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カケラ 10

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( 10 )

10.

「そのまま窓の方を向け!!」

4人組のうちの1人がショットガンを向けたまま、ほぼ脅しに近い指示をする。

(殺される)

死に怯えるあまりに膝がカクカクと震える。悲鳴をあげるように。
今立っているのがやっとで、力が抜けて倒れてしまいそう。
「早くしろ!!」
「ひぃっ!!」
私は低く響いた脅し声に吃驚し、慌てて身体の向きを180度変える。
この電車の窓は小振りで取付位置が低いので、私の頭が斜めの出っ張りにぶつかる。

それにしても、さっきの悲鳴は何だったんだろう?
あゆちゃんはトイレに行くと言って洗面所に行ったけど、そこで何があったんだろう?
私は意外と冷静だった。私の真後ろ、数センチ離れた所にショットガンの口がある。
自分がいつ撃たれるか分からないというのに、他人の心配をする余裕があるのだから。
いや、あゆちゃんはもう『他人』ではない。私の『旅』の大切なパートナーでもあるし、
私の『友達』でもある。ちょっとおマセさんだけど。

───そんな事を考えている私って、やっぱりおバカさんなのかな。
自分の『命』が狙われているというのに。
でもね、何となくだけど、大丈夫なような気がするの。
きっと、何とかなるよ。そう、『絶対、大丈夫』。

その時だった………。
 ドカン!!
二度目の破壊音。そして、もう一度。
 バガン!!
「ぎゃああああああ!!!」
客室の扉が吹っ飛んだ………音がした。

私は窓(というか壁)の方を向いているので本当に扉が吹っ飛んだのかどうかは分からない。
悲鳴も一緒に飛び込んできた。
でも、それはあゆちゃんの声ではなく、明らかに男の人のものだった。
「お、お前………『星のチカラ』の使い手か、ぐはっ」
『星のチカラ』?? 聞き慣れない単語が私を無意識に回れ右しようとする。
しかし………、
「……………っ!!」
後頭部に激痛が走る。
「動くなと言ってるだろう?」
グリグリグリ、と、確かに銃口が後頭部に食い込む音がした。
斜めに張り出した出っ張りと、真後ろの食い込む銃口、双方から圧力が掛かる。
今にも、
今にも、押し潰されそう。
でも、何となくだけど、私に銃口を向けている人の声が揺れている……ような気がする。
同じく私に銃口を向ける他の3人も、何となくだけど、気配に『焦り』を感じる。

ドサッ、とその男の人が倒れる音がした。直後、燐光が走る。
「うわぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁ………………」
相当ダメージを受けていたのだろう。男の人の叫び声が客室内に響く。
その叫び声は何故か途中で途切れ、もう一度光って、そして、彼の『気配』が消えた。

「ふぅ。邪魔しないでよね。本当にトイレ行きたかったのに」
あゆちゃんの声が、確かに聞こえた。

「あゆちゃん!!」
「う動くなと言ってるだろ!!」
「っあ!!」
銃口が更に食い込む。今にも頭蓋骨が潰れてしまいそう!!
刹那─────、

つかさから離れろォォォオオ!!!!」
凄まじい叫び声と共にまばゆい空色の火の『弾』が数発放たれる……様な気がした。
その弾は私を囲む4人に命中したようで、後頭部に強くかかっていた圧力が、すっと抜ける。
突然後からの荷重が抜けたので、私はバランスを崩し、そのまま後向きに倒れる。
下に銃口を向けていた男の人がクッションになってくれたので、床に頭をぶつけずに済んだ。
臭かったから全然嬉しくないけれど。

すぐに立ち上がり、あゆちゃんの声のする方を見る。
そこには、『少女』が立っていた。
「あゆ、ちゃん?」
が、私の知っている、さっきまでUNOに夢中になっていたあゆちゃんの面影は無かった。
「へへ、お待たせ」
人差し指で鼻をこすり、照れ隠しのような笑み。
『まるで別人のよう』という程じゃないけれども、あの『可愛い』あゆちゃんではなかった。
そこに立っているのは、『恰好良い』あゆちゃんだった。
身体の周りは水色の炎のようなもので包まれ───スーパーサイヤ人の様に───、背中には光で出来た鷹の羽根。
その様子はあまりにも不思議で私は驚きを隠せないまま、ただただ見とれていた。
私は、通路に出た。が、
「伏せて!!」
「へっ?!」
突然、あゆちゃんに怒鳴られる。
後から『誰か』が迫ってくる気配がした。
あゆちゃんの左耳の方から『何か』が光った。
その瞬間に下に降ろした両手から、先ほどと同じ空色の光の『弾』が現れる。
そして、その両手を私……いや、私の後にいる『誰か』に向ける。光の『弾』が合わさって大きな弾となった。
………って!!
慌てて伏せる。『アレ』に当たったらさっきの男の人達みたいに消されてしまう。
光の『弾』が放たれた。バレーボールのボールと同じくらいの大きさの『炎弾』が。
後の『誰か』が『何か』を振り下ろす。
『何か』が私の頭上数センチの所まで迫るが、私は間一髪でその攻撃を免れた。
「うゎぁぁぁあああああ!!!!!!!」
背後の『誰か』がドサッと倒れる。振り返ると、「如何にも」な恰好をした男の人が倒れていた。
そして、光と共に消える。血が出たり、身体の一部が千切れたりする訳ではないので、その様子を見て気持ち悪くなる事は無い。

