日に四回行われる、参加者らにとって強力な方針材料と成り得る『放送』は、言うまでもなく重大な情報ソースだ。
全90人──現時点では実に50余りの人数だが、各々の放送によるリアクションなど百人百様、千差万別である。
人間──それは『波紋戦士』であったり、『巫女』であったり、『学生』であったり、『ギャング』であったり、『殺人鬼』であったり。
人外──それは『吸血鬼』であったり、『天狗』であったり、『魔女』であったり、『蓬莱人』であったり、『仙人』であったり。
また或いは『神』であったり、『闇の一族』であったりと、人妖入り乱れる異種格闘技会場にて様々な参加者が各々の反応を示す。
家族を喪い、『悲哀』に暮れる者。
因縁の存命を、『忌わしげ』に思う者。
仲間と支え合い、新たに『志』を立てる者。
中には放送どころではない渦中に溺れる者もいるだろうが、藁をも掴む気持ちで有利に立とうとする精神が無ければ溺没するのが常だ。
『絶望』か『希望』──恐らく多くの参加者にとっては絶望に類する情報が多数を占める放送だが。
しかし、全参加者の中でも断トツ、特一等級の『困惑』をもたらされた者は……この男だろうか。
「………………どういう、意味だ?」
大ギャング組織『パッショーネ』トップに君臨する人間『ディアボロ』。
彼は──その容姿から『彼』と称するべきかは曖昧な線だが──大きく困惑していた。
地獄の拷問部屋で鞭打たれる痛覚に耐えること数時間。ようやく振りに解放され、この世で唯一の『肉親』を殺し、その器を乗っ取った。
信頼を置いていた『繋がり』を一旦は切り離し、地下に潜り休息場を探し続け、たかが数分が経った頃だった。
───『やあ、久し振りだね……参加者の諸君。第一回目の放送時と変わらず、荒木飛呂彦だ』
定時放送の襲来。頭痛に苛まれていてウッカリしていたが、そういえば私は
第一回放送の内容すらも知らなかった。
薄暗いトンネルの壁に寄り添い、すかさず荷を物色。これはトリッシュのデイパックであるが、どうやら
参加者名簿含む基本的な支給品は一通り揃っているようだ。
一度目の放送時に死んだ者、禁止エリア、全てが見落とし無くメモされている。ブチャラティチームの下っ端のカス、満月下の日本屋敷で殺してやった金髪の小娘も落ちている。
まずまずの中途結果に満足する間もなく、
第二回放送で死んだ参加者の名前が読み上げられてきた。
『
ブローノ・ブチャラティ』
これは朗報だ。この先、確実に我が障害となるだろう男の死。思わず握り拳を作ったほどだ。
『
トリッシュ・ウナ』
呼ばれて当然。自ら殺した女であり、その肉体は今、我が器となって歩き回っているのだから。
『ディアボロ』
そう。そして最後に私の名前が呼ばれ、この悪趣味な点鬼簿はピリオドを…………………………
「……………………ディア、ぼろ?」
つい流れで、自分の名の横に『×』の印を付けかけ……半端な形で押し留めた。
死者の読み上げはそこでひとまず終えられ、荒木の放送は禁止エリアの発表に差し掛かる。
そんなことは今の私の頭に入ってこない。一つだけ、明らかに意味不明な情報が特大の爆弾を引っ提げて投下されたのだから。
聞き間違いだと思いたい。その男が放送で名を呼ばれるなど、本来は“あってはならない”ことだ。
「お、おい荒木とやら!! 今……いま、誰の名を言ったんだッ!? ディアボロだとッ!」
ジメジメした湿気臭い地下トンネルに、変声期も経てない年頃の少女の猛る大声が張り叫ばれた。
本来は音楽のようにすべすべした調子の綺麗な声も、その凄みでは台無しだ。もっとも、“本当の本来”であった筈のディアボロの圧の掛かった声も、その甲高い声帯では更に台無しであった。
自らの喉奥から発せられる、自らでない声帯の差異に違和感を抱いている場合ではない。
彼はいつもの調子も忘れ、届くわけのない叫びを何処に居るやも分からぬ主催向かって高らかに叫んだ。
この瞬間ばかりは、どの参加者よりも困惑をもたらされた彼からすれば仕方のない事態であったと言える。
当たり前だ。たった今呼ばれた『死者』の名、ディアボロとは他ならぬ彼自身だ。
「このオレをおちょくっているのか……? しかし、そうでないとすれば…………」
考えられる可能性に及ばないわけではない。
自身の名が呼ばれるという、普通ではありえない現象。その原因たる出来事に半ば“心当たり”が無いでもなかった。
ワケのわからない冷や汗は無視し、落としていた腰をゆっくりと浮かせ、華奢となってしまった『己』の身体をもう一度、眺める。
間違いなく我が娘だ。『乗っ取り』は滞りなく、完全に成功している。
立ち上がってみれば、いつもの己の肉体と比べて随分目線が下にあると実感できる。身長差を考えれば当然だが、まだ慣れない。
女の身体を扱うことに未だ不便を感じるが、身体能力の男女差についてはじき慣れるだろう。スタンドがその溝を埋めてくれる筈だ。
