古事記【原文】 |
古事記【現代語】 |
日本書紀【現代語】 |
日本書紀【原文】 |
備考 |
故於是、速須佐之男命 言 |
そこで速須佐之男命は、 |
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「然者、請天照大御神 、將罷。」 |
「それなら天照大御神に申しあげて黄泉の国 に行きましょう。」 |
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乃參上天時、山川悉動 、國土皆震。 |
と仰せられて天にお上りになる時に、山や川 が悉く鳴り騷ぎ国土が皆振動しました。 |
素戔嗚尊が天に昇られる時、大海も轟き渡り 、山岳も鳴り響いた。これはその性質が猛々 しいからである。 |
始、素戔嗚尊昇天之時 、溟渤以之鼓盪、山岳 爲之鳴呴、此則神性雄 健使之然也。 |
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爾天照大御神、聞驚而 詔 |
天照大御神が驚かれて、 |
天照大神は、もとから素戔嗚尊が荒く良から ぬことをご存じであったため、やってくる様 子をごらんになると、顔色を変えて驚かれ、 |
天照大神、素知其神暴 惡、至聞來詣之狀、乃 勃然而驚曰 |
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「我那勢命之上來由者 、必不善心。欲奪我國 耳。」 |
「わたしの弟が立派な心で天に上ってくると は思えない。私の国を奪おうと思っているの だろう。」と仰せられて、 |
「我が弟がやってくるのは、きっと善い心で はないだろう。思うに、きっと国を奪おうと する志があるのだろう。父母はそれぞれの子 供たちに命じて、それぞれの境界を設けられ た。なぜ自分の行くべき国を棄てておいて、 わざわざこんな所に来るのか」 |
「吾弟之來、豈以善意 乎。謂當有奪國之志歟 。夫父母既任諸子各有 其境、如何棄置當就之 國而敢窺窬此處乎」 |
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卽解御髮、纒御美豆羅 而、乃於左右御美豆羅 、亦於御𦆅、亦於左 右右御手、 |
髮を解き、左右に分けて耳のところに輪に巻 いて、その左右の髮の輪にも、頭に載せた鬘 にも、左右の御手にも、 |
と言われ、髮を結いあげて角髪とし、裾をか らげて袴とし、 |
乃結髮爲髻、縛裳爲袴 、 |
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各纒持八尺勾璁之五百 津之美須麻流之珠而自 美至流四字以音、下效 此、曾毘良邇者、負千 入之靫訓入云能理、下 效此。 |
皆大きな勾玉の沢山ついている玉の緒を纏き 持たれて、背には矢が千本も入る靱を負われ 、 |
大きな玉をたくさん緒に貫いたものを、髪や 腕に巻きつけ、背には矢入れ、 |
便以八坂瓊之五百箇御 統御統、此云美須磨屢 纒其髻鬘及腕、又背負 千箭之靫千箭、此云知 能梨 |
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自曾至邇以音、比良邇 者、附五百入之靫、亦 所取佩伊都此二字以音 之竹鞆而、弓腹振立而 、堅庭者、於向股蹈那 豆美三字以音、 |
胸にも五百本入りの靱をつけ、また威勢のよ い音を立てる鞆をお帯びになり、弓を振り立 てて力強く大庭をお踏みつけになり、 |
腕には立派な高鞆もをつけ、弓弭を振り立て 、剣の柄を握りしめ、地面をも踏みぬいて、 |
與五百箭之靫、臂著稜 威之高鞆稜威、此云伊 都振起弓彇、急握劒柄 、蹈堅庭而陷股、 |
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如沫雪蹶散而、伊都二 字以音之男建訓建云多 祁夫蹈建而待問 |
泡雪のように大地を蹴散らかして勢いよく叫 びの声を挙げ、 |
土を雪のように踏み散らし、勇猛な振舞いと 厳しい言葉で、 |
若沫雪以蹴散蹴散、此 云倶穢簸邏邏箇須、奮 稜威之雄誥雄誥、此云 鳥多稽眉、發稜威之嘖 讓嘖讓、此云舉廬毗、 |
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「何故上來。」 |
