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カケラ 11

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( 11 )

11.

「『星のカケラ』?」
「そう」
「昔々……といってもそれほど前の事ではないけれど、
 私の住んでいる村のお社に『星』の形をした不思議な『石』があったらしいの」

特急「北越」号に乗った私とかなたさんは、今、共に北陸の地を目指している。
かなたさんは終点の金沢へ、私は手前の富山まで行く予定だ。
私はかなたさんと会話を楽しみつつ、一方で『現代』へ帰る方法を考えていた。
今のところ特にコレといった手掛かりはない。
その代わり、私は偶然(かなたさんは偶然など無いと言うが)にも、生前の自分の母親と乗り合わせた。
青森で私に乗車券を渡した『何となく若い頃のお父さんに良く似た学生』が言っていた『近しい人』とは、私の未来の母親であり、今は高校生である『かなたさん』の事だろう。
正直、とても嬉しかった。

そして私は、未来の母親からようやっと『手掛かり』を手にする事になる。
勿論タダではなかった。

「私達はその『石』を五芒星(☆)の形にちなんで『星の石』って呼んでいた───」
あんまり語呂良くないね……。
「その『石』は透き通った黄色で、たまに暗いところでぼんやりと光る事があるそうよ」
「その『星の石』ってやつは、何か特別な『力』とかあったの? 神社に保管してあったそうだけど」
「そうね、私は直接聞かされた訳じゃないけれど、その『星の石』には不思議な『チカラ』があったそうよ」
意外にあっさりと答えたので拍子抜けしてしまう。
「ただ、その『石』の『チカラ』がどういうものかはみんな分からなかったの。
 その『石』が災いをもたらす事も無かったし、ある日突然村が(経済的に)恵まれる事も無かった。
 でも、色々な噂は流れていたわ」
「例えばどんな?」
「えっと……、常人では絶対出来ないこと。『超能力』って言えばいいのかな?
 その『石』を使って亡くなった人とお話をしたり出来るとか、空を跳べるとか、火の玉を出したりとか、
 大きな力…物理的な力の事ね、を出すことが出来たりとか………。
 ただ、それらはあくまで『噂』であって、それが真実とは限らないわ」
確かにそうだ。
ただ、得体の知れない石を手に持つと、何か特別な事を出来るんじゃないかと思ってしまうのが人間というもの。
「次第にその『石』の噂が広まってきて、ある時、その石の話が大阪の新聞社の耳に入ったらしいの。
 それ以来、その石を狙おうとして悪そうな人達が村に出入りしたわ」
一息置いて、
「ここまでが5年前の話」
と、一旦話を区切る。

要は、「『星の石』はどんな力を秘めているかは謎だけど、色々な噂が流れていて石に興味を持った人に狙われていた」という事だ。


「あれは一昨年だったかしら?
  私『達』が高校に通うようになった最初の夏に、病気が流行したの。
 幸いこの病気の直接的な影響で死んだ人は居なかったけれども、そう君がこの病気に掛かって大変だったの」
聴いたことがある。質の悪い風邪の様なものだが、一度発症すると半年は高熱と吐き気と下痢に苦しむという病気だ。
詳しい事は『現代』に帰ってからみゆきさんに聴くとして、お父さんはあれで一度死にかけたらしい。
「その頃から『星の石』を狙いに来た人達がその帰りに事故に遭ったり、家族や知人が突然行方不明になったり、
 中には精神不安定になって自殺したという人も居たらしいわ。
 それでね、村中で今度は『星の石の祟りだ』という噂が流れて、
 ある一人の人……名前は知っているけど敢えて伏せておくわね……が、夜中にその『星の石』を壊して海に捨てようとしたの。
 その時に………」
ごくり。
思わず生唾を飲み込む。
「石が突然強く光ったらしいの。その光は天の方を向いて真っ直ぐに延びていたのを私も見たわ。
 すぐに大騒ぎになって、男の人達が神主さまと一緒にお社に行ってみたら……………」
「行ってみたら………??」
いよいよ核心に迫る……………が、


「その話、もっと詳しく聞かせて貰おうか」


かなたさんとは違う、別の『女の人』の声が7時の方向から聞こえた。
気配から察するに、どうも私達に用があるようだ。そして、その用は私達にとって非常に都合が悪そう。
(かなたさんはここに居て)
(分かったわ)
かなたさんに小声でそう言い終える前に、私めがけて一発目の攻撃が入る。
小柄な身体を利用して、滑り落ちるようにして座席の隙間に入り込む。
辛うじて挨拶代わりのカウンタは避けられた。
そのまま通路まで一回転して、二発目の蹴りをバック転でかわす。

