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二輪の花

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だれでも歓迎! 編集
 もう何度目だろうと全身に感じる快楽の刺激に服しながら思う。
 こうした陰鬱な生活。狂ってしまった生活。日常の小さな綻びから、傷口は修復できようのないまでに広がってしまった。
「どうして…そんな顔をするんですか?」
 少女は私を心配そうに、なによりも誇らしげにみつめて来る。その手にはバイブレーターやら、ローター、性感を高めるローションが握られている。
 堕天使のように、少女は残酷に微笑む。
「…あんたには、わからないでしょうよ」
 私は強い拒絶をする。
 少女は残念そうに小さな体躯を屈する。
「まあ、いつかは振り向きますよ」
 そんなことは決してない。あるはずがない。どんなに篭絡されようと、心までは奪えまい。どんなに体を弄ばれても、私の気持ちまでは奪えまい。何をされようと、何を尽くされようと彼女に私がなびくことはない。
 少女は私のぐちょぐちょとなった秘所に執拗にバイブレーターをあてがる。これえきれず私は喘ぎ声を発する。
 でも、気持ちよくなんて決してない。そんなことを思いながら、私は絶頂を感じさせられた。


「かがみ…気分悪いの?」
 泉こなたは、柊かがみの親友である。
 太陽がさんさんと照りつける9月12日。
 登校時につかさが一緒にいない理由を聞いたら「今日は風邪」とそっけなくいわれて、その雰囲気には人を寄せ付けないものがあった。
 その話題には極力触れずにかがみと会話をしようとつとめたのが、肝心のかがみが何を話すにも上の空で、五分もたたないうちにこなたは諦めて黙ってしまった。
 だから学校に着いたときはとても嬉しかったし、教室でみゆきにあった時はとても安心した。
 お昼休みになってもかがみの行動が変わらないので、こなたは思い切って聞いてみた。
「別に…そんなんじゃないけど」
 こなたは「ツンデレモード?」という言葉が口元まででかかっていたが、そうした空気でないことも理解していたので、心の奥に引っ込めた。
 かがみはそれ以上の言葉を返さない。仕方なく近くにいたみゆきに話しかける。
「みゆきさんはー、あの事件って知ってる?」
「あの事件…とは」
「えっと…桶川市だっけな? 監禁殺人事件」
 その言葉にかがみの耳がぴくっと反応したことにこなたは気づかない。
「ああ、テレビでもよく話題になっていましたね」
「そう、それ」
 みゆきは今朝の新聞でも読みました、といい、思い出すように付け加えた。
「確か十代の女の子が暴行された上で遺体となって発見されたんでしたっけ。 ……酷い事件でしたよね」
 そうだね、とこなたは呟きながら憂鬱そうに、
 「それでさ、その男がエロゲーやっててさあ。これでまたギャルゲーエロゲーアニメの風あたりが強くなると思うと、ねえ…」
「確かに昨今のメディアの報道には疑問点がありますね」
「みゆきさんもそう思う?」
「そうですね。私は検証していませんのでゲームやアニメがそうした凶悪犯罪をどの程度誘発しているかについては論じられませんが、どうにも作為的なものを感じてなりません」
「どういう意味?」

 みゆきは内ぽけっとから携帯電話を取り出す。
 ボタンを押して、メニュー画面を呼び出す。そこからデータフォルダを取り出し「資料」とかかれたフォルダをクリックした。
「例えば、最近話題になっている児童ポルノ禁止法の改正案です。
 知っていましたか? あれって世論では賛成が反対を上回っているんですよ」
 こなたは愕然と肩と落とす。るーとため息。
「あれかあ……私も某掲示板とかmixiiで見たけど、通ったらオタクの私涙目だよね
――でも賛成の方が多いんだね。私がみたかぎりだと自○党市ね!的な発言が多かったんだけど」
 ほんと勘弁してほしいよと呻きながら。
 みゆきはあはは……そうですねと相槌を打ち、
「この調査の方法が問題なんです。あれは個別の面接で聞いた結果だそうです。国家機関を名乗る人によったもので、それが個別面接方式であれば当然政府よりの回答になるんでしょうね」
 こなたは関心しながら「みゆきさんは反対?」と聞いてみた。もちろん私は反対だけどね! と鼻を鳴らす。それはもう鼻を荒くして高らかに宣言する。われわれは自由だ!
「規制そのものは賛成ですが、改善すべきところも多い…でしょうか」
「さすがみゆきさんは優等生だね」
 いえいえそんな、と謙遜する。顔を赤らめる。
 昼休みのひと時である。