さて視線を下に下げると、否応に視界へと侵入してくるは、まずは張りがある双つの……年齢にしては豊満と言って差し支えない丘陵だ。
自然に手がその双丘に誘われ、少し上品なスプーン菓子……例えばパンナコッタのような手触りの良さを指先で感じ掬う。
といっても別段やましい気持ちゆえの行為ではなく──誓って、反射現象だ。性などが反転すれば、男女関係なくこのような行動に出ることと思う。ましてや正真正銘の娘なのだ。
はて、誰に言い訳しているのか。どこか慌てながら私は、グレープフルーツのような大きさと形を模した二つの果実から手を離す。
間違っても我が子の成長結果を評価しているワケではないと前置きするが、プロポーションに申し分ある所はない。不満があるなら、この寄せて上げるタイプの下着──つまりブラジャーだが、これが結構カユイ。
無論、邪魔だからといって取り外すなどということは御法度だろう。あまり考えたくはないが、これから一生を女の身体で生きるのだ。
これも今の内に精々慣れておく必要がある。……自分で言っててなんとも言えない気持ちになるが。
次に手を見る。綺麗なものだった。爪はよく磨かれ手入れされているし、何処のメーカーかは知らんがマニキュアも塗られているようだ。
この殺し合いによる激しい戦闘での“爪”痕か。荒々しく剥げかけてはいるも、赤くマニキュアされた爪先はこの暗がりの地下でも仄かに艶を放って見える。
誰か気になる男がいてもおかしくない年頃だ…………と、『普通』の父親なら娘に対し、そんな感情も持つかもしれない。
生憎と、私はトリッシュに対し、一片もそんな人間的な感情など浮き出てこない。
娘ではある、が……こんな小娘、私にとっては本当に邪魔でしかなかった。愛する肉親だなどと思えた試しもないし、そもそもトリッシュの存在を知ったのはつい最近だ。
そこに愛情なんか、存在しない。
「…………確かに。何度見回しても、どれだけ睨みつけても、オレの肉体は今───トリッシュだ」
改めて観察を終えた所で、ディアボロは己が置かれた状況を噛み締める。
───放送で『ディアボロ』の名が呼ばれたという事実を、果たしてどう受け取るべきか?
『ディアボロ』は、生きている。死したトリッシュの器の内奥に潜む我が精神こそが『ディアボロ』であり、生の証明など今更必要ではない。
しかし……この肉体はあくまで『トリッシュ』であり、『ディアボロ』の肉体自体は『ドッピオ』へと変換され、地上に置いて来た。
肉体的には確かに『死亡』した……と言い換えられるかもしれない。タイミングを考えれば、放送で呼ばれた理由はそれしか在り得ない。
「じゃあ奴らは……オレのことを今現在、死んでいるものだと考えているのか?」
だとすれば随分とお粗末な監視体制だと言わざるを得ない。一体何をもって参加者全員の生死を判断しているのかは定かではないが、大方頭の中の爆弾とやらに秘密があるのだろう。
「…………いや、待て!? まて、待てよ……? 爆弾…………爆弾だと!」
唐突に、荷物の中を再び物色し始める。確か、参加時点で基本的なルールメモのような用紙が配られていた筈だが……
「………………あった。これだ……!」
『・脳の爆発以外の要因で死亡した場合、以降爆発することはない。誘爆もなし』
とっくに忘れかけていた事項だ。この項目の意味するところはつまり、どういうことか。
「主催共の放送が嘘のない『真実』としたなら……オレは今、奴らからは『死んでいる』と思われている、筈だ」
実際ディアボロ本人がこうして生きて狼狽している以上、あの放送は真実ではないと言える。
だがこの場でそのような揚げ足取りはどうでもよい。その『真実』を知る者は本人と、トリッシュ殺害の現場に居合わせたあのカス共だけだ。
主催は今、ディアボロが生き延びている事を『知らない』。たかが12時間ぽっちも生きられなかった雑魚だと思い込んでいる。
そしてメモがぬかすこの項目を信じるのなら。
「───オレの頭にあるとかいう『爆弾』は……今、どうなっているのだ……?」
死者の爆弾は以降、爆発することはない。
以降 爆発することはない。
ばくはつ することはない。
───爆弾解除、成功───
「──────ッ!! ば、バカな…………ッ!!」
思わず壁まで後ずさり、後頭部を打ち付ける。
脳裏を過ぎった、あまりにも不確かで、馬鹿げた最終判決。
こんなフザけた事態、信じる方がどうかしている。主催におちょくられていると考える方が断然に現実味がある。
トリッシュの肉体に潜り込んだ行為は謂わば仕方無しに、やむを得ない結果として行ったギャンブルであり。
そしてたまたま成功した、というだけの、完全に『運が良かった』としか言えないような大博打に勝った話である。
ウサギ女の攻撃が強烈過ぎました。
仕方ないのでイチかバチか、娘を殺して精神だけ憑依しました。
大成功のうえ、何故か爆弾解除のオマケまで付いてきました
、と。
なんだ、この茶番は。