座席3列分の距離を置いて、車内の狭い通路上で私と『女』は対峙する。
相手は20代半ばくらいで、際どいスリットの入った赤いチャイナ服を身に着けている。
私が今着ている服よりも場違いな恰好だ。
すらりとした長い手足で構えのポーズをとる。
私も真似して空手の『構え』のポーズをとる。
「初対面の人にいきなり殴りかかってくるなんて、失礼なんじゃない?」
「いきなり? いきなりはやっていないさ。最初に言ったろう? 『その話、もっと詳しく聞かせて貰おうか』と」
さっき言った台詞を一字一句違わずに再生する。ある意味凄いかも知れないね。
この恰好、普段なら「萌え~」の対象なんだけどね。『お姉さん』何気に綺麗だし。中国人っぽいけど。
しかし、それどころでは無さそうだ。


実はこのお姉さんの気配はもっと前から気付いていた。かなたさんが『星の石』の話を始めた時かな。
ずっと警戒していりしてたんだけど、まぁ大丈夫かなぁと思った矢先、さっきの一発が飛んできたワケだ。
「それで、その話の事だが」
「だが断る」
「ならば、お前がその内に秘めている『モノ』を差し出せ」
「それも断る」
それ以前に、私の内に秘められている『ヲタク魂』をそうやすやすと差し出すわけにはいかない。
てか、お姉さんもソレ、欲しいの?
「ならば、この場にて消えて貰おう」
真っ平らな胸の内で訊いた問いには答えてくれず、代わりに強硬手段に出ることを宣言された。
「それも断る」
「黙れ小娘、大人しくその身を差し出せ」
「それも断る♪」
ちょっと巫山戯て言ってみる。思わず「ぷっ」と嘲(わら)ってしまった。
「何が可笑しい?」
「べーつに」
相手の殺気がどんどん高まっていく。それでも私はあくまで『平静』に戯(おど)ける。
「許さぬ。今すぐこの場で死ぬが良い!!」
お姉さんの怒りが最大値に達したのか、ついに右足に込めていた力を爆発させ、私目掛けて一直線に飛んで来る。

明らかに、私を殺そうとしている。

「だからさ、嫌だって言ってるでしょ?」

相手をギリギリまで引き寄せ、スライディングで低空飛行を避ける。
雪の日のノリウムの床はとてもよく滑る。
お姉さんは「ちっ」と軽く舌打ちし、右手を床について一回転、元の構えの体勢に戻る。
刹那、再び私目掛けて飛びかかる。それにしても不思議だ。
地を一蹴りしただけで、15メートルはあろう細長い通路を端から端まで飛べるのだから。
今度はスライディングで避けられない、地に着くスレスレの高さで低く飛ぶ。
彼女の右手には不思議と光の弾らしきモノが見える……様な気がした。多分錯覚だろう。
今度はジャンプで斜めに避ける。
座席の背もたれに左手をつき、左腕を軸に跳びながら身体を一回転させ────
「あれ?」
───ようとした。
一回転したのは座席の方だった。
どうやらこの列車の座席は、背もたれを前に倒すと座席が回転するらしい。
思わぬトラップにハマり、危うく座席と座席との間に頭から落ちる所だった。
窓の柱を強く蹴って、通路に降りる。
ハタから見れば滑稽なこの動作にも、彼女は表情何一つ変えなかった。
何か腹立つな。
私の事、馬鹿にしてるのか?


「お遊びはそこまでにして貰おうか」
遊んでなんかいない。勝手に回ったのは座席の方だ。

正直、私はこんな所で闘いたくはなかった。
実戦経験は無いして、そもそも私は争いを好む変わり者ではない。
どちらかと言えば、自分が何をしなくても平穏に過ごせる『平和な世界』を望んでいる側だ。
かなたさんは最後列の座席でハラハラしながら私達を見守っている。
どうやら自分への危険よりも、私が『最悪の事態』を迎える事を憂えているようだ。
「私を退屈させるな」
一生退屈してろ!!
私が考え事をしている最中に、次の攻撃が入る。
連続かつ不規則に入る拳と蹴りを避けつつ、彼女の狙いを考察してみる。

