第062話 前途多難、支離滅裂そして会者定離 ◆z.M0DbQt/Q
あの……、こんばんは。
竜崎桜乃です。
今私は信じられないような事件に巻き込まれています。
大勢の人と一緒に誘拐されて、不思議なおじいさん達に「殺しあえ」って言われちゃったんです。
なんだか……嘘みたいでいまだに実感がありません。
……人が人を殺すことなんて本当に起きるのかな。
もちろんニュースとかでは毎日何人もの人の死を伝えているけど……私にとってそれはあまり身近なものではなくて。
だからこんな状況になっても、どこか落ち着いていられるのかもしれません。
ただいまの時刻は午前3時。
いつもだったら確実にベッドに入っているこの時間に、私はついさっき出会った男の人と一緒に見知らぬ道を歩いています。
男の人のお名前はファルコンさん。
本名は
伊集院隼人さんというのだそうです。
髪の毛のない坊主頭(自然なのか人工なのかは聞けませんでした)の、物凄く大きな人です。
「身長、何メートルくらいあるんですか?」と聞いてみたんですが、「知らん」とだけしか答えてくれませんでした。
後になって「普通身長って『何センチ』って聞くよね」と気がついたんですが、もう一度この話題を持ち出す勇気は出せませんでした。
気を悪くされていたらどうしようって、すごく心配です。
そうそう。ファルコンさん、目が悪いそうなんです。
あまり詳しくは教えてくれなかったんですけど、普通に生活する分には問題ないって言ってたので完全に見えないわけではないみたいです。
でも外灯もないこの道ではやっぱり名簿も地図も見づらいらしくて、私はファルコンさんの為に名簿を読み上げてあげました。
その結果、ファルコンさんの知り合いも3人、この島に連れてこられていることがわかりました。
冴羽さんと槇村さん。そして野上さん。
冴羽さんと槇村さんはコンビを組む「プロのスイーパー」なのだそうです。
野上さんは刑事さんだということでした。
刑事さんはわかるけど、「プロのスイーパー」っていうのがよくわかりません。
「お掃除屋さんですか?」と聞いてみたら「そんなもんだ」とファルコンさんは答えてくれました。
……やっぱり、よくわからない。
ファルコンさんは元「プロの傭兵」なのだそうですが……やっぱり私にはよく意味がわかりませんでした。
ヨウヘイさんってどんな職業なんでしょう
お返しっていうわけじゃないけど、私も自分の知り合いのことをファルコンさんに話しました。
リョーマくんに手塚部長、菊丸先輩のこと。
リョーマくんのことを話すときだけ力が入っちゃったのは大目に見てください。
ファルコンさんはテニスにはあまり興味がないみたいでちょっと残念です。
だって興味があったら絶対にリョーマくんのテニスを見て欲しいもん。
リョーマくんは、本当にすごいから。
手塚部長も菊丸先輩もすごくテニスが強いけれど、やっぱり私はリョーマくんのテニスに惹かれて仕方なくて。リョーマくんのテニスはいつだって負ける気なんか全然なくって、攻撃的で退くことを知らなくて。
引っ込み思案でドジで運動神経のない私にとって、そんなリョーマくんと彼のテニスは憧れの存在なんです。
彼のようになりたいだなんて、そんな大それたことは思わない。
せめて一歩だけでも彼に近づけたら、って。
歩幅があまりにも違うせいで大分先に行ってしまったファルコンさんを小走りで追いかけながら、私はリョーマくんのことを思い浮かべました。
……リョーマくんはどこにいるんだろう。
大事な全国大会の途中なのに、怪我とかしてないかな。……危ない目に、あってないかな。
私は幸い、初めて出会ったファルコンさんがいい人だったからこうして無事でいられるけど……。
え?ファルコンさんはいい人ですよ?
少なくとも私はそう思います。
今だってほら。
遅れた私を立ち止まって待ってくれているし。
それに……私だって、自分がどれだけ足手まといかわかってるんです。
なのにファルコンさんはこうして私を一緒に連れて行ってくれているんです。
私のあまりのトロさにイライラしているのにも関わらず、ファルコンさんはこうして待ってくれるんです。
見た目はちょっと……ううん、すごく怖いけど……本当は優しい人なんだと思います。
ファルコンさんは「このあのジジイ共をぶっ殺してやる」って言っています。
それはつまり、この殺し合いを終わらせてくれるってことですよね?