「待て……! 落ち着くのだ、ディアボロよ……っ これは全く何の確証もない、ただの都合の良い妄想に過ぎん……!」
あまりに突飛過ぎた発想に、心まで浮き足立っている。これではマトモな思考も出来やしない。
確かに……そう、確かにトリッシュの肉体は死亡した。己自身の凶手が貫いたのだから確実だ。
もし参加者に付随しているとかいう爆弾(スタンド能力かそれ以外の術によるものかは知らない)が、物理的なイメージで脳に取り付いているとしたら。
私の肉体から精神だけを飛ばして憑依した『今』の肉体に、爆弾は一緒に付いてきているわけではない、と考えられる。
無論、このトリッシュの肉体にもそれとは別の爆弾が備え付けられているだろうから、それでは解除できたことにはならない。
しかし、このメモによると───
『脳の爆発以外の要因で死亡した場合、以降爆発することはない』
このトリッシュの肉体はとうに死亡しており、それを私の支配が上塗り・操作しているに過ぎない。
しかし、もしこのトリッシュの爆弾が、メモの内容そのままに、一旦は解除されている、のだとすると。
「…………もう、このまま二度と爆発することがない、のではないのか?」
やめろ。妄想だ。
そんなことは全て憶測。素人の拙い推理だ。
『もしも』? 『だったら』? 『かもしれない』?
何ひとつとして、そんな根拠はないッ!
放送内容に嘘や勘違いが混ざっていないと、どうして言い切れるのだ!?
このメモの全てが真実を綴ったものだと、それを証明できる裏付けは!?
仮に爆弾が解除されていたとしても、どうやってその事実を立証する!?
禁止エリアに入り込んで待ってろとでも!?
失敗したら……それこそ確実に死ぬのだッ!
「──────禁止、エリア?」
我ながら迂闊だった。その禁止エリアの発表も同時に告知されていることに意識が傾かなかったのだから。
自身の名が呼ばれるなどというアクシデントのおかげで、その後の放送内容は大して頭に入り込んでこなかったが……
「…………確か、次の禁止エリアは」
『次の追加禁止エリアは“C-2”だ。そこにいる奴らは10分以内に他のエリアに移動しないと……もう言わなくてもいいか』
……『C-2』!
記憶の隅から隅を舐るようにして掻き集めれば、確かに次なる禁止エリアの場所はこのC-2だっ…………
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨…
「──────“このC-2”だとォーーーッ!!?」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨…
主催の用意したこの『地下道』とは。
所々に枝分かれするルートが混ざってはいるが、基本的には一本道の薄暗いトンネルである。
対向自動車二台がギリギリすれ違える幅であろうか。天井まではやや高めだが、あまり広い空間とはいえない。
そしてどこまで行っても変わり映えなく、無機質的なコンクリート壁が地平の彼方まで続いているような長ったらしい密閉施設である。
天井の両隅数メートル置きに申し訳程度の蛍光灯が設置されているので、薄暗くはあるが暗黒の世界というほどでもない。
しかしこの息苦しい地下フィールド、困ったことに目印らしい目印は皆無だ。
地図にも記載されていないゆえ、つまり自分が今どの場所に居るか。その把握が非常に困難となる欠陥住宅なのであった。
だがあの主催者も意外といえば意外で、そこの気遣いは予め念頭にあったらしく。
ウッカリ足を踏み入れたこの場所が禁止エリアの区切りでした、などという『馬鹿らしい事故』は極力起こらないように配備があったらしい。
エリアの区切り区切りに、表示がキチンと備えられているのだ、この地下施設には。
来る者達の興味から隠れるように、区切りの始終点となる壁面にコッソリとだが『C-2』と、実に質素簡素な存在感で貼られている。
そして確かに、ついさっきディアボロが通過してきたエリアの区切りには、件の表示が貼られているのをしっかりとその目で見た。
C-2、と。
「し、しまった……! もう随分このエリア内を歩いてきてしまったが……間に合うか!?」
1エリアの四方は1km×1kmと、地図には記載がある。
最悪、この場所がエリアの中心近くだとして、エリア外へ抜け出るには500メートル。
迷いなく脱出すれば10分は掛からない。たった今まで、爆弾のことについて悩みに悩んでいた時間の浪費を考慮してもだ。
すぐさま荷を持ち、今まで歩いてきた道を全速力で引き返す。
ピタリ、と。
帝王の足が止まった。
「………………これは、偶然か。それとも…………」
───運命なのか。
殻を脱ぎ捨て、新たな己として新生の進軍を開始したつもりであった。
その直後、忌わしき放送で『ディアボロ』の死を聴かされ。
爆弾の解除の『可能性』に気付き。
そして今居るこの場所が、偶然にも禁止エリアに指定された。
偶然、だというのか。
馬鹿らしい、と一言に一蹴し。
