魔法少女十字軍

一人の少女が草原に佇んでいた。
赤く長い髪に、赤い服装、加えて赤いマントを羽織った岡崎夢美である。
夢美は、訳も分からないままに殺し合いに参加させられて、優勝者には願いを一つ叶えてやるという主催者に対して、憤っていた。
「何よ!こっちが話しかけようとしたら、見せしめのように殺すなんてふざけてるの!
 私の話を聞こうとしない学会の奴らより質が悪いじゃない!」
―――というよりは彼女の論文を一切相手にしない学会の人間と重ね合わせていた。

「しかも優勝者の願いを叶えるなんて、私のしたことに似ていて余計に悔しいわ、
 勝手に真似するな~!」

そう、夢美も以前幻想郷を訪れ、異変を起こした人間である。
夢美はとある世界で18歳にして『比較物理学』の教授をしており、幻想郷にいる人間ではない。
彼女の住む世界では、電力、重力などのありとあらゆる力は統一され、それ以外の力は存在しない
『統一原理』という理論が常識となっていた。
それに対して夢美は、この『統一原理』以外に魔力という別の力が存在するという『非統一魔法世界論』という理論を発表した。
結果は散々で、学会の人間に大笑いされて相手にしてもらえなかったが。
夢美は自説の正しさの証明のために、彼女の助手の白河ちゆりと共に『可能性移動空間船』に乗って、
魔力に溢れた平行世界を探した結果、幻想郷へとたどり着いたのだった。
そして、強い魔力の持ち主を探すために優勝者には一つの願いを叶える、という報酬を餌に招待状を送り、
参加者に弾幕ごっこによる勝ち抜き戦の大会を開いたのだった。
(ちなみに、招待状はちゆりが勝手にバラ撒いたものだった。)

最終的には、優勝者を魔力を持った生き証人として、無理やりにでも自分のいた世界へと連れて帰る予定だった。
結果は、ちゆり、夢美共に弾幕ごっこに負けてしまい、優勝者の願い事を叶えさせるのだった。
その後は、集めたデータを学会でもう一度発表したのだが―――

「どーして、あいつらは人の話を聞かないのよ~!」
残念ながら、集めたデータをもってしても学会には相手にされなかった。
相手にされない大きな原因は、夢美の『非統一魔法世界論』には何故か「宗教は世界を救う」、「エネルギー、環境問題を救うのは宗教」
などといった怪しい文面が混じっているせいで、胡散臭いものになっているからかもしれない。

(やっぱり、実際に魔法を使える人を連れてかないと駄目みたいね。)


そこで、夢美はもう一度幻想郷へ赴こうとしていたところまでを覚えていた。


夢美はこの殺し合いに乗るつもりはなかった。
主催者が願いを叶えるという言葉に全く動かされなかったわけではないが、殺し合いの果てに他人から与えられる願いなど、
彼女の言葉を借りるなら、『素敵』ではないからだ。
夢美は支給品の確認のため、自分の隣にあるデイバックの中身を見てみた。

「紙しか入ってないわね。」
中には、折りたたまれた紙がいくつか入っているだけだった。
とりあえず、その1つを開いてみると・・・
開いた紙からさらに紙が出てきた。

「あら、素敵。紙の中からまた紙が出てくるなんてなかなか面白いわね。
マトリョーシカみたいにもっと出てくるのかしら。」
と期待してもう1度開いてみるが夢美の予想とは違い、開いた紙にはこのバトルロワイヤルの参加者全員が記された名簿だった。
軽く一瞥するが、助手の白河ちゆりのように、特に自分が知った名前がないと思ったが、
もう一度よく見てみると4人の名前に反応した。
博麗霊夢霧雨魔理沙、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンだった。

(あれ?この霊夢に魔理沙ってあの時の参加していた2人だっけ?)
夢美が起こした異変に、こんな名前の2人がいたような気がした。
(そういえば、あっちに行った時、だれが優勝したのかいまいちはっきりしないのよね。
月を止めてあげたり、メイドアンドロイドの『ま○ち』をプレゼントしたり
してあげた気はするんだけどなぁ。)