私……ファルコンさんを信じたい。
出会ったばかりの人を信じるなんて、きっとまた朋ちゃんには「だから桜乃はお人よしなのよ!」って怒られちゃうと思うけど……それでもやっぱり人を信じたいんです。
(……リョーマくん……)
お願い、無事でいて。
会いたい。だけどそれ以上に彼に無事でいて欲しい。
彼がテニスを失うようなことだけはあって欲しくない。
私はリョーマくんだどれだけテニスを好きか知っているから。
だから……何があっても、リョーマくんだけは無事でいて欲しい。
神様にそうお祈りしながら、私はまたファルコンさんを追いかけます。
リョーマくんのために今私が出来ることは、神様にお願いすることとこうやってファルコンさんを信じることだけだと思うから。
俺の名前は中田小兵二。
かの有名な小兵二軍団の初代総帥だ。
帝拳高校の番格でもある。
“殺人”を目撃してからの数時間、俺は走っては疲れて歩き、また走るという行動を繰り返している。
走る理由は、この状況への恐怖と、探し人に1分1秒でも早く再会するため。
(どこにいるんだ千秋ちゃんは!)
逸る心に反応して、動かす足も自然とスピードを増していく。
この殺し合いとか言うふざけたモンに乗ったヤローを見てしまったことも、俺の焦りに拍車をかけていた。
早く千秋ちゃんを見つけ出して守らないと、彼女まであんなヤローに襲われてしまいかねない。
(急げ急げ!)
共にここに囚われているらしい前田や中島、大場のことなどは知ったことではない。
川島なんか論外だ。
つーか……川島ってあの極東の川島じゃねーよな……?
下の名前なんか知らねぇからわからんが……。
とにかく千秋ちゃん。最優先は千秋ちゃんだ。
『ありがとう中田くん。中田くんて頼りがいがあるんだね。……かっこいいな』と言いながら俺の胸に飛び込んでくる千秋ちゃんを想像し、頬と足を緩ませていた俺の歩みが唐突に止まった。
視界に奇妙な物が入ったのだ。
数歩先の地面から明らかに植物ではない何かが生えている。
「なんだ?」
不思議に思い近づいてみて、ソレの正体に気がついた。
「夢か……?」
思わずそんな言葉が口から飛び出す。
いやだってありえねぇだろう、コレ。
つーか……もしかして誰かの罠か?!
慌てて近くの木に身を隠すも、ソレにも周囲にも何の変化もない。
キョロキョロと辺りを見回し、恐る恐るソレに近づく。
手がソレに触れても、状況は何も変わらない。
意を決して俺はソレを掘り出すことにした。
数分後に姿の全てを現したソレは、土まみれになってはいたがどうやら正常に動くようだ。
なぜコレがこんな所にあるのか。
あまりにも不自然な状況にいくつもの疑問と不安が沸くが、それらは俺の使命の前では些細なことだ。
俺の使命、それは。
「コレで千秋ちゃんを守る!!」
自分のすべきことは唯一つ。千秋ちゃんを守ること。
しっかりとソレ――――――恐らく機関銃とかいうやつだろう――――――を掴んだ俺は興奮する心のままに高笑いをする。
両手で抱えたそれは見た目どおりの重量だったが、それが逆に頼もしさを感じさせてくれた。
自身の支給品であったCD(タイトルは『なんかのさなぎ』であった)とは比べるまでもなく当たり武器だ。
「待っててくれ千秋ちゃん!」
再会したときの千秋ちゃんの笑顔を思い、浮かれる心のまま足を踏み出した俺は、はた、と立ち止まってしまった。
思いついてしまったのだ。
ここは一本道だ。
右手側は林で左手側は草っ原だから道はない。
ここに辿り着くまでに俺は誰一人にも会っていない……ということは……、この銃を埋めた人物はこの道を進んで行ったのではないか。
だが俺の来た道の先にはあの人を殺したガキがいるかもしれない。
この銃を手に入れた今、あのガキなんか恐れるに足りない……はずだが、やはり千秋ちゃんに会えるまで余計な危険は避けるべきだろう。
「クソッ……」
グズグズしてる暇なんかねーのに……!
