つかさはずっと凝視していた時計から目を放すと、自分の部屋を出た。
そして自室のすぐ隣のかがみの部屋の前に立つ。
ノックをしようと手を伸ばしたが、すぐに引っ込めてしまった。
スー……、と胸に手を当てて深呼吸をする。
手をぎゅっと握りしめ、決意を固めると、もう一度ドアへと手を伸ばした。
そして自室のすぐ隣のかがみの部屋の前に立つ。
ノックをしようと手を伸ばしたが、すぐに引っ込めてしまった。
スー……、と胸に手を当てて深呼吸をする。
手をぎゅっと握りしめ、決意を固めると、もう一度ドアへと手を伸ばした。
――コンコン
「お姉ちゃん、いい……?」
少しだけ声が震える。
「――あ、いいわよー」
扉の向こうから声が聞こえた。
つかさはドアノブに手を掛け、扉を少しだけ開かせ、中を覗き込む。
「どうしたの、つかさ?」
かがみはベッドの上から身を起こしながら、つかさに聞く。手にはさっきまで読んでいたらしい本が握られていた。
少しだけ声が震える。
「――あ、いいわよー」
扉の向こうから声が聞こえた。
つかさはドアノブに手を掛け、扉を少しだけ開かせ、中を覗き込む。
「どうしたの、つかさ?」
かがみはベッドの上から身を起こしながら、つかさに聞く。手にはさっきまで読んでいたらしい本が握られていた。
「あ、あのね……」
「?」
つかさはなかなか、部屋の中に入ろうとしない。ドアの隙間から覗き込みながら、目線を泳がせる。
「お、お姉ちゃん、そのっ――」
グッと右手に持った紙袋を握りしめると、かがみの部屋の中へと足を踏み入れる。
「えっと……」
かがみはキョトンとしながらつかさのことを見ている。
そんな彼女に向かって、つかさは手に持ったものを差し出した。
「?」
つかさはなかなか、部屋の中に入ろうとしない。ドアの隙間から覗き込みながら、目線を泳がせる。
「お、お姉ちゃん、そのっ――」
グッと右手に持った紙袋を握りしめると、かがみの部屋の中へと足を踏み入れる。
「えっと……」
かがみはキョトンとしながらつかさのことを見ている。
そんな彼女に向かって、つかさは手に持ったものを差し出した。
「お……、お誕生日、おめでとう……」
♪
かがみは最初、何が起こったのかわからないような顔をしていた。
でも部屋の時計を確認すると、
「ああ……」
と、納得したように呟いた。
時刻は0:00を少し過ぎた頃。日付が変わって、七月七日にちょうどなったところだ。
「……ありがとう、つかさ」
かがみはつかさに近づき紙袋を受け取ると、笑顔を浮かべてそう言った。
「それにしても、またどうしたのよ。わざわざ日付が変わった直後になんてさ」
「え、あ、えっとね……」
つかさはわたわたとしながら顔を赤くする。
でも部屋の時計を確認すると、
「ああ……」
と、納得したように呟いた。
時刻は0:00を少し過ぎた頃。日付が変わって、七月七日にちょうどなったところだ。
「……ありがとう、つかさ」
かがみはつかさに近づき紙袋を受け取ると、笑顔を浮かべてそう言った。
「それにしても、またどうしたのよ。わざわざ日付が変わった直後になんてさ」
「え、あ、えっとね……」
つかさはわたわたとしながら顔を赤くする。
「その、ちょっと……、一番最初に、おめでとうって……言いたくて……」
最後の方は尻すぼみになって、はっきりと言えなかった。なんだか柄にも無い事をしてしまった気がして、すごく恥ずかしかった。
でもそう言うと、かがみは嬉しそうに微笑んでくれた。
「それじゃあ私も……」
こっち来て座りなさいよ、と言いながらかがみは机の横にかかっていた紙袋を手に取る。そして同じように、ベッドに座ったつかさに差し出した。
「つかさも、誕生日おめでとう」
