6.
「朝よ」
「ん………んんーっ」
「ん………んんーっ」
ゆっくりと身を起こす。
「ん……ふぇっ?! ここどこ?!!」
「やっと目が覚めたわね」
「ん……ふぇっ?! ここどこ?!!」
「やっと目が覚めたわね」
あ、そうだった。
私は気が付いたら鹿児島県の山中の駅に居て、そこで普通列車に乗ってこの女の子と出会ったんだ。
で、隼人駅で乗り換えて、それから…………、
「えっと、何だっけ?」
「忘れたの? あなた、一生『元の場所』へ帰れないわよ」
ごめん、悪気はなかったんだけど、途中で眠くなっちゃって。
「はぁ、まあいいわ。それよりお腹空いたでしょ?」
「うん……」
「朝ごはんにしましょ」
私は気が付いたら鹿児島県の山中の駅に居て、そこで普通列車に乗ってこの女の子と出会ったんだ。
で、隼人駅で乗り換えて、それから…………、
「えっと、何だっけ?」
「忘れたの? あなた、一生『元の場所』へ帰れないわよ」
ごめん、悪気はなかったんだけど、途中で眠くなっちゃって。
「はぁ、まあいいわ。それよりお腹空いたでしょ?」
「うん……」
「朝ごはんにしましょ」
そうだ、思い出した。
私は隼人駅で日豊線という路線で西鹿児島駅に向かって、この子が「自分の家」で泊まらせてくれたんだ。
で、今いる古い木造アパートがその子のお家……………にしてはあんまりな部屋だった。
テレビドラマに出てくるようなアパートで、部屋は畳敷きの6畳間だけ。
お風呂は無く、トイレと洗面所は共通のまるで独身寮のような所だった。
あ、独身寮っていうのはテレビドラマで見たのがそういう設定であって、私は一人暮らしはまだした事ないよ。
私は隼人駅で日豊線という路線で西鹿児島駅に向かって、この子が「自分の家」で泊まらせてくれたんだ。
で、今いる古い木造アパートがその子のお家……………にしてはあんまりな部屋だった。
テレビドラマに出てくるようなアパートで、部屋は畳敷きの6畳間だけ。
お風呂は無く、トイレと洗面所は共通のまるで独身寮のような所だった。
あ、独身寮っていうのはテレビドラマで見たのがそういう設定であって、私は一人暮らしはまだした事ないよ。
その子はどこか「親近感」があった。
歳は12歳くらいで身長はこなちゃんと同じくらい。
昨日は白いコートを着ていたから分からなかったけど、淡い黄色のトレーナーに臙脂色のチェック模様の入ったキュロットを穿いていた。
対する私はデニムのオーバーオールで下は黄緑と緑の縞模様のセーター。
彼女は、日豊線の列車(一番前は何故か機関車が付いていた)の中で、私の今の状況を全部話してくれた。
歳は12歳くらいで身長はこなちゃんと同じくらい。
昨日は白いコートを着ていたから分からなかったけど、淡い黄色のトレーナーに臙脂色のチェック模様の入ったキュロットを穿いていた。
対する私はデニムのオーバーオールで下は黄緑と緑の縞模様のセーター。
彼女は、日豊線の列車(一番前は何故か機関車が付いていた)の中で、私の今の状況を全部話してくれた。
まず、私が飛ばされたのは『昭和5X年』の12月18日。日付が変わったから今は19日。
その鹿児島県にある『霧島西口』駅(今は霧島温泉駅というらしい)に『意図的に』飛ばされたらしい。
ただ、私を飛ばしたのは悪意があってではなく、私を、そして『私にとって大事な人』を助けるためだったらしい。
まさかと思って彼女に「あなたが飛ばしたの?」と訊いてみたけれど、答えはノーだった。
代わりに彼女はこう言った。
その鹿児島県にある『霧島西口』駅(今は霧島温泉駅というらしい)に『意図的に』飛ばされたらしい。
ただ、私を飛ばしたのは悪意があってではなく、私を、そして『私にとって大事な人』を助けるためだったらしい。
まさかと思って彼女に「あなたが飛ばしたの?」と訊いてみたけれど、答えはノーだった。
代わりに彼女はこう言った。
『あなたがこの時代で死なれては困るの。何としてでも元の時代に戻らなければならないの』
