娯楽性ばかりが強調されて久しいとはいえ、マスコミは社会の公器である。
重大な「何か」が起これば、求められるのは一刻も早い正確な情報だ。
そのためにやむなくほかの何かを犠牲にすることも、社会の公器としてのやむを得ぬ務めといえるだろう。
これは、犠牲になった「ほかの何か」にまつわるちょっとしたお話。
重大な「何か」が起これば、求められるのは一刻も早い正確な情報だ。
そのためにやむなくほかの何かを犠牲にすることも、社会の公器としてのやむを得ぬ務めといえるだろう。
これは、犠牲になった「ほかの何か」にまつわるちょっとしたお話。
11月も半ばともなると、毎朝の空気は冷たい。
柊かがみと妹のつかさは、バス停に並ぶ生徒たちに混じって肩をすくめながら、一緒に登校するはずの泉こなたを待っていた。
「所用がありますので」と申し訳なさそうに先の便に乗り込んだ高良みゆきを見送ってから、かがみは手にした缶に口をつけた。
唐辛子を模したキャラクターが、黒い缶の上で凶悪な笑みを浮かべている。暴君にしてはフレンドリーな味わいが彼女のお気に入りだ。
「こなちゃん、遅いねぇ」
つかさもちびちびとチョコドリンクを飲んでいる。ふぅふぅと一口ごとに冷ますしぐさが可愛らしい。
「どうせネトゲか何かでしょう? あいつったらほんとにいい加減なんだから」
むっつりと言ってはみせるものの、かがみも内心ではいぶかっていた。
何しろ今日は、当の彼女から散々聞かされた「記念すべき一日」なのだ。そんな日に彼女が寝過ごすなんて考えにくい。
こんな日には朝一番に起きてきて、かまってもらいたがりの子猫のようにかがみ達にじゃれ付くこなただというのに。
柊かがみと妹のつかさは、バス停に並ぶ生徒たちに混じって肩をすくめながら、一緒に登校するはずの泉こなたを待っていた。
「所用がありますので」と申し訳なさそうに先の便に乗り込んだ高良みゆきを見送ってから、かがみは手にした缶に口をつけた。
唐辛子を模したキャラクターが、黒い缶の上で凶悪な笑みを浮かべている。暴君にしてはフレンドリーな味わいが彼女のお気に入りだ。
「こなちゃん、遅いねぇ」
つかさもちびちびとチョコドリンクを飲んでいる。ふぅふぅと一口ごとに冷ますしぐさが可愛らしい。
「どうせネトゲか何かでしょう? あいつったらほんとにいい加減なんだから」
むっつりと言ってはみせるものの、かがみも内心ではいぶかっていた。
何しろ今日は、当の彼女から散々聞かされた「記念すべき一日」なのだ。そんな日に彼女が寝過ごすなんて考えにくい。
こんな日には朝一番に起きてきて、かまってもらいたがりの子猫のようにかがみ達にじゃれ付くこなただというのに。
ぞろぞろとバスに飲み込まれて行く生徒の群れに背を向けながら、かがみは腕時計に視線をやった。
遅刻せずに登校するには、次の便がぎりぎりのリミットだ。
ぬるまったチリスープを名残惜しげに飲み干し、空き缶をゴミ箱に投じてつかさを促す。
慌ててドリンクを飲んだつかさが、「んがくくっ」と裸足で駆けてく陽気な国民的主婦のような声をあげた。
と。妹が捨てそこなった空き缶を捨てなおしてやっていたかがみは、視界に見慣れた影を認めた。
人波のはざまに見え隠れする一房のアホ毛に向けて、気持ち大きめな声で挨拶を投げかける。
「よーっす! 遅いぞ、こなた!」
アホ毛の主が歩みを止める。
遅刻せずに登校するには、次の便がぎりぎりのリミットだ。
ぬるまったチリスープを名残惜しげに飲み干し、空き缶をゴミ箱に投じてつかさを促す。
慌ててドリンクを飲んだつかさが、「んがくくっ」と裸足で駆けてく陽気な国民的主婦のような声をあげた。
と。妹が捨てそこなった空き缶を捨てなおしてやっていたかがみは、視界に見慣れた影を認めた。
人波のはざまに見え隠れする一房のアホ毛に向けて、気持ち大きめな声で挨拶を投げかける。
「よーっす! 遅いぞ、こなた!」
アホ毛の主が歩みを止める。
「かがみ……つかさぁ……」
下がりきった眉。力なくうなだれた肩。くにゃりとゆがめられた口元。大きく見開かれ、潤みきった瞳。
紅潮した頬は、あろう事か涙に濡れていた。