「……ありがとう」
つかさはそれを受け取ると、大切そうに胸の中に抱えこむ。なんだか心の中が暖かいような感覚がした。
最後の方は尻すぼみになって、はっきりと言えなかった。なんだか柄にも無い事をしてしまった気がして、すごく恥ずかしかった。
でもそう言うと、かがみは嬉しそうに微笑んでくれた。
「それじゃあ私も……」
こっち来て座りなさいよ、と言いながらかがみは机の横にかかっていた紙袋を手に取る。そして同じように、ベッドに座ったつかさに差し出した。
「つかさも、誕生日おめでとう」
「……ありがとう」
つかさはそれを受け取ると、大切そうに胸の中に抱えこむ。なんだか心の中が暖かいような感覚がした。
「ねえ、中見てもいい?」
かがみはイスに座りながらつかさに聞く。
「うん、いいよ」
かがみは袋の中からラッピングされた細長い箱を手に取る。そして丁寧に包装をはがしていく。
「あ……」
出てきた箱を開けて中身を見ると、かがみはそう声を上げた。
「……ペンダント?」
「うん」
かがみはイスに座りながらつかさに聞く。
「うん、いいよ」
かがみは袋の中からラッピングされた細長い箱を手に取る。そして丁寧に包装をはがしていく。
「あ……」
出てきた箱を開けて中身を見ると、かがみはそう声を上げた。
「……ペンダント?」
「うん」
かがみはそれを手にとってまじまじと見つめる。
星の形をかたどったペンダント。
どれにしようかと迷いながら、最終的に決めたものだった。
「ホントにありがとう、つかさ」
ペンダントを大事そうに手に持ちながら、かがみは目を細めた。
どうやら気に入って貰えたみたいだった。
「つかさも開けてみてよ」
箱の中に大切そうにしまいながら、かがみが言う。それを聞いて、つかさは持っていた紙袋の中を覗き込む。
中に入っていたのは四角い箱だった。手にとって見ると、両手なら包み込めそうなほどの小さいものだ。
リボンがかけられて、丁寧にラッピングされている。
星の形をかたどったペンダント。
どれにしようかと迷いながら、最終的に決めたものだった。
「ホントにありがとう、つかさ」
ペンダントを大事そうに手に持ちながら、かがみは目を細めた。
どうやら気に入って貰えたみたいだった。
「つかさも開けてみてよ」
箱の中に大切そうにしまいながら、かがみが言う。それを聞いて、つかさは持っていた紙袋の中を覗き込む。
中に入っていたのは四角い箱だった。手にとって見ると、両手なら包み込めそうなほどの小さいものだ。
リボンがかけられて、丁寧にラッピングされている。
かがみが笑顔で見つめるなか、つかさは慎重に中身を取り出した。
出てきたのはやっぱり小さな箱で、どこかで見たことがあるような形状をしていた。
例えばドラマとか、通販とか。
手の上に乗せてふたを開けると、ようやく彼女のプレゼントが目に入ってきた。
「…………指輪…………」
藍色の台座に収まっていたのは、綺麗に光る指輪だった。部屋の照明に反射して輝いている。
「え、あ……、こ、これって……」
あまりにも予想外のものでつかさは混乱した。目を丸くしながらかがみの顔を見ると、
「ね、嵌めてみてよ」
そう言って、笑みを浮かべていた。
出てきたのはやっぱり小さな箱で、どこかで見たことがあるような形状をしていた。
例えばドラマとか、通販とか。
手の上に乗せてふたを開けると、ようやく彼女のプレゼントが目に入ってきた。
「…………指輪…………」
藍色の台座に収まっていたのは、綺麗に光る指輪だった。部屋の照明に反射して輝いている。
「え、あ……、こ、これって……」
あまりにも予想外のものでつかさは混乱した。目を丸くしながらかがみの顔を見ると、
