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女子高生四人がメジャーリーグにハマるまで(中)の(前)

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匿名ユーザー

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 とはいえ、何から手をつけたらいいものやら。
 帰宅寸前だったので本屋に寄れなかったから、参考に出来そうな書籍はない。必要ならば、後ほど買うなり借りるなりすればいいということにした。
 「ゆきちゃんが貸してくれるよ、きっと」
 「英語で書かれたものをたっぷりとね」
 「……」
 つかさ、大粒の汗を浮かべて固まる。
 「がんばって訳すんだぞ~」
 「はうぅっ」
 そんなわけで、行き着く先はPCの前ということになる。
 定石通り「メジャーリーグ」で検索してみると、予想通りオンライン百科事典の項目がヒットした。MLBの日本語公式ページも見つかったが、日本人選手が目当てではないので百科事典の方に挑むことにした。きっとみゆきも利用したことだろう。
 「30球団もあるんだ……」
 球団の一覧表を見つけて、思わず呻く。
 指名打者制度を採用し、ヤンキース、レッドソックス、マリナーズなどが名を連ねるアメリカンリーグに14球団、投手が打席に入るナショナルリーグには、ドジャース、メッツ、カブスなど16球団。どちらも西、中、東の3地区に分かれ、交流戦も含め各球団が基本的に引き分けなしで162試合を行い、各地区の優勝チームと地区2位球団の最高勝率チームがプレーオフに進出する。
 「どうして半分こにしないのかな」
 つかさが首を傾げる。
 「球団数が奇数だと、あぶれちゃうところが出るからよ。一つの試合は、対戦する二球団がないと成立しないでしょ?」
 「あ、そうか。さすがお姉ちゃん」
 「当たり前でしょ、それくらい……」
 かがみはひどく不機嫌そうな顔で答える。球団だって個人だって、あぶれたくないのは同じだ。
 「でも、地区ではほとんど奇数なんだね」
 一覧は地区ごとにまとめられていたが、つかさの言う通り、球団数が偶数なのはアメリカンリーグ西地区(4球団)と、ナショナルリーグ中部地区(6球団)だけだった。
 「これで成り立ってるって事は、逆説的に他の地区との対戦が常に行われているって事になるわね。まあ、14も16も3で割り切れないから当然でしょ。各地区を6球団ずつ、両リーグ18球団ずつ、総数を36にすればすっきりするんだろうけど……って、おーい。だいじょぶかー?」
 つかさの頭から白煙が上がっていた。かがみからすれば何でもない推論だったが、つかさの頭の回路はパンクしたようだ。鎮火に必要なのは水か、消火器か?
 ま、ほっとけば直るわね。
 そう思い、改めて一覧を眺める。チームが30なら球場も30ということになるだろう。みゆきはもう覚えたと言っていたが、さすがに60個となると気が遠くなる。加えて英語の綴り覚えるとなれば全部で120個だ。
 「これ英語で書ける?」
 つかさが元に戻ってたので(自然鎮火)、かがみは「ミルウォーキー」、「ヒューストン」、「フィラデルフィア」など、ローマ字とは程遠い綴りの都市を指差して聞いてみた。
 「う~、『ニューヨーク』なら書けるけど……」
 「『N.Y』って略さずに?」
 「はうっ!」
 誠に頼りない。
 そこで二人は、一覧を見ながらその意味を当てていくという遊びをやってみた。英語の得意なかがみが最初に出題役を務める。
 かがみはナショナルリーグ東地区の「アトランタ・ブレーブス」を選び、つかさから隠す格好でその項目を開いてみる。その意味は見るまでもなく分かったが、本拠地のターナー・フィールドが、オリンピック施設を改装したものだとあったので、別のクイズも出してみる。
 「アトランタってオリンピックが開かれた場所だけど、小さい頃見たの覚えてない?」
 「え、そうだっけ?」
 白煙が引いた頭から、今度は巨大な「?」が浮かび上がってくる。
 「もの心はもうついてたわよ。それは何年?」
 「え、え~と……」
 しばらくしてつかさの頭が再発火したので、考え方を披露する。
 「次のオリンピックが今年・2008年でしょ。オリンピックは4年ごとに開かれるから、選択肢は2004年、2000年、1996年、1992年で、1988年はまだ生まれてないから除外。1992年はもの心ついてるかどうか怪しいし、2000年だともう小学生だから、物心がついてるかどうかは問題にならない。答えが2000年という問題ならば、ヒントとしては『まだ小学生だった』、『まだ中学に入ってなかった』とかってするのが妥当でしょ。従って答えは……」
 発言を促してみる。つかさは躊躇いがちに口を開き、
 「……選択肢、忘れちゃった」
 「さよか……」
 頭を抱える。こなた以上に心配になってきた。
 いや、起きてるように見えて、実はもう寝てるのかな。うん、きっとそうだ。
 「じゃあ、『ブレーブス』の意味も分からないんだろうね……」
 「うーん。あ、お姉ちゃんが読んでた本に、何かそういうのあったよね」
 「『ブレイブ・ストーリー』のこと?」
 「うん、それ。意味は~、意味は~~、意味ぃ……」
 火災警報発令! かがみは慌てて止めに入る。
 「も、もういいから。寝ながら……じゃない、考えても分かるものじゃないから」
 「ごめんね、お姉ちゃん。あ、でもこれなら分かるよ」
 指差すは「シカゴ・ホワイトソックス」、「ボストン・レッドソックス」。
 「じゃあ、『シカゴ』の綴りは?」
 しまった。聞くべきじゃなかったかも。
 「シカゴ? Si……あ、Shi……Ciかな??」
 「全部外れ。Chicagoよ。これで『チカゴ』にならないのは、一帯がかつてフランス領だったことと関係してるんでしょ」
 「すごいねえ。お姉ちゃんがゆきちゃんに見えてきた」
 つかさは目を輝かせる。
 「いや、同じ授業を受けてるはずなんだから、分かってくれないと悲しい……ていうか、黒井先生が悲しむ」
 「うう……。じゃあ先生に謝っとかなきゃ」
 藪蛇にならないことを祈ろう……。
 「あれ? 向こうにもレッズがあるね」
 つかさは「シンシナティ・レッズ」を指していた。埼玉県民ならずとも、「レッズ」で連想するのは浦和の方だろう。浦和の方は「レッド・ダイヤモンズ」の略なので、シンシナティの方も何かの略称だろういうことで項目を開いてみると、かつての球団名が「レッド・ストッキングス」だったと出ていた。かがみはニヤリとする。
 「ストッキングと聞いて、みゆきの脚を連想したでしょ?」
 「え~、何で分かるの~!?」
 初歩的な誘導尋問である。
 「……やっぱりしたんだ。まあ、身近だもんね」
 「うう……」
 「でも勘違いしちゃダメだよ、つかさ。野球で使う靴下は、男物でもストッキングっていうんだから」
 「へ~。でもそれじゃ、『レッドソックス』とどう違うの?」
 「それは……」
 さすがのかがみも詰まる。
 「後でゆきちゃんに聞いてみようか?」
 「そうね」
 話の種が出来たところで、攻め受……攻守交替。つかさが出題者となる。かがみ、張り切る。

