した(下)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 [ 一 ] 位置の関係で、低い方。一定の広さのある下部の平面。
① 低い場所や位置。⇔
(イ) 見おろされるような低い所。下方。
古事記(712)上・歌謡「烏草樹(さしぶ)を 烏草樹の木 其が斯多(シタ)に 生ひ立てる 葉広 斎(ゆ)つ真椿」
源氏物語(1001‐14頃)若菜上「水鳥のあをははいろもかはらぬを萩のしたこそけしきことなれ」
(ロ) その上に、あるものが接して乗っている位置、場所。 古事記(712)上・歌謡「栲衾(たくぶすま) さやぐが斯多(シタ)に あわ雪の 若やる胸を 栲綱(たくづの)の 白き腕」
(ハ) 転じて、有力者の庇護を受けている地位。有力者の保護のもと。 源氏物語(1001‐14頃)須磨「ありかたき御かへりみのしたなりつるを」
(ニ) 物が自然な状態にあるとき、地面に近い部分。底。 日本書紀(720)天智九年六月(北野本訓)「六月に邑中(むら)に亀(かはかめ)を獲(え)たり。背に申の名を書(しる)せり。上(うへ)黄に下(シタ)玄(くろ)し」
伊勢物語(10C前)二七「水口に我や見ゆらむかはづさへ水のしたにて諸声になく」
(ホ) 階下。また、遊里(吉原)で、二階にいる女郎に対し、階下にいる主人・男衆などをいう。 歌舞伎・傾城壬生大念仏(1702)上「姫君は是にござるぞ、と下へ降り蔵を開き」
婦系図(1907)〈泉鏡花〉後「上草履の音に連れて、下階(シタ)の病室を済ました後(あと)」
(ヘ) ( 特に、遊女屋などで、主人の居る部屋(内証)が階下にあったところから ) 内証をいう。また、そこにいる主人。 洒落本・禁現大福帳(1755)一「先の器量ほどに持てまいり、内證(シタ)へも損かけず」
(ト) 本や紙を置いたときその人に近い部分。また、正常に立てたとき下部になる位置。
(チ) あることがらの決定的な影響下。…のため。 太平記(14C後)三九「侍一人に仰付けられて、忠諫の下に死を賜て、衰老の後に尸を曝さん事、何の子細か候ふべきと」
② 事物の程度が低いこと。
(イ) 比較して、力量の劣っていること。劣勢であること。敗勢。
義経記(室町中か)三「さては早我はしたになるござんなれ」
(ロ) 比較して、数量、年齢などの点でより少ないこと。また、そのもの、人。 塵劫記(1627)上「先づ下の五厘より下へ二けた下がり居て」
道(1962)〈庄野潤三〉二「上の子が五つ、下が三つで」
(ハ) 比較して、階級や身分、地位などの低いこと。また、その人。部下。下男。 四河入海(17C前)八「昔の山簡は只葛強一人をしたにもったぞ」
いさなとり(1891)〈幸田露伴〉一一「彼(かの)士官の無口なのには誰しも閉口〈略〉況(ま)して部下(シタ)の者に歯など見するはおもひもよらず」
(ニ) 能楽で、ワキ・ツレなど従の立場にある演技者。 申楽談儀(1430)観阿「十二六郎は若くて下にてつけし也」
(ホ) 高音に対して低音。音階の低い音。 申楽談儀(1430)文字なまり・節なまり「『皆人は六塵(ぢん)』と急に『わ』を言ひ捨てて直に移るべし。『六塵』、したより言ふ、悪き也」
(ヘ) 下等の見物席。桟敷(さじき)などの特別席に対していう。 浮世草子・世間胸算用(1692)三「芸子に目をつかはせ、下なる見物にけなりがらせける」
(ト) 「したばたらき(下働)」の略。 桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉二四「併し下を働くには下女もゐるのだし」
③ ⇒した(下)に居るした(下)に置くした(下)に下に
[ 二 ] 物事の裏面に関すること。さえぎられて見えない部分。内側。
① 包まれている部分。他の物でおおわれて隠れている部分。物の内側。中。内。
万葉集(8C後)七・一二七八「夏影の嬬屋(つまや)の下に衣(きぬ)裁(た)つ吾妹(わぎも) 裏まけて吾がため裁(た)たばやや大に裁(た)て」
平家物語(13C前)三「浄衣のしたに薄色のきぬを着て」
こころ。心の奥。内心。 古事記(712)下・歌謡「大和へに 行くは誰が夫 隠津の 志多(シタ)よ延へつつ 行くは誰が夫」
曾我物語(南北朝頃)一「上にはなげくよしなりしかども、したには喜悦の眉をひらき」
③ 内々であること。多く、動詞の連用形を伴って、副詞化したり、「したに」の形で副詞的に用いる。ひそかに。 古事記(712)下・歌謡「志多(シタ)問ひに 我が問ふ妹を 斯多(シタ)泣きに 我が泣く妻を」
