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おかあさん

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匿名ユーザー

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「う~、眠い~」
目を擦りながらペタペタと廊下を歩く。
昨日深夜までゲームやってたから、眠くて仕方ない。
いや、あの時間はもう今日だったっけ? その後流れで深夜アニメを見ちゃったし。
どーしてあのアニメ、日曜25:00なんて時間にやるんだろう。
お陰さまで翌日に響く人が日本中に何人も……
「あ、こなた。おはよう」
台所から聞こえてきたのは、夏でも冷たい朝の空気のように澄んだ声。
ご飯の炊けるいい匂いと、リズムを刻む包丁の音。
そこに立つ、長い髪の女の人。
「ん、おはよう、お母さん」

「「「いただきま~す」」」
のっそり起きてきたお父さんも一緒にご飯を食べる。
ご飯とアジの干物、ワカメのお味噌汁にほうれん草のおひたしという、いかにも一般的な朝ごはん。
でも、お父さんが作るよりも、私が作るよりもずっとおいしい朝ごはん。
「う~、どうしても味噌汁の味だけは勝てない……」
「ふふ、私のはたっぷりと愛が入ってるからね。こなたと、そうくんへの」
その幸せ者のお父さんは、さっきからこっくりこっくり舟をこいでる。
確か、原稿に詰まっているって言っていたけれど。
わわっ、お父さんの前髪が味噌汁の中に!!
「もうっ、そうくん。昨日夜遅くまで起きてるからだよ」
すぐにお母さんはお父さんの前髪をタオルで拭いてあげる。
仲のよい、夫婦の風景。
お互いしっかりしているようで、お互い抜けているところがあって、それを二人で補い合ってる。
そんな理想的な夫婦の風景。
「んぁ? かなた、今日って何曜日だっけ?」
「もうっ、今日は月曜日。確か水曜日が締め切りの原稿、あったんじゃないの?」
ビクっ、とお父さんの身体が震える。
さすが作家、締め切りという言葉には敏感だ。
「うう~、書けない~、書けないよ~、かなた~」
お母さんに抱きつくお父さんはまるで子供みたいだ。
それをお母さんはよしよしといなす。
「大丈夫。ちょっと煮詰まっちゃってるだけだよ。もうちょっとすれば、そうくんならすらすら書けるようになるから」
いっぱいいっぱいになってきているお父さんを、上手に慰めているお母さん。
私もこれだけは真似できない。なんだかよく分からない、ぎゅっと強く結ばれた夫婦の絆って奴かな?
朝食を食べ終えたお父さんはまたふらふらと自室へ行く。
頑張れ、お父さん。我が家の家計はお父さんの売り上げにかかっている~

さて、私はというと、学校に行く時間にはまだちょっと余裕があるみたい。
食べ終えた食器をまとめて、流し台へ持っていく。
「おかーさん。洗い物手伝うよ」
エプロン姿で台所に立つお母さんは、若妻というよりも幼妻といった感じで、
自分の母親をこういうのもなんだけれど、犯罪的な感じまでするかわいらしさだ。
我が家最強の萌えキャラのお母さんが振り返る。
「あら、ありがとう、こなた。じゃあお皿のすすぎやってくれる?」
流し台のスペースを半分空けてくれる。
お母さんが洗ってくれたお皿を受け取って、水道水でよくすすぐ。
キンと冷たい水の感触が気持ちいい。きゅっきゅっと音がするぐらいすすいで、水きり棚へ移す。
「こなたも、ずいぶん大きくなったわね。昔は踏み台ないと、流し台に届かなかったのに」
今でも台所の片隅に置いてある小さな踏み台。
昔はお父さんが料理して、私が洗い物をしてたから、背の低い私はずっとあの踏み台を使っていた。
「いまではお父さんよりも料理が上手になったんだよ。いつもは私が食事当番」
「うん、こなたはえらいね。そうくんはちょっと抜けてるところがあるから、ちゃんと面倒見てあげないとね」
うん、そこは激しく同意。今朝も味噌汁に頭突っ込んでたし。
お母さんが泡だらけにしたお皿を、私が水できゅっきゅっとすすぐ。
ただそれだけなんだけれど、なんだかとっても満たされた時間。
「あのね……お母さん……」
お母さんと一緒にいる時間は幸せで、とっても幸せで、だから……
「……これって、夢なんだよね」
あまりにも幸せすぎて、それは夢なんだと気づいてしまった。
お母さんは、一瞬びっくりして、それからすごく悲しそうな顔になる。
どうして気づいてしまったの、というように……
ごまかす事なんてできないよ。だって、久しぶりに会ったお母さんなんだもん。
言いたい事が、いっぱいあるんだもん。
「なんで、何でお母さん、私を置いてっちゃったの。私、寂しかったんだよ」
皿の割れる音、それすらも気にならない。
ぎゅっとお母さんのエプロンに顔をうずめる。
暖かい、お母さんの匂い。
「かがみとつかさの家も、みゆきさんの家もお母さんがいるのに、どうしてうちだけお母さんがいないの?
 お母さんに甘えたかった、お母さんに叱られたかった、お母さんにぎゅっとしてほしかった……」
こんな事言っても、お母さんを困らせるだけだって分かっているのに。
お母さんが死んでしまった事は、どうにも変えられない事実だって分かっているのに……
「ごめんね、一緒にいてあげられなくて……」
ぎゅっと身体を包み込む、暖かい感触。
私を包み込む、お母さんの体温。
ずっと求めていた、お母さんのぬくもり。
すごく寂しいけれど、とっても嬉しくて。
ぽろぽろと零れ落ちてくる涙が止まらなくて。


