アットウィキロゴ
kairakunoza @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

kairakunoza @ ウィキ

歯車は再び回る

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
「ただいまー」

玄関を開けようとし、だけど鍵がかかっていて開かない事で私はお父さんがいないんだと思い出した。
邪魔になるから傘をとじて鍵を取り出す。
鍵を開けて家に入った途端に雨が本降りになった。ギリギリセーフだ。
傘立ての中に使っていた安物のビニール傘を差し込む。
傘をさしていたって全然濡れずにすむわけじゃない。
横風が吹くと傘で防ぎきれなくて制服は濡れてしまった。
寄り道せずにぼんやり歩いていたから水溜まりに入ってしまいローファーの中まで染み込んだ水が冷たくて気持ち悪い。
さっさと着替える事にした。
風呂場からタオルを取り出し、自分の部屋に行き鞄を放り投げる。
濡れた制服と靴下を脱ぎ捨てて、暖かそうな服をチョイス。
下着姿は寒いので素早く服を着て制服をハンガーにかけた。
濡れている髪や腕、足を拭き、役目が終了したタオルと靴下は洗濯機へ投げ込む。
いつもなら、お父さんがいるから暖房が利いたリビングで丸くなるところだけど、
今日はお父さんがいないから暖房が利いていない。
自分の部屋の暖房を入れ、利くまで手っ取り早く温まる為に台所へ行きお茶を沸かす事にした。
ヤカンに水をいれてコンロにかける。
沸騰するまでの時間、ぼんやりと窓の外を見た。
外って言っても、雨が強くなって窓を叩いているからぼやけた風景しか見えないんだけど。

雨、酷いなぁ。
……ゆーちゃん大丈夫かな。
こんな雨に濡れたら明日絶対熱出しちゃうよ。
でも、ちゃんと朝に傘渡したし……大丈夫。
それにしてもゆーちゃん遅いなぁ。
もしかして学校で倒れたんじゃないだろうか。
私が気付かなかっただけで、保健室に行ったんじゃ……

ヤカンがピーとマヌケな音を出し、その音で我に返った。
急須にお茶の葉とヤカンのお湯を入れながら、思わず自嘲の笑みを浮かべる。
こんなに心配するなら、最初からゆーちゃんを引き止めておけばよかったんだ。
そうすれば……

そうすれば、どうなった?
何か変わっただろうか?

何も変わらない。
ただ、ゆーちゃんが学校で倒れたんじゃないかと言う、私の決断力不足が招いた心配をしなくてもよくなるだけだ。
頭が痛くなってきたからお茶を湯飲みに注ぎ、椅子に座って温まる事だけに集中する。
両手で湯飲みを包み一口。熱いぐらいだ。
冷えている指先が熱で温まり、血が巡るのが分かる。
湯飲みの中のお茶を冷ますためにグルグルと回し、一気に飲み干したところで電話がなった。
お父さんかなと思って何も考えずにコードレスの受話器を取り、席に戻る。

「もしもしー」
『柊ですけど……って、こなた?』
「んあ? かがみ?」
『そうだけど。分かってなかったのならそんな間延びした声出すの止めなさいよ』
「てっきりお父さんからだと思ったんだよ」

お父さん以上に保護者っぽい事言うけどね、かがみは。
雨足が強くなってきて受話器から聞こえる声が聞こえにくくなり、かがみの声に集中する事にした。

『こなた、携帯は? 繋がらないんだけど』
「あ……ごめん、充電忘れてた」
『またか』

そんな事言われても家の電話あるし、置いたら置きっ放しになるよ普通。
常時ポケットに入れてないし。確か部屋の机の上に放置してたっけ。

『まぁいいけど。で、用件だけど……前に貸してたラノベあったでしょ?
 日下部が読みたいって言ってたから今度持ってきて。というか、読んだの?』

ラノベ……?
ああ、あれだ。続きが気になったから自分で買っちゃったやつか。
そう言えば返してなかった。
本を買いに行ったのも夏休み中だったから、かなりの間借りてた事になる。

「読んだよー。眠れない時に睡眠薬のつもりで読んでたらハマって」
『そっかそっか』

受話器の向こうのかがみの嬉しそうな声。
かがみの表情って声聞いただけで簡単に想像できる。

『何なら最新刊貸そっか?』
「いやぁ、結構前に自分で続きを買っちゃったんだよ」

随分とあれから時間が経ってる気がした。
ラノベを買いに行った日、確かゆーちゃんと二人乗りしたっけ。
そして、帰ってきてから……どこか、訳が分からなくなった。
空っぽの湯飲みを見つめていると玄関が開く音がして、雨の音の音量が上がった。
良かった、学校や帰り道で倒れてはなかったみたいだ。

