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バス停あさがお

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だれでも歓迎! 編集
暑い。

夏休みも終わりに近づいた、憂鬱な八月のある日
そんな憂鬱をぶち壊すかのように太陽は今日も元気に絶好調で。
情け容赦なく降りそそぐ陽射しの下を、私は後悔しながらアテもなくさまよっていた。

今日、私こと日下部みさおは小さい頃からの親友、峰岸あやのと映画を見に行くことになっている。
あやのは既に私の兄貴と一緒に見にいったらしいんだけど、
「すっごく面白かったから、みさちゃんも見ようよ」
って感じで誘われた。
待ち合わせは映画館の最寄り駅に、今から三時間後。
なんでそんなハンパな時間にこうして一人で外をぶらついているかというと……全部太陽が悪いんだ。

今日も朝早くからギラギラと張り切ってくれた太陽は私の眠気を残らずふっ飛ばし、
「昼過ぎまでぐっすり」という計画はその時点で完全にハタンした。
すぐさまクーラーをつけてしばらくゴロゴロしてたんだけど、今度は退屈が襲ってきて。
テレビはろくなのやってないし、マンガも読み飽きたのばっかだし。
だからとりあえず外に出て、何故か電車に乗って、一応待ち合わせの駅で降りて。
そして現在に至る。
……あれ? 太陽あんま関係ないな。
まいーや。

しかしこんなトコまで出てきたところでやりたいこともやるべきことも見つからず。
解消されない暑さと退屈さに負けてやっぱ家に帰ろっかなーと思い始めていたときだった。
そいつを見つけたのは。

「ん……」

裾や肩口にだけ薄く青が入った白いワンピース。淡いグリーンに縁取られたトートバッグ。
細く柔らかな線を描く、透き通るように白い手足。
リボンのかかった麦わら帽子が乗せられた、肩に届く赤い髪。
そんな、いかにも可愛らしい感じの女の子が、すぐそばのバス停のベンチに腰掛けていた。

「うん?」

何かが心に引っ掛かった。
たぶん小学校の高学年ぐらいのその子に、なんとなく見覚えがある気がしたのだ。

でも私には小学生の知り合いなんていないはず。
ゲーセン行ったときとか、同じゲームやったガキんちょと軽く語り合ったりすることならたまにあるけど、
たいていその場限りだし。つーかそーゆーのは男の子ばっかりか。
そーいや前にそんなこと柊に話したら、
「精神年齢が近いんでしょうね」なんつってバカにされちまったよ。ちくしょ。

ん?
柊?

また何か引っ掛かった。
中学からの友人である柊かがみと、目の前のこの女の子とのことで。
この子と、柊?
……姉妹?
そーいや柊には妹が……って! 違うし! それ双子だし! 同い年だし!
いくらなんでもそんぐらい知ってるってば!
あ、こっち見た。
と思ったら後ろ向いて……おう、またこっち見た。
頭の左右に結わえられた二つの縛り髪が、首の動きに合わせてふわりと揺れる。
柊とおんなじ髪型だな。こっちのがだいぶ短いけど。
む?
今の、前にも同じこと思ったことあるぞ? 前にこの子を見たときか?
じゃ、やっぱ会ったことがあるんだ。

えーと。
年下の知り合い自体は、どっちかってーと多い方だと思う。
近所の子とか親戚の子とか、あと部活の後輩とか。
ちなみに陸上部な。こー見えてもけっこー速いんだぜ?
あ、でも。
「こう見えて」とかってよく言うけど、私って他の人からはどー見えるんだろ、実際。
ん~……とりあえず、「元気だなあ」ってのが一番よく言われるかな。
運動部に入ってるって言って驚かれたりしたこともないし、典型的なスポーツ野郎って感じか?
……野郎じゃねーよ少女だよ。
そーいやよく男に間違えられるんだよなー。
いや、それはいーんだよ。もーいーんだよ。てぇか関係ねーんだよ。
……なんだっけ。
えーっと。
「こう見えて」じゃなくて……「見ての通り」、の方が合ってるかな。自慢してるみたいだけど。
でも実際、見ての通り速いし。ああ、うん、やっぱしっくりくるな。
「こう見えても」なんてのは、例えば、そう。
隣のクラスのちびっ子とかの場合に使うんだよな。
あんにゃろってば小学生みたいな見た目のくせして妙に運動神経が――

あ。

ちびっ子。
柊。
妹。
おねえちゃん。



――わかった!



「ちびっ子の妹だ! だよな!?」

思い出した思い出した思い出した!
そうそう、そうだ。この顔だ。
学校の廊下とかで、隣のクラスのちびっ子に向かって「おねえちゃ~ん」と
子犬みたいにパタパタと駆け寄っていくのを何度か見たことが……うん?
なんかちびっ子2号(仮)が固まってる。驚かせちまったか?

「あー、いやいや、ゴメンな? 別にアヤシイもんじゃなくてさ。ほら、見覚えない?」
「……」

おう、無反応。
てぇか、なんかわたわたして、パニクってる?