「どういうわけで上って来たのか。」とお尋 ねになりました。 |
素戔嗚尊を激しく詰問された。 |
而俓詰問焉。 |
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爾速須佐之男命答白 |
そこで速須佐之男命は、 |
素戔嗚尊は、 |
素戔嗚尊對曰 |
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「僕者無邪心、唯大御 神之命以、問賜僕之哭 伊佐知流之事。故、白 都良久三字以音、僕欲 往妣國以哭。爾大御神 詔、爾大御神詔、汝者 不可在此國而、神夜良 比夜良比賜。故、以爲 請將罷往之狀、參上耳 。無異心。」 |
「私に邪心はありません。ただ父上に、私は 母上の国に行きたいと思って泣いております と申し上げたところ、父上に追い払われまし たのでお別れの挨拶に参りました。変な考え は持っておりません。」と答えました。 |
「私は始めから汚い心はありませぬ。父母の 厳命があって、まっすぐ根の国に行くつもり です。ただ、姉上にお目にかかりたかっただ けです。それで雲霧を踏み分けて、遠くから やってきました。姉上の厳しいお顔にお会い するとは、これは思いがけないことです」と 言った。 |
「吾元無黑心。但父母 已有嚴勅、將永就乎根 國。如不與姉相見、吾 何能敢去。是以、跋渉 雲霧、遠自來參。不意 、阿姉翻起嚴顏。」 |
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爾天照大御神詔「然者 、汝心之淸明、何以知 。」 |
そこで天照大御神は、「あなたの心の正しい ことはどうしたらわかるでしよう。」と問わ れたので、 |
すると、天照大神がまた尋ねられた。「もし それなら、お前の赤い心を何で証明するのか 」 |
于時、天照大神復問曰 「若然者、將何以明爾 之赤心也。」 |
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於是、速須佐之男命答 白「各宇氣比而生子。 」自宇以下三字以音、 下效此。 |
速須佐之男命は、「誓約を立てて子を生みま しょう。」と申されました。 |
素戔嗚尊は答えた。「どうか姉上と共に誓約 しましょう。誓約により、必ず子を生むこと を入れましょう。もし私の生んだのが女だっ たら、汚い心があると思って下さい。もし男 だったら清い心であるとして下さい。」 |
對曰「請與姉共誓。夫 誓約之中誓約之中、此 云宇氣譬能美儺箇必當 生子。如吾所生是女者 則可以爲有濁心、若是 男者則可以爲有淸心。 」 |
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故爾各中置天安河而、 宇氣布時、天照大御神 、先乞度建速須佐之男 命所佩十拳劒、打折三 段而、 |
よって天安河で向かい合い、誓約を立てる時 に、天照大御神はまず速須佐之男命の長い剣 をお取りになって、それを三つに折り、 |
そこで天照大神は、素戔嗚尊の十握剣を借り て三つに折って、 |
於是、天照大神、乃索 取素戔嗚尊十握劒、打 折爲三段、 |
十握剣 └宮崎県:東霧島神社 |
奴那登母母由良邇此八 字以音、下效此振滌天 之眞名井而、佐賀美邇 迦美而自佐下六字以音 、下效此、於吹棄氣吹 之狹霧所成神御名、 |
音もさらさらと天の眞名井の水で滌いで噛み に噛んで吹き棄てる息の霧の中から現れた神 様は、 |
天の真名井で振り濯いで、カリカリと嚙んで 吹き出し、その細かい霧から生まれ出た神を 、 |
濯於天眞名井、𪗾然咀 咀嚼𪗾然咀嚼、此云 佐我彌爾加武而吹棄氣 噴之狹霧吹棄氣噴之狹 霧、此云浮枳于都屢伊 浮岐能佐擬理所生神、 |
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多紀理毘賣命此神名以 音、亦御名、謂奧津嶋 比賣命。次市寸嶋上比 賣命、亦御名、謂狹依 毘賣命。次多岐都比賣 命。三柱、此神名以音 。 |
多紀理毘売命(奧津嶋比売命)でした。次に 市寸嶋上比売(狹依毘売命)、次に多岐都比 売命のお三方が現れました。 |
名づけて田心姫といった。次に湍津姫。次に 市杵嶋姫。全部で三神である。 |
號曰田心姬。次湍津姬 、次市杵嶋姬、凡三女 矣。 |