私はお母さんの胸の中で、声をあげて泣き続けた。
お母さんは私が泣き止むまで私を抱きしめていてくれた。
ぽろぽろこぼれ続けた涙も止まって、私は顔を上げて涙を拭う。
「ありがとう……もう大丈夫」
「そっか、こなたは強いね」
お母さんが頭を撫でてくれる。
こそばゆくて、でもとっても気持ちいい感触。
「私は見守ってあげる事しかできないから、私の代わりにそうくんの面倒見てあげるんだよ」
時々ちょっと頼りないお父さん。面倒見てあげるのは私の仕事。
私の、たった一人の大切な家族だから。
「友達は大切にする事。高校時代の友達は一生付き合っていける、大切な友達になれるから」
かがみやつかさ、それにみゆきさん。私の大切な友達。
大人になっても付き合っていけると思う、誰もが一番の友達。
「あと、ゲームは一日一時間」
うへぇ、それが一番大変そう。
私の顔を見て、お母さんがくすっと笑う。
「……とまでは言わないけれど、ほどほどにね。ちゃんと宿題もやること」
うん、いつまでも黒井先生を困らせてばかりはいられないもんね。
たまにはまじめに宿題やって、先生をびっくりさせてあげよう。
なんだかむずむずする、たとえようもない感覚。
多分、もうすぐ夢が終わる。
「大丈夫、こなたは私とそうくんの娘だから。頑張ればなんだってできる、自慢の娘なんだから」
ぎゅっとお母さんに抱きつく。
お母さんの匂いを、お母さんのやわらかさを、お母さんのぬくもりを、身体いっぱいに抱きしめて……
目が……覚める。

ぼんやりと目を開ける。カーテンの隙間から差し込む朝日。
いつもどおりの日常。
目を擦りながら、台所へ向かう。
夏でも冷たい朝の空気に包まれた台所。
当然のように、ご飯も炊けてないし、朝食もできてない。
だってそれは、私の仕事だから。
「よしっ、やるか!!」
パンパンっとほっぺたを叩いて気合を入れる。
丁寧に煮干の頭と内臓をとって、水を入れた鍋に入れて火をかける。
目指すは、夢の中のお母さんの味噌汁よりも、おいしい味噌汁。
私にはお母さんはいないけれど、
「おとーさん、ご飯だよ~」
でも、きっと空の上で見守っててくれるから。




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  • かなたさんには生きてて欲しかったなぁ…でも、もし生きてたらあの名曲は生まれなかったのかと思うとジレンマ -- 名無し (2013-12-31 22:50:30)
  • ちくしょ~ちくしょ~卑怯者め~


    泣いちゃったじゃないか -- 名無しさん (2011-04-12 01:12:06)
  • 泣ける!! 特に幼少期に母親をなくした俺には痛恨の一撃です。 -- kk (2009-10-22 00:43:32)



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