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ハッピーエンド・ストーリー 後編

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だれでも歓迎! 編集
 シンデレラが王子様に見初められ、結婚して、幸せに暮らすことになれば私の役目はそ
こで終わるはずでした。
 おとぎ話はハッピーエンドで終わるのが定番です。おとぎ話のハッピーエンドといえば
王子様と結婚すること、これも定番です。
 つまり、大抵の物語は主人公が結婚したところで話が終わってしまうのです。古今東西、
恋を題材にした物語はそうなっていることがとても多いのです。
 しかし私はシンデレラがお城に招かれた時点で『シンデレラは王子様と結婚していつま
でも幸せに暮らしました』と話を結ぶことができませんでした。それはちょっとしたイレ
ギュラーが発生したせいなのですが、今度こそ万難を排してシンデレラが幸せになるまで
物語を進行させなければなりません。これまでのお話はただテンプレートに乗せるだけで
良かったのですが、これから先はどうすればよいのか指針となるものが何一つなく、この
先にどんな出来事が待ち受けているのか、何もわかりません。
 はっきりしているのはただ一つ、シンデレラは幸せでなければならないということです。



「よくこんなにレパートリーがあるよね。毎日毎日」
「それが私の仕事デス。趣味でもありマスが」
 シンデレラは舞踏会の時とも王子様と『再会』した時とも違う、幼い可愛らしさを引き
立てるようなふわっとしたデザインのドレスに身を包んでいます。ちなみに侍女のパティ
はフリフリのメイド服を着ており、見方によってはこっちの方が派手とも言えます。
「でも靴は毎回ガラスの靴なんだよネ」
「それは基本ですカラ」
「でも履きづらくってしょうがないよ。毛皮の靴とかじゃだめなのかな」
 お城に妃として招かれてから数日、毎日ガラスの靴を履いていたので少しは慣れてきて
いるようです。
「ツカサ王子からの申し立てで、コレを基本に服を仕立ててくだサイと。特に毛皮製の靴
は固く禁じられてイマス。その靴はお二人の馴れ初めですから愛着があるのでショウ」
「だからそれは違うんだって。こんな靴で踊れるわけないし。それに王子様の名前が」
「おっとそれ以上は言わないでクダサイ」
 パティは厳しい口調でシンデレラの言葉を遮りました。
「シンデレラは今シアワセデスカ?」
「幸せ……だよ」
 シンデレラは現在の自分の生活に思いを馳せました。王宮暮らしというだけあって毎日
が庶民だった頃には考えられなかったご馳走で、綺麗な服をいっぱい着られて、身の回り
の世話は全部お城に仕える召使がやってくれます。それはこれまでの境遇を思えば天と地
と言っていいほどでした。
つかさのことは……好きだし」
 それよりなにより、つかさという王子様に心惹かれているのもまた事実なのです。
「でも、王子様ってかが」
「シンデレラ、人物には役割というモノがありマス」
 パティは再び話を遮りました。
「役割?」
「例えばワタシの役割はこの城のメイドです。王様はこの国を治めマス。そして王子様の
役割はシンデレラを幸せにすることで、シンデレラの役割は幸せになることなのデス」
「それって哲学?」
「ワタシに言えるのはここまでデス」
 それからパティは、さっきの会話がなかったかのような人懐っこい笑顔で着付けを再開
しました。

「こなちゃん、おまたせっ」
 午後三時を少し過ぎた頃、テラスで待っていたシンデレラに、つかさ王子がクッキー
紅茶を持参してきました。
「ごめんね。執務が思ったより時間かかっちゃって」
「いいよ。真面目にやってたってことなんだよね」
 つかさがトレイに載せたクッキーの皿をテーブルに置き、二人分のティーカップに紅茶
を淹れると、とても安らかな香りがあたりを包みました。
「こういうのって私がやったほうがよかったかな」
「いいよ。私が好きでやってるんだもん」
 そう言ってつかさはシンデレラの隣に椅子を寄せ、腰掛けました。テラスから見下ろす
景色はとてものどかで穏やかなものなのですが、今は互いのことしか目に入っていないみ
たいです。
「やってるって……つかさが作ったの?」
「うん。意外だった?」
「意外だけど……なんか意外じゃないような気もする」
 改めてつかさの顔を見てみると、やはりこの人にはそんなことが似合いそうな気がして
きました。
 つかさはクッキーを一つつまんで、シンデレラの口まで運び、シンデレラは少し照れな
がら、『あーん』と口をあけてそれを受け入れました。
「美味しい?」
「うん」
 それはとても優しい味がして、思わず微笑んでしまうような美味しさでした。
「作るのが好きだけど、食べた人が喜んでくれるのが嬉しいんだ。美味しいって言ってく
れてよかった」
 花がほころんだようなつかさの笑顔にシンデレラは心奪われました。シンデレラの笑顔
がつかさを喜ばせたように、つかさの笑顔がシンデレラの胸を高鳴らせるのです。
「もう一つ。あーん」
 つかさはクッキーをもう一枚とって、シンデレラの唇に触れさせました。クッキーの厚
さの分だけ口を開いてそれを受け取ると、少し勢い余ってつかさの指先にキスをしてしま
いました。
「あ……」
「んっ……」
 二人とも真っ赤になって見つめあいました。ほんの僅かな触れ合いでしたが、まだ婚礼
前の二人は、こんなスキンシップも初めてだったのです。
「キスは結婚式の時って決めてるから」
 つかさは自分の指先を羨むように見つめ、そこにキスをしました。
「大好きだよ。こなちゃんは私のこと、好き……?」
 そして、手を繋いでシンデレラと指を絡ませあいます。いわゆる恋人つなぎです。
「うん。好きだよ」
 シンデレラは指を力を込め、つかさの手をより確かに感じます。
 自分がシンデレラと呼ばれるようになってからは感じることのなかった温もりを。
「ちょっと今更だけど、なんで私のことこなちゃんって呼ぶの?」
「シンデレラのほうがよかった?」
「シンデレラも普通にあだ名みたいなものだから呼ばれても悪い気はしないんだけどね」
 現につかさ以外の人はみんなシンデレラと呼んでいるのです。
「こなちゃんって呼んでくれるのはつかさだけだよ。つかさがそう呼んでくれるの好き」
「私専用なんだ……うん、それがいいよね」
 ただ一緒にいるだけで、幸せになれる。そんな二人は、お日様に見守られ、数日後に
控えた結婚式のことを話し合いながらおやつの時間を優雅に過ごしました。

