「じゃあ、ゆーちゃん。野菜炒めの方よろしく」
「はーい」
「はーい」
台所でいつもの会話。
今日はどこかに遊びに行ったりもすることがなく、家に帰ってゲーム、そして少し勉強した後に夕食の準備だった。
この頃はゆーちゃんも調理を手伝ってくれて助かっているけれども、一人で調理しているときとは違う感覚がある。
作業が楽だとかそういうのじゃなくて、肌に纏わりつく空気とかが妙にピリピリしているような気がする。
これが不思議な感覚。警戒とはどこか違う違和感。
でも、最近はこれすらあまり感じなくなってきている。
曖昧な境界線はなお更透明になってきて、私の境界線と交じり合ってしまっている。
不意につかさの朝のセリフを思い出した。
今日はどこかに遊びに行ったりもすることがなく、家に帰ってゲーム、そして少し勉強した後に夕食の準備だった。
この頃はゆーちゃんも調理を手伝ってくれて助かっているけれども、一人で調理しているときとは違う感覚がある。
作業が楽だとかそういうのじゃなくて、肌に纏わりつく空気とかが妙にピリピリしているような気がする。
これが不思議な感覚。警戒とはどこか違う違和感。
でも、最近はこれすらあまり感じなくなってきている。
曖昧な境界線はなお更透明になってきて、私の境界線と交じり合ってしまっている。
不意につかさの朝のセリフを思い出した。
「簡単に好きになることが出来たら楽……うん、そうかもね」
かぼちゃの煮物を作るために、包丁でかぼちゃを一口サイズに切りながら呟いたからゆーちゃんには聞こえてないと思う。
念のために包丁を止めてゆーちゃんの方を確認したけど熱心に野菜炒めを作ってくれていた。
持っているフライパンが実際より重そうに見える。
好きになれたら、何をされても受け入れられるのかな?
好きなら何をしてもいいのかな?
そんなの分からないよ。きっと人それぞれだよ。
たった十八年程度しか生きてない私にそんな命題の答えがわかるわけが無い。
ダンッ! と、思考と一緒にぶつ切りにしたかぼちゃを深皿の耐熱容器に入れて醤油、みりん、砂糖をくわえる。
ラップをしてレンジで九分。簡単かぼちゃの煮付けの出来上がり。
タイマーをセットして包丁を片付けようとしたら、急にヴォンという音がして電気が消えた。
電気だけじゃなく炊飯器やレンジも切れたと言う事はブレーカーが落ちたらしい。
指先に電気が走った。包丁で指先を切ったっぽい。
ゆーちゃんが使っているコンロの明かりで、指先に膨らむ血液が見えた。
念のために包丁を止めてゆーちゃんの方を確認したけど熱心に野菜炒めを作ってくれていた。
持っているフライパンが実際より重そうに見える。
好きになれたら、何をされても受け入れられるのかな?
好きなら何をしてもいいのかな?
そんなの分からないよ。きっと人それぞれだよ。
たった十八年程度しか生きてない私にそんな命題の答えがわかるわけが無い。
ダンッ! と、思考と一緒にぶつ切りにしたかぼちゃを深皿の耐熱容器に入れて醤油、みりん、砂糖をくわえる。
ラップをしてレンジで九分。簡単かぼちゃの煮付けの出来上がり。
タイマーをセットして包丁を片付けようとしたら、急にヴォンという音がして電気が消えた。
電気だけじゃなく炊飯器やレンジも切れたと言う事はブレーカーが落ちたらしい。
指先に電気が走った。包丁で指先を切ったっぽい。
ゆーちゃんが使っているコンロの明かりで、指先に膨らむ血液が見えた。
「うぉ!! パソコン付けた途端に停電した!!」
お父さんの部屋から声がする。
あれ、お父さんリビングにいたんじゃないのかな。リビングのクーラーつけっぱなしなんじゃ。
そう言えば私も勉強の息抜きにとネトゲやった後、フォルダの移動させるためにパソコンつけっぱなしだった。
ゆーちゃんがガスコンロの火を止めた。今までコンロの火によって見えていたところも暗くなる。
意味も無いけど思わず目を細めた。えっと、ブレーカーは玄関の方だっけ。
あれ、お父さんリビングにいたんじゃないのかな。リビングのクーラーつけっぱなしなんじゃ。
そう言えば私も勉強の息抜きにとネトゲやった後、フォルダの移動させるためにパソコンつけっぱなしだった。
ゆーちゃんがガスコンロの火を止めた。今までコンロの火によって見えていたところも暗くなる。
意味も無いけど思わず目を細めた。えっと、ブレーカーは玄関の方だっけ。
「お父さんの方がブレーカーに近いからあげてきてよ!!」
お父さんの部屋のほうを向いて叫んだ。
時間的にまだ遅くないけど、もう日が落ちるのは早くなってきている。
完全に真っ暗ではないけど台所から明かり無しで動くのは危ないと思った。
お父さんの部屋には懐中電灯あったはずだし。
へ~い、と返事が聞こえた。その割には中々部屋から出てくる音が聞こえない。
懐中電灯でも探してるんだろうか。すぐ見つかる場所に置いてないと意味なくない?
