「……よし。あと少し……」
「やっほー! こなた、ゆたか、ゆい姉さんだよー!」
「うひゃう!」
「やっほー! こなた、ゆたか、ゆい姉さんだよー!」
「うひゃう!」
わわっ! もう、お姉ちゃんったら、いつもいきなり来るんだから。
急いでこれを隠さないと……
急いでこれを隠さないと……
「こなたー? ゆたかー? いないのー?」
わわっ、と、とりあえず下に行こう。
タタタタ……
タタタタ……
「い、いらっしゃい。ゆいお姉ちゃん!」
「お、ゆたかー、居たの? こなたは?」
「こ、こなたお姉ちゃんなら、かがみ先輩の家に行くって言ってたよ」
「お、ゆたかー、居たの? こなたは?」
「こ、こなたお姉ちゃんなら、かがみ先輩の家に行くって言ってたよ」
うぅ、慌てすぎで口調が早口になってるよ……
「ふーん……どうしたの? そんなに慌てて」
わっ、
「な、何でもないよ。そ、それよりどうしたの? お姉ちゃん。また突然この家に来たりして」
「えっ? うーん、特に理由はないけど……
強いて言えば、急にゆたかに会いたくなったから、かな?」
「……えっ?」
「えっ? うーん、特に理由はないけど……
強いて言えば、急にゆたかに会いたくなったから、かな?」
「……えっ?」
その時、一瞬昔の事を思い出したけど、すぐに我に返った。
「そ、そうなの? あ、私まだ宿題が残ってるから、また上に行くね」
「そうなんだ。じゃあ邪魔しちゃ悪いから、私は帰るね」
「う、うん」
「そうなんだ。じゃあ邪魔しちゃ悪いから、私は帰るね」
「う、うん」
そう返事すると、ゆいお姉ちゃんは「じゃあねー」と言って帰っていった。
私はホッとして、また2階に上がって、自分の部屋に戻った。
そして私は宿題ではなく、さっき慌てていた理由になる物を取り出し、
まだ残っていた部分を書き始めた。
そして私は宿題ではなその中で、私はさっき一瞬だけ思い出した、あの日の事を回想し始めた。
私はホッとして、また2階に上がって、自分の部屋に戻った。
そして私は宿題ではなく、さっき慌てていた理由になる物を取り出し、
まだ残っていた部分を書き始めた。
そして私は宿題ではなその中で、私はさっき一瞬だけ思い出した、あの日の事を回想し始めた。
――姫と王子――
病弱な体のせいで、私は小学生の頃から休みがちだった。
クラスメートの中には欠席が多い事を羨ましがる人もいたけど、
大体の人は(先生達も含めて)私の事をよく心配してくれた。
でも、周りから過度に心配される事を、その頃の私はとても嫌っていた。
みんなに迷惑をかけちゃう事もそうだけど、
自分がみんなと同じ事が出来ないと自覚してしまうから……
小学校高学年になってくると、その思いがますます強くなった。
その頃のゆいお姉ちゃんやこなたお姉ちゃんは知らなかったけど
――こなたお姉ちゃんは今も知らないだろうけど――
学校内で笑う事がだんだん少なくなっていた。
家の中にいる時やこなたお姉ちゃんのところに行く時は
できるだけ笑顔でいる事に努めたけど、心の奥から笑った事はほとんどなかった。
その頃になって、私が憂鬱になる材料がもう一つ増えた。
それは、背が、伸びなくなった事。
そのせいで、周りからは今まで以上に子供扱いされるようになった。
その事は、更に私の心に闇を落とす事となった。
そんな小学校6年生の秋の話。
クラスメートの中には欠席が多い事を羨ましがる人もいたけど、
大体の人は(先生達も含めて)私の事をよく心配してくれた。
でも、周りから過度に心配される事を、その頃の私はとても嫌っていた。
みんなに迷惑をかけちゃう事もそうだけど、
自分がみんなと同じ事が出来ないと自覚してしまうから……
小学校高学年になってくると、その思いがますます強くなった。
その頃のゆいお姉ちゃんやこなたお姉ちゃんは知らなかったけど