源氏物語(1001‐14頃)帚木「狭き所に侍ればなめげなることや侍らむとしたに歎くを聞き給ひて」
④ 表立たせないこと。争いなどを公に持ち出さないこと。転じて、示談(じだん)。 浮世草子・本朝桜陰比事(1689)三「此論下(シタ)にて済難く両人御前へ罷出右の段々申あくれば」
[ 三 ] 時間的もしくは空間的に、あとの時点、個所。
① すぐあと。直後。即刻。
曾我物語(南北朝頃)一「滝口が弟の三郎、いでよ、といふ、ことばのしたより、いでにけり」
② つながったもののあとの部分。 平家物語(13C前)三「年号月日の下には、孝子成経と書かれたれば」
[ 四 ] 食べ残し、飲み残しのもの。特に、貴人が食べ残した食事の残り。おした。 源平盛衰記(14C前)三三「其の後根井猫間殿の下(シタ)を取って中納言の雑色に給ふ」
[ 五 ] 代償や代金の一部分としてさし出す品物。 咄本・聞上手(1773)暦「その代り今までの暦を下(シタ)にやりますから、取りかへてくださりませ」
[ 六 ] ( 江戸時代、大奥や大名などの奥向きで ) 実家、町方などをいう。さとやど 人情本・春色玉襷(1856‐57頃)三「宿(シタ)へ下るのは止しにいたさう」
語素 ① 名詞の上に付いて、現在より前、過去などの意を表わす。「した夫(お)」など。
② 名詞の上に付いて、準備、試み、また、あらかじめするなどの意を表わす。「下書き」「下稽古」「下検分」など。
広辞苑 名詞 ➊上部・表面から遠い部分。
①裏。底。うち。表面の対。
万葉集12「人言の繁かる時は吾妹子し(きぬ)にありせば―に着ましを」。
万葉集14「あすか川―濁れるを知らずして背ななと二人さ寝てくやしも」。
日葡辞書「シタノハカマ」。
「上着の―」
②下方。上の対。 万葉集1「吾背子は 仮廬 (かりほ)作らす(かや)なくは小松が―の草を刈らさね」。
日葡辞書「ウエシタ」。
「橋の―」「パリの空の―」
こころ。こころの奥。内心。心底。 万葉集12「 隠沼 (こもりぬ)の―ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく」
ひそか。内々。 源氏物語絵合「おとどの―にすすめ給へるやうやあらむ」
⑤目上の者の指導・庇護のもとにある事。 源氏物語須磨「をさめ、みかはやうどまで、ありがたき御顧みの―なりつるを」
➋事物の程度が低いこと。
①他より地位・格式・能力などが低いこと。また、そのような位置・人。しも
浄瑠璃、国性爺合戦「猛き者は上に立ち弱き者は―につき」。
「人物は彼より―だ」
②年齢が若いこと。 世間子息気質「未だ二十より―の三兄弟」。
「彼には三つ―の弟がいる」
➌前の対。
①すぐ後。直後。
浄瑠璃、太平記菊水之巻「物ないはせそ打殺せと下知の―よりむらがる大勢」。
「言う―からぼろを出す」
②使い古しの品物。おさがり。食べ残しのもの。 日葡辞書「ヲシタヲタベウズ」
➍後の対。現在より前。
さき。以前。
倭名類聚鈔2「前夫、和名、之太乎」
②前もってすること。準備。試み。 竹取物語「守り戦ふべき―くみをしたりとも」。
「―調べ」「―準備」
➎買物の代金の一部に充てるために渡す品物。 浮世風呂3「あれを―に遣つて、挿込みのある簪取つ替へたがの」。
「―取り」
大言海 名詞 (一){(ウヘ)ノ反對。シモ 齋宮女御集「八重ナガラ、アダナル見レバ、山吹ノ、したニコソ鳴ケ、井手ノ蛙ハ」
敦忠集「したニノミ、流レワタルハ、冬川ノ、氷レル水ト、我レトナリケリ」
(二){(オモテ)ノ反對。ウラ 萬葉集、十五「別レナバ、ウラ悲シケム、アガ衣、之多ニヲ着マセ、タダニ逢フマデニ」
(三)低キコト。劣リタルコト。卑シキコト。(アト)ニナルコト。下流 「した役」支配した」した働キ」した手」した手ニ付ク」
(四){先ヅ、試ミニスルコト。 竹取物語「()シ籠メテ、守リ戰フベキしたくみヲ()シタリトモ、アノ國ノ人ヲ、エ戰ハヌナリ」
「した書キ」した讀ミ」したゴシラヘ」
(五)用ヰ(フル)シタル後。 「殿樣ノ御したヲ戴ク」
(六)人家ニ用ヰ(フル)シタル品物ヲ、賣拂フコト。 浮世風呂(文化、三馬)三編、三「アレヲ下ニ遣ッテ、插込ミノアル簪ト、取ッ替ヘタガノ」
「したニ取ル」

検索用附箋:名詞名称
検索用附箋:語素

附箋:名称 名詞 語素

最終更新:2024年10月12日 19:19