時間的にまだ遅くないけど、もう日が落ちるのは早くなってきている。
完全に真っ暗ではないけど台所から明かり無しで動くのは危ないと思った。
お父さんの部屋には懐中電灯あったはずだし。
へ~い、と返事が聞こえた。その割には中々部屋から出てくる音が聞こえない。
懐中電灯でも探してるんだろうか。すぐ見つかる場所に置いてないと意味なくない?
「大丈夫、ゆーちゃ――っ!?」
視線をゆーちゃんの方へ戻す。
でも途中までしか言葉は出なかった。塞がれたわけじゃない。
驚いてしまったから。予想していたところにゆーちゃんは居なかった。
ガスコンロの前から動いていないと思っていたけど、ゆーちゃんはいつの間にか私の目の前にいた。
『ゆーちゃん』の『ゆ』の時点で私はゆーちゃんに抱き付かれ、
そのままフラフラと後ずさり冷蔵庫に背中をぶつけてズリズリと座り込んだ。
そんなに背中は痛くなかったけど結構派手な音がした。
でも途中までしか言葉は出なかった。塞がれたわけじゃない。
驚いてしまったから。予想していたところにゆーちゃんは居なかった。
ガスコンロの前から動いていないと思っていたけど、ゆーちゃんはいつの間にか私の目の前にいた。
『ゆーちゃん』の『ゆ』の時点で私はゆーちゃんに抱き付かれ、
そのままフラフラと後ずさり冷蔵庫に背中をぶつけてズリズリと座り込んだ。
そんなに背中は痛くなかったけど結構派手な音がした。
「おーい! なんか音したけど大丈夫か!? こけたか!?」
お父さんから声が掛かる。そこまで聞こえるような大きな音だったとは思えないのに。
ああ、五感は他の事を感じてるからかも。
抱き付かれていたけど、今ゆーちゃんは私の肩に両手を置いてる。
暗闇なんか関係ないほどの近い距離にいる。
意識はそっちに集中してしまって、他の事が後回しになっている。
どうしよう、どうしよう。とにかくお父さんに返事しないと。大丈夫だって言わないと。
ゆーちゃんの対処法は後にして……
ああ、五感は他の事を感じてるからかも。
抱き付かれていたけど、今ゆーちゃんは私の肩に両手を置いてる。
暗闇なんか関係ないほどの近い距離にいる。
意識はそっちに集中してしまって、他の事が後回しになっている。
どうしよう、どうしよう。とにかくお父さんに返事しないと。大丈夫だって言わないと。
ゆーちゃんの対処法は後にして……
「だ、大丈夫!! ただ――っ!」
今度は正真正銘、言葉を塞がれた。
いつも私を「お姉ちゃん」と呼ぶその唇で。
今度は目隠しをされず、手は首に回された。
後頭部に回された手に頭を強く引き寄せられる。
軽く唇を突付いてくる舌に、どこで覚えたのさそんなのと言いたくなった。
ああ、私が同人誌とか読ませたからかな。それともひよりんが教え込んだのかな。
純粋な子ほど染まりやすいって言うよね――
なんて冷静な別の自分が今の私を見下ろす。
実際の私はパニックになっていただとか、そんなのじゃない。
何も考えてなかった。考えれなかった。
いつも私を「お姉ちゃん」と呼ぶその唇で。
今度は目隠しをされず、手は首に回された。
後頭部に回された手に頭を強く引き寄せられる。
軽く唇を突付いてくる舌に、どこで覚えたのさそんなのと言いたくなった。
ああ、私が同人誌とか読ませたからかな。それともひよりんが教え込んだのかな。
純粋な子ほど染まりやすいって言うよね――
なんて冷静な別の自分が今の私を見下ろす。
実際の私はパニックになっていただとか、そんなのじゃない。
何も考えてなかった。考えれなかった。
「は、ぁ……」
今の吐息は、どちらのものだったんだろう。
呼吸のために唇が離されても、私は何も言えなかった。
拒絶するための言葉はいくらでも言えたはずなのに、言えなかった。
呼吸のために唇が離されても、私は何も言えなかった。
拒絶するための言葉はいくらでも言えたはずなのに、言えなかった。
「ゆーちゃ……なん、で?」
私の憶測を裏付ける答えをくれるなんて思ってなかったけど、尋ねた。
やっぱり教えてくれないで、再び重ねられて半開きだった口の中に舌が入ってきた。
ああ、もしかしたらこの行動自体が答えなのかも。
ようやく腕がピクンと反応して、引き剥がして呼吸するためにゆーちゃんの肩を押そうとした。
けれど指から伝って手の平に線を描いている血液を見て手の動きも止まる。
血が出ていない方の手でゆーちゃんの肩部分の服をしっかり握り締めた。
助けを求めるみたいに。