この一連の流れが、わずか数秒でなされた。


「怪我」
「怪我?」
「してない?」
「う……うん、全然大丈夫」
後頭部がまだジンジン痛むけど。
「良かった」
「あゆちゃんは?」
「大丈夫」
「そっか、良かった」
「さ、早く降りましょ」
「え?」
「いいからいいから。ほら、さっさと行くわよ」
まるで遠足で目的地に着いて一番乗りを目指す子どもの様な笑顔で私の手を引いてデッキへと向かう。
「う、うん……、あ、ちょ、ちょっと待って!!」
あゆちゃんを包んでいた炎も、背中に生えている(様に見えた)光で出来た鷹の羽根も、いつの間にか消えていた。


「有明」号は、さっきの騒動がまるで無かったかのように、発車して灰色の空の中に消えていってしまった。
私は直前の出来事による驚きで全身に鳥肌が立っていて、胸がドキドキする。
そう、私は恐かったのだ。
自分の命が狙われたこと、そして、

あゆちゃんが常人が持たない不思議な『チカラ』を持っていたこと。


熊本駅の周辺は意外とさっぱりしていた。
駅が市街地から離れているのだろう。とても県庁所在地とは思えぬほどの寂れっぷりだった。
「バレちゃったね」
「うん。でも、格好良かったよ」
ちょっと恐かったけど。
「まあね」
短いやりとり。すっかり姉妹の様になってしまった私達。
(そう思っているのは私だけなのかも知れないけど)

私とあゆちゃんは、市内電車に乗って市街地へ移動する。
あゆちゃんの話によると、この周辺で『鍵』の気配がするのだという。
「……やっぱり、分からないんだよね」
「うん」
その『鍵』とは、私が『現代』に帰るためのキーワードのようなモノらしいけど、それが一体何なのかは、あゆちゃんは知らないという。
あゆちゃんは『星のチカラ』という、不思議なチカラを持っていた。
『鍵』の気配が察知出来るのも、このチカラによるものだと言う。
ただ、あゆちゃん『自身』はそのチカラを使う事が出来ない。
そこで、その不思議なチカラを込めたサファイアとエメラルドのピアスで、チカラの発動と制御を行っているらしい。
車内であゆちゃんが空色の炎弾を放つ時に光っていた2色の光は、左耳に並んだピアスだったのだ。
でも、あゆちゃんがピアスを2つも付けていた事に気付かなかったのは何故だろう。
あと、私が持ってる磁石のやつとは違って、何だか痛そう。

「それで、『鍵』の気配はどう?」
「うん、近付いてる」
熊本駅を出た路面電車は、車と一緒に道路の上をのろのろと走っている。
普通の電車と違って、駅が無くても赤信号で止まったり、舗装が悪いのか、予想以上にがったんがったん揺れる。
あと、電車に乗る時、床がやたらと高くて乗るのが大変だった。
電車は狭い市街地を2回ほど方向転換しながら、大通りに入る。
「次で降りるわよ」
熊本城と思われる建物が近付いてきた。あゆちゃんによると、『鍵』は熊本城の周辺にあるという。
降車ボタンを押して、「熊本城前」電停で降りる。運賃は私が2人分払った。
肩まで降ろした縹(はなだ)色の髪を揺らし、二段式ステップをぴょんと飛び降りる。
特別なチカラを持っているとは言え、中身は普通の可愛い女の子なんだな、と思った。

「さって、さっさと行くわよ!!」
「うん!!」

私達は、廐橋(うまやばし)を渡り、熊本城へと入城した。






間.

