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二輪の花 第4話

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【第4話:喫茶店の二人】


 かがみはシャワーを借りた。
 愛液やら、唾液やらでべとべとになった体を暖かい温水が洗い流す。
 ゆたかの家でシャワーなんて借りたくもなかったが、このまま帰るわけにもいかない。結局ゆたかに言われた通りにシャワーを浴びて、服を着る。
「9時半くらいにはお姉ちゃんが帰ってきますから、それまでには帰った方がいいですよ」
 ゆたかはベッドに倒れているかがみに告げて一人ででていった。
 かがみは何も言わずに、ベットに倒れこんでいた。ベットのシーツに隠れた自分の携帯を見つける。
 新着メールだったはずの2件は、受信ボックスに開封済みになっていた。
 メールがまた一件きている。メールを見ると高良みゆきから。
「…今日、つかささんのお見舞いにいきたいんですがよろしいでしょうか」
 送信日時は7時半。今更返しても仕方ないし、そのまま放って置くことにして、かがみはゆたかのアパートから出る。
 ゆたかがいないのにゆいと鉢合わせするのも困るし、そうでなくても人にあいたくない。
 シャワーでさっぱりした体に外気が吹き付ける。
 ピー、カシャンと鍵がかかる音がする。オートロックである。このアパートがオートロック完備というわけではなく、個別につけたものだ。適切な番号を入力して左に回すと鍵が空くしかけ。
 女二人だと危ないからって単身赴任中のきよたかの提案の下、オートロックがつけられた。
 そんなことはどうでもいい。かがみは蹴っ飛ばしたくなる感情を抑えて、忌まわしげに一瞥して出て行った。

「ただいま」
 もちろん返事はないが、それでもかがみは呟いた。安堵と歓喜に、咽かける。
「……まあ泣いていてもしかたないんだけどね」
 かがみは玄関に見知らぬ靴が置かれていることに気づいた。
 …まさか、泥棒? と一瞬思ったが、泥棒が律儀に玄関に靴を置かないだろうし、その靴が女物であることに気づいたころには警戒もだいぶ解いていた。
 おそらく高良みゆきが着ているのだろう。メールを返さないということは了承という意味にもとれる。
 つかさの部屋の前に立つとかがみは躊躇する。入ろうか、入らまいか悩んだがそれでも意を決して扉を開いた。
 高良みゆきと柊つかさが二人してスースーと音をたてて寝ていた。

 かがみは顔を綻ばす。起こさないように近づいて、つかさのおでこに張られた「冷えピタ」に触れる。朝かがみが張ったものだ。
 もう12時間以上もたっているのに冷たい。みゆきが張ってくれたのだろうか、かがみはしばらくつかさの寝顔を見つめていた。

「…あ」
 みゆきが目を覚ます。
「ああ、寝てしまいました」
 ベッドに寄りかかっていた顔をあげ、あわてて眼鏡をかけなおした。かがみがいることに気づいて、狼狽する。
「や、やほ」
 かがみは微妙な空気を取り繕うように苦笑し手を開いて挨拶する。
「か、かがみさん。申し訳ありません。そのメールしたのですが反応がありませんでしたので、直接かがみさんの家に寄らせていただきました」
「ううん、いいよ。つかさが入れてあげたんでしょ」
「はい」
「つかさの様子、どう?」
「結構お元気そうでしたよ。その」
「その?」
「『お姉ちゃん大丈夫かな』って心配していらっしゃいました。帰った後、つかささんにお会いにならなかったんですね」
「うん、すぐに出かける用事があったから」
 確かに良心の呵責を感じずにはいられなかった。しかし過ぎ去ったことは仕方ない。

「…そうですか」
「それはそうと、何のよう? 単にお見舞い? だったらありがとうね」
 みゆきは「それもあります」といった後、つかさの机に置かれているノートを持ってきてかがみに見せる。
 それから微笑んで、
「今日のノートです。来月には中間テストですし、授業を休むと大変ですから」
 かがみは感心する。みゆきという人間はいつもこうだ。友達が病気で休むといつもノートのコピーやお見舞いの品を持ってくる。
「うん、ありがとう」
 素直にかがみは感謝の言葉を述べた。
 つかさのことは心配していたし、こうした友情にけちをつけるほどひねくれていない。