「…その犯人って、捕まったの」
 かがみが俯いていた顔を上げてこなたの方に向けた。
 こなたは驚いて振り向く。かがみは笑いもせず真剣な顔でこなたを見た。
「…かがみ、この事件知らないの?」
 新聞の一面に出るような事件だ。普段から新聞を読んでいるかがみが知らないなんて、いくらなんでも不自然すぎる。本当に今日のかがみは魔にでも囚われたのではないのか。
「…別に私だって、知らないことはあるでしょ」
「ま、まあ…確かに」
 思わぬ失言に口をつぐむ。
「うんとね…一応、まだ捕まっていない、と思う。そうだよね、みゆきさん?」
「ええ、そうですね。桶川市は県北ですから距離はあるとはいえ、気をつけたほうがいいかもしませんね」
「桶川市ってどこ?」
「大宮市から20分ほどです。私の住んでいる東京都からも、泉さん達の場所からも距離はありますが、用心に越したことはないかと。最近なにかとぶっそうですし…」
 そうしてみゆきは数日前に話題になった障害未遂事件を挙げた。
 まあ私はいざとなったら格闘技で地獄送りだけどね! とファイティングポーズを決めてシュッシュッと風切り音をさせた。
「――でもゆーちゃんは心配だね。あの子気が弱いし、体も弱いし」
「あれ? 泉さんと小早川さんと同居していたと思いますが」
 ああ、うん、とこなたは言いにくいように淀み、んー、とか、えっと、とか場繋ぎ。
「ゆい姉さんがいろいろあって学校の近くのアパート借りたんだよ。もちろん一時的なんだけどね。それでまあゆい姉さんには残念だけど、きい兄さんは今も単身赴任中だからさ。
 今だけゆーちゃん、ゆい姉さんと一緒なんだよ。なんだかんだいってもゆーちゃんも姉さんと一緒にいたいだろうし」
「みなみさんからも、聞いていませんでした」
「そうなんだ」
 かがみはそのこなたを虚ろな目をして見つめていた。その瞳に光はない。
「まあ、気をつけるにこしたことはない…わね」
「かがみ…?」
 誰に向けた言葉なのか、かがみはぎりぎり聞き取れるような声でささやいた。


 五時間目は黒井の授業だ。かがみは予鈴がなるとすぐに「じゃあ私は、次移動教室だから」と立ち上がり、そのままでていこうとする。こなたが「ちょ、まってよ!」と叫ぶと後ろを振り向かずに留まった。
つかさ…元気してる?」
 えっと、そのと言葉を詰まらせる。特に理由もなく、冷たいかがみが心配で引き止めただけ。
 結局朝聞いた言葉を繰り返す。引き止めた以上は何か言葉を発しなければならない。
 かがみは扉の前に立ち尽くし固まる。
 それから搾り出すように声を落として、
「大丈夫……ただの風邪だから」
 抑揚のない、無機質な言葉が響く。他にかける言葉が見つからない。
 「そっか…じゃあまた後でね」
 それには答えずにかがみは教室の扉を閉めた。

 がたんっ。
 勢いよく閉めた扉が大音量を立てる。力を入れすぎたのか扉は跳ね返り、ほとんど全開状態にまでだらしなく開きっぱなしだ。その轟音に驚いて、一瞬静まり返った。
 かがみは狼狽などせずに歩き出した。クラスはもういつもの賑やかな喧騒になりつつあった。
(へんですね。かがみさんの授業は生物じゃ――)
 みゆきは去り行くかがみを目で追った。
 一応かがみのクラスの時間割も頭に入っているみゆきは首をかしげる。
(――実験、なのかもしれないですね)
 こなたにそのことを言わずに頭の中にしまっておいた。
 きっとそれで合っている。嘘を付く必要なんてないはずだから。

 それから数分後、あわただしく黒井が現れる。ぜいぜいとせわしなく喘ぎ呼吸を整えようと深呼吸をする。
「ああ~すまんっ! 遅れた!」
「先生が遅刻するなんて威厳にかかる問題なんじゃ…」
「うるさい泉! うちだって忙しいんやで!」
「それとこれとは違うと思いますよ」
「ほほー…世界史の評定はいらないと」
「ちょっ! それ職権乱用ですよ!」

 いつもの風景。見慣れた光景。
 こなたは黒井と軽口をたたく。それに付随する哄笑。当たり前の光景だ。
「まあ、とっととはじめるぞ~今日は210ページ、フランス革命からナポレオンまでや。
 …この革命は自分らも知っている通りの有名な革命やが、1789年から1795年の六年が一番重要やから覚えておくよーに!」
 黒井の説明をBGMにしながらこなたはノートと教科書を広げたまま机に伏してぼんやりとする。ふとかがみの行動が脳内でリピートされた。
「今日は『あの日』なのかな…かがみんも乙女だからね。別に隠さなくてもいいのに~」
 そりゃあ、いらいらするのもわかるけど、とばっちりはやめてほしい。
 ごつん。鈍い音、頭部に感じずきずきとした痛み。こなたは頭を抑えながら顔を上げる。
「先生痛い…」
「次はコークスクリューをお見舞いするで?」
「せめて金龍飛にしてください」
 こなたは瞳に涙を浮かべながら抗議をするがもちろん無駄。「いつかは教育委員会に訴えられるんじゃないか」と憤然としながらこなたはヒリヒリする頭を数度擦って右手にペンを持ち、長々と黒板に書かれた用語を板書した。
 こなたは両利きだ。とはいえ右と左ではどうしても筆圧に差が出るので右利きが思うような「疲れたら左手」はあまりない。

 校内中に定番の鐘音。今日はこれまでや、と歯切れのいい黒井の言葉を合図に学級委員のみゆきが号令をかけ、休み時間になる。
「疲れた~ みゆきさん巨乳戦隊みかれんじゃーをやってよ」
「そ、それはどういう意味ですか? ……あと一時間ですよ、泉さん。頑張りましょう」

――当たり前や平凡。
 脆弱すぎてすぐに弾け、泡のように消え去る。
 失って初めて気づいた時には、もう戻れない。










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  • 桶川というとあの事件のせいか、凶悪事件の舞台としてはうってつけかもしれない。
    東京から見るとかなり北のイメージか。 -- 名無しさん (2008-05-13 00:30:01)

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