「お帰りー」
『おじさん? ゆたかちゃん?』
「ゆーちゃんだよ。お父さんは今日帰りが遅くて」

玄関を閉じれば音は小さくなるはずなのに、雨の音が大きくなったままだった。
あれ、玄関閉め忘れ? なんて思いつつ玄関へ向かう。コードレスは便利だ。

「かがみ、本返すの明日でいい? 学校に」

続けて「持っていくよ」と言うつもりだったのに、ぶつ切りになってしまった。
視界から入ってきた映像に驚いて、声帯を震わすって脳からの命令が遮断された。
私は朝、ゆーちゃんに傘を渡したはずだ。

じゃあなんで――今、ゆーちゃんはびしょ濡れなんだろう。

すぐにタオルを持って来るべきだっただろうけど、それも出来なかった。
電話をしている私と目が合って、その瞬間にゆーちゃんは玄関の方へ走り出して。

「ゆーちゃん!!」

今回は、今朝とは違い『追いかける』という選択肢しかなかった。
椅子から立ち上がり、逃げたゆーちゃんを急いで追いかける。

『こ、こなた!?』
「ごめん!! いったん切るよ!!」
『えっ、どうし』

返事は聞かずに電源を切ったけど、受話器を元の場所に戻す時間は面倒でそのまま床に落とした。
ゴドンという音が背後で聞こえる。壊れたら困るけど今はどうだっていい。そんなの。
玄関先でまた雨の中へ走り出そうとしているゆーちゃんの腕を捕まえた。
制服が腕にピッタリとくっ付いてしまって冷たい。
髪やスカートからも水滴が滴り落ちている。

「ゆーちゃん、大丈夫!? とりあえずタオル!!」

雨が入り込んできている玄関を閉め、
ゆーちゃんの手を離してしまったら問答無用で逃げてしまいそうだから、
掴んだまま風呂場へバスタオルと小さなタオルを取りに行き、さっきよりは暖房が利いているだろう私の部屋へ連れて行った。
視線があってから私の目を見ようとしないゆーちゃんに大きなバスタオルをかけて、
私は小さい方のタオルでゆーちゃんの髪を拭く。
リボンのせいで拭きにくかったから、勝手だけどリボンを外した。
ワシワシとちょっと強く拭いて、後は髪の流れに沿って撫でるように水分を取っていく。
あっという間にタオルが冷たくなっていった。
無言でいるのが気まずくて、何とか話題を探す。

「……こ、この前とは逆だね」

この前って言えるほど最近ではないけど。
自転車二人乗りよりも前。私が熱を出した前日。
雨に濡れた私を、ゆーちゃんがタオルを持ってきて拭いてくれた。
物凄くテキパキと動いてくれた。

「じゃあ、暖かいお茶持ってくるから、その間に着替えてて。私の服勝手に着ちゃっていいよ」

ゆーちゃんの部屋は暖房利いてないから、そこで服を探させるもの寒いだろうし。
身長も少ししか違わないからブカブカにはならないと思ったから。
俯いているゆーちゃんに私は背を向けて、次の瞬間ゆーちゃんの冷えた指が手に触れた。
私はゆーちゃんの髪を拭いたけどそのタオルも床に落ち、ゆーちゃん自身はバスタオルを羽織っている状況で
全く自分を拭いていないから指も濡れているし、水滴も滴っている。
水滴がゆーちゃんの指を伝い、私の指の先から床へ落ちていった。
寒さからか、指が震えている。

「さっきの電話、かがみ先輩から?」
「うん」

でも、ゆーちゃんの声は震えてなかった。
むしろ私の返事の方が震えていた。

「お姉ちゃんは、かがみ先輩と仲がいいよね」
「うん」

背後から手を強く掴んでくる。
振り向くと、ゆーちゃんの頬を水滴が伝っていた。
それは、決して雨なんかじゃなくて。冷たいだけの雨じゃなくて。
様々な感情が詰まった、熱い涙だと思う。
私はそれを拭おうと握られていない方の手を伸ばし、語りかける。

「かがみは私の大事な」
「ヤダ」

大事な友達の一人なんだよ。
言葉にしたかったのに、ゆーちゃんの静かな叫びに止められた。
ポツリと呟いたに等しい声量なのに、私にとってはとても大きい声に聞こえた。

「お姉ちゃんが他の人を見るのが、他の人の名前を呼ぶのがヤダ!!」

感情が暴走しているようにゆーちゃんが叫んだ。
きっと自分でどんな事を言っているかちゃんと分かってないと思う。
でも、嘘は言っていない。嘘を言えるような心理状況じゃないんだ。

