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Lucky☆Fleet

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♪ピーンポーンピーンパーーーン……


 旅人たちが静かにざわめく広いホール。世界中どこの空港でも共通の、旅好きには聴き慣れたチャイムが響く。

 ここは東京国際空港。空港コードRJTT。
 巨大な翼を広げたような新旅客ターミナル。通称、ビッグバード。

『……陵桜航空、関西空港行き972便は、まもなく皆様をご搭乗機へご案内いたします……』
 広いロビーに、搭乗案内のアナウンスが鳴り渡る。
『……なお当便は、普通のお客様はご搭乗になれません。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者のお客様は、99番搭乗口よりご搭乗ください……』

 ボーディングブリッジから漏れ聞こえてくる、ネタ仕込みのアナウンス。
「……あのバカ……」
 陵桜航空972便……ボーイング777-200のコパイシート(副操縦士席)で、柊かがみは頭を抱えた。



  ――――――――――――――――
      『Lucky☆Fleet』
     とんでけ!セーラーふく
  ――――――――――――――――



 ―×―  ―×―  ―×―  ―×― 


「おまたへー」
 数分後。かがみの背後……キャビンの扉がガチャリと開き、のほほんとした声がした。
「やぁっと戻ってきたわね……ったく、遅いわよ、泉機長!」
 チェックシートの束をパタパタやりながら、振り返りもせずにかがみが叱る。
「ごめんごめん、コパイのかがみん」
「……なんか嫌な含み感じるわね、その言い方」
 R2キャビン(客室中央部)担当のCA(キャビンアテンダント)・高良みゆきの豊かな胸元を思い浮かべながら、釈然としない表情のかがみ。

 夏場のパイロットは、ノージャケットである。泉機長……こなたの純白のシャツの肩で、四本の金筋が誇らしげに光っている。
 とはいえ、コパイシートに座るかがみも、肩の金筋は四本。
 二人ともキャプテン(機長)の資格は持っているが、レグ(乗務)が妙にかち合うこの二人。ジャンケンに負けたので、今日はかがみが女房役、というわけだ。
 ……割れ鍋に綴じ蓋。陵桜航空の配置担当は、なかなか人を見る目があるようだ。

「いやー、トーイング(牽引車)とマーシャラー(誘導係)の兄さんたちとモン○ン談義で盛り上がっちゃってさー」
 機長のアホ毛がびよよん、と揺れる。
「あんたかっ! あっちこっちのグランドクルー(地上職員)をネトゲに引きずり込んでるのはっ!」
 首のところでまとめた副操縦士の髪。その端がぴょこん、と跳ね上がった。

 搭乗前のブリーフィング(打ち合わせ)を終えて機体へ向かったパイロットは、搭乗口のところで一度別れる。機長は外へ、副操縦士は操縦席へ。
 機長は機体を隅々まで見回り、異常がないか目視で最終確認を行う。
 副操縦士は、計器類のチェックやウェイポイント(飛行経路)の入力などをこなしていく。
 プリフライトチェックのあとも、整備士から整備状況の報告を受け、CAとのブリーフィングを行い……
 やるべきことは、山ほどある。それこそ、山のように。

 ……グランドとダベってる暇など、ないはずなのだが。

「よいせっ、と」
 左側に位置するキャプテンシート(機長席)。その座面に座布団を三枚積み上げ、こなた機長がようやく着席。
 足元のラダーペダルには、特注の高下駄が履かされている。
 たしか、航空大学校には身長制限があったはずよね……と、かがみは思う。陵桜航空七不思議のひとつである。

「ほら、チェックリストいくわよ」
「ほいよー」

 ひとつ間違えれば大惨事につながる旅客機の操縦は、膨大なチェックリストをもってその安全を確保されている。
 タキシング(地上滑走)、テイクオフ(離陸)、クライム(上昇)、クルーズ(巡航)、ディセンド(降下)、ランディング(着陸)。
 そしてスポットイン(駐機)後に至るまで、パイロットたちは何度も何度も、チェックリストを読み合わせるのだ。