ライトグレーの空の下降りしきる雨は、まるで事故で亡くなった人達の涙のようだ。
ジトジトしていて、重たい雨。
安物の蝙蝠傘に穴が開かないかと心配した程だ。

中途半端に整備された駅前のロータリを通り過ぎ、青毛堀川に架かる橋を渡って鷲宮駅に入る。
一旦階段を上がってまた降りる。
鷲宮駅が高架駅だったらわざわざ階段を上り下りする必要は無いのだが、町の財政を考えると高架化は無理そうだ。
「高架駅、か………」
鷲宮駅高架化妄想をしていると、午前中の謎の大穴と、未だに沈んだままの妹の事を思い出す。
駅員以外誰も居ない改札口をちらっと眺めて西口の階段を降りる。
西口は西口で寂れている。無理矢理作ったロータリもどきと、数年前からずっとテナントの入っていない店舗の跡が寂しい。
図書館へは駅前から延びる県道を真っ直ぐ歩き、信号のある四つ辻を右折、後はそこから500mほど歩けば着く。
遠くもなく、近くもない。散歩だと思えば気軽に歩けるほどほどの距離だ。
んで、四つ辻を左折して行き止まりまで歩くと、関東最古の由緒正しい鷲宮神社へ到着する。
「そうだ」
ついでだから鷲宮神社に行こう。かがみちゃんの無事を祈るんだ。
ああ、みさおを連れて行くべきだった。今更後悔しても遅いが。

平日の神社はいたって静か。
大きな鳥居をくぐり、参道の石畳を歩く。正月はテキ屋さんの屋台が連なるが、今日は誰も居ない。
やっぱりこういう静かな方が心が落ち着くね。あんまり騒がしいと神さまも難儀するだろう。
さて、拝殿まで歩き、賽銭を投げ入れ、手を合わす。
(皆が無事でありますように)
『皆』とは、現在行方不明になっているみさおの友達、柊かがみちゃんと妹のつかさちゃん、それに彼女らの親友である泉こなたちゃんの事である。
おれの場合、特にこれと言った信仰は持っていないし、これは一部を除く日本人に共通することだが、
神社に参拝しに行く回数は人よりも多いと思う。
特に鷲宮神社の場合、ほぼ毎週行ってる様な気がする。
べ、別に可愛い巫女さん目当てではないぞ。


さて、図書館へ行くとしよう。
おれは荷物を持って神社を出ようとしたが、その途中で宮司さんにお会いした。
「おや、日下部さんかい?」
「あ、はい、こんにちは。妹がお世話になっております」
宮司さんとおれを知っているのは、宮司である柊ただおさんがかがみちゃんの親御さんだからだ。
みさおが中学に上がるまでは、柊さんの家に遊びに行くと夜まで帰ってこないので、母親に頼まれてよく迎えに行ったものだ。
やはり、奥さん同様に昨日から行方不明の娘を心配しているのだろう。
柊さんはすっかりやつれてしまっていて、今にも玉砂利の上に倒れそう。
いつも穏やかで落ち着いた人なだけに、『最悪の結果』が訪れたら、大病を患ってしまいそうだ。
「おいおい、私はそんなに弱くはないよ。体だけは健康さ。
 確かに少しだけ疲れているけれど、それはちょっとした『儀式』を行っている最中だったからさ」
だから、か。
柊さんの右手には、鞘に収められた見るからに古そうな刀がある。
小学生の背丈ほどもあるその大太刀は、おそらくこの神社の奉納品だろう。

「ところで、君はこれから何処へ行こうとしているんだい?」
「今から町立図書館へ行くところです。ちょっと、気になる事がありまして……」
柊さんはおれの顔を穏やかだが怪訝な顔を浮かべる。
「気になる事?」
「はい。昨日、伊勢崎線の高架橋が崩壊した事故が遭った事をご存知ですよね?」
ここで『いいえ』と答えたら、かがみちゃん達は今頃学校から帰って勉強をしているだろう。
「ええ。かがみ達が巻き込まれたのではないかと今でも心配しているよ」
予想通りの答えで良かった。
おれはテレビの映像で見付け、実際に行って調べてきた『穴』の事を話した。
柊さんも多分知らないだろうという事で話したのだが……、
「ああ、その『穴』の事なら私も気付いたよ」
何と、柊さんも知っていた。
「ちょっと、時間有るかい?」
おれは時間が余ってるから図書館へ行くつもりだった。
「ええ、有ります。良かった、知っている人が居て」
「いや、私は別に現場に行って見た訳ではないよ」
え?
情報を知っていそうな人を見付けたおれの歓喜の笑顔は、わずか10秒で疑問の顔に変わった。
「立ち話もなんだから、私の家に来なさい」
「あ、はい。ご迷惑お掛けします」
「ああ、構わんよ。私もこの件に関しては興味があってね」

おれは急遽予定を変更し、柊さん宅へお邪魔することにした。


やっぱり、みさおも連れて行くべきだったかなぁ。












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