さらに、もう1つ気になる点もあった。
(事前にちゆりにどんな奴が参加するか調べさせたけど、霊夢の「霊」って名前はもっとこう難しい字だったような、
 それに魔理沙の「理」も「梨」って書いてあったと思うのよね。)

そして、宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン、この2人は目に留まったものの、一体どんな人物だったか思い付かなかった。

(名前に見覚えがあるのに思い出せないってことは、私の大学の学生さんってところかしら?)
思い出そうにも何故か頭に靄がかかったようになり、顔が出てこなかった。


(うーん、流石にここまで思い出せないのが続くと怪しいわね。
あいつらが私の記憶でも弄ったのかしら? まあ、今は支給品の確認が大事ね。)
夢美は細かいことは後にして支給品の確認に戻った。

中身は、地図、コンパスなどのサバイバル道具があったが、夢美はこれらのサバイバル道具より
気になるものがあった。それはバトルロワイヤルのルールの説明書である。
説明書には神、仙人、幽霊、妖怪、妖精、蓬莱人、柱の男、吸血鬼、天狗に鬼と見慣れない文字が見えたからだ。

(何よこれ、少なくとも私のいる世界にはこんな種族の生物なんて大昔のお伽話にしかいないわよ。
 ルールブックにふざけてこんなこと書くとは思えないし・・・となると本当にいるの?
 いるとしたら、なかなかオカルトチックなメンバーね、ぜひ会ってみたいものだわ。)

ちなみに、夢美は科学者の割にはオカルトなものが大好きであった。
夢美はルールブックを詳しく読んでみると、自分に影響しそうなものを発見した。
彼女が影響するのは「補助なしには飛ぶことができないこと」、「弾幕の威力、射程距離に制限がかかっていること」の2つである。
いくら殺しあうつもりはないといっても相手に殺されそうになったら対処・・・最悪殺すことも念頭に入れなければいけない状況で、
自分の攻撃方法と移動手段が制限されるのは喜ばしいものではなかった。

(本当にやってくれるわね、あの2人全部が終わったらミミちゃんをあんた達の家めがけてぶっ放してあげるから、覚悟してなさいよ。)
※ちなみにミミちゃんとは岡崎夢美作のICBM(大陸間弾道ミサイル)である。

そして、いよいよ残り2つのエニグマの紙が残った。

(さーて、いよいよ本命ね、何が出てくるか少し楽しみね。)
期待を胸にエニグマの紙を開くと出てきたのは、それなりに使い込まれた箒だった。

「ちょっと、ちょっとどうして殺し合いの場に箒が出てくるのよ!
 神社の巫女さんよろしく呑気に掃除でもしていろってこと?
 それとも魔法少女よろしく空を飛べってことかしら?」

予想外の支給品に地団駄を踏んでいると、ひらひらと落ちる紙が見えた。


見てみると紙にはこの箒の説明が載っていた。

≪霧雨魔理沙の箒≫
霧雨魔理沙愛用の箒。
これに乗ればスタンドエネルギー、霊力、魔力などをもとに飛ぶことが可能になる。
魔理沙は異変解決の際にはあまり持ち出していないようだが、
それ以外の時はよくこの箒に乗って、暇つぶしになるものを探したり、泥棒の足として活用している。

(また霧雨魔理沙か、うーんやっぱり魔理沙の「理」は「梨」じゃないみたいね。
 こんな簡単な字を書き間違えるなんて、帰ったらちゆりにゲンコツね。―――じゃなくて
 予想通りなんて流石私ね。)

夢美は早速魔理沙の箒に跨り、彼女の扱う『魔力』でも『霊力』でもない力、『科学力』を込めてみた。
すると、力を込めるごとに徐々に浮き上がり、最終的には天高くまで飛翔することに成功した。

「おおー、今までただ飛んでいたのと違ってこれはこれで趣があって素敵ね~。」
夢美は非常に満足していた。彼女は魔法に対して、大きな憧れを抱いていたからだ。
使っている力は違っても、魔法使いのように空を飛べたのは彼女の気持ちを高揚させるのには十分だった。
それから夢美はしばらく空の旅を楽しみながら適当に南下することにした。



10分ほど速度を緩めたり、速めたりしながら、箒の扱いを体で覚えていった。

(ああ、本当に素敵ね~♪でもそろそろ下りないと科学力の無駄遣いになるわね、
 もう一つ支給品の確認もまだだし、惜しいけど降りましょうか―――ってあれ?)

