第015話 ボス猿、始動 ◆jKyibSnggE


バスケットボールの籠に詰め込まれた赤木の死体。
「あ、赤木…」
魚住はライバルだった赤木剛憲の変わり果てた姿を見つめていた。
ライバルとして何度も戦ってきたその姿、その顔…見間違えるはずもなかった。

「……嘘……でしょ……?…おにい……ちゃん……?……いやあああぁぁぁぁ!!!」
悲鳴が上がる。
それに続いて、あちこちで安西たちを非難する声が上がる。
そんな中で魚住は、声を上げることができないでいた。
赤木の死にショックを受けていたせいもあるが、まさかあの安西が赤木を殺すとは信じられなかったから。
『ホッホッ、よろしく魚住君』
湘北と練習試合をした時の、人の良い笑顔。
あの笑顔と、今目の前にいる安西の顔はどこも変わりがないように思えた。
「(安西先生…ヤツは、赤木は…あなたの大事な選手ではなかったのですか!)」

銃撃。
それは天井への威嚇射撃だったが、多くの者がとっさにその場に伏せて身を守ろうとした。
その中で、魚住は微動だにせずに安西を見据えていた。
彼の中の激しい怒りが、安西から目をそらすことを許さなかったのである。
「……赤木君は今回のことに反対してね。仕方ないので殺してしまいました」
何の感情もこもっていないその言葉。
「私も本当は殺したくはなかったんですがね。あんまり五月蝿く反対するものだから……つい……ほっ」
ただのバスケットボールを扱うかのように、かつての教え子の頭部をシュートする姿。
それら全てが魚住にとって許しがたかった。
すぐにでも立ち上がって安西に詰め寄り、問い詰め、怒りをぶつけたかった。
だが、周囲にいる銃を持った男たちの存在がそれを許さない。
魚住がいくら頭に血が上りやすいとは言え、そのくらいのことは理解できた。
そのうちに説明が終わり、気づいた時には激しい眠気が彼を襲っていた。


気がつくと、魚住は観音堂の中に倒れていた。
「酷い夢だったな。……っ!これは…首輪?」
首に手をやると、そこには『首輪』らしきモノの感触がある。
そして、目の前にはデイパックがひとつ転がっていて…
「夢じゃ…なかったのか…?」
赤木の無残な死体が、うつろな表情をした赤木の顔が、目の前に浮かぶ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
思わず魚住は吠えていた。
吠えながら観音堂の扉を開け放ち、外へ駆け出す。
境内に生えていた大木に駆け寄ると、魚住はそこに何度も頭突きをした。

赤木とのゴール下の争い。
赤木のはえたたき。
赤木の強烈な(ゴリラ)ダンク。
赤木はライバルだった…いや、魚住は赤木が自分よりも格上の存在であると確信していた。
その赤木が、好敵手として尊敬していたと言ってもいい赤木が。
最も信頼していたであろう安西の手で殺され、無残な姿を晒した。
「うがあああああああああああ!!!」
魚住の額からは血が滴り落ち、境内の石畳を赤黒く染める。

「…………はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
しばらく頭突きを続けていた魚住は、やがて大木の前に座り込んでいた。
顔面は血で染まっている。
「赤木…さぞ無念だっただろう……」
仇を討つなどと言うつもりはないが、赤木のために何かしてやらなければならない。
「赤木のため…赤木の……」
しばらく考え込んでいた魚住は、ある考えに至る。
「赤木がもし生きていたなら、キャプテンとして、湘北のメンバーを身体を張ってでも守ろうとしただろうな…
 そう、この『殺し合い』とやらに反対したように…」
顔面の血を拭い、魚住は立ち上がった。
「俺が赤木の代わりに湘北の奴らを守るなどと思い上がったことは言わんが…少しでも手助けができれば…」
何もできずに見殺しにしてしまった赤木に対して少しは顔向けができる、魚住はそう思った。

デイパックから取り出した大振りな鉈を手に持って、魚住は街道を西へと歩いていた。
とにかく湘北のメンバーを見つけて、少しでもその手助けをするしかない。
そう硬く決心していた魚住。
…だが、彼は赤木の死でかなり気持ちが高ぶっていたのだろう。
参加者名簿の中に顧問である『田岡茂一』の名前があることに気づいていなかった。
さらに、興奮に気を荒げ、額から血を流しながら大鉈を握り締めて歩いているその姿…。
どこから見ても殺人者にしか見えない自身の姿を、魚住は客観的に見る余裕が無かった。
冷静さを欠いた状態で、彼がどこまで無事でいられるのか…それは誰にも判らない。


【C-05/街道/1日目・午前1時ごろ】

【男子4番 魚住純@SLAM DUNK】
状態:額に怪我 かなりの興奮状態
装備:大きめの鉈
道具:支給品一式
思考:1.赤木に代わって湘北メンバーの手助けをする




初登場 魚住純 彷徨い人

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最終更新:2008年02月11日 22:46