下がりきった眉。力なくうなだれた肩。くにゃりとゆがめられた口元。大きく見開かれ、潤みきった瞳。
紅潮した頬は、あろう事か涙に濡れていた。
常ならぬ様子に姉妹がぎょっとするより早く、泉こなたは駆け出した。
幼い頃に自分とはぐれたつかさのようだ、とかがみが思う頃には、彼女の胸にタッチダウンを決めている。
「ふぅ……すん……っく、ふぃぃぃぃぃぃぃん!!」
そのままおいおいと泣き崩れるこなた。
「ちょっ、あんた、落ち着きなさいよ、一体どうしたのよ?」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「お姉ちゃん、バスもう出発しちゃうよぉ」
「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
この勢いを何に例えたものか。さしづめ、盆と正月が同時になくなった、とでも言うべきだろうか。
頭の片隅で取り留めのないことを考えつつも、かがみはこなたを引きずって閉じられる寸前の乗車口に滑り込んだ。
幼い頃に自分とはぐれたつかさのようだ、とかがみが思う頃には、彼女の胸にタッチダウンを決めている。
「ふぅ……すん……っく、ふぃぃぃぃぃぃぃん!!」
そのままおいおいと泣き崩れるこなた。
「ちょっ、あんた、落ち着きなさいよ、一体どうしたのよ?」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「お姉ちゃん、バスもう出発しちゃうよぉ」
「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
この勢いを何に例えたものか。さしづめ、盆と正月が同時になくなった、とでも言うべきだろうか。
頭の片隅で取り留めのないことを考えつつも、かがみはこなたを引きずって閉じられる寸前の乗車口に滑り込んだ。
「……ほら、少しは落ち着いた?」
「うん、ありがと、かがみ……」
黒板越しにさめざめとこなたのすすり泣きが聞こえるという、世にも心臓に悪い一時間目が明けて。
クラス担任桜庭ひかる以下C組全員の総意の下で「臨時ちびっ子慰め委員」に任命されたかがみは、こなたのいるB組を訪れていた。
つかさをあやした経験が18にもなって役に立つとは、さすがのかがみも思いもしなかったが。
「お姉ちゃんすごいねえ。私達じゃ泣き止まなかったのに」
「それだけかがみさんを信頼していらっしゃるんですね、泉さんは」
「ひとえに愛だよー、だよねぇ」
「……とっ、ともかく。こなた、何かあったの?」
つかさとみゆきの会話を赤面しながら流しつつ、かがみは問いかけた。
「それなんだよぉぉぉ……!」
と、引っ込みかけていたこなたの涙が再び溢れ出しそうになる。髪ごと背中をさする手の動きを再開して、こなたを落ち着かせるかがみ。
「あのね、タイマー予約も万全に済ませて、テープもまっさらのきれい撮り買って来て、さぁ今日だって思って朝一で起きたらね」
「うんうん。今日の奴よね、お昼の生放送。昨日は平野綾がテレビに出るからって、あんなにご機嫌だったじゃない」
平野綾は、こなたのお気に入り声優の一人だ。
どの位お気に入りかというと、彼女が科学番組のナレーションを始めてからこなたが異常に人体に詳しくなったほどである。
「朝刊見たらね、番組のところが国会中継になっててね、慌てて番組のサイト見たら、特別編成のためお休みってぇぇぇ……!」
再び泣き崩れるこなた。姉として鍛えたなだめテクも底をつきかけたかがみが、それでも落ち着かせようと口を開きかけたとき。
「うん、ありがと、かがみ……」
黒板越しにさめざめとこなたのすすり泣きが聞こえるという、世にも心臓に悪い一時間目が明けて。
クラス担任桜庭ひかる以下C組全員の総意の下で「臨時ちびっ子慰め委員」に任命されたかがみは、こなたのいるB組を訪れていた。
つかさをあやした経験が18にもなって役に立つとは、さすがのかがみも思いもしなかったが。
「お姉ちゃんすごいねえ。私達じゃ泣き止まなかったのに」
