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よにもしあわせな、ブルーデイ

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だれでも歓迎! 編集
 こなたです。気分悪いです。第一部完。泉こなた先生の次回作にご期待下さい。


 え? 真面目にやれ?
 しょうがないじゃん、朝からめがっさブルーなんだから……。


 朝っぱらから気分が悪い。しかもなんだか血が足りない。おなかもどうも張ってるし、大事なとこから血が出てる。
 うん。どう見ても女の子の日です。本当にありがとうございました。
 慣れないんだよね、これ。慣れないし好きになれない。あー。どーしてこんなもんがあるんだろう。

 今きっと私、すっごいブスな顔してると思う。
 世界卓球で時間変更と延長のダブルパンチ食らった時だってこんなにブルーじゃなかったってくらい、全力全開でブルーだもの。
 だから今日は早起き。こんな顔の私、かがみとかには見せたくないもん。さくっと授業終わらせて、うち帰って新居昭乃でも聴こう。
 口元をへの字にしながら、人ごみをかき分けて歩く。バス乗り場まであとちょっと。と、その時。

「よっ、こなたおはよう!」
「こなちゃーん、おはようー」
「おはようございます、泉さん」

 ……なんでさ。
 みゆきさんだけなら多分逢う事もあるかなあとか思ってたけど、かがみとつかさがくっついてきたのは少々予想外。
 そう言えば、こないだからつかさとみゆきさんって付き合い始めたんだっけ、と思い出す頃には、もう3人は私の目の前までやってきていた。

「おはよー……」
 うう、最低だ。こんな景気悪いブス顔、一発目から一番見られたくない人に見られるなんて。もう穴掘って潜りたい。今日は厄日だよ……。
「どうしたのよ、元気ないわね」
「女の子の日……今月は特にひどいみたい……」
「それは大変ですね……。泉さんのはいつも軽くていらっしゃるのに」
「え? こなちゃんってまだ来てなかったりは」
「……ごめんつかさ、今いっぱいいっぱいだからそういう冗談笑ってあげらんない……」
 ていうかこの年で来てなかったら、さすがに色々やばい。ああもう、また思い出したくないこと思い出しちゃったよ。
「あ……ごめんね」
 気まずそうなつかさの笑顔が、逆に私まで気まずくさせる。

 頭じゃ分かってるんだ、この子に悪気がないって事は。分かってるから、余計に自己嫌悪がふくれ上がる。
 と、空いてた右手が無意識にかがみの制服をつかんでいた。
 あわてて引っ込めようとすると、今度は逆に手を握られる。かがみの手、あったかいよぉ……。
「こなた、授業は受けられそう?」
「なんとかがんばってみる……。つかさ、みゆきさん、もしもの時は保健室まで付き添いお願い」
「うん、わかった。こなちゃんも無理しないでね?」
「お辛いときには、いつでもおっしゃってくださいな」
「ありがと、助かるよ」
 二つ返事で了承してくれる二人。いつもなら小ネタで返すとこだけど、そんな元気すらおなかから流れ出てってる。

 ほんとは、かがみに一緒にいてほしい。ずーっとずっと、かがみについていてもらいたい。
 でも、かがみだけが隣のクラス。私に何かあっても、一番そばにいてほしくても、すぐには来られないんだ。
 ……うん、でも大丈夫。つかさもみゆきさんも優しいもの。だから平気。きっと平気。

「本当に、無理するんじゃないわよ?」
「うん、へーきへーき。なんとかなるよー」
 心配げなかがみに、背伸びして笑顔を返す。固く握った手に、少しだけ汗が浮いていた。

「おし、ちょうど時間やな。ほんなら今日の講義はここまでや。来週は小テストするさかい、よーく復習しとくよーに」
 先生の声に被さるように、お昼のチャイムが鳴った。みゆきさんの号令が終わるやいなや、みんな思い思いに席を立っていく。
 ていうか、さっきから寒気が止まってくれない。クーラー利きすぎなんじゃじゃないかっていうくらい寒い。……結構、やばいかも。

「それじゃあこなちゃん、チョココロネ買って来るね?」
「……ありがとつかさ。みゆきさんも気をつけてね……?」
 一歩どころか1ドットも動けそうに無いので、私は買い出し部隊に出動を要請した。
 つかさだけじゃ心もとないので、みゆきさんのエスコート付き。
「泉さん、やはり保健室までお送りしましょうか?」
「うんにゃ、カロリー補給したら多分自力で歩いていけると思うから……飲み物はあったかいのでお願い、カフェオレのホットとか」
「かしこまりました」
「行ってきまーす!」