前方にはいまだ草原が広がっているが、その草原に誰かが倒れているのが見えた。
夢美は接触するかどうか、一瞬迷うが―――

(いちいちビビッていても、しょうがないしとりあえず接触しますか。)
夢美は高度を下げつつ、倒れている人物との接触を図った。




紫色の長い髪に、紫色の服装をしたパチュリー・ノーレッジは、歩き疲れて横になっていた。
彼女もまたこの草原にて目を覚ますのであった。
手早く支給品の確認を済ませて、とりあえずは人間の里か紅魔館を目指していたのだったが…

「…まさか飛べなくするなんて私に対してひどい仕打ちね、疲れたわ。」
パチュリーはぼやいた。
彼女は幻想郷の紅魔館に住む魔法使いなのだが、日頃から本を読み続けており、外にはあまり出ないので引きこもりがちである。
当然体力などあるはずもなく30分ほど歩き続けてあえなくリタイアとなった。

(喘息の調子も悪くはないし、歩こうと思えばまだいける。
 けど無理をすると後に響くしここは我慢のしどころかしらね。)

彼女はそう自分に言い聞かせると、体を投げ出し、仰向けになって休むことにした。
その間このバトルロワイヤルでどう動くか考えてみることにした。
パチュリーもまたバトルロワイヤルに乗るつもりはなかった。
叶えてほしいような願いなどなかったし、叶えてくれるなら今すぐにでもこんなふざけた殺し合いをやめて、
彼女たちの住む幻想郷へと帰してほしかった。
しかし、どのようにすれば解決に至れるのか、皆目見当もつかなかった。

(名簿には、知らない名前も半分近くいたけど、幻想郷の異変の関係者をほとんど集めた上に、
その気になれば頭をきゅっとしてドカーンなんて、滅茶苦茶な相手ね。)
だが、このバトルロワイヤルに乗るということは、紅魔館のみんなとも殺し合うことを意味していた。

(生憎だけど、友人達を手に掛けてまで生き延びようとするほど私は薄情じゃないの。
レミィも殺し合えって命令されてその通り従う性分じゃないし、むしろ歯向かうでしょうね。
咲夜はレミィが殺し合いに乗らない限り心配ないし、温厚な美鈴が自分から人の命を奪うような真似は しないでしょう。)

そう、パチュリーの見立てでは紅魔館の誰もこのバトルロワイヤルに乗るつもりはないだろうと
踏んでいた、ある一人を除いてはだが。その名前はレミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットだった。
パチュリーは、名簿を見る限りではその名前はなかったようなので正直安心していた。


(この異常な状況なら、あの子がどっちに転がるか分からないわ。
 暴れだしたら手に負えないし、妹様には悪いけどいなくて正解ね。
 あっ、でもあの子以外紅魔館にいないとなると勝手に抜け出してしまいそうね。)
と紅魔館のみんなに思いを馳せていた。
そろそろ歩き出そうかと思ったら、空から何か向かってくるのが視界に入った。

(この状況で空を飛べる相手って、ブン屋の天狗か地霊殿にいる八咫烏かしら?
 もし殺し合いに乗っているとしたら―――マズいわね。)

片や自称といっても幻想郷最速の天狗、片や太陽の化身である八咫烏を宿した妖怪、単独かつ飛ぶことができない今は相手にしたくなかった。
時間帯は深夜だろうが、月明かりは人を見つけるには十分な程度には差し込んでいる上に辺りには遮る物が何もなく、隠れようがなかった。
そして、どうやら相手も気づいたらしく、真っ直ぐこちらに向かってきた。

(接触は避けられない―――か。どうやら腹を括るしかないみたいね。)