「…それと、かがみさんも大丈夫ですか」
「私?」
「はい。なんだか今朝から体調の悪そうでしたから」
 そんなところまで見ていたのか。
「……大丈夫。ちょっと疲れているだけだから」
「……そう、ですか」
 みゆきはそれ以上は何も言わずつかさの規則的に立てる寝息を見守った。落胆の声だった。
「早く元気になってくださいね」
 みゆきはいった。その言葉は二人に向けられていたことにかがみは気づかなかった。
 気づく余裕などなかった。

「だからパティ、あれはまずいって」
「ナンデデスカ? 日本はモエのクニなのは平安からのジジツでーす!」
「平安?」
 パティは「解説するデスヨ」と、バッグから本を取り出す。「平安貴族あばんちゅーる祭」という常人なら敬遠したくなるタイトルをつけられたそれは、表紙から烏帽子を被った男性が単を着ざった女の股間をまさぐるという、いかにもな本である。
 パティは敬遠球をサヨナラヒットする新庄かのごとく嬉々としてそれを手に取りレジに並んだ。
「BLより私は百合のほうがいいッスけどね」
「これはノーマルデスヨひより」
「あ、珍しいね。パティが一般向けの本なんて」
「ワタシはモエならall okデスヨ」
「そっか。それでパティ、平安って?」
「平安時代では夜這いが主流なのデスよ! 和歌で示唆しておーけーをもらったら男の人がよなよな女性のもとに『あふ』これが平安貴族のアバンチュールデス!
 あばんちゅーる! 夜這いから始まる恋のモノガタリ……それがワタシの正義デース!」

 平安時代の結婚は通い婚である。現在のように婚姻届というものはない。三夜連続で夜這いをかけることをもって結婚と当時は呼んだ。
 夜這いといってもたとえば女房が「この娘はすばらしい」と評判を流すこともあるし、場合によっては家族総出で男の夜這いを助けることもある。
「夜這いっスか!それもいいッスね!」
「『みなみちゃん…どうして、みなみちゃんが』、気づくとミナミはユタカのヘヤヘ』」
「『ごめん、ゆたか。もう、私我慢できなくて――』何かをいいかけるゆたかを、みなみはキスで塞ぐ。体格差を活かしてベッドに押し倒す……」
 ちなみに、駅のプラットフォーム内のベンチであって喫茶店内ではない。
 同じようにベンチに座っている少年Aやら女子高生Bの反応が痛い。しかし二人ともまったく意に返さない。

 陵桜学園を出た後ひよりはパティにあった。その後大宮に二人で遊びに行く。大宮西口には徒歩5分程でソフマップがある。
 SOGO、代々木ゼミナール、大宮ソニックシティへと続くベデストリアンデッキを通り、代ゼミで左折するとビックカメラが見える。
 ビックカメラから直進するとご存知アニメイトへと続く。アニメイトはメロンブックスと隣接している。
 二人はてソフマップ、ビックカメラ、アニメイトを渡り歩いた後、螺旋階段を降り、横断歩道を渡ったところにあるスターバックスに寄った。
 その喫茶店でちょっとした失態を犯してしまったので、居るに居られず、二人はそそくさと喫茶店をでた。
 そこから直進すること300メートル。美容院の二回に建つGAMERSに立ち寄った。
 一通り商品物色し、GEMERSをでた頃にはあたりもすっかりと暗くなっていたので、そのまま大宮駅に戻った。

「『みなみちゃん、私、私もうだめだよ! ああ、あああ、あああんん!!!』」
「『まかせてゆたか。私が、リードするから』」
 あああああと、二人して淫猥な声を真似る。ぎょっとして少女Aやら少年Bが視線を向ける。
「もしもし警察ですか」
 そんお言葉にも気づかずに二人は
「「盛 り 上 が っ て ま い り ま し た」」


「…ヒヨリ」
「言わないで…」
 それから状況を説明すること数十分。なんとか警察への通報は免れた二人はすっかり憔悴しきっていた。
 田村ひよりの眼鏡が曇る。
「…自重しろ自重しろ私。ここはコミケでも自室でもこうちゃん先輩の部屋でもないんだから」
「ツイツイ調子にノッテシマイマシタ…」
「こんなんだから『白の騎士団♪』なんて厨二病まるだしの狂言脅迫なんてしちゃうんだよ私達」
「それはもう思い出したくナイデス。いわゆるブラックヒストリーデスヨ」
 二人してorzっとうなだれる。後悔先に立たず。