 購買に旅立つ二人を見送ると、とたんにやることがなくなった。かがみは……まだ来ない。古文の授業、また延びてるのかな。
 おなか、痛い。身体中の血が根こそぎ流れていっていく感覚。かがみ、早く来て。歯の根が合わない。白石くんの声が妙にうるさい。
 後ろ向きな思考の渦から、何かの言葉が浮かび上がってくる。

《泉ってさ、少し変だよね》
 中学時代の同級生。思い出したくもないあの声。
 やだ、思い出させないで。
《なんか髪もぼさぼさだしさー、男子に混じってえっちな話してるし?》
 おなか、いたい。なんか、さむい。
《そうそう! あいつ、半分男の子なんじゃない?》
 力、はいんない。早く。はやく。はやく来て。
《言えてる! そう言えば聞いた、泉ってあれが来てないんだって!》
 なんで、なんでこんな時に。きっついよぉ。かがみ、お願い。

「よーっす、お待たせ! ごめんね遅くなって。つかさとみゆきは? まだ購買?」
 ノイズの中から声がする。かがみ。重いまぶたをこじ開ける。かがみ。かがみ。かがみ。
 もうパンクしちゃいそう。遠くなる手足の感覚を無理矢理呼び覚まし、強引に立ち上がる。
 後ろで何かが倒れる音、白石くんがびっくりしてお茶を噴いた。
 糸の切れた人形みたいに漂う。ぎょっとしたかがみの顔、どうしてなのか理由が分からない。
 もの問いたげなかがみが私に手を伸ばす、その手にすがろうと私も手を差し伸べ、触れ合う直前。

「柊ちゃん、いる? みさおが階段を三段抜かししようとして足をくじいたの。念の為保健室に連れて行くから、手伝って」

 かがみが。後ろを向いた。

《えー、超やばいよそれ。なに、あいつフニンショー?》
 知らない人がいる。かがみはそっちを向いている。
《いいんじゃないの? あいつ半分どころかまるっきり男だもん》
 かがみが向こうへ行っちゃう。
《ていうかもうあいつ、――と結婚しちゃえばいいじゃない》
 かがみの背中が遠くて小さい。
《そうだよね、変人同士お似合いって奴?》
 セーラーカラーの赤色が、月の裏側よりまだ遠くに見える。
 遠くへ行ってしまう。かがみもあの子と同じように。私を置いて、どっか遠くへ……!

 ……こころが、折れた。
「やだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「こなたっ!?」
 自分が何をしているか、なんて自覚はなかった。
「やだ! やだ! やだぁ!! おいてかないで、かがみをもってかないで!!」
 かがみ。かがみ。かがみ。かがみ。行かないで。
「どうしたのこなた、落ち着いて!」
「連れてかないで、連れてかないで、だって、私、私、わた、し……」
 握り締めていたはずの手から力が失せる。目の前が真っ暗に変わる。かがみの顔。暗すぎて輪郭しか見えない。
 くたびれたぬいぐるみみたいに、私は床へとくずおれる。

 どぼん。真っ黒い沼に落ちる水音が、聞こえたような気がした。

 ずぶずぶと。私は黒い沼に沈んでいく。
 べとべととまとわりつく湿った感触と、鉄のような匂いが気持ち悪い。

『あのね、――』
 いつしか私は、中学の制服を着て立っていた。
『どうしたの、こなた』
 そしてあの子がいる。はじめて出逢えたオタク友達。

『卒業式のあと、少し話せる?』
 私はあの子が大好きで。
『別にいいけど?』
 あの子もそうだと信じて疑ってなかった。

 沼の底の風景はくるりと変わる。桜並木の見える体育館の裏手。
『……あのね、私さ』
 やだよ、思い出させないで。

『――の事が……』
 せっかく、忘れてたのに。せっかく、今好きな人がいるのに。

『やだ……やめてよこなた! あんたおかしいよ!? 女の子同士でだなんて、そんなのまるで……』
 忘れたままで、いたかったのに……!


