「こ……これは……?一体どういうことなんだ……!?」
誰もいない暗闇の中、一人の青年の困惑した声が空気を波打たせた。
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地図上でいうところのA-2、草原や平原が広がり、わずかばかりの風が草木をゆらりと揺らし、
エリアの真ん中を横切るように流れる小川が見ようによってはどこかのどかで一瞬ここが殺し合いの場であることを忘れそうになる。
その場に転移されたのは、緑色の長ランに身を包み、特徴的な前髪をした青年────
花京院典明だ。
彼はこの場に転移された後、突然の事態に困惑しながらも冷静さを保ち、
自らのスタンド「ハイエロファントグリーン」で周囲に人影がないことを確認してから、現状を把握すべく己に支給されたデイバッグを調べた。
しかし、その中に入っていた名簿に載っている名により、彼の困惑は加速することになる。
そこには、過酷な50日間を共に過ごした仲間たちの名が刻まれていた。
空条承太郎、
ジョセフ・ジョースター、J・P・ポルナレフ……彼らもまた、この「殺し合い」に招かれていたのだ。
それだけではない、宿敵・DIOの名とその部下の名もある。
奴らがこの殺し合いに参加させられていることは不可解だったが、
わざわざ嘘の名簿を作成するメリットもない以上、これは真実と見ていいと判断した。
他にも気になる点はある。名簿内で嫌でも目に入る「ジョースター」「空条」「ブランドー」の性だ。
ジョースターや空条はジョセフ・承太郎それぞれの親類の者だとすれば納得できなくもない(それにしたってかなり怪しいものだが)。
DIOの名の隣に括弧で記述がある「
ディオ・ブランドー」とはおそらくDIOの本名なのだろう(何故本名が載っているのかはとりあえず保留にした)。
しかし同じ性を持つ「
ディエゴ・ブランドー」とは何者なのだろうか?まさか、自分たちの知らぬ奴の血縁者だとでもいうのか?
それらの疑問もあるが、今のこの状況では解決することは不可能だ。
それよりも重点を置くべき事柄は分かりきっている。花京院は己の行動方針を確定させた。
承太郎たちとの合流、DIOを倒したのち、二人の主催・荒木と太田に反抗、この殺し合いを破壊する……!
旅の目的である打倒DIOのことは承太郎の母・ホリィの命がかかっているため一刻も早く達成しなければならない。
しかしDIOもここに招かれているのならばあの二人は未だに解明しきれていないDIOのスタンド「世界(ザ・ワールド)」を越える、
もしくは抑え込むことのできる能力を持っているかもしれないのだ。放っておくわけにもいかない。
と、こうして考えながらも花京院はデイバッグの中身を確認する手を止めてはいなかった。
そしてその手には既にある物が握られている。
それは真ん中に穴の空いた円盤────DISCであった。
中に入っていた紙を開くと出てきたそれはただのDISCではない、とあるスタンドの能力によって作り出されたDISCだ。
そのDISCを片手に、花京院はわずかに驚いたかのような表情を浮かべている。
いや、正確にはDISCと共に入っていた説明書の内容に対して、であった。そこにはこう書かれている。
────空条承太郎の記憶DISC
そしていよいよ困惑は混乱へとシフトすることになる。
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「いやまて、落ち着くんだ……とにかく、整理してみよう」
『このDISCには空条承太郎の記憶が込められています。頭に挿入すると使用できます。』という旨の説明を確認した後、
半信半疑ながらもこれも何らかのスタンド能力によって生み出されたものなのだろうと推測した花京院は、
信頼する仲間の一人の記憶を見ると言うことに若干の抵抗はあったものの、
支給品として支給されているということはそれなりに重要なアイテムなのではないか? と思い至りそのDISCを使用することを決めたのだ。
しかし、その内容は花京院にとってあまりにも予想外すぎるものだった。
その結果発せられたのが冒頭の台詞である。
「空条承太郎……年齢は17歳の高校生、僕やジョースターさん、アヴドゥルとポルナレフ、
それにイギーと共にDIOを倒すべくエジプトのカイロを目指し、そしてとうとう奴の根城を突き止め乗り込もうとしていた……
確かに、ついさっきまで僕たちと一緒にいたはずだ………」
だのに、このDISCの記憶では────
「……彼は既に40歳手前、それに────妻子持ち(離婚済み)だと……?」
………………
違うッ!!そこじゃあないッ!!そうじゃあなくてだなッッ!!