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速須佐之男命、乞度天 照大御神所纒左御美豆 良八尺勾璁之五百津之 美須麻流珠而、 |
次に速須佐之男命が天照大御神の左の御髮に 纏いておいでになった大きな勾玉の沢山つい ている玉の緒をお請けし、 |
素戔嗚尊は、天照大神が角髪と腕に巻いてい た、八坂瓊の五百箇の御統を乞われて、 |
既而、素戔嗚尊、乞取 天照大神髻鬘及腕所纒 八坂瓊之五百箇御統、 |
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奴那登母母由良爾、振 滌天之眞名井而、佐賀 美邇迦美而、 |
音もさらさらと天の眞名井の水に滌いで囓み に囓んで |
天の真名井で振り濯ぎ、カリ力リ嚙んで噴き 出し、 |
濯於天眞名井、𪗾然咀 咀嚼、 |
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於吹棄氣吹之狹霧所成 神御名、正勝吾勝勝速 日天之忍穗耳命。 |
吹き棄てる息の霧の中からあらわれた神は正 勝吾勝勝速日天之忍穗耳命。 |
その細かい霧から生まれた神を、名づけて正 哉吾勝勝速日天忍穂耳尊という。 |
而吹棄氣噴之狹霧所生 神、號曰正哉吾勝勝速 日天忍穗耳尊。 |
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亦乞度所纒右御美豆良 之珠而、佐賀美邇迦美 而、於吹棄氣吹之狹霧 所成神御名、天之菩卑 能命。自菩下三字以音 。 |
次に右の御髮の輪に纏かれていた珠をお請け になって囓みに囓んで吹き棄てる息の霧の中 から現れた神は天之菩卑能命、 |
次に天穂日命。これは出雲土師連の先祖であ る。 |
次天穗日命是出雲臣・ 土師連等祖也、 |
埼玉県:鷺宮神社 |
亦乞度所纒御𦆅之珠而 而、佐賀美邇迦美而、 於吹棄氣吹之狹霧所成 神神御名、天津日子根 命。 |
次に鬘に纏いていた珠をお請けになって囓み に囓んで吹き棄てる息の霧の中から現れた神 は天津日子根命、 |
次に天津彦根命。これは凡川内直・山代直ら の先祖である。 |
次天津彥根命是凡川內 直・山代直等祖也、 |
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又乞度所纒左御手之珠 而、佐賀美邇迦美而、 於吹棄氣吹之狹霧所成 神御名、活津日子根命 。 |
次に左の御手に巻いていた珠をお請けになっ て囓みに囓んで吹き棄てる息の霧の中から現 れた神は活津日子根命、 |
次に活津彦根命。 |
次活津彥根命、 |
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亦乞度所纒右御手之珠 而、佐賀美邇迦美而、 於吹棄氣吹之狹霧所成 神御名、熊野久須毘命 。自久下三字以音。 |
次に右の御手に纏いていた珠をお請けになっ て囓みに囓んで吹き棄てる息の霧の中から現 れた神は熊野久須毘命、 |
次に熊野櫲樟日命。 |
次熊野櫲樟日命、 |
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幷五柱。 |
合わせて五方の男神が御出現になりました。 |
皆で五柱の男神である。 |
凡五男矣。 |
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於是天照大御神、告速 須佐之男命 |
ここに天照大御神は速須佐之男命に仰せにな って、 |
このとき天照大神は、 |
是時、天照大神勅曰 |
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「是後所生五柱男子者 、物實因我物所成、故 、自吾子也。 |
「後から生まれた五人の男神はわたしの身に つけた珠によって現れた神ですから、当然わ たしの子です。 |
「その元を尋ねれば、八尺瓊の五百箇の御統 は私の物である。だからこの五柱の男神は全 部私の子である」とおっしゃられた。そこで 引取って養われた。 |
「原其物根、則八坂瓊 之五百箇御統者是吾物 也。故、彼五男神、悉 是吾兒。」乃取而子養 焉。 |
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先所生之三柱女子者、 物實因汝物所成、故、 乃汝子也。」如此詔別 也。 |