 デトロイト・タイガース……トラ
 ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム……天使
 ピッツバーグ・ハイレーツ……海賊

 といった「こなたでも分かる(かがみ談)」のものはもとより、

 シアトル・マリナーズ……船乗り
 サンディエゴ・パドレス……神父
 ミルウォーキー・ブルワーズ……ビール職人

 といったやや難問までも連破。
 ニューヨークの二球団では、得意科目=英語の面目躍如だった。。
 「ヤンキースの『ヤンキー』は、誰が言うかによって意味が変わる言葉で、日本だと『不良少年』……あれ、『不良少女』も含まれるんだっけ? ま、だいたいそんな感じだけど、日本以外の外国人が言うと蔑称的に『アメリカ人』、アメリカ南部の人が言うと『北部人』てなるわね。その中でも特に『ニューヨークの人』を意味するから場合があるから、チーム名もそうなった。そんな感じじゃない?」
 「だいたい正解みたい。お姉ちゃん、すごい……」
 ヤンキーの綴りを教えてもらった上で英和辞書を開いていたつかさが、震えながら答えた。他にもニューイングランド地方の人間という意味もあり、含包する意味がどんどん広がっている言葉だとあった。
 「じゃあメッツの方は?」
 「メッツ……綴りはMetsでいい?」
 「うん」
 だとすれば難問だ。meetの過去・過去分詞と同じ。名詞的な意味があるのだろうか?
 炭酸飲料にメッツってあるけどあれはMetzだし、フランスの地名(Metz-メス。ドイツ語読みだとメッツ)もなんとなく除外。
 あれ、でも他にもMETってなかったっけ? 割と最近、上野だかどっかで展覧会があったような……。そう、確かみゆきが、夏休みの旅行で両親と現地に行ったことを話してた。そう、その美術館の名前は……。
 「メトロポリタンズ……都会人て意味かな」
 「わ~~~」
 感激したつかさが抱きついてくる。
 ニューヨーク・メトロポリタン美術館も、METという愛称なのである。
 「お姉ちゃんすごい! すごいすごい!」
 抱き締めてダンス初心者のように振り回す。キスでもされそうなくらい色々と近い。
 「ちょ、顔近いから……落ち着いてつかさ。それにこれも、みゆき畑の収穫物だし」
 強いて種を蒔いたのは誰かと問えば、みゆきの両親となるだろうか。
 「?? そうなんだ~」
 ニューヨーク・メッツを攻略したかがみであったが、年俸総額でメッツの7分の1程のフロリダ・マーリンズにはあっさり敗れてしまった。
 フロリダとの縁や所縁がわからないまま躊躇いがちに出した、「円卓の騎士の魔法使い?」という答えに、「マカジキ」という正解が示された。魔法使いのマーリンはMerlinで、Marlinはフロリダ近海にいる魚のマカジキだという。
 かがみは相当悔しかったらしい。
 「……後でお寿司屋に復讐に行こうか」
 「う、うん……」
 復讐を成し遂げた結果として、かがみの眼前に築かれた皿の山が今から見えるような気がして、つかさは心の中で「どんだけ~」と呟くのだった。