「ふゅえるくおんてぃー」「67.4」、「ていくおふでーた」「Set and check」……
 チェックリストを読み上げるこなたの声に、合いの手を入れるようにかがみが返す。こなたの発音がベッタベタなのはご愛嬌である。

……「あいえいえすせれくた」「Set」、「へでぃんぐせれくた」「Set」、「でぱーちゃーぶりーふぃん」「Accomplished……ああそうだ、機長」
「こなたでいいってばー」
「けじめよ、けじめ。……それはともかく」
「んー、何?」

「いいかげん、搭乗アナウンスにネタ仕込ませるのはやめないか?」
「ツカミのネタ、あこんぷりっしゅ」
「そんなもんチェックリストに入れんなっ!」


 ―×―  ―×―  ―×―  ―×― 


「とーきょーぐらんど、りょうおうえあー972。 りくえすとたくしーふぉーていくおふ」

 こなたがグランドへ、タキシングを申請する。
 ここで言うグランドとは、空港内での地上誘導・管制を行うセクションの事である。
 前方以外にはまともな視界のない巨大な旅客機がひしめき、無数の作業用車両が走り回る空港内では、交通整理も重要な業務のひとつだ。

『Ryouoh Air 972, taxi to and hold short approve. Runway 34L, using taxiway India, Whisky 5, Oskar, Alpha 1. Contact tower on 124.35 when ready.』
 グランドより指示。I→W5→O→A1誘導路を経由して、滑走路34Lへの誘導指示。離陸準備ができたら124.35メガヘルツで管制塔と交信せよ。

「たくしーとぅーあんどほーるどしょーと、らんうぇい・すりー・ふぉー・れふと……」

 ベタベタながら、こなたは英語での復唱をこなす。
 たとえ日本の国内線であっても、航空機の無線交信は英語が基本だ。
 まず英語が話せなければ、パイロットの仕事など夢のまた夢である。……発音はともかく。

「……たくしうぇい、いんでぃあ、うぃすきー・ふぁいぶ、おすかー、あるふぁ・わん、りょうおうえあー972。……んじゃいこっか、かがみん」
「あんたさー、英語は苦手だったんじゃなかったっけ?」
「ん、ぼく管(ぼくは航空管制官)で覚えた」
「……ああ、そうでしたね。そういうお方でしたね」


 トーイングカーが機体から離れる。タクシーアウト。
 スロットルをじわりと開け、機体が動き出したのを確認して少し戻す。
 巨大な鉄の鳥が駐機場を離れ、自力で誘導路へと進み始める。

 操縦桿を握るのは、今日はかがみ。
 旅客機の運行において、機長と副操縦士には固定された分担はない。一方が操縦を、もう一方が交信やモニタリングを行うのである。

 純白をベースに、紺色と黄色、そして白い二本のラインがあしらわれた陵桜航空の777は、誘導路Oを抜けてA1へと向かう。
 ちなみに陵桜航空には、紺と黄色の代わりに臙脂色とピンクが配された機体も存在する。
 何がモチーフなのかは、もはや言を待つまでもないだろう。

『Ryouoh Air 972, hold short. Japan Air 1178 is landing.』
 滑走路を目の前にして、グランドから待機指示が出た。
「ちぇー、待てってさ」
 シートバックに背中を預け、こなたが口をとんがらせる。

 ラッシュアワーの羽田は、まさに超過密スケジュールだ。
 離着陸は五分に一機。われらが陵桜航空972便も、滑走路の手前で順番待ちを食らっていた。
 方位16……160度、つまり南南東からファイナルアプローチ(最終着陸態勢)に入る、日本航空のB737-800。
 その後ろで、ゴーアラウンド(着陸復行)を食らった全日空のエアバスA320が、再上昇に転じていく。
 決められたルートに沿って旋回し、もう一度着陸のやりなおし、ということだ。

