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星見

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だれでも歓迎! 編集
星が見たくなった。
脈絡もなく、そう思った。

肌に気だるさがまとわりつく梅雨の気候を抜け、ついに夏はその本領を発揮していた。
梅雨明けを今か今かと待ちわびていた蝉たちは、その雄叫びを高らかに夏の夜空へ張り上げていた。
私達といえば、私達も同じく。
一般的な学生らしい夏休みを迎えようとしていた。
といっても、受験を控える私達には決して優しい夏休みではないのだが。

ノートや参考書が乱雑と散らばった机から身を離し、椅子をひょいと避けベッドに寝転がる。
その枕元からは窓の向こうが覗いて見えた。
低気圧のない、カラッとした夏の香りが絶え間なく部屋に流れ込み、
それに煽られた風鈴が時折その小柄な身体を震わせていた。

星が見えた。
小さな窓の向こうに、それと同じ分の星空が写っていた。
顔を動かすと、それに従って星空の角度も変わった。
まるで望遠鏡だ。
右に動かせば、星空は左へ。
私は玩具を転がす子供のように、小さなスクリーンの角度をあれこれ変えてみては、
自分が見知る星はないか、など。
小規模な天体観測を楽しんだ。
途中でもう一人の自分が、何を馬鹿な事をしているんだ、とつっこみを入れたが、
どうやら頭が疲れている今の私には、この遊びは心地が良く、辞められそうにない。

星が見たかった。
私と星には、特にこれといった思い入れも思い出も、関心も興味もない。
ただ遠くの国の宇宙局が、新しい流星群や星雲を見つけたら、興味半分で調べようと思うくらいだ。
星座の成り立ちや、神話や、その歴史といった、星座好きらしい楽しみ方はした事がない。

私が星を見る理由は、きっと昨日やったゲームだ。
星のゲーム、というのは少しズレているが、大体はそんな感じだろう。
それは何を伝えたかったのか、それは何を感じて欲しかったのか。
それを手探りで求めるように、私は星空を眺めた。

悪い癖だ。
ライトノベルやサウンドノベルゲームを読み終えた私は、
ほぼ決まってその世界を、登場人物を追い求めるように、その影響を受けてしまっていた。
馬鹿馬鹿しいとは思ったが、こうした遊び心も、作品への正当な感謝の気持ちの現れなのだろうと。
それが現状での私の結論だった。

そして、それを自分で認めてしまえば、この悪い癖が次に起こす事もほぼ決まっていて。
コンコン
その矛先も当然の如く決まっていて。
「はぁ~い今開けま~す。あ、お姉ちゃんだ、どうしたの?」
妹へ向けられるのであった。

頭上には360度の星空が広がっていた。
近辺には高いビルも、明るい街並みもなく、関東としては思いの外綺麗な星空になっていると思う。
私達は屋根の上にいる。

さっきも言った通り、私に星の趣味はない。
しかし、あの世界へ近付こうとする悪い癖は、つかさという巻き添えを増やして、
夏の自宅天体観測会を開いていた。

「あ、お姉ちゃん、天の川だよー」
隣でつかさが南の空を指さしていた。
指さすその先にはぼんやりと光の線が空を漂っていた。
「じゃーあれが夏の大三角形ね」
私も同じように空を指さす。
「え? どれー?」
「ああ、えっと……」
しまった。指でさしただけで説明出来るようなものではなかったな。
「えーっと、東の方で天の川が横になってるでしょ? その辺にあるのよ」
私は目線と指が示す方向が一致するように、出来るだけつかさに近付いてもう一度東の空を指さした。
「わかったー、ほんとだー三角だね!」
この大三角形は天の川が目印になっている事もあって、誰でも探しやすいものだ。
普通の見つけにくい星座が相手だと、こうは上手くいかない。
星座の説明をするには、何か目印になる星から、星づたいに説明するのがベターだ。
天体観測をするなら、もう少し勉強してくれば良かったと思った。
ああそうか、その為に彼女はいたのだった。