この言葉を聞いたとき、私は彼女の言っていることがサッパリ分からなかった。
多分、私が馬鹿だからだけじゃないと思う。
彼女の言っていることが、悪く言えば馬鹿馬鹿しく聞こえたからだ。
まわりから見れば、彼女は「おかしな子ども」としか見られなかったのかも知れない。
でも、彼女のこの一言…いや二言は、説得力があって、力強かった。
だから、私は彼女の話を全部信じる事にしたんだ。
多分、私が馬鹿だからだけじゃないと思う。
彼女の言っていることが、悪く言えば馬鹿馬鹿しく聞こえたからだ。
まわりから見れば、彼女は「おかしな子ども」としか見られなかったのかも知れない。
でも、彼女のこの一言…いや二言は、説得力があって、力強かった。
だから、私は彼女の話を全部信じる事にしたんだ。
それにしても……。
「『私にとって大事な人』って………………誰?」
真っ先に思い浮かんだのは同じクラスで一番仲の良いこなちゃんとゆきちゃんだった。
確かに二人共好きだけど、彼女が言う『私にとって大事な人』とはちょっと違う様な気がする。
「『私にとって大事な人』って………………誰?」
真っ先に思い浮かんだのは同じクラスで一番仲の良いこなちゃんとゆきちゃんだった。
確かに二人共好きだけど、彼女が言う『私にとって大事な人』とはちょっと違う様な気がする。
「朝ごはん、出来たわよ」
女の子がぶっきらぼうな声で私を呼ぶ。
女の子がぶっきらぼうな声で私を呼ぶ。
彼女の生活はいたって謎だった。
この部屋はどう考えても彼女の家ではない。数年間ずっと空き家だったとしか考えられない。
そうでなければ『当時の』小学生くらいの女の子が、ここまで生活感の無い家に一人で住んでいる筈がない。
そもそも彼女は私が『この時代に』飛ばされたことを知っているし、
服装なども『現代』に近いものとなっている。
この時代にはまだ普及していない筈の携帯電話を見せても、特に驚くことは無かった。
ただ単に興味が無かっただけなのかも知れないけれど。
果たして、この子はどうやって生活をしているのだろう?
この部屋はどう考えても彼女の家ではない。数年間ずっと空き家だったとしか考えられない。
そうでなければ『当時の』小学生くらいの女の子が、ここまで生活感の無い家に一人で住んでいる筈がない。
そもそも彼女は私が『この時代に』飛ばされたことを知っているし、
服装なども『現代』に近いものとなっている。
この時代にはまだ普及していない筈の携帯電話を見せても、特に驚くことは無かった。
ただ単に興味が無かっただけなのかも知れないけれど。
果たして、この子はどうやって生活をしているのだろう?
「昨日も言った通り、私で良ければ一緒に付いていくわ。あまり役に立たないとは思うけど。
でも、現代に戻るには───」
彼女が言いかけた台詞を私が続けて言う。
「──私が自分の力で『鍵』を見付ける必要がある、だったね」
「やっと思い出したようね」
ちょっとおマセな女の子がニコリと笑う。
あまりにも不自然なその表情を見るに、彼女は十数年の人生の中であまり笑ったことは無さそうだ。
「何よ?」
目玉焼きを口に入れながら私に問いかける少女。私はずっと彼女のことを凝視していたらしい。
「え…あ………ごめん、何でもない」
お陰で恥ずかしくなっちゃった。
でも、現代に戻るには───」
彼女が言いかけた台詞を私が続けて言う。
「──私が自分の力で『鍵』を見付ける必要がある、だったね」
「やっと思い出したようね」
ちょっとおマセな女の子がニコリと笑う。
あまりにも不自然なその表情を見るに、彼女は十数年の人生の中であまり笑ったことは無さそうだ。
「何よ?」
目玉焼きを口に入れながら私に問いかける少女。私はずっと彼女のことを凝視していたらしい。
「え…あ………ごめん、何でもない」
お陰で恥ずかしくなっちゃった。
トーストにマーガリンを塗って口に入れる。市販品をただ焼いただけのものだが、これが結構美味しい。
