あれから数日、ついにラジオ収録日がやってきた。
「おー」
目の前に立つラジオ局に見上げて感心の声を出す日下部。
「大きいなー。これからこん中に入って色々やるわけだろ?」
「まあ一応な」
「なるほど。……なあ、ラジオってどれくらいの奴が聞いてるんだ?」
「テレビみたいに視聴率が分かるわけじゃないからなぁ……。でも結構続いてるし、人気あるほうだと思うぞ」
「まあ一応な」
「なるほど。……なあ、ラジオってどれくらいの奴が聞いてるんだ?」
「テレビみたいに視聴率が分かるわけじゃないからなぁ……。でも結構続いてるし、人気あるほうだと思うぞ」
最近はこのラジオのほうでも色々あったが、それでも聞いてくれている人がたくさん居るというのは結構嬉しいものだ。
「それに出るってことは……私も一躍有名人に」
「ならないから安心しろ」
「酷っ!」
「あくまで一般人だからな、お前」
「そんなもんなのか……」
「そんなもんだろ」
「ならないから安心しろ」
「酷っ!」
「あくまで一般人だからな、お前」
「そんなもんなのか……」
「そんなもんだろ」
残念そうな表情の日下部。
ちなみに俺は今日の今日までそんなちやほやされるようなことは言われてない。ただ目立たないだけなのだろうが、酷い話だ。
ちなみに俺は今日の今日までそんなちやほやされるようなことは言われてない。ただ目立たないだけなのだろうが、酷い話だ。
「んじゃ行くぞ」
「おう」
「おう」
その場を仕切り直し、俺たちは入口へと歩を進めた。
――――
無事にスタジオ内に到着。
日下部はさっきから10秒ごとに「はー」とか「おー」とか「へー」などとスタジオ内をキョロキョロしながら感心するような台詞を呟いている。
日下部はさっきから10秒ごとに「はー」とか「おー」とか「へー」などとスタジオ内をキョロキョロしながら感心するような台詞を呟いている。
「おはようございまーす」
しばらくするとスタジオにあきら様が入ってきた。
俺はあきら様の元に向かい挨拶をする。
俺はあきら様の元に向かい挨拶をする。
「おはようございますあきら様」
「おはよう。ねえ、白石」
「はい、何でしょうか?」
「……あそこでキョロキョロしてるのは誰?」
「おはよう。ねえ、白石」
「はい、何でしょうか?」
「……あそこでキョロキョロしてるのは誰?」
あきら様のその言葉は明らかに俺の連れのことを指している。
日下部は俺の呼びかけに応じてこちらに来た。
「こちら、本日僕のアシスタントを担当して下さる日下部みさおさんです」
「『僕』?『さん』?」
「ほらほら、何してるんですか。自己紹介ですよ」
「『僕』?『さん』?」
「ほらほら、何してるんですか。自己紹介ですよ」
俺の口調に違和感を覚えてるらしい日下部に自己紹介を促す。
「えーと、はじめまして。日下部みさおです。今日はよろしくお願いします」
ぎこちないながらもちゃんと挨拶をする日下部。
まあ、一作品ぐらい温存しといて、ネタに詰まった時に投下する、なんてこともできるが。
「はじめまして、小神あきらです。今日はよろしくお願いしますっ」
それにいつも通りの笑顔で対応するあきら様。
「日下部さんは、こういう所は初めてですか?」
「うーん、初めてだな。ちょっと緊張しちゃうかも」
「でもあまり緊張せずに、肩の力を抜いて下さいね」
「どうも。いや~芸能人って案外優しいんだな」
「うーん、初めてだな。ちょっと緊張しちゃうかも」
「でもあまり緊張せずに、肩の力を抜いて下さいね」
「どうも。いや~芸能人って案外優しいんだな」
感心する日下部と、案外という言葉にピクリと反応するあきら様。
「あ、あきら様。気を落ち着けて下さい」
「大丈夫です白石さん。怒ってなんていませんよ~」
「大丈夫です白石さん。怒ってなんていませんよ~」
嘘だ。顔が明らかにひくついているし。
「……白石さん、ちょっとこっちに」
「あ、はい。日下部さんはここで待ってて下さい」
「ん、分かった」
「あ、はい。日下部さんはここで待ってて下さい」
「ん、分かった」
日下部にそう言い残してあきら様と共にスタジオの隅へと移動する。
あきら様は……やっぱりちょっと怒ってた。
あきら様は……やっぱりちょっと怒ってた。
「白石ぃ」
「は、はい」
「あんたが連れてきた……日下部さん?あの人礼儀がなってないじゃないのよ」
「いや、日下部さんは元々ああいう性格でして……。本人には悪気は無いんで許してやって下さい、お願いします」
「は、はい」
「あんたが連れてきた……日下部さん?あの人礼儀がなってないじゃないのよ」
「いや、日下部さんは元々ああいう性格でして……。本人には悪気は無いんで許してやって下さい、お願いします」
そう言って俺は頭を下げる。