「それだけかがみさんを信頼していらっしゃるんですね、泉さんは」
「ひとえに愛だよー、だよねぇ」
「……とっ、ともかく。こなた、何かあったの?」
つかさとみゆきの会話を赤面しながら流しつつ、かがみは問いかけた。
「それなんだよぉぉぉ……!」
と、引っ込みかけていたこなたの涙が再び溢れ出しそうになる。髪ごと背中をさする手の動きを再開して、こなたを落ち着かせるかがみ。
「あのね、タイマー予約も万全に済ませて、テープもまっさらのきれい撮り買って来て、さぁ今日だって思って朝一で起きたらね」
「うんうん。今日の奴よね、お昼の生放送。昨日は平野綾がテレビに出るからって、あんなにご機嫌だったじゃない」
平野綾は、こなたのお気に入り声優の一人だ。
どの位お気に入りかというと、彼女が科学番組のナレーションを始めてからこなたが異常に人体に詳しくなったほどである。
「朝刊見たらね、番組のところが国会中継になっててね、慌てて番組のサイト見たら、特別編成のためお休みってぇぇぇ……!」
再び泣き崩れるこなた。姉として鍛えたなだめテクも底をつきかけたかがみが、それでも落ち着かせようと口を開きかけたとき。
「あの、泉さん。国会中継が入ったときには延期になるだけで、番組そのものは中止にはなりませんよ?」
救いの女神が、あらぬ方向から光臨した。女神のバストは88cmであり、CVは遠藤綾であったと言われる。
「ほんとっ!? ほんとにほんと? 嘘じゃないよね? ネタじゃないよね?」
泣いたカラスの例え通り、泣き顔を一変させて瞳を輝かせるこなた。
「おのれみゆき、うらやましすぎるわ……」
思わず、かがみの本音が口からこぼれ出る。
「すみません、泉さんをお借りしてしまって……」
「お姉ちゃんは本当に、こなちゃんを愛してるんだねぇ」
「うそっ!? え、私何か変なこと言った!?」
自爆であった。
「ねえみゆきさん、延期って言うことは別の日に生出演とかするの?」
かがみの懊悩など知らぬげに、こなたはみゆきに質問する。
「いいえ、公開録画に切り替わるそうですよ。当日にスタジオパークで収録して、放送枠が空いた後日に放送するそうです」
「そっかー、生あーやじゃないんだぁ。ちょっと残念かなあ、でもお蔵にならないならいいやー」
ほっと息をつき、ない胸をなでおろすこなた。そんな彼女を、みゆきはそっとかがみの元に促してやった。
自身はつかさの隣に椅子を移動させ、いつもの雑談モードになる。
「へぇ、詳しいわねみゆき。やっぱり、ネットとかで調べたの?」
ついでにとばかりにこなたの髪をくしけずってやりながら、かがみは尋ねた。
「それもあるんですが……母とみなみさんのお母さんが、勘三郎さんのファンでして」
「北風小僧?」
なぜか困ったような微笑を浮かべるみゆきに、つかさがいつものごとくボケを返す。
「それは寒太郎でしょ。ええっと、歌舞伎の人よね、去年かおととしかに勘九郎から襲名したっていう」
「ええ。それで、つい月曜に国会中継で勘三郎さんの番組が流れまして、母もおばさまも神南まで抗議に行くとものすごい剣幕で……」
言われてみれば、さきおとといのみゆきは休み時間ごとにどこかに電話したりメールしたりとばたばたしていた。
小指をぶつけた程度でダイレクトに噴火してしまう、奔放で直情的なみゆきの母である。なだめるには相当な苦労があっただろう。
「そりゃまたなんとも……みゆきも苦労するわね」
みゆきと同種の微笑を浮かべたかがみの耳に、二時間目の予鈴が聞こえてきた。
「ほんとっ!? ほんとにほんと? 嘘じゃないよね? ネタじゃないよね?」
泣いたカラスの例え通り、泣き顔を一変させて瞳を輝かせるこなた。
「おのれみゆき、うらやましすぎるわ……」
思わず、かがみの本音が口からこぼれ出る。
「すみません、泉さんをお借りしてしまって……」
「お姉ちゃんは本当に、こなちゃんを愛してるんだねぇ」
「うそっ!? え、私何か変なこと言った!?」
自爆であった。
「ねえみゆきさん、延期って言うことは別の日に生出演とかするの?」
かがみの懊悩など知らぬげに、こなたはみゆきに質問する。
