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クッキー

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 薄力粉をふるいに掛ける音が、軽やかに響いている。
 台所でハミングしながらクッキー作りに勤しむつかさを、傍でかがみが眺めている。
「念入りね。それ、ふるいに掛けるの二度目でしょ」
「一度でもいいんだけど、何度か繰り返すと生地がよりきめ細かくなるんだよ」
「ふーん……」
 机の上には材料と調理器具が整然と並べられている。つかさはその一つ一つをテキパキと手に取り、作業を進めていく。
 室温に戻したバターをボウルへ入れ、泡立て器でクリーム状に。ふるいに掛けた白砂糖を加え、さらにまぜる。その中へ解いた卵を数個分、バニラエッセンスを数滴。またさらによくまぜる。次に薄力粉――
 普段のそそっかしさはどこへやら。手際の良さはまるでそれ自体が一個の芸術品だ。
 かがみも、こと料理と製菓に関しては、つかさを敬服する思いである。
「そのクッキー、出来たらどうするの?」
「んー」
 完成に近付いた生地をこねながら、つかさは思案する。
「半分は明日学校に持っていこうかな」
「そう……」
 こなたもみゆきも喜ぶだろう。つかさのクッキーはみんなから美味しいと定評がある。
 こなたなど、何かというとこのクッキーに釣られるぐらいだ。誕生日の時もそうだった。つかさのクッキーはいつも通りで好評で――
「お姉ちゃんも作ってみる? 材料、余ってるけど」
「えっ……」
 いきなり話を振られて、物思いに耽っていたかがみはハッとなる。
「わ、私はいいわよ。下手くそだし……」
「そんなことないよ。何事も慣れだし、私も手伝うから」
「だって私が作っても……こなたのことだし、どうせまた文句言うだけよ」
「私、こなちゃんの名前なんて出したっけ?」
 純粋だけど、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべるつかさ。
「あぅ……」
 ちょっとした自爆に気付き、かがみは顔を赤くする。
「お姉ちゃん、誕生日の時のこと、気にしてたの?」
「べ、別に気にしてるとかそんなんじゃないわよ! こなただってつかさの作るクッキーの方が嬉しいに決まってるんだから、私はそういうのはもういいの」
「それは違うよ」
「え……?」
 つかさの口調がいつになく真剣になる。
「料理やお菓子を作るのって、美味しく作るのはもちろんだけど、やっぱり食べて貰う人のことを考えて、気持ちを込めるのが大事だと思う」
「気持ち……?」
「うん。気持ち。だからお姉ちゃんが気持ちを込めて作れば、こなちゃんはきっと喜んでくれるよ。誕生日の時だって、口ではあんなこと言いながら、ちゃんと食べてたじゃない」
「……そうなのかな」
「うん。私が保証するよ」