先に生まれた三人の姫御子はあなたの身につ けたものから現れたのですから、あなたの子 です。」と仰せられました。 |
また、天照大神は、「その十握剣は、素戔嗚 尊のものである。だからこの三柱の神はすべ てお前の子である」とも言われた。 |
又勅曰「其十握劒者、 是素戔嗚尊物也。故、 此三女神、悉是爾兒。 」 |
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故、其先所生之神、多 紀理毘賣命者、坐胸形 之奧津宮。 |
先にお生まれになった神のうち多紀理毘売命 は、九州の宗像の沖津宮においでになります 。 |
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福岡県:宗像大社沖津宮 |
次市寸嶋比賣命者、坐 胸形之中津宮。 |
次に市寸嶋比売命は宗像の中津宮においでに なります。 |
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福岡県:宗像大社中津宮 |
次田寸津比賣命者、坐 胸形之邊津宮。 |
次に田寸津比売命は宗像の辺津宮においでに なります。 |
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福岡県:宗像大社辺津宮 |
此三柱神者、胸形君等 之以伊都久三前大神者 也。 |
この三人の神は、宗像の君たちが大切にお祭 りする神樣であります。 |
そしてこの三柱の神を素戔嗚尊に授けられた 。これが筑紫の胸肩君たちが祀る神である。 |
便授之素戔嗚尊、此則 筑紫胸肩君等所祭神是 也。 |
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故、此後所生五柱子之 中、天菩比命之子、建 比良鳥命此出雲國造・ 无邪志國造・上菟上國 造・下菟上國造・伊自 牟國造・津嶋縣直・遠 江國造等之祖也、 |
そこでこの後でお生まれになつた五人の子の 中に、天菩比命の子の建比良鳥命、これは出 雲国造・无邪志国造・上海上国造・下海上国 造・伊甚国造・津島縣直・遠江国造たちの祖 先です。 |
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次天津日子根命者。凡 川內國造・額田部湯坐 連・茨木國造・倭田中 直・山代國造・馬來田 國造・道尻岐閇國造・ 周芳國造・倭淹知造・ 高市縣主・蒲生稻寸・ 三枝部造等之祖也。 |
次に天津日子根命は、凡川内国造・額田部湯 坐連・木国造・倭田中直・山代国造・馬来田 国造・道口岐閉国造・洲羽国造・倭淹知造・ 高市縣主・蒲生稻寸・三枝部造たちの祖先で す。 |
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別伝1によると、日の神は、もともと素戔嗚 尊が猛々しく、負けぬ気の強いことを知って おられた。素戔嗚尊が登ってくる様子につい て思われたのは、弟が来るわけは、善い心か らではないだろう。きっとわが高天原を奪お うというのだろうと思われ、硬い武備をされ た。身には十握剣・九握剣・八握剣を帯び、 背中に矢入れを負い、腕には高柄をつけ、手 に弓矢をとって、自ら迎えて防がれた。 |
一書曰、日神、本知素 戔嗚尊有武健凌物之意 、及其上至、便謂「弟 所以來者、非是善意。 必當奪我天原。」乃設 大夫武備、躬帶十握劒 ・九握劒・八握劒、又 背上負靫、又臂著稜威 高鞆、手捉弓箭、親迎 防禦。 |
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このとき、素戔嗚尊がいわれるのには、「私 は元より悪い心はありません。姉上にお目に かかりたいだけで、参上しました」そこで日 神は、素戔嗚尊と向かい合って立たれ、誓約 して言われたことが、「もしお前の心が清く 、奪い取ろうという心がないなら、お前の生 む子はきっと男でしょう」 |
是時、素戔嗚尊告曰「 吾元無惡心。唯欲與姉 相見、只爲暫來耳。」 於是、日神共素戔嗚尊 、相對而立誓曰「若汝 心明淨、不有凌奪之意 者、汝所生兒、必當男 矣。」 |