ディアボロは女の身体で駆ける。迷っている時間など、あるわけがない。
ズキリ、ズキリ、
脳髄と、腹部の両方が痛覚を訴えてくる。
この腹の傷は、今でこそ癒えている様に見えるが……自らトリッシュの肉体に与えた傷だ。
ジョルノ・ジョバァーナが癒してくれる筈だと、そんな賭けを行って、勝利した証の傷だ。
本来はこのトリッシュの肉体に潜り込むこと自体、相当不安の大きい賭けでもあったのだ。
賭け。賭け。賭け。
賭けて、駆けて、欠けた我が半身も、心に懸けるは我が幸福。
半身であるドッピオが居なければ、今の私はない。
私を上に押し上げてくれたのは、敵であるジョルノとトリッシュ。
そして何よりも、我が繋がりであったドッピオなのだ。
以前の私であれば考えられない、ギャンブルの連続。
この勇気は、ドッピオより受け継いだ勇気。
その身、独つで殺し合いを勝ち抜いてきたであろう、ヴィネガー・ドッピオより渡されたバトン。
奴は私に無いモノを持っていた。
心のどこかで、それを羨ましいと考えていた。
奴も私の、そんな嫉妬のような弱心に気付いていたに違いない。
私と奴は、表裏一体の心なのだから。
だから、なのか?
だからドッピオは、臆病であった“かつての”私へ、勇気を……?
私がわざわざ奴と離れた理由とは。
奴を置き、こうして独りで闘うことを決意した理由とは。
脳へのダメージもあるが……本当のところは、
「───『繋がり』を自ら捨てる…………勇気」
それを───ドッピオに魅せ付ける為。
「では、今こうして……ブザマに禁止エリアから脱しようとする私の姿を…………」
───誰に魅せ付ける?
───ドッピオが、こんな私を認められるか?
「──────『エピタフ(墓碑銘)』は…………置いて来た」
数秒先の『未来』を視る能力、エピタフ。
我がキング・クリムゾンの真髄……その『半身』とも言える、帝王の能力。
その究極の力は…………今の私の内には───無い。
未来が視えるからこそ、人は『覚悟』を完了できる。
しかし私のキング・クリムゾンは、不都合な未来は全て『消す』ことが可能だ。
危うい未来は消し飛ばし、常に人生の落とし穴を飛び越えて絶頂でいられた。
『キング・クリムゾン』と『エピタフ』は、帝王の『矛』と『盾』だ。
この二つが揃っているからこそ、帝王という椅子に永遠と座していられる。
しかし、いつまでも私の網膜に焼き込まれ、消えない『体験』があった。
───『すぐにそこを移動しろ!! 画面を見ておきながら“ドッピオ”!! なぜすぐに移動しないッ!』
故郷サルディニアの海岸にて戦った暗殺チームリーダー“リゾット・ネエロ”。
奴は強力なスタンド使いだった。磁力を操り、鉄分を固めて攻撃してくる恐ろしきスタンド使い。
足を奪われ体力を奪われ、絶体絶命の崖際に追い込まれた私たちは、果たして奴相手に“どう勝利した”?
───『しかしボス…お言葉ですが… だから動かない方がいいんですよ…………体力を消耗している…………
だから動かない方がわかりやすい! ヤツの能力は!!』
愛しき半身ドッピオの『勇気』が!
未知なる敵の攻撃に臆した私の命令に反してでも、奴は!
───『そこだリゾットオオオオオオオオオオオ』
立ち向かったッ!
それを『勇気』と言わずして、なんと称する!?
「正直に言うと私は“その時” …………自分が情けなく思った」
隠れて、逃げて、何処とも分からぬ高みから指令を下す組織の王。
不都合な未来を全て消し、あたかも独裁者であるかのように振る舞う。
それは思えば、組織崩壊の序曲。いつかは崩れて当然の楼閣、なのではなかっただろうか。
事実、多くの裏切り者を生んでしまった。
ブチャラティ。ジョルノ。リゾット。もっと目を光らせれば、膿など幾らでも出てくるだろう。
私とドッピオは、表裏一体だ。
私が『陰』ならば、ドッピオは『光』。
過去に思いを馳せれば、いつだってドッピオは、大事な所では私の命にすら背き、立ち向かって行った。
陰からそれを眺めながら私は───彼を眩しく、思っていたのだと。
表裏一体。
ディアボロとドッピオは、一枚のコインの裏と表のようなもの。
表の人格も、裏の人格も、それら両面合わせてコインは回る。
スタンドは一人につき一能力、という大原則がある。
キング・クリムゾンもエピタフも、元々はまったく別の能力。
ディアボロの〝キング・クリムゾン〟
ドッピオの〝エピタフ〟
時を消し飛ばすという無類の時空間能力。ディアボロの人格はいつしかそれを体現させた。
未来を視通すという特異な未来予知能力。ドッピオの人格は未来(ひかり)を向いてきた。
いつからだったろう。
それら二つの異能力を、我が物顔で振り散らす暴君が生まれたのは。
いつからだったろう。
『光』を押し込め、時空間の理に未来視の能力を組み込ませたのは。
いつからだったろう。
回るコインの『裏』に隠れ、勇気を忘却の彼方へ消し飛ばしたのは。
コインの『表』と『裏』を決めるのは、誰だ?
