私の娘(PC)がツン期……というかヤンデレになってしまった。
一般的に言えば、動作不安定。
「あー……こりゃ長引くかな」
ケースを少し開けて、通気を良くしてみたけどあまり効果はなかった。
中は相変わらず、コンビニにある肉まんを蒸すやつ――什器だっけ――のようだった。
このまま酷使してたら、文字通り壊れてしまう。
しかたない。今日はこの娘を休ませて、お父さんのを使わせてもらおう。
一般的に言えば、動作不安定。
「あー……こりゃ長引くかな」
ケースを少し開けて、通気を良くしてみたけどあまり効果はなかった。
中は相変わらず、コンビニにある肉まんを蒸すやつ――什器だっけ――のようだった。
このまま酷使してたら、文字通り壊れてしまう。
しかたない。今日はこの娘を休ませて、お父さんのを使わせてもらおう。
「お父さんPC使う?」
「いや、今は使わないかな」
「じゃあちょっと借りてもいい?」
「ああ、いいぞ。Administrator権限はパスワードかかってるからGuestでログインしてくれ」
「うん」
「いや、今は使わないかな」
「じゃあちょっと借りてもいい?」
「ああ、いいぞ。Administrator権限はパスワードかかってるからGuestでログインしてくれ」
「うん」
お父さんの部屋には、タワー型のPCが鎮座している。
ノート型も持ってるから、普段はそっちを使ってるんだけどね。
無線を飛ばしてファイルサーバにしたり、ファイアウォールのような役割をしているらしい。
お父さんはそこに『資料や取材をしたときの写真を入れてる』と言ってたっけ。
いつも電源は入れっぱなしにされていて、使おうと思えばすぐに使える状態だ。
ノート型も持ってるから、普段はそっちを使ってるんだけどね。
無線を飛ばしてファイルサーバにしたり、ファイアウォールのような役割をしているらしい。
お父さんはそこに『資料や取材をしたときの写真を入れてる』と言ってたっけ。
いつも電源は入れっぱなしにされていて、使おうと思えばすぐに使える状態だ。
椅子を引いて腰をかけ、キーボードを手元に用意する。
ディスプレイの電源を入れると、スクリーンセーバーが作動していた。
マウスを動かすと、一瞬の沈黙の後、“ようこそ”の文字が浮かび上がった。
「げすと……と」
Guestをクリックすると、HDDがカリカリと音を立てる。
ディスプレイの電源を入れると、スクリーンセーバーが作動していた。
マウスを動かすと、一瞬の沈黙の後、“ようこそ”の文字が浮かび上がった。
「げすと……と」
Guestをクリックすると、HDDがカリカリと音を立てる。
普段このアカウントは使われていないせいか、背景はデフォの青一色。
デスクトップ上には、整頓されていないアイコンが所狭しと並んでいる。
……よく見ると、九割ほどはいかがわしいものだった。
「お父さん、リアルではゲームの箱を積んでないと思ったら、こんなところに積んでたんだ……」
あきれながら、アイコンの山からIEを探り当てて起動させた。
デスクトップ上には、整頓されていないアイコンが所狭しと並んでいる。
……よく見ると、九割ほどはいかがわしいものだった。
「お父さん、リアルではゲームの箱を積んでないと思ったら、こんなところに積んでたんだ……」
あきれながら、アイコンの山からIEを探り当てて起動させた。
*** *** ***
しばらくサイトを回ってて、ふと、今何時か知りたくなった。
「たしかタスクバーに時計があったはずだけど……。ん?」
音量や電源のアイコンの隣に、見慣れない『B』のアイコンがある。
「なんだろう、これ。まさかこれもギャルゲー……じゃないよね」
小さなアイコンをつついてみる。何かが立ち上がった。
ところどころ英語表記で、ボタンとタブだらけ。
タイトルバーにはBOINC Manager……。
「ぼいん……く?」
『ボイン』って単語が気になったけど、そう怪しいものでもない……のかな。
パラパラとタブをめくってみるけど、英語がずらっと並んでるばっかりだった。
そして一番左端のタブ。
「プロジェクト、World Community Grid……アカウント、S.Izumi@eroparo? チーム、Team 2ch……」
これは某巨大掲示板も関係してる……?
「たしかタスクバーに時計があったはずだけど……。ん?」
音量や電源のアイコンの隣に、見慣れない『B』のアイコンがある。
「なんだろう、これ。まさかこれもギャルゲー……じゃないよね」
小さなアイコンをつついてみる。何かが立ち上がった。
ところどころ英語表記で、ボタンとタブだらけ。
タイトルバーにはBOINC Manager……。
「ぼいん……く?」
『ボイン』って単語が気になったけど、そう怪しいものでもない……のかな。
パラパラとタブをめくってみるけど、英語がずらっと並んでるばっかりだった。
そして一番左端のタブ。
「プロジェクト、World Community Grid……アカウント、S.Izumi@eroparo? チーム、Team 2ch……」
これは某巨大掲示板も関係してる……?
