「やっほー、遊びに来たよー」
「あ、ゆい姉さんいらっしゃいー」
「あ、ゆい姉さんいらっしゃいー」
一月も半ばのある休日、泉家にこなたの従姉妹であるゆいが遊びに来た。
相変わらずのテンションで一気にその場が明るくなる。
『明るい人』という言葉は、まさにゆいの為にあるようなものだろう。
と、その時こなたがある事に気付く。
相変わらずのテンションで一気にその場が明るくなる。
『明るい人』という言葉は、まさにゆいの為にあるようなものだろう。
と、その時こなたがある事に気付く。
「…あれ、ゆい姉さん。
肩に付いてるのって…雪?」
「え、そうだけど…今日は朝から降ってるじゃない。
こなた、まさか雪が降ってる事知らなかったの?」
「い、いやー、だって今日は寒いじゃん?
こういう日は、やっぱり炬燵でぬくぬくが一番だと思って…」
肩に付いてるのって…雪?」
「え、そうだけど…今日は朝から降ってるじゃない。
こなた、まさか雪が降ってる事知らなかったの?」
「い、いやー、だって今日は寒いじゃん?
こういう日は、やっぱり炬燵でぬくぬくが一番だと思って…」
こたつむりになりながら答えるこなた。
こう答えるところをみると、今日は起きてからずっと炬燵に入りながらゲームでもしていたのだろう。
それを見て、ゆいがやれやれといった感じでこなたに話しかける。
こう答えるところをみると、今日は起きてからずっと炬燵に入りながらゲームでもしていたのだろう。
それを見て、ゆいがやれやれといった感じでこなたに話しかける。
「いかんよー、こなた?
まだ十八才だというのに、そんな炬燵の虫になっていたんじゃ。
ゆたかだって炬燵に入っていな…って、そういえばゆたかは?」
「あ、ゆーちゃんならみなみちゃんの家に遊びに行ってるよ。
皆で集まって、勉強会をやるんだって」
「こなたも少しはゆたかを見習ったら?
ゆたかより健康なこなたが、こんなこたつむり状態になってるとか…
大体もう受験前だっていうのに、そんなので大丈夫なの?」
「うっ…そ、それとこれとは別という事で…」
まだ十八才だというのに、そんな炬燵の虫になっていたんじゃ。
ゆたかだって炬燵に入っていな…って、そういえばゆたかは?」
「あ、ゆーちゃんならみなみちゃんの家に遊びに行ってるよ。
皆で集まって、勉強会をやるんだって」
「こなたも少しはゆたかを見習ったら?
ゆたかより健康なこなたが、こんなこたつむり状態になってるとか…
大体もう受験前だっていうのに、そんなので大丈夫なの?」
「うっ…そ、それとこれとは別という事で…」
いつものやり取り、いつもの風景。
だが、今日はいつもと少し違った。
ゆいがカーテンを閉められている窓に視線を向け、何かを思い出したように呟いたのだ。
だが、今日はいつもと少し違った。
ゆいがカーテンを閉められている窓に視線を向け、何かを思い出したように呟いたのだ。
「…雪、かあ。
そういえば、ゆたかが一時的に大変な事になっていたのもこの時期だったよね。
今のゆたかを見ると、あの時の事が夢だったんじゃないかって思えるよ」
「え、何それ?
ゆーちゃんが大変なことになっていたなんて知らないよ、そんな事」
そういえば、ゆたかが一時的に大変な事になっていたのもこの時期だったよね。
今のゆたかを見ると、あの時の事が夢だったんじゃないかって思えるよ」
「え、何それ?
ゆーちゃんが大変なことになっていたなんて知らないよ、そんな事」
ゆたかが病弱な体質だという事はこなたも知っている。
だが、そこまで重い状態になったという事は聞いたことがなかった。
一体昔、何がゆたかの身に起きていたのだろうか?
興味津々に見つめるこなたの視線に気付いたゆいは、意外そうな表情になる。
だが、そこまで重い状態になったという事は聞いたことがなかった。
一体昔、何がゆたかの身に起きていたのだろうか?
興味津々に見つめるこなたの視線に気付いたゆいは、意外そうな表情になる。
「あれ、こなたは知らなかったっけ?
…そうか、あの時は親戚に迷惑かけないようにって秘密にしていたんだっけ」
「何があったの?
何かそう言われちゃうと、気になっちゃうよ…」
…そうか、あの時は親戚に迷惑かけないようにって秘密にしていたんだっけ」
「何があったの?
何かそう言われちゃうと、気になっちゃうよ…」
その言葉を受け、ゆいは少し上を見るように顔を上げる。
それは遠い場所を見るような…普段のゆいからは想像できないような表情をしていた。
それは遠い場所を見るような…普段のゆいからは想像できないような表情をしていた。
「そうだね、こなたには教えておこうかな。
幸いゆたかも今いないし、外も丁度雪だし…話すにはぴったりかもね」
幸いゆたかも今いないし、外も丁度雪だし…話すにはぴったりかもね」
雪がうっすらと付いている上着をハンガーにかけ、炬燵の中へと入る。
そしてゆっくりと、その昔ゆたかに起きた事を話し始めるゆい。
それは、こなたが全く予想していなかった内容だった。
そしてゆっくりと、その昔ゆたかに起きた事を話し始めるゆい。
それは、こなたが全く予想していなかった内容だった。
◆
今から八年前。
一月もあと一週を残すのみとなった日曜日、関東ほぼ全域に雪が降った。
そんな中、小早川家では雪を見たゆたかが庭ではしゃいでいた。
一月もあと一週を残すのみとなった日曜日、関東ほぼ全域に雪が降った。
そんな中、小早川家では雪を見たゆたかが庭ではしゃいでいた。
「あっ、お姉ちゃんきてきて!