誰がそのコインを回す?
私は今更になって、気付いた。
私たちのコインに、表も裏もない。
回して現れた面が、表という結果を得るだけ。
表から隠れた面が、裏という結果を得るだけ。
そこに基準……境界線などは、端から存在しなかったのだ。
次にコインを回す時は、逆転するかもしれない。
だがこの先、コインが回ることは───もうないだろう。
私は既に、自らの意志でドッピオを断ち切ったのだ。
裏が無ければ表も無い。コインは、コインでなくなってしまった。
そして“本来は”ドッピオが持ち主であっただろう『エピタフ』も、返還してきた。
あの能力は未来を見据えて立ち向かえる彼奴にこそ、真に相応しい物だと私は考える。
このことで、戦力は半減したと言ってもいいかもしれない。
未来を視るあの能力が無ければ私は、コインの出す表裏すら分からないのだ。
禁止エリア内から一刻も早く脱するべき状況で私は、すっかり足を止めて物思いに耽る。
偶然か、運命か。それすら今の私には分からない。
だがこれを運命として捉えるのなら、いま私はまたしても分岐点に立っている。
「…………時刻は『12時9分』か」
怖いくらいに頭の中は冴えていた。しかし実のところ私は今、確かに恐怖している。
そっと時計を取り出し、長針の動きを目視する。一秒一秒がやたら永く感じてしまう。
禁止エリア進入から『10分』で頭部は爆破されるという。ならば運命の刻はあと幾許もない。
カチッ カチッ カチッ カチッ ───。
エピタフは無い。未来は視えない。
数十秒後の私が果たしてどうなっているのか。
私の予想が外れていれば、死ぬのだ。恐怖しないわけがない。
カチッ カチッ カチッ カチッ ───。
これも以前の私なら考えつかない行動だ。
慎重に慎重をきたし、万が一の破滅をも拒み続けてきた。
そんな私がこうして足を止め、根拠のないギャンブルに身を投じている。
カチッ カチッ カチッ カチッ ───。
それは『勇気』か? はたまた『無謀』か?
だがここでもまた臆するようなことがあれば……ドッピオから渡されたこの勇気を懐に仕舞い込み、
一体どのツラ下げて、再び奴と再会できる?
カチッ カチッ カチッ カチッ ───。
トクン トクン トクン トクン ───。
心臓と時計の音が重なる。
死なら見てきた。何度でも。何度でも、何度でもだ。
悪夢の無限回廊に閉じ込められたおかげで、生物が本来持つ『死』への拒絶本能というヤツが、私には多少欠けているのかもしれない。
だからこそ、こんな賭けに出れたのだとも言える。
ジョルノ・ジョバァーナともし次会うことがあれば、礼の一つもせねばなるまい。
ギャングなりの、『礼』をな…………
カチッ カチッ カチッ カチッ ───。
トクン トクン トクン トクン ───。
カチッ カチッ カチッ カチッ ───。
トクン トクン トクン トクン ───。
結局の所、物事はコインの表か裏かでしかない。
この世は選択の連続だ。表が出るか、裏が出るか。右か左かの二択しかないのだ。
私は既に選択を終えている。結果がどう出るかは、未来の視えない今の私には知り得ない。
『表』か。
『裏』か。
───時計の長針が、
……一周する。
1 0
分
が
経
過
す
『PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi――――……』
脳髄に直接響く、警告音。
「今、オレの頭に雑音が過ぎったとしたら、それは」
「勇気を僻み、光に隠れる、過去のオレ自身が発した歪みの幻聴」
「未来を覗く必要はない。己の臨界を飛び越える『今』こそが、我がキング・クリムゾンの真骨頂なり」
泥濘に渦巻く恐怖など──────失せろ。
カチッ カチッ カチッ カチッ ───。
トクン トクン トクン トクン ───。
針は、時間は、変わらずその足音を刻んでいた。
生命の鼓動音も、何ら変わることなく正常に機能を保っている。
いつの間にか、ディアボロは冷たいコンクリの地に座していた。
瞳を閉じ、呼吸を整え、両の脚を左右対称に深く折り曲げ。
それは彼にとっては馴染みのない、座禅と呼ばれる精神統一の姿勢。
意識して組んだ体勢ではなく、自然と身体が瞑想の型に落とし込まれていた。
自我を極力排除し、最後に吹聴された負の歪み“ひずみ”も乗り越えた。
年若い少女の発する雰囲気とは思えない、熟練の使い手であるかのような。
外見だけを見れば、ある種異様な空気を纏い、帝王は孤坐の域にてゆっくりと目を開けた。
悪魔が囁く幻聴を吹き飛ばし、本当の悪魔が目醒める。
彼を縛る鎖はこの瞬間、真の意味で解き放たれた。
ゲーム開始から12時間
こうしてディアボロは全参加者の誰よりも
ブッチギリの到達速度で己の『縛り』を消し去った。
「──────く」
「く、はは、ハハハ……ッ」
「ハ……ハァーーーハッハッハッハッハ!!」
『籠の外』で悪魔が、常闇に咲く虹のように…………薄気味悪く嘲笑った。
「ハァーーーー…………!」
その狂気の沙汰に、かつてのトリッシュだった少女の面影は見当たらない。
たまらなく、どうしようもなく、歓喜した。
こんな僥倖はあり得ない。物怪の幸いを引き入れたのだ。
「くっ…………くはは、クハハハハ…………ッ!」
肺から濁流してくる笑みを、押し留めきれない。
蝕みは消え去ったのだ。
縛りに怯える必要はなくなったのだ。
我が勇気が、恐怖に打ち勝ったのだ……ッ!