そう思いながら、ゆっくりと立ち上がり向かってくる相手を見据えた。





「ごきげんよう、ひょっとして起こしてしまったかしら?」
夢美は箒から降りながら、紫色の長い髪と紫色の服装をした少女に向かって軽く一言かけた。

パチュリーは天狗でも八咫烏でもないのに安心した。
しかし、箒に乗って来るとは予想外で、本を盗みに来る誰かさんを彷彿とした。

「残念だけど、眠ってなんかいないわよ。そんな箒を持ったやつが空から来ると、
 私の住んでるところって窓ガラスが割れたり、図書館の本がなくなったりするのよ。
 今頃眠っていたらきっと身ぐるみ剥がされてるでしょうね。」
思いの他、トゲのある言葉で返された。

(ん?まさか、この箒の持ち主に心当たりがあるかしら?)
これは話を広げるチャンス、と思った夢美はもう一言かけようかと思ったが―――



「悪いけど、単刀直入に言うわね、貴方はこのバトルロワイヤル―――いや殺し合いに乗っているのかしら?」
先に向こうから切り出してきた。
(聞きそびれちゃった、まぁ分かりやすくていいわね。)
そう思うと、夢美は、デイバックを紫色の少女目がけて、箒を後ろの方へと放り投げた。

「えっ?」

パチュリーは攻撃かと思い咄嗟に避けたが、バックはただパチュリーの近くに落ちただけだった。

「これでいいかしら?私はこの殺し合いに乗るつもりはないわ。
 それと私の名前は岡崎夢美、とある世界で比較物理学の教授をやっている人間よ。」

パチュリーは夢美の行動に目を白黒させると、ハッとしたように自分も名乗りだした。

「…悪かったわね、私もこの殺し合いに乗るつもりはないわ。
 私の名前はパチュリー・ノーレッジ、幻想郷の紅魔館に住んでいる魔法使いよ。」

(ふう、にカッとなってつい格好つけちゃったけど、結果オーライでうまくいったわね。)

内心、夢美は冷や汗だらだらだった。

(ま、まあ、いきなり襲ってこようとしてなかったし、あんな風に警戒するなら懐の大きさを見せてしまえば、
 殺し合いに乗っていないならちゃんと応じてくれるわよね。
 乗っていたら…まあ戦うなり、最悪箒に乗って逃げれば大丈夫よね!―――ってあの子今…)

パチュリーは夢美のデイバックを持って近寄ってきた。

「はい、貴方の荷物、いくらなんでも方法は選んだ方がいいと思うけ―――」

パチュリーはそこまで言おうかして、いきなり夢美に両肩を強い力を込めた両手で掴まれた!
その力はまるで飢えた獣が狙った獲物を逃がさないように捕捉するかの如く力強いものだった。

「―――貴方今魔法使いって言ったわよね?」
「っ痛、だったら何?放しなさいよ。」


「いいえ、絶対に逃がさないわ!今度こそ私の『非統一魔法世界論』を学会に認めさせるためにもね!」

突然の出来事にパチュリーは混乱したが、咄嗟にスペルを唱え簡単な弾幕を夢美にぶつけた。
夢美の手は離れたが、さらに距離を空けてパチュリーは叫ぶ。

「一体どういうつもりよ、そっちがその気ならこっちにも考えがあるわよ!」
パチュリーはそう言うが早いが魔力を練り上げ、高速でスペルを紡ぎあげる。


―――「 火符 アグニシャイン! 」 ―――


炎が彼女の周囲を走り出し、パチュリーを守るように旋回し出した。
遠距離からの攻撃手段がなければ、パチュリーに近づくには炎の壁を破らなければならず、ただの人間には不可能に等しい。
自分を守りながら、相手を攻撃するには最適のスペルカードだった。
いきなり掴まれたから焦ったものの、力は人間と何ら変わりないものだった。
なら万が一近づいてきても、この炎の壁が侵入を阻むだろうと判断しての選択だった。
十分に炎の壁が出来上がったところで、そのいくつかが夢美へ向けてと殺到する。