雪だよ、雪がいっぱい積もってるよー!」
「ゆたか、はしゃぎすぎて転ばないようにしなよー」
雪だよ、雪がいっぱい積もってるよー!」
「ゆたか、はしゃぎすぎて転ばないようにしなよー」
当時小学二年生だったゆたか。
この時既に体が弱かったのだが、子供の好奇心はどうやら全てに勝るらしい。
普段だったら寒さに負けてすぐに家へと避難しているのだが、今日はまるで関係なく遊んでいる。
この時既に体が弱かったのだが、子供の好奇心はどうやら全てに勝るらしい。
普段だったら寒さに負けてすぐに家へと避難しているのだが、今日はまるで関係なく遊んでいる。
「ゆーきやこんこ、あーられーやこんこ…」
歌まで歌いながら、庭を走り回るゆたか。
こうして年相応に動き回るゆたかは、家族であるゆいにとっても新鮮に見えた。
こうして年相応に動き回るゆたかは、家族であるゆいにとっても新鮮に見えた。
(いつもこんな感じだったら良いのにねえ…)
ゆいにとって大事な妹のゆたか。
いつも一緒に遊びたいと思っているのだが、ゆたかの体調不良が続くので遊べる日が少ない。
できるなら、常にこの位の元気さがゆたかに宿ってほしい。
いつかそんな日が来る筈だと信じているのだが、そう願い通りにはいかないもの。
しかし…
いつも一緒に遊びたいと思っているのだが、ゆたかの体調不良が続くので遊べる日が少ない。
できるなら、常にこの位の元気さがゆたかに宿ってほしい。
いつかそんな日が来る筈だと信じているのだが、そう願い通りにはいかないもの。
しかし…
(今日だけは、その願いが叶ったのかな)
普段では絶対に見る事ができない光景を、ゆいは今見ている。
雪が降りしきる中、ゆたかが歌いながら嬉しそうに遊んでいる…
せっかくのチャンス、この日を逃すわけにはいかない。
ゆいはすぐに庭へ飛び出し、ゆたかの元へと駆けつけた。
雪が降りしきる中、ゆたかが歌いながら嬉しそうに遊んでいる…
せっかくのチャンス、この日を逃すわけにはいかない。
ゆいはすぐに庭へ飛び出し、ゆたかの元へと駆けつけた。
「よしゆたか、一緒に遊ぼう!
これだけ積もっているんだし、せっかくだから雪だるま作ろうよ!」
「わあ、いいねー!
それじゃ、私は頭を作るねー」
「了解、それじゃ私は胴だねっ」
これだけ積もっているんだし、せっかくだから雪だるま作ろうよ!」
「わあ、いいねー!
それじゃ、私は頭を作るねー」
「了解、それじゃ私は胴だねっ」
早速作業を始めるゆいとゆたか。
それぞれ雪玉をごろごろと転がして、どんどん大きくしていく。
二人共に、満面の笑顔で作業を進めていた。
やはり姉妹揃って遊ぶという事が、楽しくて仕方がないのだろう。
ゆたかはゆっくりとしたペースで転がしていたので、作業量が多いはずのゆいが先に終了した。
それぞれ雪玉をごろごろと転がして、どんどん大きくしていく。
二人共に、満面の笑顔で作業を進めていた。
やはり姉妹揃って遊ぶという事が、楽しくて仕方がないのだろう。
ゆたかはゆっくりとしたペースで転がしていたので、作業量が多いはずのゆいが先に終了した。
「ゆたか、あともうちょっとだよー、ファイト!」
「うん、待っててお姉ちゃんー
…いーぬはよろこびにわかけまわり、ねーこはこたつでまるくなるー…」
「うん、待っててお姉ちゃんー
…いーぬはよろこびにわかけまわり、ねーこはこたつでまるくなるー…」
余程楽しいのか、また歌いながらの作業をしている。
段々と大きくなる雪玉を、ゆっくりと転がしていくゆたか。
…だが、後もう少しだけ転がせば完成という時にそれは起こった。
段々と大きくなる雪玉を、ゆっくりと転がしていくゆたか。
…だが、後もう少しだけ転がせば完成という時にそれは起こった。
「…あれ、ゆたか?」
雪玉を転がしていたゆたかの動きが急に止まる。
そして手を雪玉にのせたまま、息を荒げ始めた。
ゆたかが、疲れ等からこうして急に体調を崩すことは珍しくない。
…だが、それはいつもと少し違う様子だった。
そして手を雪玉にのせたまま、息を荒げ始めた。
ゆたかが、疲れ等からこうして急に体調を崩すことは珍しくない。
…だが、それはいつもと少し違う様子だった。
「どうしたのゆたか、疲れちゃった?」
ゆいが聞いたその時だった。
ゆたかに今までに無い異変が起きた。
ゆたかに今までに無い異変が起きた。
「ケホッ…ゴホゴホゲホッ……ゲホッゴホッ…!」
「ゆ、ゆたか!?」
「ゆ、ゆたか!?」
急に激しく咳き込み始めたゆたか。
この寒さで体調が悪化したのかと思い、急いで家に連れて戻ろうとするゆい。
ところが、ゆたかの肩に手をかけたその瞬間…
この寒さで体調が悪化したのかと思い、急いで家に連れて戻ろうとするゆい。
ところが、ゆたかの肩に手をかけたその瞬間…
「ゲホゴホ………ゴフッ…ガハッ…!」
「…!!!」
「…!!!」
何と、ゆたかが吐血した。
雪玉の上に広がる赤い液体。
ゆたかの口からは、少量ではあるが血が流れ続けていた。
雪玉の上に広がる赤い液体。
ゆたかの口からは、少量ではあるが血が流れ続けていた。
「ゆたか、ゆたか!?大丈夫、ゆたか!?」
「……ぉ…ねえ……ちゃ…………」
「……ぉ…ねえ……ちゃ…………」
力なくゆいを見上げるゆたか。
その目に力は宿っておらず、虚ろな状態になっていた。