「お姉ちゃんが欲しい、私はお姉ちゃんが……」

指が痛い。
そこまで強い力で握られているわけじゃないけど痛い。
痛いぐらいのゆーちゃんの感情が伝わってくる。

「お姉ちゃんが、好きだから……っ」

その言葉は不思議なほど胸にストンと落ちてきた。
ジグソーパズルの最後のピースがはまったとか、そう言う清々しいものではないけど。
落ちてきたその言葉を、無理やり奥まで押し込めたような感じだけど。
でも、何だか凄く安堵できた。



――あぁ……私の、負けだ



泣きながら想いを告白してくれているゆーちゃんの唇に人差し指をそっと付けた。
私が風邪で寝込んだ時にしてくれたように。
ひく、とゆーちゃんがしゃくり上げて震えた。
泣いたから、それと寒いからだろう。
私は居た堪れなくなって、ゆーちゃんを抱きしめた。
ゆーちゃんの肩に掛かっていたバスタオルが床に落ちる。
折角着替えた服が濡れるのだってどうでもいい。そんなのどうでもいい。
冷えたこの子を暖めたいと思った。他でもないこの私が。
ここまで苦しめた罪滅ぼしにもならないだろうけど。

「ゆーちゃんが私に対する好きと同じ感情で私がゆーちゃんを好きかって言われると……
 それは正直分からない。いや、多分違うんだと思う。
 でも!! 私のゆーちゃんに対する感情は妹……従姉妹に対する好き以上だとは思う」

普通の好きならキスされた時点で嫌悪している。
だから、私はゆーちゃんの事を人として嫌いなわけでもなく、
従姉妹として以上は好きで、恋人としては愛せていない。
この感情の名前は何だろう。
保護?責任感?義務?……きっとそんな堅苦しいもんじゃない。
いや、伝えたいのは感情の名前じゃない。だから考えなくていい、こんな事。

「私は、ゆーちゃんを受け入れる。私を……ゆーちゃんにあげる」

私は今酷い事を言っている。
恋愛感情で見てないけど恋人になる。
ゆーちゃんの想いを侮辱するような最悪な告白。
なのにゆーちゃんはぎゅうっと抱き着いてきて「ありがとう」と途切れ途切れに伝えてくる。
その言葉の響きと抱き着いてくる腕が胸をズキズキと痛ませてきた。

礼を言わないでゆーちゃん。
私はそんな礼を言われるような人間じゃない。

ありがとうという言葉が苦痛で、それを紡ぐ唇を塞いだ。
三度目にして初めて私からのキスだ。
冷えた唇に泣きそうになってしまう。私が泣く資格なんてこれっぽっちもないのに。


ゆーちゃん、ごめんね


口には出来ない言葉。
私からゆーちゃんへの想いとゆーちゃんから私への想いは比重が違いすぎているから。
ただ重ねるだけの、体温を分かち合うかのような、色気なんて欠片もないキスの後。
ゆーちゃんは薄明な笑みを浮かべ、私の耳元に口を寄せた。

「私はそれでもいいから」

それは私の気持ちを悟ったゆーちゃんの気遣いなんだろう。

「お姉ちゃんが受け入れてくれたんだから、
 後は私がお姉ちゃんに好きになってもらえるように努力するだけだよ」

気遣い、それと、強がりだ。
無理して言ってるだろうにそのゆーちゃんの言葉は今の私を救済してくれた。
つかさは言っていたっけ。
『すぐに人を好きになれたら楽なのに』と。
確かにそうだ。
でも……少しずつなら好きになれると、今の私は思う。

「ゆーちゃん」

呼んで気持ちを伝えようとしたけど言葉が浮かばない。
好きだよではないし愛してるでもない。

「ゆーちゃんは……私の特別なんだよ」

どうにか紡ぎだせた言葉は安っぽいかもしれないけど正直な気持ちだった。






それから私達は一つの約束をした。
『家族には、ゆーちゃんが高校を卒業するまで私達の関係を隠す事』
お父さんやゆい姉さんには絶対に言えないと思ったから。
特にゆーちゃんのお父さん、お母さんには。
私が楽観的なだけなのか、まだお父さんとゆい姉さんは許容してくれる可能性がある気がした。
けども、おじさんとおばさんはどうなのか分からない。
優しいお母さんとお父さんだと思う。ゆーちゃんを大事にしてるって分かる。
だけどそれ故に言えない。
私の感情はそこまで確かなものじゃない。
ゆーちゃんと私の関係がばれて、お父さん達に『別れろ』だとか
『それは思春期特有の勘違いだ』とか否定的な事を言われた場合に、
それを気にせずにゆーちゃんと一つ屋根の下で暮らせるほど私は強くない。
いや、一緒に暮らせるかどうかも怪しい。ゆーちゃんは実家に帰ることになるかもしれない。
だから隠す。高校卒業までという期限は短いぐらいだ。
本当ならお互いに仕事を見つけて、独り立ち出来る時まで待つべきだと思ってる。
でも。