彼女の狙いは、少なくとも『星の石』に関する事のようである。
私自身も話の核心に触れていないので『石』がどうなったかは予測出来ないけど、
おそらく、何か大きな事件が村で起こった事は確定しても良いだろう。

ぴた。

一歩ずつ下がりながら攻撃を避けていたら、客室の扉に背中が当たってしまった。
右足が私の顔面に高速で向かってくる。
彼女の身長は170cmほどもあり、日本(それとも中国?)の女性にしては長身である。
この高さで飛び越えるほど脚力は無いし、右に避ければ身を丸めているのでかなたさんが巻き込まれる危険がある。
逃げ道は私から見て左側しか無い。
しかし、背もたれの高さまで跳ぶ余裕がもう無い。
(イチかバチかだ)
そう思った私は跳んできた硬そうで平たい靴底を紙一重で避け、足に目一杯力を込めて、そして、
「えいっ」
跳んだ。
その時、不思議な事が起こった。
左足が何らかの『力』を爆発させたような感触を覚えた。
途端、私はあり得ない速度で彼女の胸元を目掛けて一直線に跳んでいた。
彼女の右足がまだ扉に固定されているうちに、思いっきり力を込めてパンチを送る。
腕が何となく萌えた……いやいや、『燃えた』ような錯覚に囚われる。
腹に命中した。
「───っ!!」
正直驚いた。私の方が。
彼女は10メートルほど飛んで、頭から床に落ちた。脳震盪を起こしたようで、すぐには立ち上がらない。
4時の方向から声がした。

今、私は何をやったのだろう。
四肢には不思議と『力』が沸いてくる。
殆ど稼働していない脳味噌も何となく、普段以上に回転している……様な気がする。
「お…………おのれぇぇぇぇえええええ!!!!!」
怒りを露わにした、チャイナドレスの般若が再び攻撃態勢に入る。
右手に持っているのは、向こうの客室扉の脇にあって、それを強引に剥ぎ取った、握り棒。
要するに、鉄パイプだ。
それを孫悟空(ドラゴンボールの方じゃないよ)の如意棒の様にぶんぶんと振り回し、襲いかかってくる。

えっと、何考えていたんだっけ?
あ、そうだ、思い出した。
彼女は『星の石』に興味があるらしい。


扇風機の様に高速回転する鉄パイプを避け、後側にまわって、
「破ッ!!!!」
背中に一発蹴りをお見舞いする。
彼女を死なせる気は更々無い。さっさと退散するか、暫く眠って貰えればそれで良いのである。
不必要な攻撃は、むしろ己の『弱さ』を表に出す行為に繋がるし(私は自分が強いとは思っていないけど)、
何よりも体力と時間の無駄になる。こんな事をしている位なら、家帰ってエロゲの続きを楽しむ方がよっぽど良い。
まぁ、今は簡単に言えに帰れないんだけどね。

それで、だ。
今、彼女は『星の石』の話を知っているかなたさんを襲わず、何故か私を攻撃している。
『石』の話が聞きたければ、私など無視してさっさとかなたさんを脅して聞き出せば良いのに。
まぁ、私がその前に止めるけどね。
………あ、そうか。だから私をさっさと始末して、ゆっくり聞き出すつもりなのか。
やっぱり私のCPUは、どこかしら断線しているようだ………。

荷物棚に掴まって頭に蹴りを入れる。しかし、見事にかわされてしまう。
「ぐはッ?!」
鉄塊が私のお腹に喰い込んだ。口の中が血の味で満たされる。
「────っつ!!!」
背中が後方の客室扉に叩き付けられる。一瞬、頭の中が真っ白になった。
ぼんやりする意識の中、鉄パイプの衝撃が全身に走る。耳にはかなたさんの悲鳴が。
「!!!!!」
今、『脳』に甚大な衝撃が走った。
ダメだ、視界がぼやけて目標(=お姉さん)が何処にあるかが分からない。
─────私はこのまま、この時代で母親よりも短い生涯を終える事になるのか。

