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鏡の国のかがみのお花 ……は、実はみゆきの妄想だったとも言う

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 雨が全く降らないといわれるゴビ砂漠のことは、この際置いといて……。
 ティムールの「サマルカンド雨の戦い」しかり、スコールに身を隠せるかどうかが命運を左右した太平洋戦争における日米の機動艦隊しかり、洪水で溺死者が出た1941年11月のサハラ砂漠しかり。
 雨が降ると何かが起こる! ものである。


 戦闘とも洪水とも無縁な埼玉のある私立高校はというと、三人の女子生徒が傘を忘れ、事もあろうか同じ一人に頼ろうとし、そしてただ一人だけが頼ることに成功した。
 つかさがまるで、銃火に晒された兵士のように物影に身を隠したのは、そのせいである。片目だけ出して靴箱の前にいる二人を見、耳を澄ませる
 「こんな事だろうと思ったわよ。すっ飛んで来るんだもの」
 呆れたように言うのはかがみである。
 「かがみだって、すっ飛んで廊下に出てきたよね?」
 悪びれずに答えるのはこなたである。
 「あ……あんたから逃げようと思ってね」
 「またまた、気のないふりをしちゃって」
 「だ、誰が好き好んであんたなんか傘に入れてやるってのよ」
 「ふーん。じゃあみゆきさんを頼ろっかな」
 「ばか」
 かがみはこなたの肩を掴む。
 「みゆきに迷惑かけんな」
 「じゃあ入れてもらうよ。今さら遠慮したら、かがみ悲しむだろうし」
 「あんたな……」
 「だってその為に廊下にすっ飛んで出たんだもんね」
 「うるさい! さっさと靴を履きなさいよ。行くわよ」
 二人が出て行ったので、つかさは隠れていた掩体に寄りかかって肩の力を抜く。というよりか、体全体の力が抜けてしまった。
 「つかささん」
 無意識の内に落としていた肩と視線の目の前に、みゆきが立っていた。
 「傘をお忘れですか?」
 片手が空いているつかさを見て尋ねる。
 「ゆきちゃん……」
 「よろしければ……」
 みゆきは鞄を手にしていない方の手に持っていた傘を軽く掲げた。