『……そんなのまるで、変態じゃない!』


 目の前が暗転する。足の間から流れる赤黒い流れは、周囲の沼に混じって黒くよどむ。
 景色が、みんな遠ざかっていく。見慣れていた景色、見慣れていた人たち。

(…………た)

 パティが。ひよりんが。みなみちゃんが。黒井先生が。みゆきさんが。つかさが。ゆい姉さんが。ゆーちゃんまでもが。
 みんなみんな、遠ざかっていく。あの子の背中も。かがみの背中も。二つ並んで遠ざかっていく。

(………なた)

 私は声も出せない。泣く事もわめく事も出来ないで、ずぶずぶと沼に沈み込む。
 そして手足も溶けていく。黒い沼と同じ臭いを発する、沼と同じ物になっていく。

(……こなた)

 おいていかないで。お願い、おいていかないで。おいてかないでよ……一人に、しないで……!


(……こなたっ!! 起きなさいよこの馬鹿こなた!! 貧血なんかで一方的にへこんでるんじゃないわよこのヘタレーーーーっ!!)

 どんがらがっしゃーん。漫画チックな稲妻が落ちた。真っ黒かったはずの視界をベージュ色の雲が被い、ざばざばと夕立を降らせていく。
 ……ああ。お母さんの雨だ。雨が私の汚れを洗ってくれる。私の臭いを焼いてくれる稲妻は、きっとかがみだろう。なぜかそう思えた。
 身体が、浮力を取り戻す。初めて泳ぎを覚えた時のように、力を抜いて浮かんで……。


「ごな゛だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「どひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!?」


 意識を取り戻した私が見たものは。視界いっぱいのかがみの泣き顔でありました。
 いやもう。いつぞやのダイエット失敗にも匹敵するぐへぇっぷり。

「馬鹿! 馬鹿! お馬鹿! 超ド級馬鹿! なんで、ひっく、なんで、なんでこんなになるまで無理したの!」
 あのう、かがみさん。私一応病人らしいんですが。何故に振り回されているのでしょうか。
「彼女なんでしょ! 好きなんでしょ! 一緒に雨乞いだってしたじゃない! ……どうして、どうして頼ってくれなかったのよぉ……」
 服の胸元が濡れてる。こんなになるまで、泣いてくれたんだね……私のために。

「ごめん、ね」
 鼻の奥がつんとする。人影があるかどうかなんて、もう関係なかった。

「ごめんね、かがみ。無理しちゃって、心配かけて、ほんと……ごめん、ね……!」

 あとは言葉にならない。なりようもないし、する必要もなかった。
 私を力いっぱい抱きしめたかがみを、ようやくぬくもりの戻った腕で抱き返す。
 そして堰を切ったように。私たちは、二人で思いっきり泣いた。

「……昼休み、終わっちゃったね」
 私が寝かされているのは、保健室だった。部屋には私とかがみが二人きり。かがみの友達は、もう授業に戻ってしまったのだろう。
「大丈夫よ。私も気分が悪いってことにしてるし、ちょうどアレも始まっちゃったところだから……さ、これ飲んで」
 平静を取り戻したあと。かがみはお茶のようなものを淹れて私に勧めてきた。
 ていうか。かがみさん、この「甘くないのもありますよ?」と言わんばかりのキラーフレグランスは何事で?
「……なに、これ?」
「アレの薬よ。天原先生が、あんたが起きたら飲ませとけって」 
 はて。あまはら、あまはら……あー。いつもゆーちゃんがお世話になってる保健の先生だ。
 まあ先生のお勧めなら、効果は確かなんだろうけど。んー。

「いきを とめて なかの えきたいを のみほした」
「……体が動かないとか残念とか言うのは禁止ね」
「読まれてるー!?」
「あったり前よ。伊達にあんたと付き合ってないっつーの」
 ちょっとしたお茶目をかがみんに看破されてしまったので、大人しく薬を飲むことにする。……うう、まじゅい……。
「げえっ!! みるみるまに わたしの あたまに あおく ながい けが はえてきた」
「あんた元から髪青いでしょうが!」

 そうこうしているうちに身体も軽くなり、なんとか起き上がれるようにはなってきた。
 おなかのあたりも、なんだかあったかい。あ、これ使い捨てカイロだ。ぬくぬく。

「だいぶ血色もよくなってきたみたいね。とりあえず一安心かな」
「うう、すまないねえかがみんや」
「それは言わない約束でしょ……ってまた何を言わせるかなあんたは」
 ああ、いつものかがみといつもの私だ。胸の奥が暖かくなるのは、薬のせいだけじゃない。
 傍らに寄り添うかがみが、私の髪をそっとそっと撫でてくれる。それが嬉しくて、私は子供のように目を細めた。