「はー……羽田は相変わらず混んでるわねぇ」
「その先にワクワクドキドキのない行列は嫌だなぁ」
「バカ言ってないで、パッセンジャー(乗客)にご挨拶でもしときなさいよ」
「そだネ」

 受話器を取り上げ、コールすること数回。
「はい、R1柊、聞いてるよ~」
 R1(客室前方)担当のCA、柊つかさが受話器を取った。二、三言交わした後、マイクが客室内に繋がった。

『……えー皆様、本日は陵桜航空にご搭乗いただき、ありがとじゅーす。私は当便の機長を務めさせていただきます、泉こなたです』
「おぉおおおおおおおっ!!」
 沸き起こる歓声。客室内のテンションが一気に高まる。
 乗客総立ち……といいたいところだが、座席の背、肘掛け、テーブル、足置きを元の位置に戻し、シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めいただいているのでそうもいかない。

「な、なんなのよこのテンション……」
「ま、ダテにコスプレ喫茶でバイトはしてなかったってことだヨ」
「意味がわからん」

 ちなみにこの会話、まるっぽ客室に筒抜けである。

『まあいいわ。マイク貸して、私がやるから……
 ……あっ、失礼しました。……えー、副操縦士の柊かがみです。当機は定刻出発、到着予定時刻は現在のところ、定刻の予定です。到着地の気温は三十度、天候は晴れ……』

「ハレ、と申したか!!」
 そのキーワードに、乗客たちがすばやく食いついた。
「ハーレハレ! ハーレハレ! ハーレハレ! ハーレハレ!」
 客席から湧き上がる『ハレハレ』コール。

 さもありなん。この便の乗客の大半は、オタクの祭典・コミックマーケット帰りのご一行様なのである。

「……うずうず……うずうず」
 ふと横を見ると、そこには武者震いを抑えきれない泉機長の姿。
「? 何よ、こな……機長?」

「……ちょっと客室行って、ハレハレ踊ってくる!」
「まともに飛ばしなさいよっ!!」


 ―×―  ―×―  ―×―  ―×― 


 ……クリアード・フォー・テイクオフ、ようやくの離陸許可。972便は34L、北北西向きの滑走路へと進入する。
 昔はここで一度停止し、離陸許可を申請したものだが、今は進入前に離陸許可を受け、そのまま止まらずに離陸滑走を始めるのが一般的である。

 機体をセンターラインに合わせ、スロットルレバーを滑らせる。
 主翼下のエンジン……二基のプラット&ホイットニー社製PW4077が、その低い唸りを甲高い咆哮へと変える。

「…………えいてぃーのっつ……」
 速度、80ノット。鼓膜を震わせる轟音の中、速度を読み上げるこなたのゆるい声が混じる。
 操縦桿を握る、かがみの手に力がこもる。

「………………ぶい・わん」
 V1、離陸を中止できる最高速度に到達。もう何が何でも上がるしかない。……間髪をいれず、
「ぶいあーる」
 Vr、ローテーション(機首上げ)速度に到達。操縦桿を静かに引き寄せる。

 二人の操るボーイング777が、ゆっくりと機首を上げる。
 主翼いっぱいに風を受け、フラップによって揚力を増した機体が、見えない何かに引かれるように地上を離れる。

 ジュラルミン製の軽くしなやかな主翼をしならせて、972便は重力の束縛を振り払い、一番星が瞬く夕暮れの空へと駆け上っていく。

「ぶいとぅー。……ぽじてぃぶ」
 V2、安全離陸上昇速度に到達。ポジティブ・クライム、機体の安定上昇を確認。

 機首上げ10度弱を保ちながらスロットルを少し絞り、速度を抑える。
 あとはこのままの速度と上昇率を保ち、ランディングギアアップ、フラップアップ……

「……ぶい・すりゃーっ!!」
 やおら、宮内洋が乗り移ったかのようにこなたが叫んだ。
「そんなコールアウト(宣言)ないわよ。つーか、あんた一体いくつだ」
 ツッコミに特化した副操縦士が、おとぼけ機長に暖かいジト目を送っていた。