「ゆーちゃん、着替えないと風邪引いちゃうよ」
「もうちょっとだけ、このまま……」

抱き合って、雨に打たれて寒いだろうに離れようとしないゆーちゃんを見ていると
それらの悩みが、全部全部崩れていけばいいのにと思う。
雨に打たれて崩れていく砂の城の様に脆く壊れていけばいいのにと、思う。
常識なんて、と。






『行ってきまーす』
「おーう、気をつけてなぁ」

結局朝帰りに近かったお父さんが、眠そうに返事をする。
昨日あれだけ雨に濡れたんだからゆーちゃんは風邪を引くんじゃないかと心配していたのに
当のゆーちゃんは元気で、一緒に学校に行こうと誘ってきた。
昨日の体調不良が嘘みたいだ。私は医者じゃないからその理由なんて分からないけど。
病は気からってやつなのかもしれない。
ゆーちゃんが袖を引っ張ってきた。
言われなかったけど何を望んでるのかはすぐに理解できて、手を繋いで学校へ向かう。
他人に目撃されても恋人同士には見えないだろう。
きっと仲がいい姉妹にしか見えないと思う。

「好きだよ、こなたお姉ちゃん」
「ありがと……ゆーちゃん」

こんな言葉を交わしているなんて一見しただけなら分からないだろう。
ゆーちゃんのその言葉にどれだけの想いが乗っているかなんて、他人が分かるわけがない。
繋いでくれている手から伝わる感情も、私以外に分かるわけがない。
私だって、ゆーちゃんの全てを分かっているとは言えないけど。




――分かりたいと、心から想う






日差しが眩しい、冬にしては珍しく暖かい日の事だった。













コメントフォーム

名前:
コメント:
  • 心情描写が丁寧で、どんどん世界に引き込まれていってしまいました。すごくいい作品ですね。
    久しぶりに説得力のある百合作品を読んだ気がします。作者さん、ありがとうございました。 -- 名無しさん (2010-06-28 15:24:08)
  • 次はくじ(くじら)こなで^^ -- 名無しさん (2008-10-12 17:16:00)
  • ゆーちゃん、がんばれ!!
    その先にまっているのはきっとハッピーエンドだから!! -- 名無しさん (2008-06-01 14:21:02)
  • 禁断の恋だけど、感動できる素晴らしい恋の話だ……
    きっと結ばれるよ!! -- 名無しさん (2008-05-08 00:15:38)
  • ゆたかはやんでれなんだなと思った
    -- 九重龍太∀ (2008-05-07 17:06:02)
  • 素晴らしいです!!!! いいもの読ませてもらいました!!!!!
    -- 名無しさん (2008-05-04 18:01:49)
  • ほろ苦ぇ~!真剣な百合は萌え通り越して切なくなってくるな。
    百合萌え~とか単純にいやらしい目で見ていた自分をフルボッコにしてきます。
    それと作者様におきましては良いもの読ませてもらったと感謝させていただきたいです。 -- 名無しさん (2008-04-29 15:28:56)
  • かがこな、ゆたこなと来たからには次はつかこなでお願いします -- 名無しさん (2008-04-20 14:20:58)
  • 本当に文章のレベルが高いと思います。
    思わず読みふけってしまいました。
    -- 名無しさん (2008-03-17 14:37:01)
  • 鬱注意がなかったとは言え前向きな最後でホントによかった。
    まさにBiteer and Sweet。面白しろかったです。 -- 名無しさん (2008-01-03 05:19:49)
  • もう一波あるかと思ったけど、今回もおもしろかったです。次回作期待してます。 -- 名無しさん (2007-12-15 03:54:14)
  • ふぉぉ、甘いけど切ない。
    毎度のことながら貴方の書く作品には感嘆させられます。
    GJです!!! -- 名無しさん (2007-12-15 03:52:03)
  • この二人が幸せになりますように。
    作者GJでした。 -- 名無しさん (2007-12-14 20:17:09)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー