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Laugh and Laugh

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「…………」
「…………」

ある秋の日、太宮のレストラン。私は今、とてつもない気まずさを感じながら、
ある人と向かい合っている。
その人はゆたかではない。ゆたかは今席を外している。いま、私の目の前にいるのは、
「……ええっと……」
「……なんですか?」
「あっ、えっと……な、何でもない、です……」
同じ高校の先輩、柊つかさ先輩だった。


Laugh and Laugh


……事の始まりは、私とゆたかがこのレストランに入った時の事。
少し早めのお昼を食べようと、ガラガラの店内を見渡していると、
「あれっ? ゆたかちゃん? ……と、みなみちゃん?」
横から突然、私たちの名前が呼ばれた。その方へ顔を向けると、
「えっ? あ、つかさ先輩!?」
「あ、やっぱり~」
頭にカチューシャの様なリボンをつけて、ニコニコしている先輩がその窓際の席に
座っていた。

「どうしたの? こんな所で。二人でお買い物?」
つかさ先輩は私達の持っている紙袋を見ながら尋ねた。
「あ、はい! そうです。つかさ先輩も、ですか?」
「え、あ……う、うん、そんな所……かな?」
ゆたかが尋ねると、つかさ先輩はなぜか少し歯切れの悪い返事をして、ちらっと
窓の外を見た――気がした。

「あ、二人とも、一緒にこの席で食べない?」
「え、いいんですか?」
「もちろん!」
「そ、それじゃあお言葉に甘えまして……」
「……よろしくお願いします……」
私達はつかさ先輩に促され、一緒の席についた。ここまではよかったのだが……

「あ、あの、お手洗い行ってきます」
料理の注文が終わった後、ゆたかが席を外してから、少し雲行きが怪しくなってきた。
「…………」
「…………」
長い沈黙が続いたのだ。さっきまでゆたかと楽しそうに会話をしていたつかさ先輩は、
私と二人だけになると、突然そわそわして、何も言わなくなってしまった。たまに私と
目が合うと、ビクッと反応してすぐ目を逸らしてしまう。どうやらつかさ先輩は、よく
人見知りをする人のようだ。そういえば、私とつかさ先輩が二人きりになったことは
ほとんどない。つかさ先輩が少しおどおどしてしまうのもわかる気がする。
私も何か話題を……と思って考えてみるけど、ほとんど初対面の先輩と共有できる話題が見つからず、結局何も言えなかった。



そして冒頭に戻るわけなのですが……
「……ゆたかちゃん、遅いね?」
「……はい……」
「…………」
「…………」
この様なやり取りだけで数分が過ぎてしまった。
何も話題がない。でも、先輩も何かを言う気配はない。長い沈黙は息苦しい。
だから、何か言わなくちゃ……

「あ、『あの……』

そんな私の気持ちとは裏腹に、間はうまく合ってくれなかった。つかさ先輩も、私と
同時に何かを言いかけた。
「あ…み、みなみちゃん、お先にどうぞ」
つかさ先輩が私に発言権を譲った。
「……いえ、つかさ先輩から……」
でも、私は沈黙が気詰まりだったから話しかけただけで、何も言うことはない。だから
つかさ先輩に発言権を譲り返した。
「いえいえ、みなみちゃんから……」
「……いえ、先輩から……」
このような譲り合いが数回続いた後、結局私から話す事になった。


……でも、何を話せばいいんだろう……あ、そういえば……
「……つかさ先輩」
私は今日初めて会った時のつかさ先輩について聞いてみた。
「今日、つかさ先輩と会った時、ゆたかの質問に答えにくそうにして、その後ちらりと
外を見ましたけど……あれは、どうしてですか?」
「え? あ、あの、それは…えーっと……」
つかさ先輩は私の質問に少し答えにくそうにして、「た、大した事じゃないんだけど……」
と前振りをして、窓の外を指差しながら、苦笑いを浮かべて、
「じ、実は、今日隣のデパートで洋服のセールがあって、そのためにここに来たんだけど、
早めに来たと思ったら着いた頃にはもう人だかりがすごくって……」
というところまで言って、つかさ先輩は急に少し青ざめたような顔になった。

「……? どうしましたか? 先輩」
私が心配そうに話しかけると、
「……えっ? あ、ご、ごめんね。なんでもないの。えーっと、そ、それで、開店と同時に
その人達が一斉に動き出して、私はその流れに巻き込まれちゃって、全然売り場まで
行けなくて……」
つかさ先輩は、一旦は話し始めの苦笑いに戻ったけど、続きを話す内に、少しずつ落胆
したような表情になっていった。

「……それで、服は買えたのですか?」
私が尋ねると、つかさ先輩は首を横に振り、
「結局何も買えなかったの。ただ流されるだけで、やっと止まったと思ったらもう
売り場は通り過ぎてて……私、もうそれだけでとても疲れちゃって、」
「……休憩するために、このレストランに入ったのですね……」
「う、うん……」