これが笑わずにいられるものか!
「───勝ったッ! このバトルロワイヤル、既に優勝したも同然だッ!」
誰もが考える。
禁止エリアという大波に苛まれることはなくなった。
ならば、後はもうこの禁止エリア内にて『待ち』の一手しかない。
参加者全員同士討ち、少なくとも残り一人になるまで待機し。
そして、疲弊しきった最後の参加者を討てば、それだけで優勝だ。
それしかない。
それ以外の選択肢は、あり得ない。
「愚かな主催共よッ! 手ぬるい! 手ぬる過ぎるレクリエーションだぞッ!
貴様らは敗北したのだッ! オレと! 我が半身ドッピオの勇気に敗けたのだッ!」
ディアボロは半身と、能力の『盾』を捨てた。
代わりに得たモノは、ほんの少しの勇気のみ。
天秤が釣り合うには、大きな代償だったかもしれない。
『盾』はなくとも『矛』は残る。エピタフをも置いて来たディアボロに残ったのは、捨て身で挑む気概。
盾無き決心の男が、捨て身の覚悟を作った。
その差が、ゲーム優勝への圧倒的な『近道』を生んだ。
「後はもう簡単だ……ッ! この禁止エリアの中心にて、帝王のように座すれば勝利もすぐそこッ!」
選択は終えた。
悪魔は勝利する。
コインの『表』と『裏』、あるいは。
目の前に佇む『左』の扉か、『右』の扉か。
男は左の扉を選び、宝部屋に辿り着けただけ。
この話は、そんな選択の物語でしかなかった。
【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部】 爆弾解除───成功
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【C-2 地下道】
【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:爆弾解除成功、トリッシュの肉体、体力消費(中)、精神力消費(中)、腹部貫通(治療済み)、酷い頭痛と平衡感覚の不調、スズラン毒を無毒化
[装備]:壁抜けののみ
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(現実出典、本人確認済み、トリッシュの物で、武器ではない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:爆弾解除成功。禁止エリア内にてゲーム終了まで潜伏。
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
また、未来を視る『エピタフ』の能力はドッピオに渡されました。
※トリッシュの肉体を手に入れました。その影響は後の書き手さんにお任せしますが、スパイス・ガールは使えません。
とおるるるるるるるる……
とおるるるるるるるる……
とおるるるるるるるる……
とおるるるるるるるる……
とおるるるるるるるる……
とおるるるるるるるる……
とおるるる――『ぷつッ!』
『もしもし、ドッピオです』
『ボ、ボスですか……!? はい! ぼくの方も無事です!』
『ああ……それよりボスの方こそ……! このクソッタレ爆弾を解除できたんですね!』
『良かった……いえ、ぼくはあなたの為ならこの命すら捧げてみせます……!』
『ハイ! ボスはそのエリアで、参加者が全滅するまでごゆるりと待機していて下さい!』
『残りの参加者はぼくが……ぼくの力で何とかしてみせます……!』
『あなたから受けたエピタフもあります。きっと全ての参加者をブチ殺してみせます』
『あなたは生き残るべき人です。帝王が手を汚す必要なんて、ないんです』
『いつもの様に、ボスの命令さえあればぼくは……喜んであなたの駒になりましょう』
『ぼくが最後の一人になったなら……ボスの元へ向かいます』
『そこであなたが、ぼくの胸を貫くだけで……ゲームは終わりです』
『あなたへと心臓は捧げます』
『もう一度、ボスが帝王の座へ返り咲けることを』
『ぼくは心より……祈ってます』
『少し、寂しいですけど』
『そろそろ、電話……切りますね』
『………………、』
『それでは…………』
『───パッショーネに、栄光あれ』
『ぷつっ ツー… ツー… ツー…』
なんだ、今の声は。
何故、今また私の耳に、ドッピオの声が聴こえたのだ。
奴との『通話』は、もう不可能になってしまった。
それでいて、何故。
何故、奴は。
この期に及んで。
あんな台詞を口走った。
何故、オレは。
諸手など挙げて、歓喜している?