目玉焼きも良く焼けており、不器用そうで結構器用だ。
朝ごはんはそれだけしか無かったけど、私は泊まらせてもらった身なので文句は言えない。
「で、その『鍵』は、どこで手に入るの?」
「私だって分からないわよ。私は元々、アナタに付いていくつもりは無かったんだし。
私の使命はアナタに『西鹿児島へ行け』と言うことだけだったんだし」
「しめい?」
「そうよ……ってそれはどうでもいいわ」
私にはあまりどうでも良くないんだけど。
「とにかく、『鍵』の場所は分からない。でも、何となくだけど『気配』は感じるられる。
だから私で良ければ付いていってもいい」
「うん、いいよ。てか、むしろ付いて来て。私、一人じゃ多分帰れないと思うから」
もしここで拒否したら、間違いなく私は元の時代へ帰る事は出来ないと思う。
折角の情報源を捨てる訳にはいかない。それに、根拠は無いけど彼女の事は信用出来る。
目玉焼きも良く焼けており、不器用そうで結構器用だ。
朝ごはんはそれだけしか無かったけど、私は泊まらせてもらった身なので文句は言えない。
「で、その『鍵』は、どこで手に入るの?」
「私だって分からないわよ。私は元々、アナタに付いていくつもりは無かったんだし。
私の使命はアナタに『西鹿児島へ行け』と言うことだけだったんだし」
「しめい?」
「そうよ……ってそれはどうでもいいわ」
私にはあまりどうでも良くないんだけど。
「とにかく、『鍵』の場所は分からない。でも、何となくだけど『気配』は感じるられる。
だから私で良ければ付いていってもいい」
「うん、いいよ。てか、むしろ付いて来て。私、一人じゃ多分帰れないと思うから」
もしここで拒否したら、間違いなく私は元の時代へ帰る事は出来ないと思う。
折角の情報源を捨てる訳にはいかない。それに、根拠は無いけど彼女の事は信用出来る。
1枚のトーストと1枚の目玉焼きはあっと言う間に食べ終わった。
彼女が食器と布巾を持って部屋を出る前に、どうしても訊きたいことがあったので訊いてみる。
「ひとつ訊いていいかな?」
「何よ?」
「名前」
「名前?」
「あなたの名前。良かったら教えて?」
「そういうのって、自分から名乗るものなんじゃないの?」
あ…そういうものだよね。普通は。
って何で私は年下の子に気を遣っているのだろう……。
「ごめん。私は柊つかさ。『つかさ』でいいよ」
「ふーん」
「あなたは?」
「………………」
「………?」
「………あゆみ」
ちょっと恥ずかしそうな彼女。
「『あゆみ』ちゃんね」
「………うん」
「あ、そうだ。ねぇ、『あゆちゃん』って呼んでいい?」
しゃがんで彼女と目線を合わせる私。いきなりあだ名で呼ぶのは、やっぱりダメかな?
「……う、うん。いいわよ」
あれ? 顔真っ赤にしちゃった。
「どうしたの?」
「う………うるさいうるさいうるさい!! べ、べべべ別に何でも無いわよ!!」
何故か焦ってる『あゆちゃん』。何だか照れている様に見えるけど、気のせいなのかな?
「ほ、ほら、は、はは早く支度しなさいよっ。も、もうすぐ行くわよ」
あゆちゃんはドスドスとわざと音を立てながら部屋を出て行ってしまった。
彼女が食器と布巾を持って部屋を出る前に、どうしても訊きたいことがあったので訊いてみる。
「ひとつ訊いていいかな?」
「何よ?」
「名前」
「名前?」
「あなたの名前。良かったら教えて?」
「そういうのって、自分から名乗るものなんじゃないの?」
あ…そういうものだよね。普通は。
って何で私は年下の子に気を遣っているのだろう……。
「ごめん。私は柊つかさ。『つかさ』でいいよ」
「ふーん」
「あなたは?」
「………………」
「………?」
「………あゆみ」
ちょっと恥ずかしそうな彼女。
「『あゆみ』ちゃんね」
「………うん」
「あ、そうだ。ねぇ、『あゆちゃん』って呼んでいい?」
しゃがんで彼女と目線を合わせる私。いきなりあだ名で呼ぶのは、やっぱりダメかな?