こうしている間にも千秋ちゃんが……。
「……道は俺様の前に作られるものだ!!」
そう叫び、俺は右手側の林に入り込む。
走り出す俺の足は、心の内を反映してか、さっきまでよりもだいぶ軽くなっていた。
こんばんは。
たぶん10話くらいぶりに登場のピヨ彦です。
あ、いや、ピヨ彦ってもちろん本名じゃないですよ?
本名は
酒留清彦っていいます。
僕がピヨ彦って呼ばれているのにはあまり深くないわけがあるんですけど、今は結構大変な状況なのでその辺りは割愛させてください。
さて、ただ今の時刻は午前4時半。
突然ですが僕は今困っています。
この大掛かりな殺し合いを止めるために、僕は鈴音と一緒に学校へ向かっているんですが……道の脇にある林から突然男の子が出てきました。
ジャージを着て帽子を被った、中学生くらいの男の子です。
それがあまりに突然だったのと、この異常な状況のせいで僕達3人は思いっきり固まってしまいました。
もし出てきたのが銃を持った男とかだったら、僕も鈴音も違うリアクションの取り方があったんだけど……生憎、いや幸いこの子は手に何も持っていません。
それに明らかに僕よりも鈴音よりも幼いし、警戒ランク5ってとこかな。
最高レベルは10です。
それよりも、こういう時ってどうすればいいんでしょうね?
普通に挨拶すべきでしょうか?
ジャガーさんがこの場にいたらきっとわけわかんないこと言ってこの空気を吹き飛ばしてくれるんでしょうけど……生憎今は常識派な僕しかいません。
あ、でもハマーさんがいなくてよかったかも。
ハマーさんがいたらきっと、考えうる限り最悪な空気になってたでしょうから。
隣にいる鈴音も予想外の出来事にびっくりしてしまったのか、馬鹿みたいに口を開けっ放しにしてます。
「あは……あはは」
とりあえず意味もなく笑ってみました。
「…………」
……空気が重くなりました。(ガビーン)
「あ、あのっ!」
僕の独り相撲で少し力が抜けたのか、鈴音が口を開きました。
「あの、ね、私達、危ない人じゃないから!」
危ない人は大抵そう言うよね、と心の中で突っ込みましたがもちろん口には出しません。
短い付き合いながら、鈴音に激しく突っ込まれるのが簡単に予想できたからです。
「…………」
警戒しているのか、男の子は無言のままです。
帽子を深く被っていてあまり表情の読めない少年に、たたみかけるように僕も話し始めます。
「そうそう!僕達、人殺しとか全然考えてないし!」
あわあわと両手を振り敵意のないことを必死に示す僕に、鈴音も「うんうん」と同意してくれました。
「大体、こんなことになったからってすぐに人を殺すやつなんているわけないじゃない!ね、ピヨさん!」
鈴音の言葉に、今度は僕が大きく首を振って同意しました。
あの体育館みたいなところでは確かにちょっと怖そうな人たちもいたけど、無差別に人を殺す人なんてそうそういるわけないですよねぇ?
「……へぇ、そうなんだ」
やっと口を開いた男の子から出た言葉は、ものすっごく素っ気無いものでした。
ザクザクと草を踏み分けて、その男の子がアスファルトに出てきました。
「あのさ、聞きたいんだけど」
近づいてみてわかったんですが、結構小柄な子です。
鋭い瞳がちょっと印象的だと思いました。
「ラケットとボール、どこにあるか知らない?」
僕はこのとき気がつくべきだったんです。
自分の名前を名乗るよりも、僕達の名前を聞くよりも先にラケットとボールのことを聞いてきた彼の異常さに。
ごめんなさい、また竜崎桜乃です。
今の時間は午前4時半。
ファルコンさんと出会ってから2時間くらいが経とうとしています。
その間ずっと歩き続けていて、ちょっと疲れてきてしまいました。
テニス部に入って結構体力がついたような気がしていたのに情けないです。
でも、ファルコンさんにご迷惑をおかけしたくないので頑張ろうと思います。
遅れた私を、ファルコンさんがまた立ち止まって待ってくれています。
あれ?
私が追いついてもファルコンさんは止まったまま。
「どうしたんですか?」
息があがっているのを隠すために、妙な早口で私はファルコンさんに尋ねました。
「……こっちで本当に合っているのか?」
ファルコンさんが言っているのは道のことだと思います。
目が悪いファルコンさんは地図が読みづらいみたいなので、私がナビをしていたんです。
あ、言うのが遅れましたが、私達は今、鎌石村という所へ向かっています。
この私達を縛る首輪を解体する道具を探しに行くそうです。
そんなわけで私達は北へ向かっていたんですが……。
「……あれ?」
海、です。
私達は何故だか今、砂浜のすぐ側にいます。
「……私……もしかして……?」
「……間違えやがったな」
「ごっごめんなさい!!」
頭を勢いよく下げた拍子に跳ねたおさげがファルコンさんを殴ってしまい、私は泣きたい気分になりました。
こういうの、泣きっ面に蜂って言うんですよね?
恐る恐るファルコンさんを見上げても、何も言ってくれません。
怒ってるんでしょうか……?
「あそこに何か建物があるな」
「え?!」
予想外の言葉にびっくりしました。
慌ててファルコンさんの視線を辿ると、確かに小さな建物があります。
お寺……かな……?
えっと……お寺だとすると……。
「無学寺……かな……?」
距離から考えるとそんな気がします。
っていうか私……鎌石村とは真逆の方向へ進んできちゃったんだ……。
自分の方向音痴っぷりに物凄く落ち込みます。
ファルコンさんに迷惑をかけないようにしたいって思っていたのに早速こんなことしちゃうなんて……。
また恐る恐るファルコンさんの様子を窺うと、いつのまにか細長い串みたいな物を手に持っていました。
「それ……」
それは私にも見覚えがありました。
ファルコンさんが歩きながら裂いていた、扇子の骨です。
そうそう。ファルコンさんの支給品は扇子だったそうです。
「こんなモンでもないよりはマシだからな。……チッ、殺し合いって言うくらいなら銃の一つでも入れておけってんだ。気の利かないジジイ共め」
後半は、私じゃなくてあのおじいさん達に向かって言っているみたいです。
あ、え……と。それよりも。
「あ、あの。ファルコンさんは銃が欲しいんですか?」
私の質問に、ファルコンさんはかなり驚いたようです。
「当たり前だ。……持っているのか?」
「あ、あの……持っていたんです……っていうか持てなかったんです」
「は?」
ファルコンさんが思いっきり眉をしかめました。
怖いです……。
「あっあの、重くって……とてもじゃないけど持って歩けなくって……」
「まさか……」
「ファルコンさんが必要だなんて思わなくって……」
だって、あんな怖くて危ないもの、必要になるなんて思わなかったんです。
あんな物、テレビでだったあまり見たことないのに……。
「危ないって思って埋めてきちゃったんです!!ごめんなさい!!」
そっか。
ファルコンさんは目が悪いから、私の手と制服が土で汚れてしまっていることに気がつかなかったんだ。
私に支給された“イングラム”という銃はとても大きくて重くて、私には持ち歩くのは大変で。
でも危ない物だから頑張って近くにあった木の根元に植えてきたんです。
ファルコンさんと出会ったのはそれから2時間後くらいで、私が起きた場所からはちょっと離れていて。
色々びっくりすることがたくさんあったから今までお話しするのをすっかり忘れてしまっていました。
あ、今はそんなことに感心してる場合じゃなくて。
俯いた視線を恐る恐る上げると、ファルコンさんの頭が天辺から首まで一気に赤く染まっていくのが見えました。
こ、これって絶対……怒ってますよね……?
泣きっ面に蜂どころではありません。
絶体絶命……前途多難?ああもうどうしよう!
私が置いてきた大きな銃がもうすでに人の手に渡ってしまっているなんてことは、もちろんこの時点の私とファルコンさんには知りようもないことでした。
こんばんは!鈴音でっす!
あたしとピヨさんが出会った男の子は、「
越前リョーマ」くんっていうんだそうです。
なんて呼んだら呼びやすいだろ。
リョーちん?越前の方から連想して…………蟹?いやいやまさかそんな風に呼べるわけないって!
うーん、でもあだ名なんかで呼ばせてくれなさそうな雰囲気満々だなぁ、この子。
なんかスかした感じのこの越前くんは、テニスラケットとボールを捜すために学校へ向かってる最中だったんだって。
目的地が同じだってことで一緒に学校へ向かうことになったんだけど、あたし、本当は越前くんにはここで待っててもらいたかった。
だって、これから学校にいるあのおじいさん達をやっつけに行くんだよ?