「あのね」
「ん?」
 回る秒針を見つめながら、私は切り出した。
「初めて女の子の日が来たのってさ、失恋した時だったんだ」
「失恋……その、男の子と……?」
「うにゃうにゃ。前に話したでしょ、中学の時に仲の良かった友達がいたって」
「ああ、魔法使いがどーたらって子? ……そっか……」
 かがみはベッドに腰掛け、髪と背中とをさすってくれる。その手を感じながら、私は昔語りを続けた。
「リアルで女の子同士って、やっぱり何かと肩身狭いしさ。そこらへん分かってなかった私の、若き日の過ちってとこ」
 元からお父さんと育ち、男の子が見るようなものに囲まれて育ってきた私だ。
 中学に上がって友達が出来にくかったこともあって、友情が愛情に化けるのは結構早かった。

「私は成長も遅くてさ、女の子の日とかもぜんぜん来なかったし。だからどっかで……男の子になりたかったんだろうね」
 けれど、その夢は叶わなかった。恋に破れたその日に、私は自分が女だという事を突きつけられたんだ。
「失恋してからずっと、その事にふたして、普通に普通にって思いながら、なんでもないように生きてきたんだけど……でも、逃げてたんだね」
 切れ長の瞳をまっすぐ見つめる。それを気づかせてくれたのは、きっとこの子だ。
「ごめんね、それとありがとう。かがみがいなかったら、私、どっかバランス取れてなかったかもしんない」
 そう言って微笑むと、かがみは面白いように真っ赤になった。
「そっ……そんな事ないよ……その、それに。私だって、私が男だったら、あんたの事幸せに出来たのにってずいぶん悩んだわよ」
 もぞもぞと、でもはっきり視線を合わせてかがみは言う。
「何度も何度も考えたわ。ずいぶん悩んだし、眠れない日もあった。……けどね。結局私、そのままのあんたが好きなんだって気づいたの」
 う。改めて面と向かって好きって言われると、なんだか私までじーんって来ちゃう。
「だから、今さらだとは思うけどさ。……女の子の私でも、こなたは好きって言ってくれる?」
 答えなんて決まりきってた。私もまだまだだよね、たかが女の子の日くらいでこんな簡単な事を見失うなんて。
 返事代わりに、私の方から口づける。長くて優しいキス。少しだけにじんだ視界に、秋の日が映っていた。

「さってと。こなた、具合はどう?」
「むー、もうちょいかかるかな。6時間目から出るから、なんだったらかがみ先行ってていいよ」
「構わないわよそんなの。どの道ノートはあやのに頼んでるから、あんたが落ち着くまで付き合うわ」
「うう、すまないねえかがみん」
「二度ネタかよ」
 突っ込みつつもかがみの表情は優しい。流石私の嫁、ここぞって時には優しくて頼りになるんだから。
 あれ、それとも私「が」嫁、って言った方がいいのかな? つらつら考えてると、なんだかあくびが出てきた。

「ふやぁ……なんか眠くなってきちゃった、休み時間になったら起こしてー」
「はいはい、りょーかい。他にはなんかある?」
 今日のかがみんはデレ全開だ。私は、ちょっとだけそのデレに甘えてみる事にした。

「んっと、さ。……子守唄、歌ってほしいな」
「こ、子守唄!? ……えーとえーと、そんなの急に言われても……それっぽい曲ならなんかあんたに借りたのがあるけど、それでいい?」
「んー、まあ良いかな。ゆったりした曲なら何でもいいや」
「分かった。じゃあ……笑わないでよ」

 ♪ひとつめの言葉は夢 眠りの中から
 ♪胸の奥の 暗闇を  そっと 連れ出すの……。

 歌うのは新居昭乃の「VOICES」。流石はかがみ、私のツボを心得てる。歌声に身を任せて、私は目を閉じた。


 まどろみの中で、私は夢を見る。どこまでも青い空を、いつか見たアニメの飛行機みたいに風に乗って私とかがみは飛んでいく。
 手をしっかりとつなぎ、どこまでも二人で。


 あれだけ嫌いだった女の子の日が、なんだか少しだけ好きになれた、そんな気がした。


(どっとはらい)



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  • GJ! -- 名無しさん (2022-12-29 04:16:34)
  • まぢだ…マジ百合すぎる!
    この作者様のシリーズはレベルが高い。 -- 名無しさん (2011-02-21 08:54:29)
  • 作者コメント欄にもたくさんコメントがありますがGJです。
    飄々としているこなたの脆さ儚さとかがみのやさしさ、この二人に幸あれ -- 名無しさん (2009-02-12 13:46:14)

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