――こなたお姉ちゃんは今も知らないだろうけど――
学校内で笑う事がだんだん少なくなっていた。
家の中にいる時やこなたお姉ちゃんのところに行く時は
できるだけ笑顔でいる事に努めたけど、心の奥から笑った事はほとんどなかった。
その頃になって、私が憂鬱になる材料がもう一つ増えた。
それは、背が、伸びなくなった事。
そのせいで、周りからは今まで以上に子供扱いされるようになった。
その事は、更に私の心に闇を落とす事となった。
そんな小学校6年生の秋の話。
その日私は初めてズル休みをした。
特に体調が悪いわけでもないのに「気分が悪い」ってお母さんに言って。
理由は、わがままな私を気に掛けてくれる人が学校でいなくて、独りぼっちになったから。
同じ“独り”なら、家にいた方がいいと思ったから。
そう思ってベッドに潜っていた。
特に体調が悪いわけでもないのに「気分が悪い」ってお母さんに言って。
理由は、わがままな私を気に掛けてくれる人が学校でいなくて、独りぼっちになったから。
同じ“独り”なら、家にいた方がいいと思ったから。
そう思ってベッドに潜っていた。
そしてその日の夕方。
「やほー! ゆたかー! ゆい姉さんだよー!」
「あ、お姉ちゃん……」
「あ、お姉ちゃん……」
ゆいお姉ちゃんが実家にやって来た。
この年、ゆいお姉ちゃんは大学4年生で、実家と少し離れたところでアパート暮らしをしていた。
警察官になるための試験とかで忙しいはずなのに、よく実家に遊びに来ていた。
この年、ゆいお姉ちゃんは大学4年生で、実家と少し離れたところでアパート暮らしをしていた。
警察官になるための試験とかで忙しいはずなのに、よく実家に遊びに来ていた。
「あれ? ゆたか、元気無いみたいだねー。どしたの?」
「う、ううん。なんでもないよ。ちょっと、風邪を引いちゃったみたいで……」
「う、ううん。なんでもないよ。ちょっと、風邪を引いちゃったみたいで……」
この頃、こんな嘘をつくのにも慣れてきていた。顔に、偽物の笑顔を張り付けて。
「そっかー」
「あ、お姉ちゃん。何か飲み物持ってきて」
「うんいいよー。何が欲しい?」
「オレンジジュース」
「りょーかい! すぐ持ってくるねー」
「あ、お姉ちゃん。何か飲み物持ってきて」
「うんいいよー。何が欲しい?」
「オレンジジュース」
「りょーかい! すぐ持ってくるねー」
そう言って、階段を降りていくお姉ちゃん。
風邪とかで休んでいてお姉ちゃんが遊びに来た時、
私はいつもお姉ちゃんに「何か持ってきて」と、わがままを言っていた。
でもお姉ちゃんは、いつも嫌な顔一つせず、私が言ったものを持ってきてくれた。
風邪とかで休んでいてお姉ちゃんが遊びに来た時、
私はいつもお姉ちゃんに「何か持ってきて」と、わがままを言っていた。
でもお姉ちゃんは、いつも嫌な顔一つせず、私が言ったものを持ってきてくれた。
「はい、お待たせー」
今日も私の要求したオレンジジュースと、それに加えてりんごも剥いてきてくれた。
「さ、これでも食べて、早く元気になるんだよー」
「ありがとう……ねえ、お姉ちゃん」
「ん、なに? ゆたか」
「ありがとう……ねえ、お姉ちゃん」
「ん、なに? ゆたか」
私は少しうつむきながら尋ねた。
今まで疑問に思っていた事を。
今まで疑問に思っていた事を。
「お姉ちゃんって、今忙しいの?」
「え? うーん、そりゃ忙しいよ? 試験も近づいてきてるし。このあとも――」
「だったら!」
「え? うーん、そりゃ忙しいよ? 試験も近づいてきてるし。このあとも――」
「だったら!」
私は布団を強く握り締めながら叫んだ。
そしてお姉ちゃんの方を向きながら、お姉ちゃんをにらみつけ、またさらに叫んだ。
そしてお姉ちゃんの方を向きながら、お姉ちゃんをにらみつけ、またさらに叫んだ。
「だったら、何で私なんかのためにいつも来てくれるの!?