ゆたかは何とかゆいに掴まろうと、雪玉に乗せていた手を動かすが…
その直後、ゆたかは雪玉の上に顔を突っ伏し動かなくなってしまった。
焦ったゆいは、必死に母であるゆきを呼んだ。
その目に力は宿っておらず、虚ろな状態になっていた。
ゆたかは何とかゆいに掴まろうと、雪玉に乗せていた手を動かすが…
その直後、ゆたかは雪玉の上に顔を突っ伏し動かなくなってしまった。
焦ったゆいは、必死に母であるゆきを呼んだ。
「お…お母さん早く来て!ゆたかが、ゆたかがああぁぁぁっ!」
「何、どうし……ゆ、ゆたか!?」
「何、どうし……ゆ、ゆたか!?」
今までに無かった異常事態。
これまでは眩暈や吐き気を起こしたり、風邪にすぐかかる程度で済んでいた。
だが、今回はこれまでのケースと全く違った。
急に吐血をし、そのまま動かなくなってしまうというのは初めてのケースだった。
これまでは眩暈や吐き気を起こしたり、風邪にすぐかかる程度で済んでいた。
だが、今回はこれまでのケースと全く違った。
急に吐血をし、そのまま動かなくなってしまうというのは初めてのケースだった。
「ゆたか、私がわかる!?ゆたか!?」
「……痛い………い…たい……よ………お……ね…ぇ……」
「……痛い………い…たい……よ………お……ね…ぇ……」
顔を突っ伏したまま痛いと連呼するゆたか。
吐血したという事は、消化器系か気管支系に何か異常が起こったのだろうか。
もしそうなら、すぐに病院で検査を受けなければいけないのだが…
運が悪いことに、この日は父親が用事でどこかに行っている為、家に車が無い。
ゆいはゆたかを担ぎ、急いで家の中へと入る。
母のゆきはすぐに救急車を呼び、ゆたかを上半身を起こした状態で安静にさせる。
吐血したという事は、消化器系か気管支系に何か異常が起こったのだろうか。
もしそうなら、すぐに病院で検査を受けなければいけないのだが…
運が悪いことに、この日は父親が用事でどこかに行っている為、家に車が無い。
ゆいはゆたかを担ぎ、急いで家の中へと入る。
母のゆきはすぐに救急車を呼び、ゆたかを上半身を起こした状態で安静にさせる。
「ゆたか、もう少しだけ我慢してね。
もう少ししたら、救急車が来るから…!」
「………ぃ…っ………」
もう少ししたら、救急車が来るから…!」
「………ぃ…っ………」
ゆたかは声を殆ど発しなくなってしまった。
そんな様子を見て、ゆいとゆきの二人は救急車が早く到着する事を祈る事しかできなかった。
…そして、電話をしてから五分後。
ようやく来た救急車によって、ゆたかは病院へと搬送されていった。
そんな様子を見て、ゆいとゆきの二人は救急車が早く到着する事を祈る事しかできなかった。
…そして、電話をしてから五分後。
ようやく来た救急車によって、ゆたかは病院へと搬送されていった。
◆
病院に搬送されたゆたかは、そのまま検査を受けることになった。
救急車に同乗してきたゆいとゆきであったが、二人共全く落ち着くことができなかった。
何せ、今回は今までに無い事態が起きてしまった。
ゆたかにどのような結果が出るのか、不安で仕方がなかったのだ。
検査が終わるまでの時間が、果てしなく長く感じる。
ゆたかの検査結果が出るまで、精神をじわじわと削られる厳しい時間が続いた。
…そしてしばらくした後、担当医が二人の前に現れた。
救急車に同乗してきたゆいとゆきであったが、二人共全く落ち着くことができなかった。
何せ、今回は今までに無い事態が起きてしまった。
ゆたかにどのような結果が出るのか、不安で仕方がなかったのだ。
検査が終わるまでの時間が、果てしなく長く感じる。
ゆたかの検査結果が出るまで、精神をじわじわと削られる厳しい時間が続いた。
…そしてしばらくした後、担当医が二人の前に現れた。
「お待たせしました、検査の結果が出ましたので報告します」
「それで…あの……ゆたかは、一体…?」
「はい、お子さんの症状ですが…」
「それで…あの……ゆたかは、一体…?」
「はい、お子さんの症状ですが…」
担当医から告げられた、ゆたかの症状。
それは、二人が予想していたものとは違うものだった。
それは、二人が予想していたものとは違うものだった。
「症状の様子からして喀血(かっけつ=呼吸器系の損傷から来る吐血)の可能性が非常に高いと踏んでいたのですが…
今回のケースは非常に珍しく、食道から喉にかけての部分に傷が入っていました。
通常で考えれば、こんな位置に傷が入る事はまず無い筈なんですけどね…
恐らく何らかの原因で口内に異物が入り、喉の奥で筋肉を切ってしまったんでしょう」
今回のケースは非常に珍しく、食道から喉にかけての部分に傷が入っていました。
通常で考えれば、こんな位置に傷が入る事はまず無い筈なんですけどね…
恐らく何らかの原因で口内に異物が入り、喉の奥で筋肉を切ってしまったんでしょう」
呼吸器系の損傷が原因で起きる喀血の場合、完全治癒の為には傷を埋める為の手術が必要となる。
だが、今回のゆたかの場合はそれとは違うものだった。
考えられる最悪の事態ではないとわかり、一旦二人は胸を撫で下ろす。
しかしその後、担当医が思いがけない言葉を発した。
だが、今回のゆたかの場合はそれとは違うものだった。
考えられる最悪の事態ではないとわかり、一旦二人は胸を撫で下ろす。