「ね、嵌めてみてよ」
そう言って、笑みを浮かべていた。
「う、うん……」
そっと指でつまんでみる。それはなんだかとても輝いていて眩しく感じた。
そして指に嵌めようとして、
「……ど、どこに……?」
と、かがみに聞いた。
指輪なんてこのかた一度もしたことなんてなかったから、どうすればいいのかわからなかった。
そっと指でつまんでみる。それはなんだかとても輝いていて眩しく感じた。
そして指に嵌めようとして、
「……ど、どこに……?」
と、かがみに聞いた。
指輪なんてこのかた一度もしたことなんてなかったから、どうすればいいのかわからなかった。
その言葉にかがみは苦笑を浮かべながら答える。
「んー、まあどこでもいいんじゃない?」
とりあえずつけて見なさいよ、とかがみは言う。
その言葉につかさはどうしようかと考えると、
「………」
左手の薬指に嵌めてみた。
それにかがみは何かを言おうとして口を開いたが、でも何も言わずに小さく苦笑しただけだった。
「んー、まあどこでもいいんじゃない?」
とりあえずつけて見なさいよ、とかがみは言う。
その言葉につかさはどうしようかと考えると、
「………」
左手の薬指に嵌めてみた。
それにかがみは何かを言おうとして口を開いたが、でも何も言わずに小さく苦笑しただけだった。
「……どう? きつくない? サイズがわかんないから私ので買っちゃたんだけど……」
指輪をはめた左手を、裏返したり天井にかざしてみたりと、いろいろな角度から見てみる。
初めてつけてみたけれど、まるで少しだけ大人になったような気分がした。
「大丈夫、ぴったりだよ」
「…………ぴったり? ……その指に?」
「うん」
「………」
薬指にはまったそれは、本当に綺麗だった。銀色に輝きながら、キラリと光を反射している。
指輪をはめた左手を、裏返したり天井にかざしてみたりと、いろいろな角度から見てみる。
初めてつけてみたけれど、まるで少しだけ大人になったような気分がした。
「大丈夫、ぴったりだよ」
「…………ぴったり? ……その指に?」
「うん」
「………」
薬指にはまったそれは、本当に綺麗だった。銀色に輝きながら、キラリと光を反射している。
「……でも、これ。高くなかった?」
ふと思う。指輪の相場なんて知らないけれど、とてつもなく高いものだったらどうしようなんて考えが浮かんだ。
「え、……ああ、別に大したものじゃないから、そんなに気にしなくても大丈夫よ」
「ホントに?」
「残念ながら」
ヤスモノでごめんね、とかがみは言う。
だけど、
ふと思う。指輪の相場なんて知らないけれど、とてつもなく高いものだったらどうしようなんて考えが浮かんだ。
「え、……ああ、別に大したものじゃないから、そんなに気にしなくても大丈夫よ」
「ホントに?」
「残念ながら」
ヤスモノでごめんね、とかがみは言う。
だけど、
「……本当に、貰ってもいいの?」
それでもなんだか気が引けてしまった。たとえ高いものでなかったとしても、こんなにいいものを自分が貰ってしまっていいのだろうか。
「何言ってんのよ。私はつかさに喜んで欲しいから、それを選んできたんだけど?」
「あ……。……そっか、……そうだよね」
そう言われて、つかさは右手で指輪を嵌めた手を握りしめる。
「ありがとう、お姉ちゃん。……すごく嬉しい……」
「ん……」
つかさの言葉に、かがみは少しだけはにかんだ。
それでもなんだか気が引けてしまった。たとえ高いものでなかったとしても、こんなにいいものを自分が貰ってしまっていいのだろうか。
「何言ってんのよ。私はつかさに喜んで欲しいから、それを選んできたんだけど?」
「あ……。……そっか、……そうだよね」