遊びじゃなくって本気で危ないんだよ?
そんなとこに中学生を連れて行くのはちょっと気が引けたんだ。
それに話を聞いてみたところ、越前くんはテニスの全国大会の途中なんだって。
デビルバッツ盛り上げ隊長のあたしとしては、がんばってるスポーツ選手に怪我なんてしてほしくないし。
でもあたしがそう言っても越前くんは頑として学校へ行くと言ってきかなかった。
頑固でかわいくないけど……テニスが好きなんだなぁってことが伝わってきたからよしとしよう。
ってことで、あたし達は連れ立って学校へと向かっているんだけど……。
危険っていうのは、唐突にやってくるもんなんだ。
一本道の向こうから誰か走ってくる。
しかもその手には大きな銃がある。
「どうしようピヨさん!」
「どうしようって言われても……隠れる場所もないし…………あ」
ピヨさんの最後の「あ」は隠れ場所を発見した「あ」じゃなくって、向こうから来た誰かに気がつかれた「あ」。
あたし達も驚いたけど、向こうもかなり驚いたみたい。
変な頭のその人は、アホみたいに口を開けっ放しだ。
さっき越前くんと出会ったときみたいに、みんなどう動いていいかわからなくて固まっちゃってる。
どのくらい沈黙が続いたんだろう。
それを破ったのは、向こうの方だった。
「テ、テメェ……!」
なんだか変な頭の人は物凄く驚いてるみたい。
一体なんでだろう?
「やっぱりテメェはさっきの……。な、仲間がいやがったのか……!だ、だがしかし!ここであったが100年目だ!この小兵二軍団初代総帥、中田小兵二様がオマエにじきじきにお仕置きをくれてやろう!!」
「…………」
あまりにも相手の言っている意味が不明で、あたしもピヨさんも呆気に取られるしかできない。
てゆーか……この人、かなりヤバイ人?!
銃を持つあたしの右手に、無意識に力が入る。
い、いざとなったら……これを使わなきゃダメ……なんだよね?
しっかりして!って自分に言い聞かせるけど、やっぱりどうしても手の震えは収まらない。
チラッてピヨさんを見ると。
「……なんかハマーさんっぽい……」
そんなことを呟きながら、なぜかひどく疲れたように肩を落としていた。
なんかちょっと落ち込んでる気がするんだけど……あたしの気のせいかな?
越前くんはあたし達の後ろにいるからどんな様子かはわからない。
「覚悟しろ!!」
ちょ、ちょっと待って!!
覚悟って何の覚悟よ?!
「ア……アンタ、こんなことしていいと思ってるの?!」
しっかりと大きな銃口をこっちに向けた男に向かって叫ぶ。
こんな変な人にこんな所で殺されるなんて絶対嫌だ!!
「そ、そうですよ!まずは話し合いを……」
震える声を絞り出すようにピヨさんも男に話しかける。
でも。
「問答無用!!貴様達は千秋ちゃんにとって害になりかねん!……だが安心しろ。殺しはせん。オレは心が広い。お前達が悔い改めて小兵二軍団に入るというのなら見逃してやっても……」
「こ、殺さない……?本当に?!」
男の言葉の中に安心できる単語を見つけて、ほっと一息つこうと思ったとき。
「……信用できるわけないじゃん」
越前くんがはっきりとした声を放った。
「この状況でいきなりそんな物を向けてくる人のことなんて、信用できるわけないじゃん」
「越前くん……」
「信用して欲しいなら、ソレ地面に置いてよ」
「何ぃ?!」
越前くんの言葉に、その男だけじゃなくってあたしもピヨさんもすっごく驚いていた。
って!いやいや!驚いてる場合じゃないって!