 雨に包まれた世界を行く傘の群れ。
 一つの傘に二人で入る姿もちらほら見える。
 こなたとかがみが入った傘は、みゆきとつかさの入った傘の40メートル前方。追いつける距離なのだが……。
 「仲がよろしいですね」
 「うん」
 「近寄りがたい、ですね」
 「うん……」
 意識してそうしていたつもりではないのだが、言われてみると確かに近付きがたい何かがある。
 「かがみさんが何か文句を言ってるようですが……」
 みゆきは目を細めて言う。よく見えないのだ。
 「こなちゃんが手を繋いだみたい。傘を一緒に持つようにして」
 「……やはり、そうなのですか」
 見えないが想像はついていたようだ。
 「繋いだままですね?」
 「うん。お姉ちゃんも満更じゃないみたいで……」
 「「……」」
 もう何と言うか、沈黙するよりないという心境なので、二人とも沈黙した。
 「とても自然ですね」
 「……うん」
 「つかささん?」
 つかさの顔が捨て犬のように途方に暮れているのを見る。
 「なんか知らない内に、お姉ちゃんが遠くなっちゃったな……」
 「……それは距離じゃないかもしれませんよ」
 みゆきの言葉は不吉な響きがした。思わず見上げるつかさはさらに続いて、
 「きょうか」
という言葉を耳にした。
 きょうか? 強化? 狂化? 教化? 今日か? 明日か? もののけh-
 みゆきは続ける。
 「鏡花。鏡に映る花。触れることのできないもの、という意味です」
 「こなちゃんとお姉ちゃんと…………花?」
 きょとんとするつかさに、みゆきは曖昧に首を振り、
 「花のようなものなのかもしれません。あの関係を司る感情は」
 「と、唐突だね」
 唐突だが、特別感銘を覚えるというものでもない。人類史上そう例えた例が必ずあるだろう。
 「他人からすれば、微笑ましく美しいものなのですが、育てる苦労は計り知れません。この場合は、ただ見当がつかないという意味ですが」
 「そういえば、ガーデニングなんてした事ないや……」
 「だから、春になれば自然と野に花が咲くように、人の手を加えることなく成り立つ場合もあるでしょう。これは、人間関係全般にも言えることですが」
 「そうだね……」
 つかさは、こなたと知り合ったきっかけを思い出していた。人間関係が花なのなら、外国人に道を聞かれたのは種だったとでもなるだろうか?
 「でもその中でも、あれは排他的なものです。愛とか恋とか、それに類するものは」
 それは感覚的には分かる。例えば家族「愛」というものは、主に家庭(物理的には住居)という排他的空間で展開される。
 なるほど、とつかさにもみゆきの言わんとすることが分かってきた。
 「鏡の国のかがみお姉ちゃん……」
 そこにこなちゃんと二人きりで住み、きれいな愛の花を咲かせましたとさ……?
 「さらに鏡は、いろいろな物を映し出します。気付かないことも多いですが……」
 40メートル先を見据えるみゆきはの目は、雨と同じで優しく、悲しく……もしかして?
 「ゆきちゃんも?」
 どっちかは分からないけど、どっちかを?
 「……」
 みゆきは黙したままである。
 「うぅ~、ごめんな、あやのぉ」
 後方から声がした。チラ見で振り返ると、峰岸あやのの差す傘の下で、日下部みさおが肩を落としていた。
 「柊の傘に入れてもらって、三人で帰ろうと思ったんだけどよぉ~」
 「柊ちゃん、すぐいなくなっちゃったよね」
 「それもよりによってチビッ子と相々傘だぜ。やりきれねえよな~」
 逃げようとしたというのは、あるいは本当かもしれない。
 「かがみさんは遠くへにはってません」
 現に40メートル先を歩いている。
 「まだ行ってない、というべきでしょうか」
 「……」
 「せめてその鏡が見える場所、私自身を映す場所にはいたいと思ってはいます。友人として……」
 妹として……。つかさの心が、言葉にせずに呟く。
 雨が降る。傘を打つ雨だれと、水気を含んだ足音に世界が煙る。
 片方の肩が濡れていることに気付き、傘の中心に体を寄せると、反対の肩がみゆきに当たる。
 「あ……」
 「大丈夫ですか?」
 みゆきが微笑む。そういえば、外に出てから初めて笑ったかもしれない。
 「うん」
 あったかい。どうせなら、濡れた肩ごと抱き寄せてくれないかな……?
 見ると、40メートル前方の傘の下でも、こなたとかがみが同じようにしていた。どちらが体を寄せたかは見てなかったが。
 鏡。
 自分を映し出す鏡、か……。
 「さすがゆきちゃんだね」
 「はい?」
 「物知りなゆきちゃんならではの例えだな、って思って」
 「『鏡花』ですか?」
 「うん。ゆきちゃんに教えてもらわなかったら、一生知らなかったよ、それ。これから使うことがあるかというと、あやしいけど」
 「そんなのじゃありませんよ」
 みゆきの頬に朱が差し、プイと目を逸らして、よく見えないはずの40メートル前方の傘を見据える。
 「むしろ私よりは、田村さんに相応しいでしょうね」
 「え? ひよちゃん?」
 つかさは少なからず驚く。何で彼女の名前が出てくるのか?
 「い、いえ、何でもありません。忘れてください」
 「う、うん……」
 気圧されるような形で、つかさは肯く。
 頭のいい人の考える事って、なんか色々すごいんだなあ……。
 なんて感心しながら。




 そうではないのですよ、つかささん。
 田村さんの嗜好は一応存じているつもりです。確たるきっかけはありませんが、人間関係という花に囲まれているうちに、自然と理解してしまったということにしておいてください。
 直接影響を受けたわけではないので、引き合いに出すのはものの例えです。だから、この思考(と嗜好)を田村さんにこそ相応しいとするのは、あるいは田村さんの名誉が傷つくかもしれませんが。
 つまり、こういう事なんです。

 「かがみは私の嫁」

 ……時々泉さんが口にされるこれ。実現したらどうなるだろうかなんて考えてしまったんです。戸籍的な意味で。
 まあ、婚姻によらなくても養子縁組でも実現するかもしれませんが、かがみさんが泉姓になりますよね。今の日本の慣習として。
 ということは、「泉かがみ」。
 苗字・名前とも三音で、その上「み」で終るというのは、語呂的にどうなのかということはさておき、かがみさんの名前の方を漢字にしたら、やはり「鏡」になるのではないでしょうか。
 ということは、「泉鏡」。
 なにやら明治~昭和初期の文豪、泉鏡花を思わせる字の並びになるじゃないですか。
 さらに「鏡花」に名詞的な匂いを感じて調べてみたら……後はつかささんにお話したとおりです。
 私の表情が暗かったのは、いろいろな意味で自分の思考に嫌悪していたからですよ?


 おわり























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