「……う、うん。いいわよ」
あれ? 顔真っ赤にしちゃった。
「どうしたの?」
「う………うるさいうるさいうるさい!! べ、べべべ別に何でも無いわよ!!」
何故か焦ってる『あゆちゃん』。何だか照れている様に見えるけど、気のせいなのかな?
「ほ、ほら、は、はは早く支度しなさいよっ。も、もうすぐ行くわよ」
あゆちゃんはドスドスとわざと音を立てながら部屋を出て行ってしまった。
私、悪いことしちゃったかなぁ……。
天文館の商店街を抜けて、路面電車が行き交う「天文館電車通り」という大通りに出る。
わざわざ電車を使う距離ではないし、お金をあまり持っていないので、私たちはこの道をひたすら歩いていく。
昭和5X年(西暦で言えば197X年)と言えば、第二次オイルショックのあった年だ。
これも歴史の授業で習ったんだけど、街の活気をみるに、
二度目の方はトイレットペーパーを買い占めるほどの騒動には至らなかったみたいだ。
わざわざ電車を使う距離ではないし、お金をあまり持っていないので、私たちはこの道をひたすら歩いていく。
昭和5X年(西暦で言えば197X年)と言えば、第二次オイルショックのあった年だ。
これも歴史の授業で習ったんだけど、街の活気をみるに、
二度目の方はトイレットペーパーを買い占めるほどの騒動には至らなかったみたいだ。
大久保利通の大きな銅像を右手にみて、私とあゆちゃんは高見橋を渡る。
やがて、広いロータリが現れて私たちは西鹿児島駅に到着した。
まわりからはどんな風に見えるのかな? やっぱり姉妹に見えるのかな?
ちょっとだけ「お姉さん」になった気分で何だか嬉しい。
やがて、広いロータリが現れて私たちは西鹿児島駅に到着した。
まわりからはどんな風に見えるのかな? やっぱり姉妹に見えるのかな?
ちょっとだけ「お姉さん」になった気分で何だか嬉しい。
三角屋根が可愛らしい西鹿児島駅。
テレビで観た今の駅舎は確か真っ赤で角張った建物で、そこだけさいたま新都心みたいだった。
雰囲気が全然違う。30年間の『重み』を感じた……ような気がした。
テレビで観た今の駅舎は確か真っ赤で角張った建物で、そこだけさいたま新都心みたいだった。
雰囲気が全然違う。30年間の『重み』を感じた……ような気がした。
因みにどうして私が西鹿児島駅の事を知っているのかというと、
中学3年の時の社会科のテストで、時事問題として九州新幹線が採り上げられたから。
「3月に新八代駅と鹿児島中央駅を結ぶ新幹線が開通しました。
将来は博多駅まで開業するこの新幹線の名前を答えなさい」
という少々マニアックな問題だったので、よく覚えている。
テスト当日の朝、NHKのニュースを観ていなかったら間違いなく答えられなかったよ……。
中学3年の時の社会科のテストで、時事問題として九州新幹線が採り上げられたから。
「3月に新八代駅と鹿児島中央駅を結ぶ新幹線が開通しました。
将来は博多駅まで開業するこの新幹線の名前を答えなさい」
という少々マニアックな問題だったので、よく覚えている。
テスト当日の朝、NHKのニュースを観ていなかったら間違いなく答えられなかったよ……。
「ぼけーっとしてないで、早く行きましょ?」
あゆちゃんが私を呼ぶ。そうだった、『鍵』を見付けなきゃいけないんだった。
私たちは駅舎の中へ入る……と思いきや、あゆちゃんは何故か外の女子トイレの方へ。
そして、何故か二人で個室に入った。
あゆちゃんが私を呼ぶ。そうだった、『鍵』を見付けなきゃいけないんだった。
私たちは駅舎の中へ入る……と思いきや、あゆちゃんは何故か外の女子トイレの方へ。
そして、何故か二人で個室に入った。
「ど、どうしたの?」
「大丈夫。多分だけど、そろそろ『来る』と思うの」
『来る』?
今私たちはトイレの個室の中にいて、あゆちゃんは確かに『来る』と行った。
「く、来るって、も、も、もしかして、アレの事?」
それを聞いたあゆちゃんは「はァ?」という顔をして呆れている。
え? アレじゃないの?