そうだよね、越前くんの言うとおりだよね。
こんな状況だもん。悲しいことだけど……簡単に人を信用しちゃいけないんだ。
「言うとおりにして!」
ぐっとおなかに力を入れて男を睨みつける。
しっかりと前に向けた銃を持つあたしの手は、もう震えてはいなかった。
俺だ。小兵二だ。
まったくわけがわからんが、なんとなく俺は今ピンチのような気がする。
目の前にはひょろい男と小柄な女とガキ。
あのガキには見覚えがあった。
いや、見覚えがあるどころじゃねぇ。絶対に忘れないだろう。
崖から人を突き落とした、あのガキだ。
あまりにやべぇ出来事に逃げ出し……いや、戦略的撤退をしたはずだったのに皮肉にも再会する羽目になっちまった。
再会したとことろで、あんな簡単に人を殺すヤツをどうしたらいいのかわかるわけねぇだろ。
しかもヤツには仲間がいたらしい。
勢いで「悔い改めるなら軍団に入れてやっても」と言ってみたが、こんなやべぇヤツ入れるわけねぇだろうが。しかもなぜだがよくわからんが「銃を置かないと撃つ」と俺が脅されている。
なぜこんなことになっているんだ。
も、もしかして……俺が悪者にされているのか?!
どう考えても一番ヤベェのはそのガキだろうが!
「早くして!!」
女が叫ぶ。
「うぐ……」
な、なぜ俺がこんな目に……。
……お、脅すだけだ。俺は人殺しなんかしたいわけじない。脅すだけだ。
ちょっとびびらせておとなしくさせれば、オレの話も聞くだろう。
そうすればそのガキがヤバいってことはわかるはずだ。
そう自分を納得させ、俺はもう一度銃を持ち直した。
狙うのはあいつらの手前の地面だ。
当てるわけじゃねぇ。
よ、よし!いけ!
意を決して引き金をひく。
途端、想像していたよりも軽い連続音が響き渡った。
「きゃあああああああああああああああ!!」
「うわっ!!」
重なるようにしてあがる悲鳴に、恐る恐る目をあける。
……恐怖で目を瞑ってしまったわけじゃねぇぞ。あれだ、土が目に入っただけだ。
俺の数メートル先の地面には、抉られたような跡。
薄くなる土煙の中、走り去っていく人の後姿が見える。
「な……?!ちょ、ちょっと待て!!」
クソッ、このまま逃がしたら俺が悪者のままじゃねぇか!
それにあのガキはやべぇんだ。
と、とにかく追うしかねぇ!
銃を抱えなおすと、俺はなんとなくヤツらが逃げていったと思われる方向へと走り出す。
その方向が全くの見当違いだとわかるのは、それから数10分後だったわけなのだが。
もっかい鈴音です!
今、めちゃめちゃ全力疾走中の取り込み中!
とにかくあの変な男から少しでも遠くに逃げなきゃ!
そうしてどのくらい走ったんだろう。
気がつくと、あたしは越前くんと2人だけになっていた。
「ピヨさんは……?」
「わかんない。……ねぇ、学校ってあれ?」
ピヨさんの行方を心配しつつ越前くんが指差すほうに視線を向けると、見覚えのある建物がある。
「……うん」
ゴクリと喉が鳴る。
時間を確認すると、午前5時すぎ。
もう少ししたら香さん達がここに来てくれるはずだ。
ピヨさんも走っていたのは確かだから怪我とかはしてないと思うし、待ってればここに来てくれるはず。
「もうちょっと近づいてみようか」
あたしの言葉に、越前くんは無言で頷いた。
銃を持つ手に無意識に力がこもる。
ゆっくりと学校に近づくと、校門がしっかり閉められていて『DANGER 禁止エリア』の張り紙がベタベタと張ってある。
「やっぱりまだ明かりは点いてる……って!越前くん!何してるの?!」
あたしが校舎を観察している間に、越前くんはびっくりするような行動を起こしていた。
越前くんが張られた紙を破りながら、校門を開こうとしている。
いや、もう開いちゃっているよ!
「だってラケットがあるとしたら中でしょ?」
「で、でも!危ないんだよ?!」
数時間前にピヨさんと来たときにあのおじいさんと大勢の兵士が来たことを思い出す。
それにここを襲撃するなら、なるべく気づかれずに中に入ったほうがいいはずだし。
越前くんにはもう一回注意しておかなきゃ。
「……禁止エリアってさ……本当に中に入るとコレ、爆発すると思う?」
そう言って越前くんが指差したのは私達の首に巻かれているやっかいな物。
確かにあのおじいさん達は「禁止エリアに入ると爆発する」って言ってたけど……どうなんだろう。
6時間ごとに増えるって言ってたけど、この学校はもう禁止エリアなのかな。
だとしたら、香さん達がきてここに攻めようとしても入った途端に首輪が爆発しちゃう……?