 ―×―  ―×―  ―×―  ―×― 


「とーきょーでぱーちゃー、りょうおうえあー972、えあぼーん、なうりびんぐわんさうざん。くらいみんぐとぅーえいとさうざん」
 東京デパーチャー(出発管制セクション)へ、陵桜航空972便より。航空輸送、現在高度1000フィート。8000フィートへ上昇中。
『Ryouoh Air 972, Left turn, heading270. Crimb and maintain FL120.』

 デパーチャーの指示は、方位270度(真西)へ左旋回、上昇して高度12000フィートを維持。
 ATC(航空交通管制)に従ったフライト。航空機は各管制区から指示を受け、決められた高度や方位を守って飛行する。
 広大に見える空には、MDBやVORといった航空灯台によって形作られた、見えない交通路が存在する。どこでも勝手気ままに飛んでよいわけではないのだ。

「れふったーん、へでぃんぐつーせぶんぜろ。くらいむあんどめいんていん・ふらいとれべるわんつーぜろ、りょうおうえあー972」
 オートパイロットとオートスロットルのマスタースイッチをオン。ダイヤルを回して高度、速度、飛行方位を設定し、各機能のスイッチを入れる。
 スロットルがひとりでに動き、777は自動的に上昇・旋回を始めた。

 オートパイロットとはいっても、旅客機のそれは完全なフルオートではない。設定した高度や速度、飛行方位を維持するように、スロットルや各動翼を自動制御する。
 トラブルでも発生しない限り、パイロットはATCの指示に合わせ、それらを調整して巡航していく。
 離着陸のわずかな時間を除けば、現代の旅客機は操縦桿やスロットルではなく、ダイヤルとボタンで飛んでいるのだ。


「ベルト着用サイン消すわよー」
「ふーい。……いや~、やっぱ緊張するねえ、魔の十一分は」
「とてもそうは見えなかったけどね」
「ぶー。失礼だなー、かがみは」

 離陸滑走から三分、着陸前八分、合わせて『魔の十一分間』。機体が不安定となり、もっとも事故が起こる確率が高い、緊張の時間である。
 逆に言えば、ここさえ凌げば、旅客機の運行は比較的安定している。
 まずは前半戦を終えた、陵桜航空972便。コクピットに安堵の空気が流れる。

「……さてと」
 こなたがベルトを外し、席を立った。
「どこ行くのよ、機長?」

「……いや、今度こそハレハレ踊ってこようと思って」
「やらんでいいっ!!」



 ――そんなこんなで。
 陵桜航空は、今日も定刻どおりの安全運航……

「はわわっ、なんじゃこりゃーー! からまっちゃったよ~」
「つ、つかささんっ!! フライト中にドアをディスアームド・ポジション(ロック解除)にしちゃだめですっ!」

 ……客室のほうは、見なかったことにしよう。



― Good day. ―

















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  • 例えばタービュランス(乱気流)やエンジンフェイルなんかの緊急事態で大活躍するコンビをみてみたかったり(やや不謹慎気味)


    あと、高良財閥私設空軍や私設海軍空母から戦闘機隊がピンチを救いに駆け付けたりとか見てみたいかもです。 -- 名無しさん (2009-02-07 17:51:50)
  • 俺は分からないながらも楽しめたぞ。できることなら続編希望。
    嵐などの悪条件下のランディングという難任務を、彼女達はいかにこなすかを見てみたい。 -- 名無しさん (2009-02-07 13:02:57)
  • …まったくもって分からない話でしたwwww -- こなたLOVE (2008-08-25 19:01:39)

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