私を襲っている人に助けを求めるなんて普通じゃないけど。
だってこの状況自体が普通じゃないから。
これが『普通の出来事』なら私はあっさりと受け入れてしまうんだろうか。
腕をゆーちゃんの背中に回して、よくあるゲーム見たいに流されて。
たどたどしく口の中を動き回るゆーちゃんの舌に、自分から舌を絡めたり。
そんな未来が、なぜか浮かんだ。
やっぱり教えてくれないで、再び重ねられて半開きだった口の中に舌が入ってきた。
ああ、もしかしたらこの行動自体が答えなのかも。
ようやく腕がピクンと反応して、引き剥がして呼吸するためにゆーちゃんの肩を押そうとした。
けれど指から伝って手の平に線を描いている血液を見て手の動きも止まる。
血が出ていない方の手でゆーちゃんの肩部分の服をしっかり握り締めた。
助けを求めるみたいに。
私を襲っている人に助けを求めるなんて普通じゃないけど。
だってこの状況自体が普通じゃないから。
これが『普通の出来事』なら私はあっさりと受け入れてしまうんだろうか。
腕をゆーちゃんの背中に回して、よくあるゲーム見たいに流されて。
たどたどしく口の中を動き回るゆーちゃんの舌に、自分から舌を絡めたり。
そんな未来が、なぜか浮かんだ。
パッと、世界が明るくなる。
いつの間にやら目を閉じていたけど、瞼越しに光を感じた。
お父さんがブレーカーをあげたらしい。
停電が直って、ようやくゆーちゃんは離れてくれた。
と言っても離れたのは口だけで、抱きついたままだけど。
いつの間にやら目を閉じていたけど、瞼越しに光を感じた。
お父さんがブレーカーをあげたらしい。
停電が直って、ようやくゆーちゃんは離れてくれた。
と言っても離れたのは口だけで、抱きついたままだけど。
「お姉ちゃん」
なんで、そんな風に。
悲しそうなのに、いつもみたいに私を呼ぶんだろう、この子は。
何かを諦めてしまってるようなゆーちゃんの顔が、加害者のはずなのに被害者のように見えてしまう。
別に私は被害を受けたわけじゃないから『加害者』『被害者』という言葉はおかしいけど、それ以外の単語が見つからない。
悲しそうなのに、いつもみたいに私を呼ぶんだろう、この子は。
何かを諦めてしまってるようなゆーちゃんの顔が、加害者のはずなのに被害者のように見えてしまう。
別に私は被害を受けたわけじゃないから『加害者』『被害者』という言葉はおかしいけど、それ以外の単語が見つからない。
いや、被害は受けてるのかな。
私もゆーちゃんも。
この世の一般的タブーと決められてる事柄によって。
私もゆーちゃんも。
この世の一般的タブーと決められてる事柄によって。
「ゆーちゃんは……」
――私のことが好きなの?
間違っていたら思い上がりもいいところなセリフだけど、それ以外にこの状況の説明が思いつかなかった。
でも、何でゆーちゃんは教えてくれないんだろう? いや、当然かな。
言ったところでどうにもならないって、思っているのなら。
そこで私の中に、ゆーちゃんに対する新しい感情が生まれた。
『好き』とかそんなんじゃない。失礼だけれど、どちらかというと同情や保護欲に近い。
大げさに言ってしまえば、なんとかしないとゆーちゃんが取り返しのつかないことになるんじゃないかという心配。
本当に失礼だし、先が望めない感情だ。
でも、何でゆーちゃんは教えてくれないんだろう? いや、当然かな。
言ったところでどうにもならないって、思っているのなら。
そこで私の中に、ゆーちゃんに対する新しい感情が生まれた。
『好き』とかそんなんじゃない。失礼だけれど、どちらかというと同情や保護欲に近い。
大げさに言ってしまえば、なんとかしないとゆーちゃんが取り返しのつかないことになるんじゃないかという心配。
本当に失礼だし、先が望めない感情だ。
「おーい、大丈夫か二人とも……ってぇ!? ど、どうした!? こけたのか!?」
限りなく場違いなお父さんの声と姿が視界に入ってきた。
今までの空気が拡散する。
今までの空気が拡散する。
「いやぁ、ゆーちゃんが停電に驚いたっぽくてね。急に抱き付かれてそのままこんなシチュに」
アハハ、と笑いながら手を振るとお父さんがますます驚いていた。
あ、そう言えば指を切ったんだったっけ。手の平に表面が固まりかけた血の痕があるんだった。
あ、そう言えば指を切ったんだったっけ。手の平に表面が固まりかけた血の痕があるんだった。
「ま、待ってろ! 消毒薬とリバテープ持ってくる!!」