その様子を想像して、背筋がぞっとする。
少しだけ開いた門を前にして、越前くんも難しい顔をしている。
「と、とにかく!ここでみんなが来るの待ってよう!」
嫌な想像を頭から振り切って、わざと明るい声をだす。
「ピヨさんどこ行っちゃったんだろう……。大丈夫かな……」
「…………」
怪我してないといいけど……。
さっきのあの男、やっぱり悪いヤツだったんだ。
こっちに来てないってことはピヨさんを追いかけて行っちゃったのかな。
ピヨさんお願いだから無事でいてね……!
あたしはピヨさんとか香さんとか……いい人にしか出会ってないからあまり実感なかったんだけど……やっぱりこの殺し合いに乗っちゃう人もいるんだ……。
なんかショックだよ。
それに、今まであまり思い出さないようにしてたけど……セナと妖にぃはどうしたんだろう。
無事でいるのかな。
怪我とかしてないかな。
……あー!ダメダメ!!
こうやって下向いてると悪いことしか考えないもん!下向いちゃダメだよあたし!
もっと違うこと考えなきゃ!
「ね、越前く……」
「実験してみる?」
口を開いたのは同時だった。
顔を上げて越前くんのほうを向こうとしたときに、額にガン、と何かが当たる。
目の前がチカチカして、あたしは何が起きたのかすぐには理解できなかった。
ドン、と強く肩を押されて体がよろける。
よたよたと数歩移動したときに、ガラガラと鈍い音が聞こえた。
「な……に……?」
グラグラする頭を押さえて視線を上げると、さっきまで開いていた校門がピッタリと閉じるところだった。
閉じた校門の向こうには越前くんがいる。
「越前……くん……?」
何が起きたのかわからない。
額から流れ出て血が視界をぼやかして、頭まで上手く働かない。
なんでこんなに頭が痛いんだろう。
それに、なんで門の向こう側に越前くんがいるんだろう。
「越前くん?危ないよ?」
「お姉さんがね」
返ってきた言葉に、ふらふらする頭を必死に回す。
私の後ろには校舎。
私と校舎の間にあったはずの黒い門が今は影も形もない。
これって……これってまさか。
ピ
すぐ近くで、目覚まし時計に似た音がする。
「あぁ、実験失敗だね」
校門の向こうで、帽子のつばをあげた越前くんが笑う。
彼の手になぜフライパンがあるのか、なんであたしがここにいるのか。
疑問が確信に変わり、あたしは頭が真っ白になる。
ピピピ
音は止まない。音が続く。
私のすぐ近く。耳の近く。私の首から音が鳴る。
首輪が、鳴る。
ピピピピピピピピピピピピピ
「……や……いや……いやあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
必死で校門にしがみつく。
よろけて真っ直ぐ走れなかったけど、どうにか門を掴み、揺さぶる。
でも門はびくともしない。
向こう側にいる越前くんが押さえてるんだって気がついて、あたしの目から涙が溢れ出す。
血と合わさった涙が頬をつたい、あたしの腕に落ちていく。
「開けて……」
冷たい金属の柵の向こうで、越前くんはただ肩をすくめて見せた。
「いや……いや……!開けて!開けて!開けてええええええ――――――――――――!!」
門は動かない。
越前くんは答えない。
そして。
ピピピピピ――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
その音が止んだ。
ピヨです。
あ、じゃなくってピヨ彦です。
いや、本当はピヨ彦でもないんだけど……もういいです。
突然変な人に銃で撃たれそうになって無我夢中で逃げているうちに、僕はいつのまにか一人になってしまっていました。
え……と正確には一人じゃなかったりします。
一難去ってまた一難ってヤツです。
僕の目の前には、さっきの人とは違う変な人がいます。
いや、変って言っても忍者服を着ているとかそういうんじゃないんだけど……。
「誰じゃ?!」
と、殿様?!この人殿様口調だ――――――!!
「あ、あの……ここ、どこですかね……?はは……」
いくら混乱してたとはいえ何聞いてんだ僕――――――!
僕の間抜けな質問に、その人は胸を張って大きな笑い声をたてました。
あれ?もしかしてここがどこか知ってるのかな?
「知らん!」
「おおーい!!」(ガビーン)
な、何この人?!なんなの?!