「お~い、どしたぁ~?」
「――えっ、あっ、やっ、そのっ!」
「あんた、アレだよな? 名前……は、わっかんねぇんだけど。ちびっ子……泉だっけ?
 それの妹さん。違う? 合ってる? 違ったらゴメン」
「ち、違わないです! 合ってます!」
「そっか! やっぱな!」

やれやれ、人違いじゃなかったな。
いやあ、私の記憶力も捨てたモンじゃなかったね!
考えがあっちこっちに飛ぶクセが出ちまったけど、そのおかげで思い出せたようなもんだし。
コレってアレ? バラバラだったパズルのピースがぴたっと噛みあったってヤツ?
おぉなんか探偵みたいだぞ私。すげぇ。

「あ、あの。それで、その――」
「ん?」
「あの、こなたお姉ちゃんの、お友だちの方ですよね?」

うんうんとうなずきかけて、一時停止。
こなた? ってちびっ子のことだよな。そーいや柊もそんなふうに呼んでた気がする。
で、その友だち? 誰が? 私が?

「いやいや。私はほら、柊の。おんなじクラスの。五年連続の」
「え? えーと……」

ああでも、そっか。
ちびっ子に会いにやってくるこの子を私が目撃してるってことは、ちびっ子と一緒にいるときに
目撃したってことで、つまり向こうからは一緒にいる私たちを見られてるわけだから、ゆえに、ええと。
……なんかよくわかんなくなってきた。
いいや。めんどくさい。

「あー……うん。いーよいーよ。それで合ってる。ちびっ子の、でいーや、別に。うん」
「? ? ?」

うう、なんか見るからに「よけいにわかりません」って顔。無理もないか。
でも人に何か説明するのって苦手なんだよなー。えーと……

「だからぁ、私はもともと柊の友だちで、ってゆーか柊がもともと私の友だちで、
 中学のときからもう五年連続で同じクラスなわけよ。
 なのになんか最近ずーっとちびっ子にべったりで……昼飯も向こうまで行って食うんだぜ?
 そりゃま、たまには私らとも一緒してくれるけど……さびしーんだよー。わかるかー?」
「へ? あ、あの、はい」
「そっかー。わかってくれるかー。いーヤツだなーおまえ」
「ひゃっ!? ど、どういたしまして……」

うんうん、ホントいーヤツだ。あのちびっ子の妹とはとても思えん。
思いっきり話が飛んだような気がしないでもないが、わかってくれたんだからOKだ。
それよりも今はこの喜びを噛みしめたい。

「えっと、それで……あの……」
「ん? なに?」

と、見ると何やら困ったような顔。そしてその左右の肩に置かれた私の手。
……いつの間に。
とりあえず手をどけると、しかし困ったような迷ってるような顔は変わらない。
そしてそわそわと、何かを言いたいけど言うべき言葉がわからない、みたいな態度。
なんだ?
あ、そっか。
フフフ、またピンと来ましたよ。
ズバリ! 名前がわからないと見たね!

「みさお」
「へ? ……え?」
「私。日下部みさおっての。あんたは?」

フフフ、驚いてる驚いてる。
まあ無理もあるまい。思ってることを先回りされりゃあ誰だってな。フフフ。

「あ、わ、わたしは、小早川ゆたかっていいます。こなたお姉ちゃんのいとこです」

ふむ、小早川か。
って、あれ? イトコ? あ、そーなんだ。そーいや名字違うな。
なるほど、道理であのちびっ子の妹とは思えないぐらい良いヤツなわけだ。

「小早川ね。わかった。よろしくな!」
「はい! よろしくお願いします!」

答えて、小早川はきれいに笑った。
うわ、なんかすっげぇ可愛い。
可愛らしくて爽やかで涼しげな、まるで朝に咲いたアサガオの花のような、だなんて
柄にもないことを思わせるほどに。
それはそれは素敵な笑顔だった。







     ☆



同日、夜。
柊家の玄関先にて。


「――へぇ~、ゆたかちゃんと日下部がねぇ。……言っちゃなんだけど、想像しにくいわね」
『私もビックリしたヨ。いったいどっちがフラグを立てたことになるんだろうねぇ?』
「知るか。日下部はともかくゆたかちゃんまでその手の話に巻き込むんじゃない」
『むー。かがみが先に言ったんじゃん』
「言ってねえ! ……でもゆたかちゃん、大丈夫なの?」
『へ? 何が?』
「いや、あの子の体力じゃ、日下部のテンションに付き合うのは厳しいんじゃないかなって」
『……ん~~、大丈夫みたいだよ? むしろ一日でずいぶんと仲良くなったみたいでねえ。
 こんど一緒に出かける約束もしたんだって』
「はー、そりゃまた。って、ますます分からないんだけど。
 その二人が一緒に出かけて、どこで何をするっていうのよ」
『ああ、そー言えば詳しいことは聞いてないね。
 でも二人じゃないよ? みなみちゃんとひよりんも一緒だって』
「ふーん。岩崎さんが一緒なら大丈夫か。……パトリシアさんは?」
『バイトがある日なんだよね。ちなみに私も』
「ああ……って、あんたまだ続けてたのか! 何度も言ってるけど受験生だろ!」
『ちゃんと日数は減らしてるよー、お父さんにも言われちゃったし。――というわけでかがみ』
「何よ」
『どっちに行く?』
「……何がよ」
『みさきちたちをこっそり尾行するか、私たちを堂々と鑑賞するか。さあ、DOCTH!?』
「どっちも行かねえよ!!」













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  • 異色の二人だったから結構楽しめた。新たな発見 -- クドリャフカ07th (2008-10-31 19:53:26)
  • ほのぼの〜 -- 割れ目 (2008-04-05 03:52:25)
  • なるほど……タイトルの
    意味がようやく理解できました。
    とても夏の日差しを感じる事のできる文章でした。 -- 名無しさん (2008-01-11 03:26:55)

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