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言い終って、身に着けていた十握剣を食べて 、生まれた子を、名づけて瀛津嶋姫という。 また、九握剣を食べて生まれた子を、名づけ て湍津姫という。八握剣を食べて生んだ児を 、田心姫となづけた。皆で三柱の神である。 |
言訖、先食所帶十握劒 生兒、號瀛津嶋姬。又 食九握劒生兒、號湍津 姬。又食八握劒生兒、 號田心姬。凡三女神矣 。 |
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素戔嗚尊は、その首にかけていた五百箇の御 統の瓊を、天淳名井、またの名を去来の真名 井で、振り濯いで食べた。そこで生まれた子 を、名づけて正哉吾勝勝速日天忍骨尊という 。次に天津彦根命。次に活津彦根命。次に天 穂日命。次に熊野忍踏命。全部で五柱の男神 である。 |
已而素戔嗚尊、以其頸 所嬰五百箇御統之瓊、 濯于天渟名井亦名去來 之眞名井而食之、乃生 兒、號正哉吾勝勝速日 天忍骨尊。次天津彥根 命、次活津彥根命、次 天穗日命、次熊野忍蹈 命、凡五男神矣。 |
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これにより、素戔嗚尊は勝った験を得ること ができた。ここで日神は素戔嗚尊が、本当に 悪い心がないことが判って、日神が生んだ三 柱の女神を、筑紫の国に降らせられた。そし て、この三柱の女神に、「お前達三柱の神よ 、海路の途中に降り居て、天孫を助けまつり 、天孫のためにお祀りをされよ」と言われた 。 |
故素戔嗚尊、既得勝驗 。於是、日神、方知素 戔嗚尊固無惡意、乃以 日神所生三女神、令降 於筑紫洲、因教之曰「 汝三神、宜降居道中、 奉助天孫而爲天孫所祭 也。」 |
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別伝2によると、素戔嗚尊が天に昇ろうとさ れるときに、一柱の神がおられた。名は羽明 玉という。この神がお迎えして、瑞八坂瓊の 曲玉を奉った。そこで素戔嗚尊は、その玉を もって天上に行かれた。このとき天照大神は 、弟に悪い心があるのでないかと疑い、兵を 集めて詰問した。 |
一書曰、素戔嗚尊、將 昇天時、有一神、號羽 明玉、此神奉迎而進以 瑞八坂瓊之曲玉。故、 素戔嗚尊、持其瓊玉而 到之於天上也。是時、 天照大神、疑弟有惡心 、起兵詰問。 |
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素戔嗚尊は、「私が参上したのは、本当に姉 上にお目にかかりたかったからです。宝であ る瑞八坂瓊の曲玉を献上したいと思っただけ なのです。別の心はありません」と言った。 天照大神が尋ねた。「お前の言うことが噓か 本当か、何で証明できるか」 |
素戔嗚尊對曰「吾所以 來者、實欲與姉相見。 亦欲獻珍寶瑞八坂瓊之 曲玉耳、不敢別有意也 。」時天照大神、復問 曰「汝言虛實、將何以 爲驗。」 |
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素戔嗚尊は答えた。「どうか私と姉上と、一 緒に誓約を立てましよう。誓約の中で女を生 めば黒い心ありと思って下さい。男を生めば 赤い心ありと思って下さい」そして天の真名 井の三箇所を掘って、向かい合って立った。 |
對曰「請吾與姉共立誓 約。誓約之間、生女爲 黑心、生男爲赤心。」 乃掘天眞名井三處、相 與對立。 |
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このとき天照大神は素戔嗚尊に、「私が今帯 びている剣を、お前に上げよう。お前がもっ ている八坂瓊曲玉やさかにのまがたまを私に くれ」と言った。 |
是時、天照大神、謂素 戔嗚尊曰「以吾所帶之 劒、今當奉汝。汝、以 汝所持八坂瓊之曲玉、 可以授予矣。」如此約 束、共相換取。 |
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このように約束して互いに取り替えられた。 天照大神は八坂瓊曲玉を、天の真名井に浮か べて、瓊の端を喰い切って、ロから噴き出さ れた。息吹きの中から生まれた神を、市杵島 姫命と名づけた。これが遠瀛にお出でになる 神である。瓊の中程を喰い切って、吹き出す 息吹きの中から生まれた神を、田心姫命と名 づけた。これは中瀛にお出でになる神である 。瓊の尾を喰い切って、吹きだした息吹の中 から生まれた神を、湍津姫命と名づけた。こ れは海辺にお出でになる神である。皆で三柱 の女神である。 |