「何勘違いしてんのよ。私は『まだ』よ」
背丈はこなちゃんくらいあるんだけどね……。
「えっと、そうだ。貴方の携帯電話って奴? それ開いてみて?」
「え? ここ電波届くの?」
……いや、流石に『時間単位』で離れているから、いくらFOMAでも電波は絶対届かないよね?
「大丈夫。多分だけど、そろそろ『来る』と思うの」
『来る』?
今私たちはトイレの個室の中にいて、あゆちゃんは確かに『来る』と行った。
「く、来るって、も、も、もしかして、アレの事?」
それを聞いたあゆちゃんは「はァ?」という顔をして呆れている。
え? アレじゃないの?
「何勘違いしてんのよ。私は『まだ』よ」
背丈はこなちゃんくらいあるんだけどね……。
「えっと、そうだ。貴方の携帯電話って奴? それ開いてみて?」
「え? ここ電波届くの?」
……いや、流石に『時間単位』で離れているから、いくらFOMAでも電波は絶対届かないよね?
その時だった─────。
携帯電話が着信した。昨年の授業中での反省を活かして携帯電話はマナーモードにしていた。
ブルブルと震える電話機の画面には、シンプルに『MMS Received: 1』と表示されている。
──って誰? 英語表示にしたの!!
あ、そう言えば昨日、こなちゃんが私の電話機をイタズラしてたような気が。
うぅぅ、酷いよぉ。
────あゆちゃんが恐い顔をしたので慌ててそのメールを開いてみる。
ブルブルと震える電話機の画面には、シンプルに『MMS Received: 1』と表示されている。
──って誰? 英語表示にしたの!!
あ、そう言えば昨日、こなちゃんが私の電話機をイタズラしてたような気が。
うぅぅ、酷いよぉ。
────あゆちゃんが恐い顔をしたので慌ててそのメールを開いてみる。
『西鹿児島駅前の女子トイレに行け。
掃除用具入れの中から封筒を見つけ出し、その中にある乗車券で目的地へ迎え』
掃除用具入れの中から封筒を見つけ出し、その中にある乗車券で目的地へ迎え』
それだけでメッセージは終わっていた。
「ふーん」
「何か分かったの?」
「ちょっと『臭う』わね」
「『鍵』のこと?」
「そう」
「その、『気配』が感じるの?」
「違う。とにかく、掃除用具入れからその封筒とやらを見付けましょ?」
「うん。でも……」
「何よ? 早くしないと乗り遅れるかも知れないわよ?」
「わ、分かってるよ。でも……」
「でも?」
ここ、公衆トイレだよ?
二人で掃除用具入れを漁っている所を他の人に見られるのはちょっと……。
「ふーん」
「何か分かったの?」
「ちょっと『臭う』わね」
「『鍵』のこと?」
「そう」
「その、『気配』が感じるの?」
「違う。とにかく、掃除用具入れからその封筒とやらを見付けましょ?」
「うん。でも……」
「何よ? 早くしないと乗り遅れるかも知れないわよ?」
「わ、分かってるよ。でも……」
「でも?」
ここ、公衆トイレだよ?
二人で掃除用具入れを漁っている所を他の人に見られるのはちょっと……。
結局、私がトイレの前で見張ることにし、あゆちゃんが一人で探すことになった。
封筒はあっけなく見付かった。
流しの奥に積んであった、予備のトイレットペーパーの間に挟まっていたらしい。
乗車券を確認する。
「小倉?」
「北九州の街よ。アナタの町から列車で行くと、最初に通る大きな駅が小倉駅」
「へぇ、詳しいんだね」
「ま、まぁ、地元だしね」
その割には埼玉訛りだよね?
「さ、は、早く乗りましょう? えっと、今の時間は?」
「えーっと、7時55分……」
「つ、つかさ!!」
「な、なななな何??!!」
「発車まであと1分!!」
「えーーーーっ!!」
封筒はあっけなく見付かった。
流しの奥に積んであった、予備のトイレットペーパーの間に挟まっていたらしい。
乗車券を確認する。
「小倉?」
「北九州の街よ。アナタの町から列車で行くと、最初に通る大きな駅が小倉駅」
「へぇ、詳しいんだね」
「ま、まぁ、地元だしね」
その割には埼玉訛りだよね?
