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37th lucky! 6話

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「……は?」

今、耳を疑うような台詞を聞いた気が。

「すまん、何だって?」
「だーかーらー。今日からお前ん家にしばらく泊ま――」
「はあ!?」

思わず部屋中に響くぐらいの大声を出してしまう。

「しばらくってなんだしばらくって!そんなの一言も言われた覚えは無いっ!」
「あれ、そうだっけか?」

こ、こいつ……。
俺は怒りのオーラを出しながら日下部を睨みつける。

「日下部……お前……」
「お、落ち着け白石。これにはちゃんと理由がだな」
「理由……?」

その言葉に反応して怒りのオーラを出すのを止める。
日下部はふう、と安心したように一息ついた。

「それはお前を泊めるちゃんとした理由になるのか?」
「なる……と思う。自信は無いからなー」

無いのかよ。

「……とりあえず聞くだけ聞いてやる」
「お、サンキュー。んじゃ早速……。あやのがうちん家に泊まりに来ることがあるの知ってるだろ?」
「……まあな」

確かにここ最近峰岸がよくそんなことを言っている気がする。
付き合ってる日下部のお兄さんに会うためだとか。

「知ってたか?あやのが卒業したらあの二人結婚するんだぜ?」
「そうなのか?」




そんな話は初耳だった。
それと同時に、最近峰岸がよく日下部の家に泊まっていた理由も分かった。
つまりは将来二人で住む家に慣れておこう、という意味だろう。……多分。

「んでさ。私も結婚するまで二人の邪魔しちゃ悪いかなー、って空気読んだわけだ」
「ふむ。……なら何で空気読んだら俺の所に泊まりに来る、という結論になるんだ?」
「まず二人の邪魔になるから家には居られないだろ?」
「自分の部屋にこもってりゃいいだろうが」
「まあまあ。人の話は最後まで聞くもんだぜ?」

だったら少しはまともな回答を要求するぞ。

「で、だ。そんな幸せ全開の二人の間に私が居るっていうのもアレだからさ」
「だから俺の所に滞在しに来た、と?」
「そーいうことだ」

色々省かれてる気はするが一応日下部の事情は把握した。
把握はしたがしかし。




「なるほどなるほど。よし、今日は約束通り泊めてやるけど明日はちゃんと家に戻れ」
「ひでぇ!ちゃんと理由は話したじゃねーか!」
「話を聞いたら泊める、とは言った覚えはないぞ。それにかがみとか泉とか、他に頼めそうな奴はいくらでもいるだろ」
「それは実行済みなんだぞー。でも柊もちびっこもダメだって言うんだぜ?」

そりゃそうだ。
俺だって絶対許可は出さない。

「あーあ。これで一から探しなおさなきゃなぁ……」

少し残念そうな顔をする日下部。

「なあ。どうしてもダメか?」
「うーむ……」

正直言って泊めることは難しい。
が、この荷物を持ってこまで来た日下部を追い返すのはちょっと気が引ける。
それに、俺が追い返せば打つ手が無くなるだろうし……。
一応聞くだけ聞くか。

「日下部」
「んあ?何だよ」
「もしここにしばらく泊まるとして……本当にここでいいのか?後悔しないか?」
「お前しか居ないからここに来たんだぜ?それに信頼してるんだ。後悔なんてするかっつーの」
「そうか……。なら」

後悔しないのなら仕方がない。
泊めるしかないだろう。
が、やっぱりタダで泊めるわけにもいかない。




「いくつか質問がある。それに答えられたら……泊まらせてやらないこともない」
「本当か!?」

うつ向いてた顔をガバッと上げる日下部。

「まあ……気は進まないけどな。でもそれだけ峰岸とお前のお兄さんが大切なら仕方ないっていうか」
「おおお!ありがとう白石!やっぱり持つべきものは親友だぜ!」

日下部はそう叫びながら飛びかかって――もとい抱きついて……は?

「ちょっ、待てっ!」

俺の叫びも虚しく、日下部は真っ直ぐ衝突してきた。
ドスン。

「ぐはっ」

そのまま衝突してきた日下部は力の限りに俺を抱きしめてきた。

「私は今かんどーしているっ!」

背骨がギシギシと軋んだ音を発している。
今にも真っ二つに折られそうだ。
いや、問題はそこじゃない。
このなんだか柔らかい感覚はつまり。
……当たってるんですかそうですか。

「お……落ち着け日下部……」

日下部の肩をがっちりと掴み引きはがす。
まだ心臓がバクバクと鳴っている。
俺が落ち着け。

「大丈夫か白石?」
「それはこっちの台詞だ……。大丈夫かお前?色々と」
「私?おう、全然へーきだぜ!」




えっへんと胸を張る日下部。
駄目だこいつ。早く何とかしないと……。

「あー……まあとにかくだ。今から色々質問するからそれに答えてくれ」
「オッケー。……と、そういえば」

日下部は急に何かを思い出し、バックの一つをあさり始めた。

「お、あったあった」

しばらくすると何か見つけたような反応をする。

「ほい。うちの親から」

そう言って茶封筒を手渡される。
……なんだこの微妙なずっしり感は。
封筒を開けて中を覗いてみる。
すると……中には十数万円の札束が。

「……日下部、これは何だ」
「ん?なんか家出るときに渡されたんだよ。もとから用意してあったっぽかったなー」

そりゃ多分こいつがこういうことをやることを分かってたんだろうな。
しかし……こんな大金あっさり渡さないぞ普通。
でもこれを受け取らなきゃ日下部の親の信頼まで裏切ることになるし……。
そう考えてる間に頭の中で浮かんでいた質問がどこかへ飛んでいってしまった。

「……はあ、なんだか疲れた。もういい。仕方ないからお前をここに」

と、その時。ポケットに入っている携帯から聞き慣れた着信音が鳴りだした。
こんなときに誰だ……?