「初々しい二人がいいっスねぇ……見詰め合っただけで赤くなって……たまんないっス」
 怪しい人も二人を見守っていました。
「互いに好きなのにずっと我慢し続けて、新婚初夜はハァハァ」
「こんなところで何をやっているのですか?」
 突然ひよりの後ろから声がかかり、身を強張らせました。
「!? こ、これは……」
 ひよりが恐る恐る振り返ると、雇い主である王様と、王様に付き従う背が高くて無表情
な騎士がいました。
「あなたの仕事は斥候だったはずですが」
「は、はい、今報告に上がろうと思っていたところで」
「それでは早々にお願いします」
 ひよりはガクガクブルブルと震え上がっていました。王様は始終にこやかに対応してい
ましたが、その笑顔の下には静かな怒りが秘められているようにも見えました。その後ろ
にいる騎士も全く表情が読めないため、ひよりはかなり怖がっています。
「ご苦労様でした」
 ひよりの調査結果を聞き終えてそれ以上咎めるつもりはないのか、王様はひよりを下が
らせました。そのままシンデレラとつかさのいるテラスに向かいます。
「お二人のところすいません」
「ゆきちゃん、みなみちゃん、そんなに堅苦しくなくてもいいのに」
「立場が立場ですから……つかささんの方こそそれはちょっと」
「あの、二人とも?」
 シンデレラはみゆきとつかさの会話に困惑しているようです。近衛騎士のみなみも口を
挟もうとしないのでこちらの方の扱いにも困っています。
「あなたは好きなように呼んでくれて構いませんよ」
「えっと、じゃあ、みゆきさん」
「はい」
「何か用……ですか?」
 色々と戸惑いがあって、敬語なのかそうでないのかはっきりしない言葉遣いになってし
まいました。
「先程お二人が話していた結婚式のことで、私もシンデレラから意見を伺いたいのです。
失礼ながらシンデレラの家庭の事情について調べさせていただきましたが、今の家族とは
折り合いがよくなかったそうですね」
「……はい」
「伺いたいことというのは、今のご家族を式に招待するかどうかということです。ご本人
が嫌というのであれば、無理してお招きすることもないと思います」
「それは……」
 シンデレラは悩みました。扱いが悪かったとはいえ、名目上は家族として共に生活して
いた人間のことで大いに悩みました。
「こなちゃん、無理しなくてもいいんだよ」
「うーん……意地悪されてたけど家族は家族だし」
「その『意地悪』の内容を聞いた私としてはお勧めし難いのですが……」
 なるほど。意地悪な継母と姉たちがいるとシンデレラはとても困るようです。彼女たち
はシンデレラの父の財産が目当てで擦り寄ってきたような女ですから、シンデレラが妃と
なったらたかりに来ることは間違いありません。シンデレラが幸せになるためには確実に
邪魔になるといえる存在です。
「ゆきおばさん、ゆい姉さん、ゆーちゃんが悪い人間っていうわけじゃないんだけど」
 そんなことはありません。そいつらは必ずシンデレラの幸せを妨害します。絶対に式に
来させてはなりません。強く反対しておいたほうが良いでしょう。
「ここで迷うようではやめておいた方がよいでしょう」
「そうだよね。仲直りしたければ後でもできるんだし」
 これで大丈夫です。悪役である継母と姉たちが結婚式に来ることはなくなりました。
 できれば、彼女たちはもう二度とシンデレラに近づくべきではありません。シンデレラ
が幸せな結末を迎えるためには不必要な存在であることに間違いないのですから。

 シンデレラの生家で、継母と二人の姉がまったりとお茶を飲んでいました。
「シンデレラが王子様と結婚かー。何が起こるかわからないもんだよね」
「そうだよね」
 ゆいとゆたかが肯きあいました。
 この三人がこのままシンデレラと金輪際関わりあいにならないのならば、彼女たちの存
在など気にかけなくてもよいのですが……。
「すっごい玉の輿だよね。もう私らなんか他人扱いかな。招待状来なかったし」
「こなたお姉ちゃんと離れ離れかぁ。もう会えないのかな……」
「お城に行ったら会わせてもらえるかな」
 やはり危険です。この期に及んでシンデレラを家族として扱おうとしているのはとても
危険な思想です。
 後顧の憂いは完全に断つべきでしょう。幸い、このケースに関しては見本があります。
どうせ存在そのものが用済みですから、その見本と同じやり方で始末してしまいましょう。
「さっきから鳩がうるさいね」
「結構いるよね。何十匹……百匹以上いるかな?」
 群れをなす鳩たちの羽音と鳴き声が次第に大きくなっていきます。非力な鳩といえど、
数がいれば十分に用を成すことができるでしょう。




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