「…それにしても、TPOくらいはわきまえないといけないッスね。私達は腐女子でここは一般人のすくつ(以下省略)なんだから」
「反省するデスヨ…」
「私も…」
 二人はがくりと方を落としたが、その刹那パティが「あ…」と声を漏らした。
「パティ?」
「あれ…ユタカではナイデスカ?」
 パティが指差した先――30メートル程先にある階段を下りていく女生徒、それは確かに小早川ゆたかだった。ひょこひょこと小さな体を懸命に動かして一歩一歩歩いている。
「本当だ、小早川さん。こんな時間にどうしたんだろうね」
 ひよりもゆたかを確認して頷く。時刻はとっくに9時を回っている。ひよりもパティももう帰宅しようと駅にいるのである。
 距離が遠くてゆたかがどんな表情をしているかはわからないが、ひよりは客観的な事実としてみなみがいないことに気づいた。
 この駅ではみなみと一緒のはずだ。そしてみなみとゆたかは一緒に帰ったはず。
 ゆたかは私服に着替えていて、一歩一歩足早に階段を下りていた。そのせわしなさに不自然を覚える。
「小早川さー――」
 なんにしても、知り合いを見つけたのだ。目があったわけではないが、声をかけないわけにはいかないと思いひよりは声を張る。しかしパティによってそれは遮られた。

「シャラーップ!!」
「ちょ パティ! なんスか!」
「ひよりの目はフシアナデスカ!」
「は、はい?」
「あの顔をミテクダサイ! あのテカテカと光っている顔デス」
「そういえば…なんだか顔が光っているような…」
 パティの声も大きかったけれどね、と突っ込むのも忘れずにひよりは、気づかれないように盗み見する。
 ほとんど気のせい程度ではあるが、普段の弱々しさが感じられず、どこかしら充足感に浸っているようだった。
「ツマリネ、ひより」
「つまり」
「フタリはついに一線をコエタノデスヨ、ひより!」

「……ごめん、さすがに自重するっス」
「ノリが悪いですねヒヨリは! そんなんじゃベトナムいくまえに戦争がオワッテシマイマスヨ」
「わけわかんないよ…」
「言葉をたれるときは語尾にサーをつけナサイ! アホ!」
「サーイエッサー!」
 そうこうしているうちにゆたかは見えなくなる。
「ああ、また遊んでる!」
 二人が正気に戻ったとき、ゆたかは既に階段を下りて、別の番線でたっていた。
 こなた先輩の家ではないッスね、とひよりは思ったが特に口には出さなかった。
 人には人の事情があるし、いちいち口を挟むことでもない。それに今日はさすがに眠い。
 ネタ出しの作業が憂鬱だが、それについては今日の出来事が役立つとひよりは思う。
 そんなことを思っていたら電車が到着する。快速で降りる駅を通り過ぎてしまうため、二人ともそれには乗らずベンチに座ったままだった。

 その電車が突っ切った後、ひよりはゆたかが立っていた方向に顔をむける。すでにゆたかの姿はなかった。
「ネムイデス…ひより」
「寝たら死ぬから寝ないでねパティ」
「ああ、コンナニモ暖かいよルルーシュ…吹雪のジュータンが優しく僕を包み込んでクレル…」
「ルルーシュ! ルルーシュ!」
 小声で二人は演技をしあっていた。
 条件反射的に返した言葉ともに、ふとゆたかが乗っていた1番線の駅名がかかれた看板に目をやる。大宮駅とでかでかと書かれ、下に―さいたま新都心と書いてある。

 これは確か大船行きの――そう私の聖地秋葉原へ通じる――京浜東北線だった。

 小早川さんが?
 ひよりは不思議に思いながらも、次第に演技に熱が入り、いつものように二人して某アニメの名台詞を再現し、眼鏡をてかてかと光らせた。










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コメント:
  • ↓同じく! -- 名無しさん (2009-03-21 22:57:36)
  • 続きが気になります!
    -- 九龍 (2008-05-27 22:40:44)

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