勢いよく頭を振る、どうやら自分で思っているよりも混乱していたらしい。
パラリ、と再び名簿をめくる。
ジョセフ・ジョースターの隠し子、
東方仗助とその仲間たち。そして彼らに立ち塞がり死んだはずの殺人鬼、吉良吉影
DIOの息子、汐華初流乃…もとい
ジョルノ・ジョバァーナ
そして、空条承太郎の娘、
空条徐倫────
DISCの内容にもあったそれらの名は、確かに名簿にも記載されていた。
「このDISCの記憶がすべて真実かは解らない……
だが、少なくともカイロまでの50日間の記憶や、名簿の彼らの名と記憶の中にある名は一致する……」
手の込んだ偽装でなければ、このDISCの記憶は真実、つまり未来の承太郎の記憶ということになる。
そう、『今の』花京院にとっての未来
────DIOのスタンド能力を、自らの命と引き換えに解き明かすということさえも。
「…………そうか、僕はDIOに屈することなく、奴に立ち向かって死ぬのか」
花京院だけではない、イギーやアヴドゥルも────
同じ目的、そして志しを持った仲間の死の記憶に、花京院は息が詰まり、背中に鳥肌が立った。
承太郎が直接その場面を見たわけではないが、ジョセフやポルナレフがその後承太郎にいかに戦い、そして死んでいったのかを伝えたのだ。
強張った体から少しずつ力を抜き、ふっ、と無意識に小さく笑みを溢す。それは自虐による自嘲ではない。
むしろ胸中には「DIOのスタンド能力を明かしてやった」という誇らしさが渦巻いていた。
これからおこる事柄がどんなものであろうと、絶対に後悔しないと既に覚悟していたのだから────
きっとアヴドゥルとイギーも、後悔はなかったことだろう。
だが、仮にDISCの内容がすべて真実だとして、同時に幾つかの新たな疑問が浮かび上がる。
一つ、自分はDIOの館に乗り込む直前にここに呼び出された筈だが、このDISCは自分にとって未来の承太郎の記憶、
つまりDISCとの間にはかなりの時間の隔たりが存在している。これは一体どうゆうことなのか。
二つ、DISCの記憶ではとうに死んだはずの者が何故名簿に載っているのか、つまり何故生きているのか。
これはDIOや
吉良吉影という男、そして花京院自身にもあてはまることだ。……若干妙な気持ちではあるが。
三つ、名簿に承太郎やジョセフ、ポルナレフたちの名があるが、これは「いつ」の承太郎たちなのか。
DISCの記憶に従うならば承太郎は既に40手前の年齢になるのだが……
四つ、そもそもこのDISCを作り出したのは何者なのか。
目的は?まだ詳しくは見れてはいないが記憶によると、妙な模様のスタンドに攻撃されたのを最後にふっつりと記憶がとぎれてしまっている。
(ひょっとして荒木か太田のスタンドか?)
大まかな疑問は主にこれらだが、まだ次々と細かな疑問が浮かび上がる。
「今の時点で推測できることと言えば、荒木か太田、少なくともどちらかが時間に干渉する能力を持っている……?」
そう、それこそDIOのような「時を止める」スタンド能力のように、何らかの形で「時間を操る」能力を持っている可能性があるのだ。
それならば時間軸の違うDISCに関する疑問の幾つかに矛盾は無くなるのだが……。
「…いや、こんな情報が少ない中で答えを導き出そうとすればそれが先入観となりいらない思い込みをするようになるかもしれない。
それにまだDISCの内容がすべて真実だとは限らないんだ。今はまだ確かめる時期ではない…
この事実はとりあえず……僕の胸にだけ秘めておこう」
かぶりを振りながらそう判断した花京院は、先の展開が気になる推理小説を閉じるようにそっとあらゆる疑問を一塊にして胸の中にしまいこみ、
そこで考察は一旦打ち切りとした。
「今はとにかく何か動くにしても他の参加者との接触が必要だな……とはいえこんな状況だ、慎重にしなければ」
言いながら、一通り調べ終わったデイバッグを片手に持ちスッ……と静かに立ち上がる。
視線は既にある方向、具体的には北の方角へと注がれていた。
実はDISCの考察をしている時点で先程よりも広範囲に「ハイエロファントグリーン」を先行させており既に人影を探知していた。
「二人…か、接触するかしないかの判断には微妙なところだ…」
もし一人ならば例え殺し合いに乗っていたとしても撃退はできる。三人ならば少なくとも今は殺し合いには乗っていない可能性が高い。
しかし二人という中途半端な数が判断を揺らがせた。それに、二人の内どちらか、あるいは両方がスタンド使いという可能性もある。
二人と接触するか、しないか。それとももう少し周囲を注意深く観察してから事を決めるか。
花京院は思考の海を広げる。
「さて、どうする────?」
【A-2 草原/深夜】
【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、若干思考の混乱(回復中)
[装備]:なし
[道具]:空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部、不明支給品0~1(現実のもの、本人確認済み)
[思考・状況] 基本行動方針:承太郎らと合流し、荒木・太田に反抗する
1:「ハイエロファントグリーン」で確認した二人と接触する?しない?もう少し周囲を調べる?
2:承太郎、ジョセフ、ポルナレフたちと合流したい
3:このDISCの記憶は真実?嘘だとは思えないが……
4:3に確信を持ちたいため、できればDISCの記憶にある人物たちとも会ってみたい(ただし危険人物には要注意)
5:DISCの内容に関する疑問はあるが、ある程度情報が集まるまで今は極力考えないようにする
[備考]
※参戦時期はDIOの館に乗り込む直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部 を使用しました。
これにより第6部でホワイトスネイクに記憶を奪われるまでの承太郎の記憶を読み取りました。
が、DISCの内容すべてが真実かどうかについて確信は持ってません。
※荒木、もしくは太田に「時間に干渉する能力」があるかもしれないと推測していますが、あくまで推測止まりです。
※「ハイエロファントグリーン」を通じてA-1にいる
東風谷早苗、
プロシュートの二人を確認しました。
また少なくとも花京院の周囲数十m圏内には「ハイエロファントが確認できる限り」誰もいないようです。
(具体的にどのくらいの規模かは不明です。)
※制限の度合いは他の書き手さんにお任せします。
<空条承太郎の記憶DISC>
花京院典明に支給
ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャンにてホワイトスネイクの能力によって奪われた承太郎の記憶が込められたDISC、
頭に挿入することでその記憶を読み取る事ができる
最終更新:2014年01月22日 00:54