已而、天照大神、則以 八坂瓊之曲玉、浮寄於 天眞名井、囓斷瓊端、 而吹出氣噴之中化生神 、號市杵嶋姬命、是居 于遠瀛者也。又囓斷瓊 中、而吹出氣噴之中化 生神、號田心姬命、是 居于中瀛者也。又囓斷 瓊尾、而吹出氣噴之中 化生神、號湍津姬命、 是居于海濱者也。凡三 女神。 |
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素戔嗚尊は、持っておられた剣を天の真名井 に浮かべて、剣の先を喰い切って、吹き出し た息吹の中から生まれた神を、天穂日命と名 づけた。次に正哉吾勝勝速日天忍骨尊。次に 天津彦根命。次に活津彦根命。次に熊野櫲樟 日命。皆で五柱の男神である。 |
於是、素戔嗚尊、以所 持劒、浮寄於天眞名井 、囓斷劒末、而吹出氣 噴之中化生神、號天穗 日命。次正哉吾勝勝速 日天忍骨尊、次天津彥 根命、次活津彥根命、 次熊野櫲樟日命、凡五 男神、云爾。 |
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別伝3によると、日神が素戔嗚尊と天安河を 隔てて、向かい合って誓約した。日神は、「 お前にもし悪い心がないならば、お前の生む 子はきっと男性だろう。もし男を生んだら私 の子供として、高天原を治めさせよう」と言 った。 |
一書曰、日神與素戔嗚 尊、隔天安河、而相對 乃立誓約曰「汝若不有 奸賊之心者、汝所生子 必男矣。如生男者、予 以爲子而令治天原也。 」 |
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そこで日神が十握剣を食べ、お生まれになっ た児は、瀛津島姫命で、またの名を、市杵嶋 姫命である。九握剣を食べられてお生まれに なった子は、湍津姫命である。八握剣を食べ られてお生まれになった子は、田霧姫命であ る。 |
於是、日神、先食其十 握劒化生兒、瀛津嶋姬 命、亦名市杵嶋姬命。 又食九握劒化生兒、湍 津姬命。又食八握劒化 生兒、田霧姬命。 |
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素戔嗚尊がその左の髻に巻かれていた五百箇 の御統の瓊をロに含んで、左の掌の中におい て、男神を生まれた。素戔嗚尊は、「今こそ 私が勝ちました」と言った。この言葉によっ て、名づけて、勝速日天忍穂耳尊という。 |
巳而素戔嗚尊、含其左 髻所纒五百箇御統之瓊 而著於左手掌中、便化 生男矣、則稱之曰「正 哉吾勝。」故因名之曰 勝速日天忍穗耳尊。 |
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また、右の髻の瓊をロに含んで、右の掌の中 において、天穂日命を生まれた。首にかけら れた瓊をロに含んで、左の腕の中において、 天津彦根命を生まれた。右の腕の中から、活 津彦根命を生まれた。左の足の中から烽之速 日命を生まれた。右の足の中から熊野忍踏命 を生まれた。またの名を熊野忍隅命という。 |
復、含右髻之瓊、著於 右手掌中、化生天穗日 命。復、含嬰頸之瓊、 著於左臂中、化生天津 彥根命。又、自右臂中 、化生活津彥根命。又 、自左足中、化生熯之 速日命。又、自右足中 、化生熊野忍蹈命、亦 名熊野忍隅命。 |
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このように、素戔嗚尊の生んだ子は皆男神で あった。それで日神は、素戔嗚尊がはじめか ら赤き心であることを理解されて、その六柱 の男神をとって、日神の子として高天原を治 めさせた。日神が生まれた三柱の女神は、葦 原中国の宇佐嶋に降らせられた。今、北の海 路の中にお出でになられている。これを名づ けて道主貴という。これが筑紫の水沼君らの 祭神である。 |
其素戔嗚尊所生之兒皆 已男矣、故日神方知素 戔嗚尊元有赤心、便取 其六男以爲日神之子、 使治天原。卽以日神所 生三女神者、使隆居于 葦原中國之宇佐嶋矣、 今在海北道中、號曰道 主貴、此筑紫水沼君等 祭神是也。熯、干也、 此云備。 |
大分県:宇佐神宮 |