何故、オレは。
勝った気でいる?
何故、オレは。
奴に何もかもを任せ、自らは動こうとしない?
何故、何故と、そう訊かれたなら答えるのは簡単だ。
爆弾は解除されているからだ。
ドッピオは我が腹心だからだ。
オレが帝王であり、それ以外の存在は全てが駒だからだ。
堅固なる城の玉座にて、王自ら動く必要など無いからだ。
外の戦いは全て駒に任せ、王はゆるりと待てばいいのだ。
それが王だ。
それが駒だ。
それがゲームだ。
「違うッ!!!!」
爆発するかのように、堰を切った。
目を大きく見開き、血流がマグマのように沸騰した。
帝王の逆鱗にでも触れたかの如く、髪を逆立てて立ち上がった。
許せなかった。
自分が、こんなにも腹立たしく感じた。
(オレはッ! オレはさっき、何を言ったッ!? 何を叫んだッ!!)
我が発言に、我が姿勢に、
何よりも、怒りを感じた。
『───勝ったッ! このバトルロワイヤル、既に優勝したも同然だッ!』
『後はもう簡単だ……ッ! この禁止エリアの中心にて、帝王のように座すれば勝利もすぐそこッ!』
ふざけるなッ!!!
オレは何を言っているッ!?
“あの時”……新入りのジョルノ・ジョバァーナに『矢』を奪われた時、オレはしかしッ!
逃げなかっただろうッ! 立ち向かっただろうッ!
それは何故だッ!?
オレに帝王としての『誇り』があったからだろうッ!
結果的には奴に敗北し、かつてない侮辱を味わわされたが!
その『誇り』は! 今もこのオレの手の中にあったッ!
あった筈だろうがッ!!
違うかッ!?
答えろディアボロォ!!!
「……………………駄目だ、」
「…………ここで逃げては、駄目だ」
「……ここで逃げては、以前までのオレと何も変わらない」
「…きっと『誇り』は永遠に失われる」
「勇気とは何だ」
「困難に立ち向かうことこそが、奴から譲り受けた勇気なのではなかったのか」
「賭けに勝ち」
「歪みを乗り越え」
「選択を終えて」
「勝利を目前にし」
「今また、怯えるのか」
「『籠の中』では、残してきたドッピオが独り戦い」
「全ての参加者をも乗り越えた奴と、最後に再会し」
「その間、ずっと胡坐ばかりを掻いてきたオレは、傷だらけの目の前の奴にこう言うのか」
「───『やったなドッピオ、我々の勝利だ! 流石は我が腹心だ!』と」
「握手を交わし、互いを讃え、」
「そして憔悴しきったドッピオは、その勇敢なる顔つきで私にこう返すのだ」
「───『やりました。褒めてください、ボス』と……心から喜びながら」
「肩を抱き、私はドッピオの喜ぶ表情を最後に───奴の心臓を貫いて」
「優勝するのだ」
…………なんだ、これは。
またしても、訪れたのは茶番劇か。
違う。これは人形劇だ。
これが勝利への近道だと慢心し、身勝手な歓喜を叫び、勘違いした帝王論を振り撒く、
ピエロなオレの、つまらん独り人形劇。
楽しいか、主催共。
客席(そこ)から眺める、オレの独り劇は楽しいか。
これが見たくて、くたばってもいないオレの名をわざわざ放送で読み上げたのか?
「見ろ! ディアボロの奴め」
「我らの予想通りに踊ってくれた。最高のパフォーマンスだ!」
そう笑い、拍手を送り、喝采を飛ばし、
ひとしきり楽しんで、飽きたらとっとと舞台から引き摺り下ろす腹積もりか。
「こんな……屈辱が…………あってたまるか……ッ!」
奴らがどこまで計算し、脚本を立てているかなど知らん。
それ以上に、奴ら以上に、
「オレは、オレ自身が許せないッ!!」
こんな姿、見せられるか……ッ!
これがお前から与えられた『勇気』の賜物だと、
奴と再会したその時に! 言うつもりかッ!