「さ、は、早く乗りましょう? えっと、今の時間は?」
「えーっと、7時55分……」
「つ、つかさ!!」
「な、なななな何??!!」
「発車まであと1分!!」
「えーーーーっ!!」
私たちは何とか列車に乗ることが出来た。
特急「有明」号門司港行きは、北九州へ向けて長い長い道のりを走っていく────。
特急「有明」号門司港行きは、北九州へ向けて長い長い道のりを走っていく────。
間.
『376』
この数字を見て何のことか分かった人は、今、おれが見ているニュースサイトを開いていることになる。
この数字───
この数字───
───夕方の『事故』で犠牲となった電車の乗客と、高架橋の下で生活していた住民たちの数だ。
全乗客およそ800名のうち、約半数が亡くなり、残りは重軽傷を負った。
おれとみさおが住んでいる5階建てのわし宮団地よりも背の高い高架橋から、電車が落ちたのだ。『橋ごと』。
無理もない。酷い言い方になるが、おれはむしろ、現時点での生存者が居たことに驚いた。
それとともに、胸を強く痛めた。
おれとみさおが住んでいる5階建てのわし宮団地よりも背の高い高架橋から、電車が落ちたのだ。『橋ごと』。
無理もない。酷い言い方になるが、おれはむしろ、現時点での生存者が居たことに驚いた。
それとともに、胸を強く痛めた。
東武伊勢崎線は北側と南側の区間に別れて折り返し運転を実施、北千住~久喜・日光線南栗橋間の列車は全て運行を取りやめた。
車両基地が春日部駅の北側にあるので、南側の区間は電車が詰まって『渋滞』を起こしているらしい。
おれ達はあの時、JRで帰ったのは正解だった。そのJRも今ではカオス状態になっているという。
車両基地が春日部駅の北側にあるので、南側の区間は電車が詰まって『渋滞』を起こしているらしい。
おれ達はあの時、JRで帰ったのは正解だった。そのJRも今ではカオス状態になっているという。
史上最悪の鉄道『事故』が起こった。
救出作業をしている中、早くも埼玉県警による現場検証が始まった。
事故が発生してまだ半日も経っていないというのに、早くもマスコミはお得意の「安全神話」だの「危機管理体制」を餌に東武鉄道を叩いている。
全く、アンタらは全くの幸せ者だな。
直接の被害者は利用客と電車の乗務員、そして橋の崩壊で下敷きになった住宅街だろう。
しかし、東武鉄道も被害者なのだ。
救出作業をしている中、早くも埼玉県警による現場検証が始まった。
事故が発生してまだ半日も経っていないというのに、早くもマスコミはお得意の「安全神話」だの「危機管理体制」を餌に東武鉄道を叩いている。
全く、アンタらは全くの幸せ者だな。
直接の被害者は利用客と電車の乗務員、そして橋の崩壊で下敷きになった住宅街だろう。
しかし、東武鉄道も被害者なのだ。
国立高専の機械学科出身のおれは、機械工学の他に、囓っただけだが建築物の構造計算の勉強もしている。
それが今の職に活かされている訳だが、それはどうでもいい。
現代の建築技術や頭の固い東武鉄道の管理体制を考える(後者はあくまでもイメージだが)と、
大地震でも起こらない限り複々線の橋がそう簡単に崩れる筈がない。
それに、崩壊したのは新田駅と蒲生駅との間だけであって、他の高架区間は特に問題は無かったという。
(ソースは東武のニュースリリース「秋の高架橋点検の結果について」による)
もしかしたら、これは『事件』なのかも知れない。誰かが、意図的に。
いやいや、もしかしたらこういうケースもあり得るのかも知れない。
それが今の職に活かされている訳だが、それはどうでもいい。
現代の建築技術や頭の固い東武鉄道の管理体制を考える(後者はあくまでもイメージだが)と、
大地震でも起こらない限り複々線の橋がそう簡単に崩れる筈がない。
それに、崩壊したのは新田駅と蒲生駅との間だけであって、他の高架区間は特に問題は無かったという。
(ソースは東武のニュースリリース「秋の高架橋点検の結果について」による)
もしかしたら、これは『事件』なのかも知れない。誰かが、意図的に。
いやいや、もしかしたらこういうケースもあり得るのかも知れない。