「いいえ、公開録画に切り替わるそうですよ。当日にスタジオパークで収録して、放送枠が空いた後日に放送するそうです」
「そっかー、生あーやじゃないんだぁ。ちょっと残念かなあ、でもお蔵にならないならいいやー」
ほっと息をつき、ない胸をなでおろすこなた。そんな彼女を、みゆきはそっとかがみの元に促してやった。
自身はつかさの隣に椅子を移動させ、いつもの雑談モードになる。
「へぇ、詳しいわねみゆき。やっぱり、ネットとかで調べたの?」
ついでにとばかりにこなたの髪をくしけずってやりながら、かがみは尋ねた。
「それもあるんですが……母とみなみさんのお母さんが、勘三郎さんのファンでして」
「北風小僧?」
なぜか困ったような微笑を浮かべるみゆきに、つかさがいつものごとくボケを返す。
「それは寒太郎でしょ。ええっと、歌舞伎の人よね、去年かおととしかに勘九郎から襲名したっていう」
「ええ。それで、つい月曜に国会中継で勘三郎さんの番組が流れまして、母もおばさまも神南まで抗議に行くとものすごい剣幕で……」
言われてみれば、さきおとといのみゆきは休み時間ごとにどこかに電話したりメールしたりとばたばたしていた。
小指をぶつけた程度でダイレクトに噴火してしまう、奔放で直情的なみゆきの母である。なだめるには相当な苦労があっただろう。
「そりゃまたなんとも……みゆきも苦労するわね」
みゆきと同種の微笑を浮かべたかがみの耳に、二時間目の予鈴が聞こえてきた。
(どっとはらi「あ、そういえば」
穏便に終わるか、と思われたそのとき。みゆきが、ふと思い出したように呟いた。
「どったの、みゆきさん?」
「いえ、番組のサイトに『ゲストの都合などで放送がなくなる場合もあります』と書いてあったのを思い出しまして」
「だいじょーぶでしょー? 飛ぶ鳥を落とすあーやだもん、中止にするなんてナンセンスナンセンス♪」
こなたはすっかりお気楽さを取り戻し、太平楽に請け合った。
「ったく、現金なんだから。じゃ、私は行くから、またお昼にね」
「ういー、まったにー」
「どったの、みゆきさん?」
「いえ、番組のサイトに『ゲストの都合などで放送がなくなる場合もあります』と書いてあったのを思い出しまして」
「だいじょーぶでしょー? 飛ぶ鳥を落とすあーやだもん、中止にするなんてナンセンスナンセンス♪」
こなたはすっかりお気楽さを取り戻し、太平楽に請け合った。
「ったく、現金なんだから。じゃ、私は行くから、またお昼にね」
「ういー、まったにー」
だが、しかし。都内のとあるテレビ局で、それは静かに進行しつつあったのだ。
だだっ広い社員食堂の一角。ごく普通の飾り気のないラーメンを前に、愛らしい女性が携帯電話を操っていた。
栗色に染めた髪、通った鼻筋、左の頬に小さなほくろ。
湯気の立つラーメンにカメラを向けて一枚撮ると、つるつると麺をすすりながら器用に文章を綴る。
栗色に染めた髪、通った鼻筋、左の頬に小さなほくろ。
湯気の立つラーメンにカメラを向けて一枚撮ると、つるつると麺をすすりながら器用に文章を綴る。
「『……という訳で、今日の出演は中止に……』っと。……でぃーどーらいーぶ、らぶしーてーまーすがー♪ ……よしっと、送信っ!」
こなたが帰宅するまであと数時間。彼女が「その日記」を目にしたときに何が起こるのか。
それは、神さまですらあずかり知らないことであった。
それは、神さまですらあずかり知らないことであった。
(どっとはらい)
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- ハバ○○はあまり美味しくない… -- 名無しさん (2007-11-17 14:36:41)
- 出演の件、今初めて知りました! 危なかった・・・。 -- 名無しさん (2007-11-16 11:16:18)
- おもしろかったです、こなたが日記見た後どうなるんでしょうね、いろんな意味で怖いですw
またお暇あればこなかが書いて頂ければ嬉しいです。
これからも頑張ってください -- 名無しさん (2007-11-16 01:03:30)