「昨日、久しぶりにクッキー焼いたんだ。良かったらこなちゃんとゆきちゃんも食べてみて」
 昼食後のお昼休みではあるが、甘い物、しかもつかさのクッキーとなれば別腹も別腹だ。こなたとみゆきは喜んで袋入りのクッキーを手に取った。
「う~ん……やっぱつかさのクッキーは美味しいね」
「そうですね。甘さも焼き具合も程よくて、とても美味しいです」
「えへへ……ありがと」
 照れくさそうなつかさの横で、かがみは口数少なくちびちびとクッキーを囓っている。
「かがみ、どったの? 今日は何か静かだけど」
「え、いや、別に……」
「お姉ちゃんってば」
「わ、分かってるわよ。実はその……」
 おずおずと、かがみは小さな包みをこなたに差し出した。
「昨日、私も、またクッキー焼いてみたの……つかさに教わりながら」
「ほほう」
 キュピーンと目を光らせるこなた。その真意が読めず、微かに身を引くかがみ。
「その……良かったら試食してもらえないかなー、って……い、嫌なら別にいいのよ。自分で処理するから」
「まだ何も言ってないし、食べてみないとどうだか分かんないじゃん」
 そう言ってこなたはクッキーの包みを取り、一つ口に運んだ。
「ど……どう?」
 自分でも何でこんなに緊張するのか分からないまま、かがみはこなたの反応を待つ。
「ん……」
 食べ終えたこなたは一つ頷いた。
「やっぱりつかさのに比べるとちょっと出来が粗いよね。形も歪だし」
「……そう」
 かがみはがっくりと肩を落とす。やはり自分にこういうのは不向きなのだ……そう思い、ため息をつく。
「でも――」
「え?」
「前より美味しくなってるかな。これなら次も楽しみだよ」
 純粋な笑顔でそう言いながら、こなたはもう一枚、かがみの作ったクッキーを摘んだ。
「ほ、ホントに!? 美味しいの?」
「だからそう言ってるじゃん。美味しいよ」
 こなたはモグモグとクッキーを頬張りながら答える。
「あ、その、えっと……」
 顔を真っ赤にしたかがみは、何と言うべきか咄嗟に出てこず、金魚みたいに口をパクパクさせる。端から見ると馬鹿みたいだ。
 見かねたつかさがその背中を軽く叩いて、ようやくかがみは落ち着きを取り戻した。
「あ、ありがとう……こなた。御世辞でも嬉しいわ」
「ん? ふぉんどのごどだって――」
「口に物詰め込んだまま喋るな」
 リスみたいにほっぺたを膨らませていたこなたに、かがみが瓶入り牛乳を差し出す。口の中の物を流し込んだこなたは、ホッと息を付いた。
「ホントのことだってば。みゆきさんも食べてみなよ」
「いいんですか? それってかがみさんがこなたさんに作ってきたんじゃ……」
「え? そうなの?」
「ちょっ……み、みゆき何言い出すのよ!? そんなこと誰も――」
「うんそうだよ。お姉ちゃん、こなちゃんに喜んで欲しくて頑張ったんだよね」
「つ、つかさーっ!!? 」
 思いっきり暴露されて顔から火を噴くかがみ。こなたはにんまりと笑みを浮かべて、その様子を見つめる。
「へぇー、かがみってば私に喜んで欲しくてクッキー作るの頑張ったんだ……いつの間にやらそんなフラグが」
「なっ、ち、違っ……!」
「うむ! 今のかがみのデレ度は、『長田は竹宮流の代表だッッ』って言った瞬間の藤巻に匹敵しているッッ!!」
「いきなり誰だよ!? ていうかデレてなんかないし!」
「照れなくてもいいんだよ。私とかがみの仲じゃんか。思う存分デレてくれたまへ」
「しないわよそんなの! ああもうっ、私自分の教室帰るから!」
 うっかり椅子やら机やら蹴り飛ばしてしまいそうな勢いで、教室を出て行くかがみ。
「ああ、ちょっと待ってよかがみ~! まだ昼休みも残ってるのに――」
「ついてくるなーっ!」
 生徒達の怪訝な視線を尻目に、こなたとかがみは騒がしく教室を出て行った。


「……こなたさんとかがみさん、本当に仲が良いですね」
 静かになった教室で、みゆきがつかさに話しかける。
「うん。私が最初にこなちゃんと友達になったのに、いつの間にかお姉ちゃんが一番仲良しになっちゃってるね」
「つかささん、ひょっとして……焼き餅とか?」
 みゆきの問い掛けに、つかさはいつも通りにこやかな表情で首を横に振る。
「そんなことないよ。私、お姉ちゃんもこなちゃんも大好きだから、二人が仲良くしてるのが凄く嬉しいんだ」
「そうでしたか。失礼な質問をしてすみません」
「別に謝らなくていいよ。確かに、ちょっと寂しいかなって思うときもあるし……あ、クッキーまだあるから良かったら」
「はい、いただきます」
 勧められるまま、みゆきはクッキーを一枚口に運ぶ。
「美味しい……つかささんは、お菓子や料理を作るのが本当に好きなのですね」
「うん。作るのを好きっていうのもあるけどね。やっぱりそれを食べた人が、美味しいって喜んでくれるのが好きなのかな。だから頑張っちゃう」
「なるほど……つかささんは、人の幸せを自分の幸せに出来るのですね。とても素晴らしいことだと思います」
「そ、そんな大したことじゃないってば……えへへ」
 つかさが照れ笑いしていたその時、
「かがみーっ! どこ行ったーっ!?」
 そう叫びながらこなたが凄い勢いで教室に飛び込んできた。
「こなちゃん? どうしたのそんなに慌てて」
「いやぁ、あの後、逃げるかがみを追いかけて走り回ってたら、何か向こうがムキになってきて……マジで見失っちゃったから、学校中探してるんだよ」
 つかさとみゆきがまったりお話している間に、こなたとかがみの間では本格的なハイド&シークが始まっていたらしい。
「それは大変ですね……」
「うん。とりあえず助っ人もいるんだけど」
「助っ人?」
「おーい、ちびっ子ー! 柊そっちにいたかー!?」
 廊下の向こうから響いてきたのは、かがみのクラスメイトの日下部みさおだ。
「いないみたーい! ……そういうわけで、泉こなた他一名はかがみん捜索ミッションを遂行してまいります!」
 ビシッと腕を上げて敬礼し、こなたは風のような勢いでその場を去っていった。 
「……ああいうのも、仲が良いからこそ、なのでしょうか?」
「多分……」
 戸惑うみゆきに、つかさは曖昧に微笑むしかなかった。


おわり



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