖怪の賢者にして西行寺幽々子の親友。
この二人が接触していた場所で何が起きたのか。はたては興味が湧いていた。
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【D-3 魔法の森/早朝】
【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)】
[状態]:体力消耗(小)、霊力消費(小)、腹部打撲(中)
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:まずは猫の隠れ里近くまで接近する。そして現場の念写を行う。
2:記事のネタを掴むべく奔走する。
掴んだネタはメールマガジンとして『姫海棠はたてのカメラ』に登録されたアドレスに無差別に配信する。
3:荒木の提案に乗る。リストは最大限活用させてもらう。
4:使えそうな参加者は扇動。それで争いが起これば美味しいネタになる。
5:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
6:文の奴には死んでほしくない。でも、あいつは強いからきっと大丈夫。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。
また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※「ダブルデリンジャー@現実」は徐倫に奪われました。
※徐倫のランダムアイテム「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」を奪い取っています。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※猫の隠れ里近くまで接近する予定です。どの程度接近するかは書き手さんにお任せします。
※リストには第一次放送までの死亡者、近くにいた参加者、場所と時間が一通り書かれています。
次回のリスト受信は第二次放送直前です。
※アプリ”アンダー・ワールド”について
このアプリを起動時は通常の念写に加え、4時間前までならば任意の過去の時間を念写することができます。
アプリ起動時も念写射程は通常時と変わりませんが、霊力は時間を遡る毎に増加します。
1時間分で2倍増加し、4時間で最大16倍の消費量になります。
時間は切り上げとなっており、例えば1分前でも一時間分と換算されます。
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「さてと、これで少しは楽しくなりそうだな。 頑張ってくれよ、姫海棠はたて」
最終更新:2015年02月20日 17:06