 「なんだかんだで熱中しちゃったね」
 主にお姉ちゃんがだけど。
 なんて心の中で付け加えながら、つかさが笑う。
 「うん。でもおかげで半分くらいは覚えられたかな」
 「え~。さすがお姉ちゃん」
 苦笑するつかさの成果については、問わない方がよさそうだ。主につかさに名誉のために……。
 「かがみ、つかさ、ごはんよ~」
 階下よりみきの声が聞こえてきた。
 「はーい」
 つかさが答える。
 「行こ、お姉ちゃん」
 PCの電源切ったら行く……と答えようとして、叶わなかった。

 ミネソタ・ツインズ

 一覧にあったこの九文字に、より厳密には後ろの四文字に目が釘付けになった。
 ツインズ。
 Twins?
 アメリカンリーグ中部地区にカテゴラズされている、球団の名前。
 双子、よね? 他の意味が、ひょっとしたらあるのかもしれないけど。
 マーリンズの罠にかかったかがみは慎重になっていた。
 私とつかさも双子……これに他の意味はない。うん、それだけ。
 だからどうしたと斬って捨てるのは容易いけど、でも少なくとも私もつかさもトラじゃない。
 巫女ではあるが、神父や天使じゃない。
 船乗りや海賊でもない。ていうか、内陸に住んでいては、直に船を見る機会もろくにない。
 アスレチック(運動選手)といえば日下部だし、レイ(エイ、または光線)といえば峰岸のおでこだ。
 埼玉県北東部は首都圏かもしれないが、かといってその住民はメトロポリタンともいえない。
 非行に走ってはいないし、日本人だからヤンキーでもない。
 ただ双子だという事は確かだ。一卵性か二卵性かは置いといて。みゆきによれば、兄と弟、姉と妹の決め方が今とは逆だった時代もあるというが、それも置いとこう。
 「……」
 別にアブナイ意味ではなく、呼ばれたような気がした。
 「お姉ちゃ~ん、冷めちゃうよ~」
 いや、確かに呼ばれた。
 かがみはPCをスリープ状態にしてから、階下へと向かった。