しかしその後、担当医が思いがけない言葉を発した。
「それともう一つなんですが…お子さんの声帯に、傷が入っている事が確認されました」
「…声帯…ですか?」
「…声帯…ですか?」
これはゆいとゆきにとって、全く予想していない事だった。
声帯といえば、声を出す為に必要な器官。
もしかしたら声にも障害が出てしまうのではないだろうか…そんな不安が二人の頭をよぎった。
担当医は、更に話を続けていく。
声帯といえば、声を出す為に必要な器官。
もしかしたら声にも障害が出てしまうのではないだろうか…そんな不安が二人の頭をよぎった。
担当医は、更に話を続けていく。
「傷といっても非常に小さいものですので、大声を出したりしなければ自然に治るものです。
その事にだけ気をつけていれば特に問題はありませんので、御心配なさらなくても大丈夫です。
今回は食道付近の傷を治す為の処置を行いますので、治療が終わって一~二週間したら退院できますよ」
「あ、やはり入院は必要なんですね…わかりました、お任せいたします」
その事にだけ気をつけていれば特に問題はありませんので、御心配なさらなくても大丈夫です。
今回は食道付近の傷を治す為の処置を行いますので、治療が終わって一~二週間したら退院できますよ」
「あ、やはり入院は必要なんですね…わかりました、お任せいたします」
しかし、その心配はすぐに氷解した。
声を出す事に全く問題が無いとすれば、後の心配は食道付近の傷だけ。
とはいえ、食道付近と声帯に『同時に』傷がついた事に少し心配した二人だったが、今は病院での治療を待つしかない。
その後すぐにゆたかは治療室へと運ばれていき、医者も治療室へと入っていった。
その間にゆきは入院の手続きをし、一旦家へと戻ってゆたかの着替え等を用意する事にした。
声を出す事に全く問題が無いとすれば、後の心配は食道付近の傷だけ。
とはいえ、食道付近と声帯に『同時に』傷がついた事に少し心配した二人だったが、今は病院での治療を待つしかない。
その後すぐにゆたかは治療室へと運ばれていき、医者も治療室へと入っていった。
その間にゆきは入院の手続きをし、一旦家へと戻ってゆたかの着替え等を用意する事にした。
バスで家に戻り、早速必要な物を袋に詰め込む二人。
ゆたかの寝巻きや普段着、お風呂用のタオル…
そして、入院していても退屈しないように雑誌や単行本等を数冊ほど袋の中へと入れる。
そんな作業をしている最中、ゆいがふと言葉を漏らした。
ゆたかの寝巻きや普段着、お風呂用のタオル…
そして、入院していても退屈しないように雑誌や単行本等を数冊ほど袋の中へと入れる。
そんな作業をしている最中、ゆいがふと言葉を漏らした。
「…ゆたか、血を吐いたときは驚いたけど…何とか無事に治りそうで良かった…」
その言葉からは、ゆたかの事を本気で心配している事が伝わってくる。
少しの安心と不安の色が入り混じった表情のゆいを見て、ゆきが言葉をかけた。
少しの安心と不安の色が入り混じった表情のゆいを見て、ゆきが言葉をかけた。
「もちろんよ、ゆたかは体が弱いけど『芯』はとても強いから…
明日には元気な姿をちゃんと見せてくれるわよ」
「…うん、そうかもね」
「いつものゆいらしくないわね、こういう時こそあなたが元気を出さなくてどうするのよ。
そんな調子じゃ、ゆたかの所へ行っても場を暗くしちゃうだけよ?」
「…うん…そうだね、いつも通りの私でいかないと。
ゆたかの気持ちを無理矢理上げちゃうくらいの勢いでいかないとね!」
「ふふ、その調子よ」
明日には元気な姿をちゃんと見せてくれるわよ」
「…うん、そうかもね」
「いつものゆいらしくないわね、こういう時こそあなたが元気を出さなくてどうするのよ。
そんな調子じゃ、ゆたかの所へ行っても場を暗くしちゃうだけよ?」
「…うん…そうだね、いつも通りの私でいかないと。
ゆたかの気持ちを無理矢理上げちゃうくらいの勢いでいかないとね!」
「ふふ、その調子よ」
普段元気印のゆいが、このような状態になるのは珍しかった。
やはり、ゆたかの事でショックが大きかったのだろう。
逆に言えば、それだけゆいはゆたかを大事に思っているのだ。
常に一緒に行動していた二人の事を考えれば当然の事かもしれない。
やはり、ゆたかの事でショックが大きかったのだろう。
逆に言えば、それだけゆいはゆたかを大事に思っているのだ。
常に一緒に行動していた二人の事を考えれば当然の事かもしれない。
一通りの支度を終えて、再び病院へと戻る二人。
だが、そこで二人は信じたくない現実を目の当たりにする事となる…
だが、そこで二人は信じたくない現実を目の当たりにする事となる…
◆
病院に戻った二人は、ゆたかが入っている病室へと入った。
そこにはゆたかの他に担当医、そして看護士が二人待っていた。
ゆたかは目を閉じたままベッドに横たわっており、安定した様子を見せている。
しかし、それを見つめる担当医の表情はどこか暗いものだった。
そこにはゆたかの他に担当医、そして看護士が二人待っていた。
ゆたかは目を閉じたままベッドに横たわっており、安定した様子を見せている。
しかし、それを見つめる担当医の表情はどこか暗いものだった。
(…あれ?お医者さん、何だか妙な表情をしているけど…どうしたんだろう?)