一方の夢美はというと、
「あれ、なんで私ふっとばされて―――ってえええええぇーー!」

スペルをぶつけられて正気に戻ったが、夢美は『魔法使い』の言葉に反応して、つい逃がすまいと体が動いてしまった。
彼女は魔力の高い存在がほしがっていたが、目の前に魔法使いがいるという状況に、いてもたってもいられなくなったのだ。
学会を追放され次こそはやってやるという、彼女なりの決意がそういった行動を取らせたかもしれない。


夢美はいつの間にかパチュリーが弾幕を展開していたのに驚いた。
弾幕に慣れている夢美はすぐさまそれを避けるが、第2弾、第3弾が夢美へと向かう。



「よく分からないけど、仕方ないわね。これでも―――食らいなさい!」

そう言うと、夢美の目の前に二枚の正三角形を合わせた形、六芒星の魔法陣が浮かび上がると
そこから強力なエネルギーが溢れだし、その衝撃が炎の弾幕を一瞬で吹き飛ばした。

「えっ?今のってまさかボム?」

パチュリーは夢美をただの人間だと判断していたため、まさか同じように弾幕を―――それどころかボムを放てるとは思わなかった。
流石のパチュリーも呆気にとられ、わずかなスキができた瞬間―――


―――「  苺 クロス! 」―――


夢美の宣言と同時にパチュリーの周囲に4つほど力が収束したかと思うと、
その地点を中心に赤く、白い十字架が突如発生した。
パチュリーは下がろうとするも、後ろ、左右にも十字架が伸びており、身動きが取れない。
それでももう一度スペルを唱えようとしたが…弾幕が顔を掠めた。

「悪いけど、口を動かしたりすると弾幕を撃つわ、止めてもらえるかしら?」

パチュリーは自分の失態を強く恥じた。
バックを投げて敵意のなさをアピールした程度で相手をあっさりと信用し、
今こうして生殺与奪の権利を相手に持たせてしまっていたからだ。
パチュリーは、この状況では従わざるを得ないと判断した。

「これでいいかしら。」
スペルの詠唱と練り上げていた魔力を霧散させると小さく呟いた。
夢美はゆっくりと相手に近づき、

「今から、私の質問に答えてもらえる?」
パチュリーは今さらこんな状況に持ち込んだくせに何を言い出すのかと思った。

「分かったわよ。」
「よろしい、なら尋ねるわ。あなたさっき魔法使いって言ったわよね。
 それって本当かしら?」
「本当よ。さっき貴方に放った炎を見たでしょう。
あれが属性魔法っていう、小さな妖精や精霊を使役して生み出したものよ。」



夢美はふむふむ、と頷いた。
「もっと詳しく聞かせてもらえる?」
「私は7つの属性、生命と目覚めの『木』、変化と動きの『火』、基礎と不動の『土』、実りと豊かさの『金』、静寂と浄化の『水』、
 能動と攻撃の『日』、受動と防御の『月』を扱えるし、これらの2つを合わせたりした魔法を生み出せるわ―――そろそろいいかしら?
 こんなに魔法使いのことを聞いて、魔法使いに対して何か恨みでもあるのかしら?」
やられっぱなしでは流石に癪だったので、軽く挑発してやった。
夢美の顔を窺うと、異様にニコニコとした笑顔だった。

(―――薄気味悪いわね…)
パチュリーがそう思った瞬間、夢美の両手が伸び、パチュリーの両手を包み込むように握しめた。

「あぁ~幸せ♪いきなり魔法使いと出会えるなんて、殺し合いさえなければ、案外ここは素敵なところかもしれないわね~♪」

パチュリーを見る夢美の目はキラキラと輝いており、表情はどこか緩んだものになっていた。
一方のパチュリーはというと目まぐるしく変わる展開に着いていけずにいた。





その後、夢美はどうしても魔力の高い存在がほしかった、という理由を述べて、
パチュリーを襲うような真似をするに至ったのかを説明した。
「要するに、貴方は魔法使いを無理やりにでも連れ帰り、実験用のモルモットにするつもりだったと―――」
パチュリーは、ため息をつきながら、呆れ返っていた。