 食休みと称してテレビを見始めたつかさを尻目に、かがみは自室へ戻ると、寝かせておいたPCを起こす。つかさと違ってPCはすぐに起きてくれた。

 ミネソタ・ツインズ
 Minnesota Twins

 チーム名の由来は、州都のセントポールとミシシッピ川を挟んで西岸のミネアポリスを、合わせて「双子都市」と呼ぶ事から来ている。ドナウ川を挟んで、ブダとペストでブダペストとなったハンガリーの首都と似たようなものだ。
 ……ブダとペストでブダペストって、何だかカプ名みたいだなあ……。
 ブダ攻めでペスト受け……。
 いかんいかん、コミケの後遺症が……。
 ミシシッピ(Mississippi)の仰々しい綴りは、よくジョークや漫画のネタにされるんだっけ。まさかこれ、ミシとシッピでミシシッピだったりしないわよね?
 それに「ミネア」とは。自分がビアンカ派なのはさておいて、ミシシッピ川の下流にニューオーリンズがあることからしても、どうにも第四章と無関係ではない気がしてくる。姉妹の父・エドガンも、由来はミシガンかも、なんて……。
 いかんいかんいかん、今はそんなことを考えてる場合じゃない。今のはこなたと話す時のネタにするとして……。
 えーと、ツインズは前身をワシントン・セネタースとして1901年、アメリカンリーグ発足と同時に設立。1961年にミネアポリスに移転しミネソタ・ツインズと改名。
 セネタース時代の1924年と、87、91年にワールドシリーズ制覇か。107回で3回。すごいかどうか分からん……。あ、ワールドシリーズは1903年からだから、105回……。ん? 1904年はボイコット、1994年ストライキで開催されてないから103回になるのか。ややこしいわね。
 本拠地球場はメテオドーム……違う! メトロドームだ。隕石降らせたら人類が滅亡してしまう。
 「お姉ちゃん」
 目をしょぼつかせながらつかさが入って来た。もう眠いのだろう。
 「お風呂、先に入っちうよ」
 宿題は……なんて、聞くだけ無駄か。
 「うん。溺れないようにね」
 「う~、平気~」
 すごく心配だ。
 「あ、まだ見てるの~」
 つかさがふらふらと寄って来てモニターを覗き込む。そのままダイブしそうなので、肩を押さえて支えてやる。
 「ミネソタ・ツインズぅ……? ああ、お姉ちゃんの球団だね~」
 かがみはドキッとした。つかさも同じように感じたのだろうか。
 「ちょっと気になっただけよ」
 取り繕ってみるが、どうにも狼狽を隠しきれない。
 「そうだよね~」
 つかさは垂れ落ちそうなほど頬と目を和ませ、言った。
 「お姉ちゃん、ツインテールだもんね~」
 「……はい??」
 「ツインズとツインテールで気になったんじゃないの~?」
 なるほど、「お姉ちゃんの」か……。
 「いや、私のすぐ後に、あんたが生まれてきたから気になったんだけど……」
 「そうなんだ~」
 ツインズ=双子という図式が、つかさの頭の中には確立してないらしい。
 これは色んな意味でいい機会かもしれないと思った。
 「ねえ、このチームから詳しく調べていってみようか」
 球団名に何か縁を感じるし、二人で分担すれば効率もいい。ついでに、ツインズ=双子という図式をつかさの頭の中に確立できれば一石二鳥だ。
 つかさはコクンと肯いた。……いや、肯いたのだろうか? しっかりと目を瞑っているが、まあいい。
 「じゃああんたが投手担当で、私が野手ね。野手の方が数が多いから大変だし……って、ちょ、つかさ!? どこ行くの?」
 つかさは立ち上がり、ふらふらと部屋から出て行ってしまった。
 卑怯者! 敵前逃亡だ。軍法会議にかけてやる。弁護士から法務士官に鞍替えしてでも……。
 「って、洒落てる場合じゃないわね」
 このままではつかさは、本当に溺れてしまいかねない。湯船に顔を浸けたまま熟睡し、溺死する人が本当にいるのだという。
 一緒に入ってやるか……。
 PCの電源を落とし立ち上がったところで、出て行った時と同様につかさがふらふらと戻ってきた。手には何かを持っている。
 「お姉ちゃん、これなんだけど……」
 それはTV雑誌だった。TVを見ながら眺めていたのだろうか。つかさが指差すのは、番組表の国営衛星放送の欄。
 「!!」
 かがみは慌ててページをめくり、翌日と翌々日の同じ部分に目を走らせ、そこに同じ文字を見つけた。
 「でかした、つかさ」
 「えへへへ、お姉ちゃんに褒められた~」
 その日の分も含め、そこにはこうあった。

 11:00大リーグ
 ツインズ×マリナーズ

 それは明後日まで行われる三連戦を中継する事を告げていた。




 百聞は一見にしかず。
 それは第二次大戦中、ヨーロッパ戦線でアメリカ第3軍を率いたパットン将軍が、司令部で地図と睨めっこしてばかりの部下を叱り飛ばす際に持ち出したほどの、日本の叡智。
 ともあれ試合を「一見」すれば、実況や解説がそこに何聞も加えてくれて、理解が深まるに違いない。
 この時は、ただ単純にそう思ったのだが……。

























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  • 終盤にネタとして組み込む予定なので、
    現時点では禁則事項です -- 42-115 (2008-04-13 18:15:19)
  • ツインズて日本人いたっけ?
    珍しい内容だし、続き期待 -- 名無しさん (2008-04-13 13:21:42)

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