何かあったのだろうか…得体の知れない不安感が、ゆい達を包む。
その直後、ゆたかの横に立っている担当医がゆっくりと口を開いた。
その直後、ゆたかの横に立っている担当医がゆっくりと口を開いた。
「食道付近の傷は塞がりました。こちらは経過観察をして、特に問題が無ければ大丈夫です。
…ですが、一つ予想外な事が起きてしまいまして…」
「予想外…何ですか、それは…?
まさか、ゆたかの体に何か別の症状が…?」
…ですが、一つ予想外な事が起きてしまいまして…」
「予想外…何ですか、それは…?
まさか、ゆたかの体に何か別の症状が…?」
焦りの表情を隠せない、ゆきとゆいの二人。
そんな二人を見ながら、担当医は気まずそうにゆっくりと言葉を発した。
そんな二人を見ながら、担当医は気まずそうにゆっくりと言葉を発した。
「…お子さんの声が全く出なくなってしまったんですよ…」
「…えっ!?」
「…えっ!?」
それは、全く予想さえしていなかった症状。
最初の説明の時、声帯の傷は問題の無い傷だと言われた。
しかし、現実には発声をする事が不可能になってしまったという。
この担当医の言葉は、二人に大きなショックを与えた。
担当医はそのまま説明を続けていく。
最初の説明の時、声帯の傷は問題の無い傷だと言われた。
しかし、現実には発声をする事が不可能になってしまったという。
この担当医の言葉は、二人に大きなショックを与えた。
担当医はそのまま説明を続けていく。
「先程も言いましたが声帯の傷は非常に微小なもので、発声するだけなら全く問題は無いんです。
ですので、声が出せないという事はありえない筈なのですが…
現実的に全く声が出ないので、これは声帯の問題ではなく精神面の問題の可能性が高いです」
「精神面の問題…ですか?」
ですので、声が出せないという事はありえない筈なのですが…
現実的に全く声が出ないので、これは声帯の問題ではなく精神面の問題の可能性が高いです」
「精神面の問題…ですか?」
精神というものは不思議なもので、心だけでなく身体への影響も大きい。
例えば普通なら何でもない事なのに、『それは出来ない』と強く思い込んでしまうと本当に出来なくなる場合がある。
これは、精神が身体能力に影響を及ぼした例の一つといえる。
今回のゆたかのケースは、精神面に来たショックから発声機能が失われてしまった可能性が高いというのだ。
これは思い込みとは別のケースであり、心のショックから身体へと影響が移ってしまった状態である。
どちらの場合でも精神面からの症状というのは、ふとしたきっかけで一気に治ってしまう事もあるが…
殆どの場合、それらの症状を長期的に引きずってしまう。
例えば普通なら何でもない事なのに、『それは出来ない』と強く思い込んでしまうと本当に出来なくなる場合がある。
これは、精神が身体能力に影響を及ぼした例の一つといえる。
今回のゆたかのケースは、精神面に来たショックから発声機能が失われてしまった可能性が高いというのだ。
これは思い込みとは別のケースであり、心のショックから身体へと影響が移ってしまった状態である。
どちらの場合でも精神面からの症状というのは、ふとしたきっかけで一気に治ってしまう事もあるが…
殆どの場合、それらの症状を長期的に引きずってしまう。
「声を出す器官に異常が見られない以上、まず精神面の問題と見て間違いないでしょう。
多分、吐血と痛みのショックから無意識的に起きてしまった症状だと思いますが…
あまりこの状態が長く続く場合、『こころのリハビリ』が必要になりますね。
その場合は精神科医のケアも必要になりますので、これについてもご了承願えますでしょうか」
「…はい、わかりました。どうかよろしくお願い致します」
「ただし、本当に大切なのはご家族からの心のケアです。
私達も最善を尽くしますが、心への一番の薬は『家族の心の暖かさ』ですからね。
是非ともお子さんとしっかりしたコミュニケーションをとってあげてください」
「はい…」
多分、吐血と痛みのショックから無意識的に起きてしまった症状だと思いますが…
あまりこの状態が長く続く場合、『こころのリハビリ』が必要になりますね。
その場合は精神科医のケアも必要になりますので、これについてもご了承願えますでしょうか」
「…はい、わかりました。どうかよろしくお願い致します」
「ただし、本当に大切なのはご家族からの心のケアです。
私達も最善を尽くしますが、心への一番の薬は『家族の心の暖かさ』ですからね。
是非ともお子さんとしっかりしたコミュニケーションをとってあげてください」
「はい…」
傷の治療等の負担からか、ぐっすりと眠っているゆたか。
そんなゆたかを見て、ゆいは一つの決心をした。
またゆたかとお喋りをしたい、ゆたかの声を聞きたい…
その為に、『自分がゆたかにしてやれること』を精一杯するという事。
大事な妹の為に手助けをしたい、そんな思いでゆいの心は一杯になっていた。
そんなゆたかを見て、ゆいは一つの決心をした。
またゆたかとお喋りをしたい、ゆたかの声を聞きたい…
その為に、『自分がゆたかにしてやれること』を精一杯するという事。
大事な妹の為に手助けをしたい、そんな思いでゆいの心は一杯になっていた。
◆
次の日、ゆいはゆたかの病室へと駆けつけた。
ゆいの心には少しの不安が渦巻いていたが、それを悟られないよう普段通りのテンションで病室へと入った。
ゆいの心には少しの不安が渦巻いていたが、それを悟られないよう普段通りのテンションで病室へと入った。