「知らないのに何でそんな自信満々なの?!ていうかあの笑いは何だったの?!」
「意味などない!」(キッパリ)
こ、この人……変な人だ――――――!!
ど、どうしよう。
ダメだよ絶対やばいよこの人。関わらないほうがいいよ。
に、逃げよう!
「そ、そうですよね……。あははは……。それじゃあ僕はこれで……」
「待て!!」
ドキーン!
「は、はい……?ななななんですか……?」
ギギギ……って妙な音をたてながら恐る恐る振り向くと、その人は満面の笑みでこっちを見ていた。
「俺様の名を教えてやる!」
「え……え?べ、別に……」
「俺様は、無敵の男!日々野晴矢様じゃ!!」
普通の人は自分のことを「無敵」だなんて言いませんよ……ね?
いや、その前に僕、名前なんて聞いてないんだけど……。
あまりにあまりな状況に突っ込むことも忘れて、僕は呆然とその人を見つめることしか出来ませんでした。
どーも。俺は青学1年、越前リョーマ。
ただ今バトルロワイアルの真っ最中ってヤツ。
「あっけないね」
首から上がなくなったお姉さんの体がピクリとも動かなくなったのを見て、俺は小さく肩をすくめた。
さっきまではあんなに元気だったのに……ほんとにあっけない。
まぁ、どうでもいいけどさ。
「あるとしたらここだと思ったんだけど……」
ここに入ったらこうなっちゃうみたいだし、仕方ないか。
他を探そう。
ここには入れないってわかっただけでも収穫だし。
あ、と。もう一個収穫があったっけ。
さっきのお姉さんが落としてくれたこの銃。
食料とかはお姉さんが向こう側にもっていっちゃったけど、これがあればちょっとは楽そうだよね。
「次は……っと」
ラケットがあるとしたらどこだろう。
ここがダメだとすると……人の家かもしくはこの分校跡ってところか。
いずれにしてもここでボケッとしてることはない。
「……まだまだだね」
避けたつもりだったのに少しだけ被ってしまったお姉さんの血を袖で拭い、俺はまた歩き出す。
振り返ることなんてしない。時間の無駄だし。
「俺は負けない」
コートでも、ここでも。
だって。
「勝つのは――――――俺だ」
そう決まっているんだから。
【F-09/無学寺近くの車道/一日目・午前4時半】
【男子02番 伊集院隼人@CITY HUNTER】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式、扇子の骨@ヒカルの碁
思考:1.色々腹が立っている
2.首輪を外す道具を探すため、鎌石村に向かう
3.主催者達への怒り
【女子17番 竜崎桜乃@テニスの王子様】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式
思考:1.ごめんなさい……
2.リョーマが無事であればいい
3.ファルコンさんについていく
【備考】
1.桜乃は海坊主が盲目なことに気がついていません(少し目が悪い程度だと思っています)。
【E-07/道/一日目・午前5時】
【男子26番
中田小平次@ろくでなしBLUES】
[状態]:健康
[装備]:イングラムM10(桜乃の支給品)
[道具]:支給品一式、CD『なんかのさなぎ』
[思考]:1.とりあえず逃げたヤツらを追う
2.千秋を探す
【備考】
1.イングラムの残弾は次の方におまかせします。
【C-05/車道/一日目・午前5時】
【男子15番 酒留清彦@ピューと吹く!ジャガー】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式 釘バット@Mr.FULLSWING
思考:1.呆然
2.鈴音と越前はどこ?
3.ジャガー、高菜、鈴音の知り合い、あといついでにハマーと合流
4.学校へ行き、香達を待ち可能なら襲撃
【男子28番 日々野晴矢@BOY】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式
思考:1.春香を探す。
2.一条、伊部を探す。(1のついでに見つかると思っている)
3.クソジジィ達(主催者)を倒して生還する。
【D-06/鎌石小中学校前/午前5時】
【男子05番 越前リョーマ@テニスの王子様】
状態:健康
装備:フライパン@BOY、SW M19(弾数6/予備弾24)@CITY HUNTER
道具:支給品一式×2、手錠@DEATH NOTE
思考:1.手塚と試合がしたい
2.1のためにテニスラケットとテニスボールを捜す
3.平瀬村分校跡に向かう
4.優勝して生き残る
【備考】
1.鈴音の荷物は、鈴音の遺体の側に転がっています。
最終更新:2008年03月11日 03:30