慌ててリビングの机を引っ張り出しているお父さん。慌てすぎじゃないかな。
本来なら私だってそれぐらいに慌てたいけど。
今度はゆーちゃんが「どうして?」って表情をしていた。
私がお父さんに何か言うと思ってたんだろうか。
言わないよ。ゆーちゃんがきっちりさせない限り。
私からはお父さんにもゆーちゃんにも何も言わない。
本来なら私だってそれぐらいに慌てたいけど。
今度はゆーちゃんが「どうして?」って表情をしていた。
私がお父さんに何か言うと思ってたんだろうか。
言わないよ。ゆーちゃんがきっちりさせない限り。
私からはお父さんにもゆーちゃんにも何も言わない。
「お姉ちゃん……?」
「なんでもない」
「なんでもない」
血を床につけないように気をつけて立ち上がると、ゆーちゃんは座ったまま私を見上げた。
見下ろし、視線で伝わるわけも無いのに伝える。
見下ろし、視線で伝わるわけも無いのに伝える。
――ねぇ、ゆーちゃん、勝負をしようか。
ゆーちゃんがちゃんと言葉を私に伝えてくれたらゆーちゃんの勝ち。
私はゆーちゃんを受け入れる。タブーだろうが、先の無い未来だろうが受け入れる。
ただそれはきっと、ゆーちゃんと同じ感情からくるものではない。
同情や保護欲からくる、放っては置けないという感情から。
……なんて酷いんだろう、私は。
本当つかさの言う通り、簡単に好きになれたら万事OKなんだけどね。
私はゆーちゃんを受け入れる。タブーだろうが、先の無い未来だろうが受け入れる。
ただそれはきっと、ゆーちゃんと同じ感情からくるものではない。
同情や保護欲からくる、放っては置けないという感情から。
……なんて酷いんだろう、私は。
本当つかさの言う通り、簡単に好きになれたら万事OKなんだけどね。
もしもゆーちゃんが言葉にして伝えてくれないのならゆーちゃんの負け。
私からは何も言わないし何もしない。ただ普段の生活を続けるだけ。
拒みもしないし受け入れもしない。
その結果ゆーちゃんが暴走したら……その時はその時かな。
何もしなかった私と言わなかったゆーちゃん自身に責任はあるんだから、二人で何とかしようか。
どっちにしたって私は得しそうに無い勝負だなぁ。
私からは何も言わないし何もしない。ただ普段の生活を続けるだけ。
拒みもしないし受け入れもしない。
その結果ゆーちゃんが暴走したら……その時はその時かな。
何もしなかった私と言わなかったゆーちゃん自身に責任はあるんだから、二人で何とかしようか。
どっちにしたって私は得しそうに無い勝負だなぁ。
「こなた~! 大丈夫か? ほら、手ぇ洗って」
「お、お父さん心配しすぎ!」
「お、お父さん心配しすぎ!」
指先だからちょっとした傷でも血が出てただけだよ。……思ったよりは深く切ってるみたいだけど。
水気を拭いて消毒してリバテープを張ってくれているお父さんの方を、私は少し遠く感じていた。
水気を拭いて消毒してリバテープを張ってくれているお父さんの方を、私は少し遠く感じていた。
「夕食の続きは俺が作るから、二人は休んでていいぞ」
「え、いや……でも」
「大丈夫だって! うおっ! 炊飯器のスイッチも切れてる!」
「え、いや……でも」
「大丈夫だって! うおっ! 炊飯器のスイッチも切れてる!」
こっちの静止も聞かずに炊飯器のスイッチを入れなおしていた。
まぁ、作ってくれるのなら任せよう。
まぁ、作ってくれるのなら任せよう。
「ゆーちゃん、リビングで待ってよ」
「う、うん」
「う、うん」
立ち上がってはいるけど冷蔵庫に寄りかかっていたゆーちゃんの手を取ってリビングへ連れて行く。
ゆーちゃんの手に触れても違和感を、曖昧な境界線を、もう感じることはなかった。
ゆーちゃんの手に触れても違和感を、曖昧な境界線を、もう感じることはなかった。
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- どっちにしても救われない感じが…かがみ助けて… -- 名無しさん (2009-03-28 23:32:24)
- 熱くなってまいりました!こなたの賭けはどっちに転ぶ!?
-- 名無しさん (2008-04-29 14:52:54) - うーん…続きが見たいwww -- 名無しさん (2008-01-06 11:23:01)
- このシリーズはここで完結なのかな?まだ続きがあるなら是非お願いします〜。 -- 名無しさん (2007-11-12 01:44:46)