「やっほーゆたか、来たよー!」
「………」
「………」
返事は当然返ってこない。
だがそこには、いつも通りの優しい笑顔をしたゆたかがいた。
その表情から、ゆいの心が安堵で満たされる。
しかし、ゆたか本人は何とかして声を出そうと口を動かし続けていた。
その様子を見て、たまらずゆいは声をかけた。
だがそこには、いつも通りの優しい笑顔をしたゆたかがいた。
その表情から、ゆいの心が安堵で満たされる。
しかし、ゆたか本人は何とかして声を出そうと口を動かし続けていた。
その様子を見て、たまらずゆいは声をかけた。
「無理しないでゆたか、ノートと鉛筆を持ってきたから…これに書いて教えて」
こくりと頷いたゆたかは、ゆいからノートと筆記用具を受け取り、文字を書き始めた。
ゆっくりと、しかし丁寧に字を書いていくゆたか。
その様子は普段と全く変わらない、いつも通りの姿だった。
字を書き終えたゆたかは、ゆいに向かってノートを見せる。
ゆっくりと、しかし丁寧に字を書いていくゆたか。
その様子は普段と全く変わらない、いつも通りの姿だった。
字を書き終えたゆたかは、ゆいに向かってノートを見せる。
『お姉ちゃん、来てくれてありがとう。
こんなことになっちゃったけど、ぜったいになおってみせるから、まっててね』
こんなことになっちゃったけど、ぜったいになおってみせるから、まっててね』
そこには、不安や悲しさの表現は全く書かれていなかった。
いきなり声が出なくなってしまったとなれば、大多数の人は不安に襲われるだろう。
しかし、ゆたかは違った。
その『言葉』からも、表情からも悲しみや不安の色は出ていなかった。
ゆたかの性格は熟知していたつもりのゆいだったが、ここに来てゆたかの新たな『強さ』を認識した。
いきなり声が出なくなってしまったとなれば、大多数の人は不安に襲われるだろう。
しかし、ゆたかは違った。
その『言葉』からも、表情からも悲しみや不安の色は出ていなかった。
ゆたかの性格は熟知していたつもりのゆいだったが、ここに来てゆたかの新たな『強さ』を認識した。
「おお、そんな力強い言葉が返ってくるとは思わなかったよー
この分なら、本当にすぐ治っちゃいそうだね!」
この分なら、本当にすぐ治っちゃいそうだね!」
思った以上に覇気のあるゆたかを見て安心したゆい。
しかし、その姿を見てもう一つの疑問が浮かんできた。
それは『何故精神的障害から声が出なくなってしまったのか』という事だった。
見た感じ、そして話した感じでは『こころ』に異常は見られない。
ならば一体どの出来事から、発声を抑制する心理的原因が出来てしまったのだろうか?
しかし、その姿を見てもう一つの疑問が浮かんできた。
それは『何故精神的障害から声が出なくなってしまったのか』という事だった。
見た感じ、そして話した感じでは『こころ』に異常は見られない。
ならば一体どの出来事から、発声を抑制する心理的原因が出来てしまったのだろうか?
だが、それを今のゆたかに問い質す事は早すぎるかもしれない。
そんな事を考えながら、ゆいはゆたかの傍で雑談をし続けた。
…今はゆたかと少しでもコミュニケーションを取りたい。
その気持ちが、今のゆいの心の中を大きく占めていた。
そんな事を考えながら、ゆいはゆたかの傍で雑談をし続けた。
…今はゆたかと少しでもコミュニケーションを取りたい。
その気持ちが、今のゆいの心の中を大きく占めていた。
◆
それからというもの、ゆいはほぼ毎日ゆたかの元へと通い続けた。
今までとは筆談という違いがあるものの、コミュニケーションは全く問題が無かった。
いつものように生活の中で面白かった話や、趣味の話題。
声での伝達が出来ない事などまるで関係ないかの様に、二人は楽しく話し続けていた。
食道の傷の経過も順調で、このままなら近日中に間違い無く退院できると主治医からも言われた。
…しかし、ゆたかの声は一向に治らないままだった。
ゆいから見たゆたかは、入院前と全く変わっていないように見えている。
だが『声が出なくなった原因』は必ずあり、それはゆたかの中に確実にある。
あれからそろそろ一週間の時が経つ。
ゆいはゆたかに一つの質問をする事にした。
今までとは筆談という違いがあるものの、コミュニケーションは全く問題が無かった。
いつものように生活の中で面白かった話や、趣味の話題。
声での伝達が出来ない事などまるで関係ないかの様に、二人は楽しく話し続けていた。
食道の傷の経過も順調で、このままなら近日中に間違い無く退院できると主治医からも言われた。
…しかし、ゆたかの声は一向に治らないままだった。
ゆいから見たゆたかは、入院前と全く変わっていないように見えている。
だが『声が出なくなった原因』は必ずあり、それはゆたかの中に確実にある。
あれからそろそろ一週間の時が経つ。
ゆいはゆたかに一つの質問をする事にした。
「ねえゆたか、一つ聞きたいことがあるんだけど…
声が出なくなった原因に、何か心当たりは無いの?」
声が出なくなった原因に、何か心当たりは無いの?」
そのゆいの言葉に、全く反応しないゆたか。
しかし、ゆいは続けてゆたかに言葉を投げかける。
しかし、ゆいは続けてゆたかに言葉を投げかける。
「ゆたかの声が出ないのは、精神的な…あ、心の問題が絡んでいるってお医者さんが言ってたんだ。
もしかしたら、あの時までに何か辛い事でもあったんじゃないかと思って…
もしそういう事があるんだったら、お姉ちゃんに教えてくれないかな?