そう言われて、つかさは右手で指輪を嵌めた手を握りしめる。
「ありがとう、お姉ちゃん。……すごく嬉しい……」
「ん……」
つかさの言葉に、かがみは少しだけはにかんだ。
「大切にするね」
「大事にしすぎて、使わないっていうのは無しだからね」
そうかがみが言って、つかさは大丈夫だよ、と答えた。
「ねえ、お姉ちゃん。ケーキ焼いてあるんだけど食べない?」
指輪を箱の中に戻しながら、かがみに提案する。
「大事にしすぎて、使わないっていうのは無しだからね」
そうかがみが言って、つかさは大丈夫だよ、と答えた。
「ねえ、お姉ちゃん。ケーキ焼いてあるんだけど食べない?」
指輪を箱の中に戻しながら、かがみに提案する。
「え? ってあんたいつの間に作ったのよ……」
そう言いながら、かがみは考え込む。
きっと彼女の事だから、体重のことを気にしているのだろう。
もう習慣になってしまった葛藤だけど、
「ま、まあ今日は特別だし、貰おっかな……」
簡単に折れてしまうのも、やっぱり彼女らしかった。
そう言いながら、かがみは考え込む。
きっと彼女の事だから、体重のことを気にしているのだろう。
もう習慣になってしまった葛藤だけど、
「ま、まあ今日は特別だし、貰おっかな……」
簡単に折れてしまうのも、やっぱり彼女らしかった。
「じゃあ、今すぐ準備してくるね」
つかさはベッドから立ち上がってそう言う。
ケーキと一緒に、紅茶も用意しようと思いながら、部屋を出ようとすると、
「あ、私も手伝うわよ」
そう言ってかがみも後に続いた。
一緒に階段を下りて行きながら、たったそれだけの事なのに、――すごく、嬉しかった。
つかさはベッドから立ち上がってそう言う。
ケーキと一緒に、紅茶も用意しようと思いながら、部屋を出ようとすると、
「あ、私も手伝うわよ」
そう言ってかがみも後に続いた。
一緒に階段を下りて行きながら、たったそれだけの事なのに、――すごく、嬉しかった。
♪
丁寧に、心を込めて焼き上げて。
赤くて、綺麗な苺をはさんで、積み上げて。
塗り上げるのは、甘い、白い、ふわふわのクリーム。
最後に乗せた、真っ赤ないちごが、つやりと光って輝いた。
赤くて、綺麗な苺をはさんで、積み上げて。
塗り上げるのは、甘い、白い、ふわふわのクリーム。
最後に乗せた、真っ赤ないちごが、つやりと光って輝いた。
「また器用なもの作ったわね……」
二人分しかないケーキを二つに切る。さすがにホールサイズでは多すぎたから、半分でちょうど二人前のものを作ったのだ。
二人分のケーキと、二人分のカップを持って、部屋へと戻る。
彼女が一口頬張って、「……ケーキ屋開けるわ……」と呟いた。
二人分しかないケーキを二つに切る。さすがにホールサイズでは多すぎたから、半分でちょうど二人前のものを作ったのだ。
二人分のケーキと、二人分のカップを持って、部屋へと戻る。
彼女が一口頬張って、「……ケーキ屋開けるわ……」と呟いた。
特別な日の、特別な人のためのバースデイケーキ。
口の中に広がる、甘い香り。
目の前の、おいしいと言ってくれる人の笑顔。
彼女ではないけれど、少しだけ食べすぎが心配になった。
口の中に広がる、甘い香り。
目の前の、おいしいと言ってくれる人の笑顔。
彼女ではないけれど、少しだけ食べすぎが心配になった。
「――ごちそうさま、っと」
空になったお皿の上に、かがみがフォークを置いた。
紅茶のカップを傾けて、ほっと一息つく。
つかさも同じように最後の一切れを口にした。
「あー……、やっぱりつかさのケーキはおいしいわね……」
カップを置きながらかがみが言う。
空になったお皿の上に、かがみがフォークを置いた。