……あまり聞いてはいけない事だったかな……
まだ少し俯き気味のつかさ先輩を見て、私はそう思った。


「……私も……」
「えっ?」
俯いていたつかさ先輩が顔を上げた。
「……私も、そんな経験があります……よく、セールとかには行くので……」
「えっ、そうなんだ」
つかさ先輩は少し驚いたような顔をした。

「……はい。他にも、買い物での失敗は、よく、あります。例えば……」
そう言って、私は今までの失敗談をつかさ先輩に話した。
セール品をたくさん買ってレジに行ったら、それがお一人様一品限りだった事。
30%引きだと思った商品が、30円引きだった事。
その他にも、いろいろ。
そんな話をしている内に、私自身がいつもより饒舌になっている事に気づいた。私に
とっては、これは驚くべき事だった。
いつもなら、言いたい事があっても何も言えずに黙ってしまうのに、今、つかさ先輩と
話している私は、お母さんやみゆきさん、ゆかりさん、そして、ゆたかと話をしている
ようである。

……ゆたか?
あぁ、そうか、と思って、私はつかさ先輩を見た。
私の話に、
「へぇー、そうなんだ」と驚いたり、
「うんうん、わかるよー」と、頷いて同意したり、
「私もねー」と、笑顔で自身の話をしたり。
少しおっちょこちょいな所、くるくる変わる表情、特に、本当に嬉しそうな、眩しい
くらいの笑顔。


「――ていう事もあってね……あれっ? どうしたの? みなみちゃん。何か、ボーっと
しちゃって……」
「……えっ? ……あ、いえ、何でも……」
考え事をしていた私に、つかさ先輩の言葉にふっと我に返った。
「……そういえば、つかさ先輩が、私に聞きたかった事って、何ですか?」
そして、一番初めの事を思い出して、こう言った。

すると、つかさ先輩は唇に人差し指を当てて、少し考え込むようにうーんとうなった後、
「……えっと、もういいや」
と答えた。
「……えっ、どういうこと…ですか?」
私が理由を尋ねると、つかさ先輩は、
「……実は、さっきの話に熱中しすぎちゃって、何を聞こうか忘れちゃって……」
と、頬を指で掻き、苦笑いを浮かべながら答えた。


あぁ、やっぱり、と私は思った。
つかさ先輩は、どことなく、ゆたかに似ているんだ。明るくて、眩しいくらいの笑顔を
持っていて、少し抜けている所もあるけど、健気で、純粋で。
だからこんなにも話しやすくて。

でも……とも私は思う。同じ明るくてまぶしい笑顔でも、ゆたかとつかさ先輩とでは、
少し違う気がする。
例えるなら、ゆたかの笑顔が夏の太陽なら、つかさ先輩の笑顔は、春の太陽。
冬に積もった雪をゆっくりと融かしてくれる、暖かで、柔らかい日差し……

「……ふふっ……」
そんな事を考えたからなのか、さっきのつかさ先輩の「忘れちゃった」発言のせいなのか、思わず笑みがこぼれてしまった。

「あ……す、すいません」
私は少し顔を俯かせて、頬を朱に染めながら謝り、ちらっとつかさ先輩の顔を見た。
つかさ先輩は少し驚いたような顔で、
「……みなみちゃんの笑顔、初めて見た」
と言った後、今まで私が見た中で、一番嬉しそうな笑顔を作って、
「――とっても可愛いね」
と言ってくれた。
私は、つかさ先輩の言葉がとても嬉しくて、
「……ありがとう、ございます」
と言って、私に今できる最高の笑顔を、先輩にプレゼントした。




「あ、そうだ。みなみちゃん、お料理って、自分で作ってる?」
「あ、はい。たまに……」
「じゃあ今度の……」
「え、いいんですか?……」


「……やっぱりすごいなー、つかさ先輩って」
お手洗いを済ませた後、私はつかさ先輩とみなみちゃんが話をしているのを見て、
改めてつかさ先輩のすごさを確認していた。
私もつかさ先輩と話をしてると、まるで魔法にかかったみたいにとっても楽しくなって
くるんだよね。
みなみちゃんも、つかさ先輩と会話を始めてまだ5分くらいなのに、もう私もめったに
見ないような笑顔で話をしてる。本当に、楽しそう……

「……あ、ゆたか……」
「え、あ、ホントだ。おーい、ゆたかちゃーん! こっちこっちー!」
と、みなみちゃんが私に気づいて、つかさ先輩は私に向かって手を振った。
私は「はーい」と返事をして、手を振りながら駆け出した。
親友のみなみちゃんと、「笑顔の作り手」、つかさ先輩のもとへ――









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コメント:
  • つかさ…最強説…(‘ε’) -- チャムチロ (2012-10-28 17:00:14)
  • みなみはオレのヨメ -- らきすた (2010-03-15 02:26:42)
  • おお、ほのぼの。さすがつかさ・・・。こんな雰囲気の作品もいいですね。 -- 名無しさん (2008-10-14 14:11:05)

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