何でも相談に乗るよ?」
もしかしたら、あの時までに何か辛い事でもあったんじゃないかと思って…
もしそういう事があるんだったら、お姉ちゃんに教えてくれないかな?
何でも相談に乗るよ?」
ゆいが言葉を言い切ったとき、ゆたかの目に涙が浮かびはじめた。
急な表情の変化に驚いたゆいだが、驚く暇も無くゆたかはゆいの胸元へと顔をうずめた。
呼吸の音だけの嗚咽。
ここまで泣きじゃくるゆたかを久しぶりに見たゆいは、多少戸惑いながらもゆたかをなだめた。
ゆたかはそのまま数分間泣き続け、その後震える手でノートに文字を書き始めた。
少し長い文を書いた後、ゆたかはゆいにノートを渡す。
そこには、ゆいの予想の範囲外だった言葉が書き綴られていた。
急な表情の変化に驚いたゆいだが、驚く暇も無くゆたかはゆいの胸元へと顔をうずめた。
呼吸の音だけの嗚咽。
ここまで泣きじゃくるゆたかを久しぶりに見たゆいは、多少戸惑いながらもゆたかをなだめた。
ゆたかはそのまま数分間泣き続け、その後震える手でノートに文字を書き始めた。
少し長い文を書いた後、ゆたかはゆいにノートを渡す。
そこには、ゆいの予想の範囲外だった言葉が書き綴られていた。
『ちがうの、お姉ちゃん。
学校やお家でつらいことは何もないんだけど…
じつは声を出そうとしても、なんだかこわくなっちゃって声を出せないの』
学校やお家でつらいことは何もないんだけど…
じつは声を出そうとしても、なんだかこわくなっちゃって声を出せないの』
声を出そうとすると怖さを感じてしまう…
それは、ゆいが全く予想さえしていなかった内容だった。
驚きつつも、そのまま更に文を読み進めていくゆい。
そこには今まで他人…そして親にさえに話せなかった、ゆたかの複雑な心中が綴られていた。
それは、ゆいが全く予想さえしていなかった内容だった。
驚きつつも、そのまま更に文を読み進めていくゆい。
そこには今まで他人…そして親にさえに話せなかった、ゆたかの複雑な心中が綴られていた。
『さいしょにここで気がついたとき、おいしゃさんに話しかけられたんだけど、
へんじをしようとしたら、きゅうに雪あそびしていた時のことが頭にうかんできて…
口からたくさん、ちが出てきたことで頭がいっぱいになっちゃって。
そしたら、声を出すのがとてもこわいことみたいにかんじちゃって、声がどうしても出せないの。
でも、なんでこんなにこわくなるのか、自分でもよくわからないの』
へんじをしようとしたら、きゅうに雪あそびしていた時のことが頭にうかんできて…
口からたくさん、ちが出てきたことで頭がいっぱいになっちゃって。
そしたら、声を出すのがとてもこわいことみたいにかんじちゃって、声がどうしても出せないの。
でも、なんでこんなにこわくなるのか、自分でもよくわからないの』
どうやらゆたかは声を出そうとすると、一週間前の雪遊びで倒れた時の事を思い出してしまうらしい。
自分の吐血によって目の前の雪玉が赤く染まっていく光景は、まだ精神的に未熟なゆたかにはショックだった筈。
それが声を出すことへの恐怖へと繋がっている…とゆたかは言っているのだった。
しかし、これを読んだゆいの頭に一つの疑問が残った。
確かに自分自身が吐血し、目の前に血の跡が広く残っていくのを見たことは大きなショックだろう。
だが、何故それが声が出せない事…発声が恐怖になる事と繋がってしまったのだろうか。
ゆいは、当日の事を思い返しながら考えてみた。
自分の吐血によって目の前の雪玉が赤く染まっていく光景は、まだ精神的に未熟なゆたかにはショックだった筈。
それが声を出すことへの恐怖へと繋がっている…とゆたかは言っているのだった。
しかし、これを読んだゆいの頭に一つの疑問が残った。
確かに自分自身が吐血し、目の前に血の跡が広く残っていくのを見たことは大きなショックだろう。
だが、何故それが声が出せない事…発声が恐怖になる事と繋がってしまったのだろうか。
ゆいは、当日の事を思い返しながら考えてみた。
(あの時、ゆたかは私と一緒に雪だるまを作っていて…頭の部分が出来上がる寸前で倒れちゃったんだよね。
その時ゆたかは、どういう状態だったっけ…?
庭をぐるっと一周して、こっちに戻ってきたところで…倒れ…)
その時ゆたかは、どういう状態だったっけ…?