そんなに忙しいのに、こんなにわがままで、嘘つきな私なんかのために!」
そんなに忙しいのに、こんなにわがままで、嘘つきな私なんかのために!」
言い終わって、私はゲホッ、ゲホッと下を向いて咳込んだ。
咳が止まっても、私はお姉ちゃんの方に顔を向ける事ができなかった。
言ってから、自分がとても酷い事をお姉ちゃんに言ってしまった事に気づいて、
怖くて顔を見る事ができなかったから。
咳が止まっても、私はお姉ちゃんの方に顔を向ける事ができなかった。
言ってから、自分がとても酷い事をお姉ちゃんに言ってしまった事に気づいて、
怖くて顔を見る事ができなかったから。
すると「どうしてって言われてもねー……」と言う、困ったような、
あまり緊張感のない声が聞こえてきた。
私は少し驚きながら、顔をお姉ちゃんに向けた。
そこに浮かんでいたのは、私が予想していた表情ではなく、少し困った顔。
そして頭をかいて、少しの照れを含んだ、お姉ちゃんの笑顔だった。
あまり緊張感のない声が聞こえてきた。
私は少し驚きながら、顔をお姉ちゃんに向けた。
そこに浮かんでいたのは、私が予想していた表情ではなく、少し困った顔。
そして頭をかいて、少しの照れを含んだ、お姉ちゃんの笑顔だった。
「私はねー、ゆたかのために来てるんじゃなくて、ゆたかに会いたいから、来てるんだよー」
「えっ……?」
「えっ……?」
その時のお姉ちゃんの表情は、今でもよく覚えてる。
その、柔らかで、それでいて暖かな笑顔は、
まるで私の凍った心を融かしてくれる、太陽のようで――
その、柔らかで、それでいて暖かな笑顔は、
まるで私の凍った心を融かしてくれる、太陽のようで――
「あ、そろそろ帰らなきゃ! じゃあね、ゆたかー!」
そう言うと、お姉ちゃんは猛ダッシュで部屋を出ていった。
「えっ? あっ……」
「そこで大人しく寝てるんだよー!」
「そこで大人しく寝てるんだよー!」
下の階からお姉ちゃんの声がしたあと、ガラガラッと玄関のドアを開け閉めした音が聞こえた。
再び私独りだけになった部屋の中。でもさっきと違って、孤独感も寂しさもない。
私の心の中は、お姉ちゃんからもらった暖かさと、
明日から頑張ろうと言う決意に満ち溢れていた――
再び私独りだけになった部屋の中。でもさっきと違って、孤独感も寂しさもない。
私の心の中は、お姉ちゃんからもらった暖かさと、
明日から頑張ろうと言う決意に満ち溢れていた――
「……あれからもう4年、かぁー」
その日から、私は学校でも笑顔でいようって思うようになった。
わがままも、あまり言わないようにした。
ただでさえ病弱でみんなに迷惑を掛けてるのに、更に迷惑を掛けたくないって思ったから。
それに、私が独りじゃないって事もわかったから。
そして今年、高校生になってから、わたしの周りの環境は大きく変化した。
こなたお姉ちゃんの所で下宿して、お姉ちゃんと同じ学校に通って、
その学校で、みなみちゃんや田村さん、パティちゃんと友達になって。
本当に、今がとても楽しいと思える日々を過ごしている。
でも、今の私が在るのは、あの日のゆいお姉ちゃんの笑顔があったから。
あの日が無かったら、今の私はいなかったと思う。
わがままも、あまり言わないようにした。
ただでさえ病弱でみんなに迷惑を掛けてるのに、更に迷惑を掛けたくないって思ったから。
それに、私が独りじゃないって事もわかったから。
そして今年、高校生になってから、わたしの周りの環境は大きく変化した。
こなたお姉ちゃんの所で下宿して、お姉ちゃんと同じ学校に通って、
その学校で、みなみちゃんや田村さん、パティちゃんと友達になって。
本当に、今がとても楽しいと思える日々を過ごしている。
でも、今の私が在るのは、あの日のゆいお姉ちゃんの笑顔があったから。
あの日が無かったら、今の私はいなかったと思う。
「さて、と。もう少し……」
回想し終わって、私は残っていた作業を再開した。
今作ってるのは、一冊の絵本。
明日田村さんに見せて、ちゃんとした本にしてもらうつもり。
今作ってるのは、一冊の絵本。
明日田村さんに見せて、ちゃんとした本にしてもらうつもり。
絵本の題名は「氷姫の話」
病気がちなお姫様と、隣の国の王子様の話。
お姫様は私。そして王子様は――
病気がちなお姫様と、隣の国の王子様の話。
お姫様は私。そして王子様は――
コメントフォーム
- 「その日の気分」のサイトの作者さんなのかな?
-- 名無しさん (2008-05-14 17:28:50)