嫌だ、嫌だ、
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、…………………、



「嫌だぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」



私が力を振り絞って叫んでから数分の間。
私は自分の周りで何が起こったか、全く覚えていない。
気付けば客室内は滅茶滅茶に破壊され、チャイナドレスのお姉さんは座席「だった」モノに寄りかかるようにして倒れていた。
顔面血まみれだったが、『気配』を感じたのでまだ生きている。
私の後には、白いコートを羽織ったかなたさんの姿が。
ご覧の通りの惨状であるにも拘わらず、彼女は意外にも冷静で、しかし、色の抜けた表情で私をじっと見ていた。
客室の窓ガラスのうち何枚かに罅(ひび)が走り、そのうちの何枚かは割れており、
走行風によって加速された白い冷気が容赦なく客室内を氷の世界へと変えようとしている。
しかし、私の身体は熱い炎の様なモノで包まれていた。
炎の色は、私の瞳と同じ常磐(ときわ)色。
理科の実験でやったような嘘くさい炎が、私を優しく包んでいた。

足下のモータの轟音が虚しく響く。
私は一体全体何が起きたのかサッパリ分からず、酷く動揺していた。


かなたさんは、さきの騒動がまるで何も無かったかのように、『例の』話を続けた。
「村のある人は、その『星の石』を壊そうとしてお社に行ったの。
 すると、その『石』は急に強く光って、5つに割れて、飛び散った。
 その『石』は矢波山よりも高く浮いていたから、結構遠くへ飛んだと思うわ。
 その後、村がどうなったかと言うと、特にこれといって何も起こらなかった。
 それがかえって不安になって、『星の祟りによって、近いうちに村ごと海の底に沈む』
 と言うデマまで流れて、みんな次から次へと村を出て行ってしまった。
 そして、『石』を壊そうとしたある人も、原因不明の病気に掛かって一週間後に亡くなった……。」
「……………」
「そして、昨日の夜。
 私は夢の中で『「泉こなた」という女の子と逢うだろう』と神さまに言われたの」
「……………」
「神さまはさらにこう言った。
 『その子は30年後の世界から「星のチカラ」によってこの世界にやって来る。
  それは、彼女が「星の石」を必要としているからだ。
  だから、彼女に「星のカケラ」を集めさせ、ある条件を満たすようにと伝えなさい』と」
「……………」
「私は戸惑ったわ。
 『星の石』は結果的に矢波の人間にとっては危険な存在だったし、
 その『石』の『チカラ』は『事件』から2年経った今でも正確に分かっていない。
 それ以前に、私の未来の子が本当に来るなんて信じにくい事だったし、本当にあなたに逢えるまで、
 実は少しだけ、あなたが来る事を疑っていた」
「……………」
「でも、あなたに本当に逢えた時、分かった。
 『星の石』は『あなたの手の元にあるべきモノ』であるのだと」
「……………」
「ところで、『星の石』の噂話の他に、村の言い伝えでこんなお話があるの。
 『星のチカラ』と呼ばれる不思議なチカラがこの世界には存在するそうで、
 それを使う『使い手』の人達は、その自身の力を使ってこの世界のバランスを保っているそうなの。
 漫画で言えば『魔法』のようなモノかしら?
 ただ、魔法とは違って、『星のチカラ』の源はその使い手の胸の内にある『炎』によるもので、
 そのチカラは使い手の特性によって様々で、それを戦いのために使う人も居れば、怪我の治癒に使う人も居るそうよ。
 何が言いたいのかと言うとね、今、あなたは常磐色の『炎』に包まれている。
 その炎はあなたの胸の内にあるものが顕現したものであって、あなたもその『星のチカラ』の使い手であるという証し。
 これは私の推測に過ぎないけれども─────」
「もういいよ」
「───多分、『星のチカラ』と─────」
「もういいって」
「───『星の石』とは…………」
「もういいってば!!」
「……………。ごめんなさい」
私を包む常磐色の炎はいつしか消え、窓ガラスの割れた客室内は冷凍庫のように冷えていた。
もう、訳が分からなくなってしまっていた。
私はこの時代に飛ばされ、かなたさんに逢うまで『ただの人間』だと思っていた。
でも、私は今さっき、無意識のうちに『星のチカラ』とやらを使って車内の今の惨状に変えてしまっていた。
「私って…………何なの……?」

うっ、うっ、…………うっ…………………、
涙が列車の振動でパラパラと散る。車内に悲しく響いていた嗚咽は、次第にハッキリとした鳴き声と化す。

うわぁぁぁあああぁぁぁぁあああ─────

私は、大声で泣いた。

自分が、『恐かった』からである。












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  • 結構深い話ですね! -- チャムチロ (2012-11-07 21:32:34)

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