「すまん。ちょっと待ってろ」

携帯を開きすぐさま電話に出る。

「もしもし」
『もしもし。白石?』

この声は……。

「あきら様……ですか?」
『……なによ。悪かったわね、私で』
「い、いえいえ。そのようなことはありませんよ。それでどうされたんですか?」
『それがさぁ。今日急に仕事が入っちゃってね』
「はあ」

……早速嫌な予感がする。

『そんであんたに手伝ってもらいたいから、今そっちに向かってる途中なのよ』

そしてその予感は悪いことに、見事に的中した。

「ええ!?」
『何よ。なんか文句でもあんの?』
「い、いえいえ。文句というか何というか……。とにかくいくら何でも急過ぎますって!それに今日はバイトが――」
『あんたの用事なんて私が知るわけないでしょ!』
「そんなむちゃくちゃな……」

まあこれはいつものことなんだが。
しかし今日はまずい。
よりにもよってバイトの日に急な仕事が入るなんて……!
俺は改めてあきら様を説得しにかかった。




「だから今日はダメなんですって」
『芸能界で生き残りたいんだろ?だったらバイトなんてやってないで芸人の道を貫け!』
「芸人じゃありません!それに僕はC○Co壱じゃチーフって呼ばれてるんですよ!?」
『だから何よ』
「メンチカツが僕を待ってるんです!だから今日ばかりはバイトを優先させていただきます!」
『メンチ揚げてる暇があったら少しは芸能界の勉強しとけ!そうじゃなきゃ誰か代役でも連れてこい!』
「無理に決まってるでしょう!大体、僕以外にあきら様のアシスタント役を務められる人なんて――」
『そういうことだからバイト休みなさいって言ってんでしょ!』
「……」
『……どうしたのよ白石?急に黙って』

……居た。俺の代わりにアシスタントが出来る奴が、しかも目の前に。

「?」

当の本人はこんな反応だがこの際二の次だ。

「あきら様。ちょっとよろしいでしょうか」
『な、何よ急に』
「さっきも言った通り僕が今日行くのは流石に無理です」
『あんたまた――』
「ですが!」
『ですが?』
「今、代役を勤められる方が一人だけ居ます。しかも今、目の前に」
『……?』




最初こそ黙っていたあきら様だが、しばらくすると俺が言わんとすることが分かったらしい。

『あんた。その代役ってまさか……』
「そのまさかです!さすがあきら様!それじゃそういうことで!」
『待て白石!話はまだ終わ』

ピッ。
通話を強引に終了する。
それとともに電源を切る。
これでアフターケアもばっちりだ。

「さて……」

バイトまでに時間がないので日下部には簡潔な説明をすることにした。

「日下部、お前を泊める条件を今から言う。いいか?」
「よし、なんでも来い」

自信満々に答える日下部。

「実はもうすぐあきら様が来るんだ。そこで、お前にはあきら様の仕事を手伝って貰いたい」
「あきら様?……ああ、あのピンク色の髪のちび――」

と、そこまで言いかけて急に口を動かすのを止める。

「どうした?」
「も、もしかしてあのヤンキーっぽい人も来るのか?」

体をガクガク震わせる日下部。
やっぱりあの出来事は未だにトラウマらしい。

「安心しろ、あの人は来ない。……お前が下手なことしなけりゃな」
「よ、よし。がががんばるぜー」




そう棒読みで言った顔が引き攣って見えるのは多分俺の気のせい……じゃないな、うん。
まあとにかくこれで手遅れになったわけだ。
けれども不思議と後悔してはいないのはなんでだろう。
……今はそんな余計ことを考えてる暇はないか。

「んじゃ契約成立ってことで。ほら、手出せ」
「?」

言われたままに手を差し出す日下部。
その手の上にある物を置く。
チャリン。

「合鍵だ。出るときにちゃんと閉めていけよ」

日下部は驚いた表情を見せた後、

「……うん。ありがと、白石」

いつもの元気な笑顔ではない、優しい微笑みを見せた。

「……っ」

心臓が跳ね上がる。
こんなの反則だぞ。
くるりと日下部に背を向ける。




「どうした?」

日下部は今までと変わらない口調で話しかけてきた。

「い、いや。何でも無い。それにそろそろバイトだから」
「あー。なるほど」

本当は何でも無くはない。
こんな赤くなった顔を見られたら、からかわれるに決まってる。
それに実際バイトの時間はすぐそこに迫って来ていた。
……もっとも、まだ出るには少し余裕はあるのだが。
でも、出来ればあきら様とニアミスするのは避けたい。
俺はそのままの態勢で真っ直ぐ玄関へ向かう。

「それじゃあ頼むぞ」
「おう。ばっちり任せておけ」

グッと手を俺のほうに突き出す日下部。
相変わらず根拠の無い自信だな……。
俺は少し苦笑し、思い切りドアを開けて外へと走りだした。













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  • 激しくGJ!続きが楽しみです。 -- 名無しさん (2007-11-26 04:13:31)

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