「兄貴ぃ~」
みさおはさっきからおれの側にずっと丸くなっている。
体をガクガクと震わせて。
みさおはさっきからおれの側にずっと丸くなっている。
体をガクガクと震わせて。
本当に怖がっている。
いつものアホみたいに笑っている我が妹が。
みさおここまで怯えることは滅多に無い。『あの』時以来だったような気がする。
それはどうでもいい。
それはどうでもいい。
「大丈夫だって。クラスメイトの事が心配なんだろ?」
「うん……でも、ちょっと違う」
「?」
「今さ、すんげー『嫌な予感』がしてならねーんだ」
「? あやのは無事だったぞ」
あの凶暴な姉貴が居りゃ、例え津波で埼玉が水没したとしても大丈夫だ。
「ちげーよ。他の友達だよ。例えば…」
「例えば?」
みさおが友達の名前を言おうとした時、
「うん……でも、ちょっと違う」
「?」
「今さ、すんげー『嫌な予感』がしてならねーんだ」
「? あやのは無事だったぞ」
あの凶暴な姉貴が居りゃ、例え津波で埼玉が水没したとしても大丈夫だ。
「ちげーよ。他の友達だよ。例えば…」
「例えば?」
みさおが友達の名前を言おうとした時、
『ジーーッ』
間抜けなブザーが鳴った。昭和40年代以前では標準だった『呼び鈴』の音である。
母親が玄関を開ける。おれとみさおも顔だけ出して来客を迎える。
扉が開くや否や、40代半ばの「お母さん」らしき人が現れた。はて、この前神社でお会いした様な気が?
「あら、『柊』さん?」
「う、ウチの娘、こちらにお邪魔していませんか?!」
と大声で言った。完全に平静さを失っている。
彼女の一言で、おれは何を言いたいのか理解した。みさおの『嫌~な予感』が当たってしまった。
母親が玄関を開ける。おれとみさおも顔だけ出して来客を迎える。
扉が開くや否や、40代半ばの「お母さん」らしき人が現れた。はて、この前神社でお会いした様な気が?
「あら、『柊』さん?」
「う、ウチの娘、こちらにお邪魔していませんか?!」
と大声で言った。完全に平静さを失っている。
彼女の一言で、おれは何を言いたいのか理解した。みさおの『嫌~な予感』が当たってしまった。
「ウチの娘がまだ帰っていないんです。電話も、携帯電話のメールも、一つも入っていなくて…………」
みさおの友達、柊かがみちゃんのお母さんは、泣きながらおれ達に説明した。
「みさおちゃん、何か聞いてない?」
「い、いや、今日は一度も連絡が……」
みさおの友達、柊かがみちゃんのお母さんは、泣きながらおれ達に説明した。
「みさおちゃん、何か聞いてない?」
「い、いや、今日は一度も連絡が……」
『嘘』であって欲しい。
『嘘』であって欲しい。
そうだ、ちょっと帰りがいつもより遅いだけなんだ。
余所の子だとはいえ、かがみちゃんはウチの妹がいつもお世話になっている。
「みさお、安心しな。ちゃんと帰って来るさ。そうだ、今から鷲宮神社に行こう。
そこで『無事に帰れますように』ってお祈りするんだ。いいな?」
おれは小さな子どもをあやすように、みさおに言う。
『嘘』であって欲しい。
そうだ、ちょっと帰りがいつもより遅いだけなんだ。
余所の子だとはいえ、かがみちゃんはウチの妹がいつもお世話になっている。
「みさお、安心しな。ちゃんと帰って来るさ。そうだ、今から鷲宮神社に行こう。
そこで『無事に帰れますように』ってお祈りするんだ。いいな?」
おれは小さな子どもをあやすように、みさおに言う。
我が妹は、泣きながら小さく「こくん」と頷いた。
『今、新しいニュースが入りました。今日午後6時頃発生した高架橋崩壊事故現場で、
大破した車両から10代後半と思われる女性3人が先ほど救出されました。
草加市立病院へ運ばれましたが、意識不明の重体となっております。
繰り返します──────』
大破した車両から10代後半と思われる女性3人が先ほど救出されました。
草加市立病院へ運ばれましたが、意識不明の重体となっております。
繰り返します──────』
コメントフォーム
- 私の地元の地名が出てきます!
草加や新田、蒲生など -- チャムチロ (2012-11-06 20:36:08)