「お姉ちゃん、大三角形って、織姫と彦星がいるんだよね」
「そうよ、今てっぺんに来てるのが織姫星のベガ、その天の川を挟んだ右下のが彦星のアルタイルね」
そう言って二つの星を指さす。
「わぁ~、今年の七夕は会えたのかな、きっと雲の向こうで会ってたんだね~」
屈託のない笑顔でつかさはその星達を見上げた。

彼女は何を伝えたかったのか。
星の意味? 星の歴史? きっとどれも違う。
私は作中の文章を真新しい記憶から掘り起こし、
ほんの数シーンしか見せなかった”本心”を汲み取ろうとする。

突然横からガタンと音がした。
振り向くと、そこにはつかさが立ち上がっていた。
「ちょ、危ないわよ」
「だいじょぶ~ここ平たいもん」
身体を支えようと伸ばした私の手を制したつかさは、コホンと咳払いをすると東の空を指さし、
「あれが夏の夜空を飾る夏の大三角形です。上がこと座のベガ、右下がわし座のアルタイル、そして左下が、えーと……」
たどたどしい口調で星座の解説を始めた。
そのつかさに、少しだけ既視感を覚え、胸の奥がキリリと痛むのを感じる。
「左のははくちょう座のデネブよ、距離ははっきりしてなくて1500から3200光年ってなってるわ」
「わぁぁ、お姉ちゃんすご~い、ゆきちゃんみたいだよー」
「いやみゆきには敵わないわよ」
元の姿勢に戻って、えへへとこちらに笑顔を向けるつかさの頭を、ぽんぽんと撫でてやる。

宇宙には未だに謎が多い。
というより、明らかになった部分が全体の1%にも満たないといった方が正しいだろうか。
だからこそ宇宙には到底推測すら及ばないロマンがあるのだろう。
それを、伝えたかったのだろうか。
いや、きっとこれも間違いだ。

「えへへ、今日はたくさん星が出てるね♪」
横でつかさがまた笑った。
つかさはさっきから言葉の度にえへへ、あはは、と笑顔を作っていた。
この子は星が好きだっただろうか。
いや、私の知る限りではつかさは星に強い興味を持っていない。
「お姉ちゃん、教えてくれてありがと~」
そう言うと、つかさはまた笑顔になった。

その笑顔を見て、私ははっとする。
ああ、やはり、そういう事だ。
伝えたいとか、そういう事じゃないんだ。
どんな形でも良い、ほんの少しでも幸せだったり、嬉しかったりしてもらえれば。
人々の役に立つ事が、それが幸せだったわね……。
作中で何度も本人がそう言っていた事を、今更になって思い出す。
それは作られた幸せなのか、本人が見つけた幸せなのかはわからない。
でも、それを求めて何年もずっと、あそこにいたのが、彼女だった。

私はあの話が好きで、もっと近付きたいと思った。
世界にも、登場人物にも、近付きたいと思った。
だからこうやって、普段は気にもとめない星空を眺めて、彼女の事を考えて。
これじゃまるで、こなたじゃないか。
あいつの言葉が頭をよぎる。
『かがみもこっち側だからねー』
あの時は否定したが、今はすんなり理解出来そうだ。
私も、人のことは言えない、という事だ。

「あ! 流れ星ー!」
つかさの声と同時に、その指が空へと向けられた。
その先にはゆっくりと大地に降り注ぐ流星があった。
私は目を瞑り、心の中でそっと、三度唱えた。

『ここではない地球が、いつまでも平和でありますように』






「いやぁ、かがみから誘われるなんて初めてだったから何かと思ったらさぁ、まさかこことはねぇ!」
「うっさい、何か不満か?」
「いえいえ、随分乙女チックだにゃ~と」
「えへへ、お姉ちゃんは星の事詳しいんだよ~」
「いや詳しくないって、みゆきの方が詳しいわよ」
「あ、いえ、天体に関しましては、お恥ずかしいのですがあまり自信が……」
「えー、プラネタリウムはいかがでしょう、どんなときも」
「うるせえ! 人前でネタを披露すな!」
「お、かがみが反応した。……意外だ」


fin


















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