さっき開いていたIEをひっぱってきて、検索窓にBOINC、と書いてみた。
すごい数の検索結果がでたけど、日本語のページはすぐに見つかった。
どうやら色んな国で活動してるまともな組織みたい。
すごい数の検索結果がでたけど、日本語のページはすぐに見つかった。
どうやら色んな国で活動してるまともな組織みたい。
「見つかってしまったか」
「お、お父さん! いつからそこに?」
「ちょうど今」
お盆の上に湯飲みが二つ。
飲み物を持ってきてくれたんだ。
「隠すつもりはなかったんだがな……。この際だから言っておこう。それはいわゆるボランティアだ」
「ボランティア? お父さんが?」
「ああ。説明はちょっと長くなるんで、紹介のFlashを見てくれ」
「お、お父さん! いつからそこに?」
「ちょうど今」
お盆の上に湯飲みが二つ。
飲み物を持ってきてくれたんだ。
「隠すつもりはなかったんだがな……。この際だから言っておこう。それはいわゆるボランティアだ」
「ボランティア? お父さんが?」
「ああ。説明はちょっと長くなるんで、紹介のFlashを見てくれ」
お父さんは手際よくURLを入力して、まとめページを出してくれた。
――BOINCはエイズやデング熱、がん解析をしているということ。
一台じゃ終わりが見えない計算も、何万台、何千万台というPCが協力すればゴールが近づくということ。
六年前に前身となるUDが始まったということ。
Flash全盛期だったから、こういう支援Flashが大量にあるということ。
そしてそれを見てお父さんも解析に加わったということ。
私がFlashを見ている間、そんなことを話してくれた。
――BOINCはエイズやデング熱、がん解析をしているということ。
一台じゃ終わりが見えない計算も、何万台、何千万台というPCが協力すればゴールが近づくということ。
六年前に前身となるUDが始まったということ。
Flash全盛期だったから、こういう支援Flashが大量にあるということ。
そしてそれを見てお父さんも解析に加わったということ。
私がFlashを見ている間、そんなことを話してくれた。
「『まだ見ぬ誰かの笑顔のために』って言葉にグッときてな、試しにこいつにインストールしてみたんだ」
少し黄ばんだ筐体を優しく撫でさすっている。
「かなたはがんじゃなかったが、家族を亡くすことは、がんでも他の病気でも事故死でも、どんな原因でも辛いのは変わりない。
でもこれに参加することで、僅かでも救える人がいるなら、少しでも、オレが他人の悲しみを減らしてやれれば……ってね。
オレはほとんどが在宅での仕事だし、PCは大体起動させっぱなし。だから、その余ったパワーを解析に回してるんだ。
本当にこれが役に立っているかは分からない。だけど『やらない善よりやる偽善』なんだ。」
少し黄ばんだ筐体を優しく撫でさすっている。
「かなたはがんじゃなかったが、家族を亡くすことは、がんでも他の病気でも事故死でも、どんな原因でも辛いのは変わりない。
でもこれに参加することで、僅かでも救える人がいるなら、少しでも、オレが他人の悲しみを減らしてやれれば……ってね。
オレはほとんどが在宅での仕事だし、PCは大体起動させっぱなし。だから、その余ったパワーを解析に回してるんだ。
本当にこれが役に立っているかは分からない。だけど『やらない善よりやる偽善』なんだ。」
いつになく落ち着いた声で、しめっぽく語る。
そんなお父さんの姿が珍しくて、この雰囲気が嫌で、茶化したくなった。
「いままでお父さんを怪しい人だと思ってたけど、ちゃんとした面もあったんだね」
「……酷いなー。オレだって一応はまともな人間だ」
ちょっと顔を赤くして、プイっと横を向いてしまった。
「まともな人間はこんなにギャルゲーをインストールしないよ」
「ぐっ、そりゃそうかもしれないけどさ……。あんまり、オレをいじめないでくれ~。オレはドMじゃないんだから」
そんなお父さんの姿が珍しくて、この雰囲気が嫌で、茶化したくなった。
「いままでお父さんを怪しい人だと思ってたけど、ちゃんとした面もあったんだね」
「……酷いなー。オレだって一応はまともな人間だ」
ちょっと顔を赤くして、プイっと横を向いてしまった。
「まともな人間はこんなにギャルゲーをインストールしないよ」
「ぐっ、そりゃそうかもしれないけどさ……。あんまり、オレをいじめないでくれ~。オレはドMじゃないんだから」
――しんみりしているお父さんより、こうしてふざけあえるお父さんのほうが好き。
「冗談冗談。……それでさ、BOINCは私のPCにもインストールできる?」
「お、こなたも参加してくれるのか」
「乗りかかった船だしね」
「よし! じゃあ今度の休みにでも一緒に設定しようか」
「『一緒に』?」
「……そんな目でオレを見ないでくれ~」
「お、こなたも参加してくれるのか」
「乗りかかった船だしね」
「よし! じゃあ今度の休みにでも一緒に設定しようか」
「『一緒に』?」
「……そんな目でオレを見ないでくれ~」
――お父さんは、いつまでも笑っていて……。