───『ス……ボス…………駄目です、ボス!』
───『ボス! あなたは再び帝王に返り咲く人だ! ここは堪えてください!』
───『どうかボス! ぼくが全ての土を被りますので! この場は、動かずに───
「黙れッ!!!」
オレは最大限の怒りと共に、頭の中でナメた口を利く幻聴を吹き飛ばしてやった。
煙の如く空に消えていく、心の中のドッピオ(よわさ)を認めると、
オレは荷を持ち、前へと歩き出した。
これは『試練』だ。
過去(じぶん)に打ち勝てという『試練』と、オレは受け取った。
人の成長は……未熟な過去に打ち勝つことだとな。
「もう、逃げることはしない。脅かす障害など、いつものように『消し去れ』ばいいだけだ」
薄暗い地下の目の前、オレの目の前にはルートが『二つ』ある。
『右』か『左』か。この先は禁止エリア外。戦場だ。
何となく、オレは一枚のコインを手に取った。
偶然、娘のポケットに入っていた、何の変哲も無い一枚のユーロ硬貨だった。
ゲーム開始以前からたまたま紛れていただけであろう、そのコインをオレは床に投げることにした。
「──────表」
表なら左。裏なら右のルートを歩むだけ。
エピタフを失ったオレにとって、ここから先は何もかも未知数。
数秒先の未来ですら、知りようがないのだ。
チャリン───クル、クル……カラァン
「…………裏、だったか」
こんな二択でさえ、今のオレではしくじる始末だ。
未来が分からないというのは、なんと恐ろしいことか。
だがこれでいい。きっと、これがオレにとっては『正しい道』なのだろう。
右の道を進もう。
道を遮る敵は一人残らず、このディアボロが皆殺しだ。
「──────ええええええええええええいッ!!!!」
……今の声は?
若い女のあげた声だ。そう遠くはない。
この狭い通路。逃げ場も隠れ場もない、か。
「…………やはり左の道にするか」
コインの結果を捻じ曲げ、オレは声の轟いた『左』の道へと方向を変えることにした。
未来など視えずとも、キング・クリムゾンは過程を捻じ曲げる能力を有している。
もはやコイン一つで、オレが歩む道は変えられやしないのだ。
道に転がる薄汚い硬貨を蹴り飛ばし、
こうしてオレは左───『表』の道を選択した。
「誰であろうと、我が道を邪魔する輩は許さない。
殺(け)してやる。鼓動を止めてやる。───その時間(いのち)を、消し飛ばしてやる」
◆
ここに男がひとり、いました。
男の目の前には『扉』が二つ。男は『左』の扉を選びました。
左は宝部屋。そして右は奈落。ポッカリ空いた落とし穴でした。
男の選択した左の扉は、正解の扉だったのです。
宝部屋に到達した男は、歓喜します。帝王に相応しい、勝利者の資格を得たのです。
男はしかし、積まれた黄金と輝く宝石の奥に『もうひとつの扉』を発見しました。
発見、してしまったのです。
深淵の匂い。血と錆びのこびり付いた扉。
男の背後からは、頼れる部下が必死に引き留めています。
「その先は危険だ! 行ってはならない!」と。玉のような汗をかき、腕を伸ばしているのです。
『───貴方だったら、その扉を開きますか?』
この世は選択の連続だ。
ディアボロはただ、選択し続けただけ。
無限に死に続けるかつての世界線に、選択肢など用意されていなかった。
今は違った。男はひたすら、選択をし続ける。
次に開く扉は、必ずしも二択とは限らないのだ。
進んだ隔たりのその先に、百の扉が待ち構えていようとも。
男は歩き続けるのだろう。
正解など視えない。未来など分からない選択の先へと。
結局のところ彼にとって重要なのは、『選ぶ』か『選ばない』かの二択でしかないのだから。
終わりの無いのが終わり。
そんな言葉遊びにはもう迷走されない。
終わりを目指して、ひたすら選び抜く。
こうして男は、傍目には信じ難い選択の扉に誘われ───潜り抜けた。
『娘』に憑依した『悪魔』は目醒め、嘲る。
白く光る牙のその先、この世の幸福の全てを薙ぎ消すような恐ろしい深紅色の双眸が睨む、その先から。
迷いなく駆け抜けてくるは、悪魔を祓う正義のエクソシストか。
それとも、
『深紅の悪魔』に仕えるメイドの殻を纏った───獰猛な犬か。
時間と時間が、いのちといのちが、相打つ。
【C-2 地下道】
【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:爆弾解除成功、トリッシュの肉体、体力消費(中)、精神力消費(中)、腹部貫通(治療済み)、酷い頭痛と平衡感覚の不調、スズラン毒を無毒化
[装備]:壁抜けののみ
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(現実出典、本人確認済み、トリッシュの物で、武器ではない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:爆弾解除成功。新たな『自分』として、ゲーム優勝を狙う。
2:ドッピオなら大丈夫だ。
3:『兎耳の女』は、必ず始末する。
4:新手と共に逃げた
古明地さとりを探し出し、この手で殺す。
5:ジョルノ・ジョバァーナ……レクイエムの能力は使えないのか?
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
また、未来を視る『エピタフ』の能力はドッピオに渡されました。
※トリッシュの肉体を手に入れました。その影響は後の書き手さんにお任せしますが、スパイス・ガールは使えません。
※南に潜伏するF・Fの存在を感知しました。
最終更新:2017年09月29日 02:17