「ちょっと、ちょっと!それは初めてあっちに行った時の話で、今回はそこまでするつもりはなかったわ。」
夢美の反論に、パチュリーは訝しんだ。
「あっちに行った時って?」
「いや、まあその。わ、分かったわ、こうなったら包み隠さず話そうじゃない。」


夢美はさらに、『可能性移動空間船』に乗って自分の住む世界ではない、とある魔力の溢れる世界へと
向かったこと、そこで魔力の高い人物を集めて、弾幕ごっこで競わせたこと、
最終的には優勝者を気絶させて連れ帰ろうとしたが、返り討ちに合い、相手の願いを叶えさせたことを説明した。

「…なんていうか貴方もこのゲームに似たようなことをしたのね。」
「流石にこんなバトルロワイヤルと一緒にしないでほしいわ。
 私はあんな風に強制的に参加させてないし、殺し合いなんて惨いことはさせてないでしょう?」
「けど、優勝した人を無理やり自分の世界に連れて行こうかしたんしょう?
 ゲームが終わったと思わせてさらに戦わせるなら、このゲームより質が悪いわね。」

(痛いところを突いてくるわね…。)
「うぅ、で、でも結果的には未遂に済んだことだし、ちゃんと願いも叶えたんだから、
 私は無実、そう私は無実なのよ!」

堂々と言ってのけた夢美にパチュリーは彼女に会って何度目かのため息をつくのだった。
だが、パチュリーは夢美の今の話について概ね信用するつもりでいた。
夢美の言う通りならば、彼女は幻想郷から見た外の世界とはまた違った世界からやってきた、
ということになる。
荒唐無稽な話ではあるが、それぐらい無茶ができるならば、主催者が幻想郷の面々も連れてくることができるのかもしれない、
と妙に納得できたからだ。

(けど、こんな科学の力を持ったやつを連れてくるなんて、主催者の底が見えないなんてれべるじゃないわね。)
 つまり、主催者は彼女と同じ―――いやそれすら凌駕する力を有しているのだから、
 彼女の科学の力は主催者を知る上で、そしてこのバトルロワイヤルの打破を目指す意味でも役立つと考えたのだ。

(仮にこいつの知識を差し引いても、先ほどの弾幕勝負の腕前は見事なものだったわ。
 まあ、私も簡単なスペルカード1枚しか使っていないから負けたっていうのもあるけど。)

このバトルロワイヤルの打破を目指すには、十分な逸材だと判断したパチュリーだったが、
自分を襲った相手にどうしたものか、と考えていた瞬間。


「改めて謝るわ、パチュリー・ノーレッジ。―――この通りよ。」

夢美はパチュリーに向かって深々と頭を垂れた。
人にものを教える立場だけあってその振る舞いは綺麗なものだと、パチュリーは軽く感心した。



「明らかに私に非があるのは分かるけど、このバトルロワイヤルとかいうふざけた殺し合いを
 壊すために、力を貸してもらえないかしら?」
「貴方は叶えたい夢があるんでしょう?
 この殺し合いでそれを果たすつもりはないって約束できるのかしら?」

これはパチュリー自身気になっていたことだった。
優勝しさえすれば、夢美は最終的な目標である、魔法の会得は容易に叶うからである。

「私はあいつらに従わないし、私の夢も叶えてほしくないわ。」
「それはどうして?」


「こんな『夢』のない殺し合いを催した奴に私の『夢』を叶えさせてやるほど、私の『夢』は安くはないわ。
 それに、どんな力を使ったかは知らないけど、たとえそれが『統一原理』だろうが、
 私の大好きな『魔法』だろうが、こんなことに使う力なんてちっとも『素敵』じゃないからに決まってるじゃない!」

夢美は自分の正直な気持ちをはっきりと言い切った。

(自分の夢を叶えさせたくないからの反抗―――それがこいつの考えね。
 まったく・・・これで断ったら私が悪者みたいじゃないの。)