「ったく……。そんなに甘いと、この先芸能界じゃ生きていけないわよ?」
「すみません……」
「だからそんなに簡単に謝んじゃないの。……分かったから、さっさと戻るわよ」
「あきら様……。ありがとうございます」
「すみません……」
「だからそんなに簡単に謝んじゃないの。……分かったから、さっさと戻るわよ」
「あきら様……。ありがとうございます」
すたすたと日下部の所へと戻るあきら様を慌てて追いかける。
「何の話してたんだ?」
「はい。日下部さんはとても信頼出来そうなので今日のラジオは成功しそうですねって話してたんですよ~。……ね、白石さん」
「はい。日下部さんのことを絶賛しておられました」
「はい。日下部さんはとても信頼出来そうなので今日のラジオは成功しそうですねって話してたんですよ~。……ね、白石さん」
「はい。日下部さんのことを絶賛しておられました」
あきら様に話を合わせる。
なんかこういうのにも慣れてきたな……。
なんかこういうのにも慣れてきたな……。
「マジで?いや~照れるな」
そしてその言葉を疑いもせずに受け取る日下部。
疑うことを知らないのだろうか。それとも単純なのか。
疑うことを知らないのだろうか。それとも単純なのか。
「んじゃ今度はこっちの番だな」
「こっちの番、ですか?」
「そ。白石、ちょっと耳貸して」
「はい」
「こっちの番、ですか?」
「そ。白石、ちょっと耳貸して」
「はい」
彼女に言われるがままに耳を貸す。
「ひそひそ(なあ白石)」
「ひそひそ(何だ?)」
「ひそひそ(なんであの人の前では『僕』って言ってるんだ?あと私のこともさん付けで呼んでるし)」
「ひそひそ(何だ?)」
「ひそひそ(なんであの人の前では『僕』って言ってるんだ?あと私のこともさん付けで呼んでるし)」
するとやはり俺の口調に関する質問だった。
「ひそひそ(芸能界はそこら辺の言葉遣いも気にしないといけないんだよ)」
「ひそひそ(そんな細かいのか?)」
「ひそひそ(そんな細かいんだよ)」
「ひそひそ(ひえー。芸能人って色々大変なんだな)」
「ひそひそ(あきら様は殊更厳しいんだよ)」
「ひそひそ(そうは見えないけどなー。ま、あやのも怒ったら怖いし。人間分からないもんだ)」
「お二人とも何をお話ししていらっしゃるのかしらー」
「ひそひそ(そんな細かいのか?)」
「ひそひそ(そんな細かいんだよ)」
「ひそひそ(ひえー。芸能人って色々大変なんだな)」
「ひそひそ(あきら様は殊更厳しいんだよ)」
「ひそひそ(そうは見えないけどなー。ま、あやのも怒ったら怖いし。人間分からないもんだ)」
「お二人とも何をお話ししていらっしゃるのかしらー」
2人で後ろを振り向くとあきら様がニコニコ微笑んでいた。
しかもあからさまに凄い負のオーラみたいなものを出している。
しかもあからさまに凄い負のオーラみたいなものを出している。
「い、いえいえ。なんでもありませんよ。そうですよね日下部さん」
「え?あ、ああ。そうそう。何でも無いってば」
「そうですか~……」
「え?あ、ああ。そうそう。何でも無いってば」
「そうですか~……」
あ、今舌打ちした。
――――
そんなやりとりをしていると、本番が近いのでマイクの前へと座るように指示された。
あきら様は普段通りの表情をしている。流石ベテランといったところか。
かく言う俺もこの雰囲気にはそれなりに慣れてきた。
日下部のほうを見ると……少し表情が固いような気がする。
あきら様は普段通りの表情をしている。流石ベテランといったところか。
かく言う俺もこの雰囲気にはそれなりに慣れてきた。
日下部のほうを見ると……少し表情が固いような気がする。
「大丈夫ですか日下部さん?」
「いやー、やっぱちょっと緊張しちゃうかな」
「駄目そうでしたら早めに申し出て下さいね」
「大丈夫大丈夫。それに、さ」
「いやー、やっぱちょっと緊張しちゃうかな」
「駄目そうでしたら早めに申し出て下さいね」
「大丈夫大丈夫。それに、さ」
「せっかくの白石の努力を無駄にしたくないじゃん?だから頑張るよ」
「日下部……」
「……『日下部』?」
「ああ、いやいや何でも無いですよあきら様。本当に」
「……本番中に地を出さないで下さいね?」
「大丈夫です。分かってますよ」
「日下部……」
「……『日下部』?」
「ああ、いやいや何でも無いですよあきら様。本当に」
「……本番中に地を出さないで下さいね?」
「大丈夫です。分かってますよ」
「本当に分かってんのか……」と日下部に聞こえない程度にぶつぶつ文句を言うあきら様。
胸が痛い……。
胸が痛い……。
「それじゃあ本番行くよー!」
スタッフの立木さんの一声でスタジオが静かになる。
そして、いよいよ収録が始まった――
そして、いよいよ収録が始まった――