キィィィ―――――ン……と、甲高い音が空に鳴り響いた。
放送のための機器の姿は見えないが、その爆音は参加者の鼓膜を、確かに揺らしていた。
うぅん、しまったな。さっきので逆上せてしまったのかもしれない。
それとも、太田くんからの熱烈なアプローチがあったせいかな、少し目眩がしてきたぞ。
折角一回目の放送の時にマイクテストをしたんだがね。デカいハウジングを起こしてしまったよ。
さて、酒で喉がやられていないか確認して、だ。第二回目の放送を始めようか。
***
やあ、久し振りだね……参加者の諸君。第一回目の放送時と変わらず、荒木飛呂彦だ。
殺し合いが始まってから12時間が経過したが、その時間に見合ったインクレディブルな時を過ごせたんじゃあないかな?
少なくとも現状を顧みれば、そう考えざるを得ないね。
今現在、生存している参加者の大半が『絶望』とか『恐怖』を感じているだろうが、『希望』なんてのを感じている者もいれば面白いかな。
ああ、また話が長くなってしまったかな。
無駄なお喋りは終わらせて、キミ達が待ち望んでいる本題に移ろうか。
まずは……と言うより、一回目と同じ流れで、脱落者の発表をするよ。
同じように一回しか発表しないから、耳の穴かっぽじってよく聞いてくれよ。
第一回放送からこの放送までの脱落者は……
以上、18名だ。
素晴らしい……素晴らしいぞ君達! 前回の放送時から変わらず、18人もの死者が出てるなんてなぁ!
大分順調に進んでるじゃあないか! いいぞいいぞ、このペースで突き進んでくれ!
この時点で脱落した数名の中には僕の嫌いなヤツもいるようだしな!!
……っと、すこしハイになってしまっていたか。いやぁすまないすまない。
これでともかく、残りの生存者は54名となった訳だな。
参加者の半分が脱落しているわけだが、現時点で虫の息になっている者は……まあポックリ逝っちまわないよう気をつけろよ。
……さて。
既に完結している話は終えて、だ。次は大事なこれからの話だ。
第一回の放送にもやった通り、禁止エリアを設ける。
次の追加禁止エリアは『C-2』だ。そこにいる奴らは10分以内に他のエリアに移動しないと……もう言わなくてもいいか。
ああ、最後にひとつ。
もう気づいている者もいるかもしれないが、フィールド内のある場所に『街頭掲示板』が設置されている。
どうせなら見に行ってみるといい。面白いモノが見られるぞ。
今回も相変わらず長くなってしまったが、ここいらでお開きとしようか。
次回の放送も6時間後、夕方の6時に行われる。
これにて、第2回放送を終了するよ。
***
ふう。
少しはしゃぎ過ぎてしまったかな……太田くんに口出しできる立場じゃあなくなっちまったよ。
せっかく主人公が倒されて、バトルロワイヤルらしくなってきたんだ。それを崩したら笑いものにもできないね。
それにしても、ヴァニラ・アイスが倒されるとは驚いたな。仗助相手じゃあ分が悪かった、なんてことも無かったハズだ。
……ヴァニラがどんな風に倒されたのかが詳しく判らないっていうのは、なんとも口惜しいものだ。
そして……
パチュリー・ノーレッジとかいうやつ、あの
カーズを前にして生き延びているということは、このゲームから脱出する術を探っているのかな。
カーズのことだ、この状況を打破できる方法を見つけること……それを第一の目標としているだろう。そういう風に僕が画いているのだから間違いはないハズだ。
そうだ、吉良と太田くんのキャラクターが何やら争っていたようだが、この妹紅とかいう娘……。
コイツは不思議なヤツだな。暫く動かないでいると思ったら、カエルが力いっぱい跳ぶみたいに瞬間移動したぞ。しかも移動宣言の1エリアを優に越えている。
そういう能力でもないようだが……クソ、やっぱり監視カメラでも用意しておくべきだったな。
……まあいい。はたての新聞は色々と盛り上がらせてくれたし、大いに役に立った。対して露伴先生のマンガはどんなモノになっているのか……楽しみだな。
***
一方その頃、太田順也は。
下腹部にタオルを巻き付け、半裸でディスプレイの前に座っていた。
彼は思う。
同じタイプのスタンドを持っている……という嘘が、荒木先生にバレたらイヤだなぁ、と。
僕の本当の能力が知られたら……もっとイヤだなぁ、と。
彼は想う。
このロワイヤルを楽しむ……それは荒木飛呂彦にとって完全ではないと。彼にはその先の目標が存在しているのだ。
しかし僕だけが、この会場で何が起きているのかを完全に知り得ていると言ってしまったら、荒木先生はどう反応するのだろうかと。
思考を振り払い、彼は思考する。
荒木飛呂彦はこの場を盛り上げるために死力を尽くしている。この場に居る者達に干渉している。
その傍らで、太田順也は自分の秘密を間一髪で隠し通していた。
彼は今まで、何度か荒木の目を盗んで無理をすることが多々あったのである。
最初の無理は、
古明地さとりが制限を超えた能力を行使した時に、警告として彼女に語りかけてしまったことだ。
本来参加者の脳に声を伝えるのは荒木のみにしか出来ないし、ある程度の条件もある……のであったが、太田順也の『本当の能力』をうっかり使ってしまったのだ。その事実が荒木にバレていたら、二人の関係は破綻。バトルロワイヤルが機能しなくなる可能性があった。これは危ない。
だが一番の無理は、
藤原妹紅を誤って2エリアくらいブッ飛ばしてしまったことだ。
荒木と風呂に浸かりながら、愛しの
ジョセフ・ジョースターのことを思い浮かべていたとき、香霖堂の近くまで迫っていた彼女の姿を、チラリと見ていたのだ。
酒に酔っていたことや、気持ちが舞い上がっていたこともあり、色々な私情からついつい彼女の座標を変えてしまったのだ。
そんな無理を乗り越え、彼は自分にとって有利な展開に持ち込んでいた。
多少の無理ならば、荒木飛呂彦には秘密を隠せる。秘密がバレる可能性を減らしていたのだ。
モニターに表示された参加者の『生存・死亡』を表す点。
荒木先生はそれ以外に会場の様子を見る術はなかったんだが……はたてと関わりを持ったり、岸辺露伴と直接話をしたりとすることで、結構自由に事を進めていた。
「ンフフ……荒木先生、このロワイアルを貴方なりに楽しむのなら、僕も折角のチャンスをみすみす逃したりはしませんよ……」
ならば、と彼は動き始めた。
キーボードを叩きながら、不気味な笑みを浮かべている。
一体全体何をしているのか。
……答えは単純だ。ある人間との意思疎通を図り、香霖堂のパソコンを遠隔操作で起動させているだけである。……今のところは、だが。
彼も荒木飛呂彦と同じく、完璧な存在などではない。
なにもかもができる……なんという、全てを超越した生物などではないのだ。
そんな彼の行動が、これからこのゲームにおいてどのような影響を及ぼすのか……それを知るには、まだ、早い。
最終更新:2017年09月29日 02:08