やれやれ、と思ったパチュリーは、両手を挙げて、降参だとアピールした。

「それじゃあ!」
「ええ、分かったわよ。貴方の力を利用させてもらうわね、岡崎夢美さん。」
パチュリーは妖しく微笑むと夢美の申し出を受け入れるのであった。



「いいいいいやったあああああああ!
 そうと決まったら、私のことは教授と呼んでもらえるかしら?
 それとそれと、ぜひ魔法の使い方を私に教えて! ねっ、ねっ!」



夢美の興奮と喜びように呆れながらパチュリーは口を開いた。

「教授って、貴方の愛称?」
「そう、そんなものよ、折角こうして一緒に戦線を張るんだからね!」
(一応この場がバトルロワイヤルだってことは分かってたみたいね…)

「悪いけど、いきなり知り合った相手に愛称で呼ぶつもりはないわ。
 それに、私から魔法を教わろうって立場なら、貴方のことを教授なんて呼ぶわけないでしょう?」

パチュリー自身愛称で呼んでいるのは吸血鬼のレミリア・スカーレットのみだったし
レミリアとは相当な付き合いだ。
対して夢美はたった今知り合っただけの仲、さらに教えてもらう側が『教授』とはおかしい、
と的を得た尤もな発言だった。
しかし、夢美は言葉に詰まるがすぐに発想を変えた。

「ふふん、その言葉は私に魔法を教えてくれるってことよね!
 そういうことなら仕方ないわね~。
 私のことは今まで通り呼んでもらって構わないからよろしくね♪」

パチュリーはハッとしたが、構うとますます泥沼になりそうだったので、
適当に相槌を打つ程度にした。

(本当にやれやれね、まぁ一人で行動してると悪い方に考えちゃうし、
 精々頑張ってもらいましょうか。)



こうして、とある世界の科学者と、幻想郷の魔法使いは手を組むこととなった。
科学者は己の夢のために、魔法使いは己の友のために、
 2人の結末はまだ神のみぞ知ることだろう。



【F-2・草原 / 深夜】
【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔館】
「状態」:疲労(小)、魔力消費(小)、頬に弾幕による掠り傷
「装備」:なし
「道具」:基本支給品、不明支給品(確認済み)
「思考・状況」
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:夢美を交えて支給品の確認、情報交換をする。
2:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
3:岡崎夢美の知識に興味。
「備考」
※参戦時期は少なくとも非想天測以降です。
※喘息の状態は普段と変わりありません。

【岡崎夢美@東方夢時空】
「状態」:疲労(小)、科学力消費(中)
「装備」:なし
「道具」:基本支給品、不明支給品(未確認)
「思考・状況」
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
1:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
2:ルールブックにあった神や妖怪に興味。
3:霧雨魔理沙、博麗霊夢って、あっちの世界であった奴だったけ?
4:私の大学の学生に宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンっていたかしら?
5:できれば、パチュリーを自分の世界へお持ち帰りしたい。
現在の状況での行動・思考の優先順位
「備考」
※参戦時期は東方夢時空終了後にもう一度学会に発表して、つまみ出された直後です。
※霧雨魔理沙、博麗霊夢に関しての記憶が少々曖昧になっています、きっかけがあれば何か思い出すかもしれません。
※宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※岡崎夢美はただの人間ですが、本人曰く『科学力』又は『疑似魔法』を使うことで弾幕を生み出すことができます。
※霧雨魔理沙の箒は夢美とパチュリーの近くに落ちています。

○霧雨魔理沙の箒
【出典:東方project】
岡崎夢美に支給。
霧雨魔理沙愛用の箒。
これに乗ればスタンドエネルギー、霊力、魔力などをもとに飛ぶことが可能になる。
魔理沙は異変解決の際にはあまり持ち出していないようだが、
それ以外の時はよくこの箒に乗って、暇つぶしになるものを探したり、泥棒の足として活用している。

032:1939年の泣けない波紋戦士 投下順 034:未来からの遺産
032:1939年の泣けない波紋戦士 時系列順 034:未来からの遺産
遊戯開始 パチュリー・ノーレッジ 068:ゆめみみっくす
遊戯開始 岡崎夢美 068:ゆめみみっくす
最終更新:2014年01月22日 01:06