庭をぐるっと一周して、こっちに戻ってきたところで…倒れ…)
その時、ゆいはある事を思い出した。
あの時ゆたかは、久しぶりの大雪で大はしゃぎをしていた。
一緒に遊び始めたゆたかは、いつも以上の元気さで雪遊びを楽しんでいた。
その遊んでいる最中、そして雪玉を転がしている時…ある共通する事をゆたかはしていた。
それは…
あの時ゆたかは、久しぶりの大雪で大はしゃぎをしていた。
一緒に遊び始めたゆたかは、いつも以上の元気さで雪遊びを楽しんでいた。
その遊んでいる最中、そして雪玉を転がしている時…ある共通する事をゆたかはしていた。
それは…
(…そうだ、あの時ゆたかはずっと歌いながら遊んでいたんだった…)
更にゆいは、倒れた時の出来事を克明に思い出していく。
ゆたかは歌いながら遊んでいたが、突如激しく咳き込んで吐血し倒れた。
そしてその時、喉の部分を押さえながら『痛い』と訴え続けていたのだった。
この事から考えたゆいは、一つの仮定を立てた。
ゆたかは歌いながら遊んでいたが、突如激しく咳き込んで吐血し倒れた。
そしてその時、喉の部分を押さえながら『痛い』と訴え続けていたのだった。
この事から考えたゆいは、一つの仮定を立てた。
(もしかして、大きな声で歌っている時に喉の奥が切れちゃったから…
無意識に『大声を出したから喉が壊れた』って頭に刷り込んじゃったんじゃ…?)
無意識に『大声を出したから喉が壊れた』って頭に刷り込んじゃったんじゃ…?)
ゆいの考えは、そう大きく外れてはいなかった。
今回のゆたかの場合は出血箇所が喉であり、しかも出血したタイミングが悪すぎた。
それに加えて、喉の強い痛みから来る発声困難状態が追い討ちをかけてしまった。
これらの精神的ダメージは瞬間的にゆたかの心に大きなショックとして刷り込まれ、無意識に『発声』を押さえ込んでしまったのだ。
些細なきっかけでも、時としてそれは大きなダメージへと繋がる事が多々ある。
様々な偶然が重なり合い、結果としてゆたかは精神に深い傷を刻み込まれてしまったのだ。
今回のゆたかの場合は出血箇所が喉であり、しかも出血したタイミングが悪すぎた。
それに加えて、喉の強い痛みから来る発声困難状態が追い討ちをかけてしまった。
これらの精神的ダメージは瞬間的にゆたかの心に大きなショックとして刷り込まれ、無意識に『発声』を押さえ込んでしまったのだ。
些細なきっかけでも、時としてそれは大きなダメージへと繋がる事が多々ある。
様々な偶然が重なり合い、結果としてゆたかは精神に深い傷を刻み込まれてしまったのだ。
(でも…どうすればいいんだろう?
心の傷なんて、そう簡単に治せるものじゃないし…それに、もしも…)
心の傷なんて、そう簡単に治せるものじゃないし…それに、もしも…)
もし治し方を誤ったら、ゆたかは一生このままかも…という考えがゆいの脳裏に一瞬浮かんだ。
だがそれは、最も考えたくない最悪の事態。
ゆいはすぐに頭からその考えを振り払い、一つの事だけを見据えた。
何としても心を治し、ゆたかの声を取り戻す…ただそれだけを。
だがそれは、最も考えたくない最悪の事態。
ゆいはすぐに頭からその考えを振り払い、一つの事だけを見据えた。
何としても心を治し、ゆたかの声を取り戻す…ただそれだけを。
(私に出来る事がどれだけのものなのか、それはわからないけど…
絶対にゆたかの心を治したい。
またいつもみたいに、ゆたかと楽しく…話したい)
絶対にゆたかの心を治したい。
またいつもみたいに、ゆたかと楽しく…話したい)
ゆいはゆたかの手を取り、優しく言葉をかけた。
いつものような楽しい明るい顔ではなく、『ゆたかの姉』としての優しい笑顔で。
いつものような楽しい明るい顔ではなく、『ゆたかの姉』としての優しい笑顔で。
「ゆたか、ゆっくり治していこうよ。
ゆたかの心は『とても強い』んだから、こんな心の傷は絶対治せるよ。
でもまだ傷口が大きい状態だから、ゆっくり時間をかけないとね。
お姉ちゃんも協力するから…一緒に治していこう」
ゆたかの心は『とても強い』んだから、こんな心の傷は絶対治せるよ。
でもまだ傷口が大きい状態だから、ゆっくり時間をかけないとね。
お姉ちゃんも協力するから…一緒に治していこう」
真剣な眼差しを受けたゆたかは、その言葉にゆっくりと頷く。
街中では、一週間前の雪が溶けきろうとしていた。
だが、ゆたかの心には『固まってしまった雪』がまだ残っている。
ゆたかの中にある『重く赤い雪』は、いつ溶けるのだろうか。
小学三年生を目前に控えた、ゆたかの一月が終わろうとしていた。
街中では、一週間前の雪が溶けきろうとしていた。
だが、ゆたかの心には『固まってしまった雪』がまだ残っている。
ゆたかの中にある『重く赤い雪』は、いつ溶けるのだろうか。
小学三年生を目前に控えた、ゆたかの一月が終わろうとしていた。
雪の日に響く歌(2)に続く
コメントフォーム
- この作者さんの才能は、底知れない。
読む作品のすべてが、とても面白い
しハズレがひとつも無いです。 -- チャムチロ (2012-08-29 22:40:10) - この作品はもっと評価されてもいい!
アニメで雪解けの花やってたら、この二人での人気もっと出ただろうな。 -- 名無しさん (2010-04-13 00:42:09)