紅茶のカップを傾けて、ほっと一息つく。
つかさも同じように最後の一切れを口にした。
「あー……、やっぱりつかさのケーキはおいしいわね……」
カップを置きながらかがみが言う。
「言ってくれればいつでも、いくらだって作ってあげるよ」
「……あんたは私を太らせたいのか?」
かがみがうらめしそうに呟いて、二人で共に笑い合った。
「にしても……、……私たちも、もうこんな年になっちゃたのよね……」
部屋にかかっているカレンダーを見上げながら、かがみがぽつりと呟いた。
「……そうだね」
「今までお姉ちゃんたちのことを見てきたけど、本当に私たちがあんなふうになったなんてね」
「うん……」
「……あんたは私を太らせたいのか?」
かがみがうらめしそうに呟いて、二人で共に笑い合った。
「にしても……、……私たちも、もうこんな年になっちゃたのよね……」
部屋にかかっているカレンダーを見上げながら、かがみがぽつりと呟いた。
「……そうだね」
「今までお姉ちゃんたちのことを見てきたけど、本当に私たちがあんなふうになったなんてね」
「うん……」
姉たちとは少ししか年の差は無いのだけれど、あの時のあの人たちは、ずっと大人のように見えていた。
でもいざ自分がなってみても、そんなに変わっていないように思える。
あの時の姉たちみたいに、自分はしっかりとした人間になれているんだろうか。
「来年はどうなってるのかしら」
「え?」
「高校も卒業しちゃって、ほとんど社会人になってさ。……なんかあんまり想像できないなー」
グイッと両手で伸びをしながら、そのままかがみはベッドに寄りかかる。
でもいざ自分がなってみても、そんなに変わっていないように思える。
あの時の姉たちみたいに、自分はしっかりとした人間になれているんだろうか。
「来年はどうなってるのかしら」
「え?」
「高校も卒業しちゃって、ほとんど社会人になってさ。……なんかあんまり想像できないなー」
グイッと両手で伸びをしながら、そのままかがみはベッドに寄りかかる。
「……お姉ちゃんは法学部?」
「ん? まあほとんどそれで決定かな……。今のところ一番興味ある分野だし。入れそうなぶんだけ勉強もしてきたしね……」
「そっか」
「つかさは? やっぱり調理師?」
かがみはいったん身体を起こすと、机の向かい側のつかさに視線を送る。
「うん……。お料理するのは好きだし、得意だし。ずっとお料理に関わる仕事が出来るなら、それが良いかなって……」
「そうね……。パティシエなんかも向いてるんじゃないの? こんなケーキが作れるくらいだし」
「うーん……、考えとくね」
もしそうなったらお菓子食べ放題よね、とかがみは呟く。想像でもしたのか、顔がすでににやけていた。
「ん? まあほとんどそれで決定かな……。今のところ一番興味ある分野だし。入れそうなぶんだけ勉強もしてきたしね……」
「そっか」
「つかさは? やっぱり調理師?」
かがみはいったん身体を起こすと、机の向かい側のつかさに視線を送る。
「うん……。お料理するのは好きだし、得意だし。ずっとお料理に関わる仕事が出来るなら、それが良いかなって……」
「そうね……。パティシエなんかも向いてるんじゃないの? こんなケーキが作れるくらいだし」
「うーん……、考えとくね」
もしそうなったらお菓子食べ放題よね、とかがみは呟く。想像でもしたのか、顔がすでににやけていた。
「でもさ……」
「ん?」
「そしたらもう――、……同じ学校じゃなくなっちゃうんだよね」
「………」
今までずっと――幼稚園の頃からずっと同じ場所に通っていた。
家を出るのはいつも一緒で、向かう先も同じ所で。
たとえ教室が違っていたとしても、一つの建物の中に、一つの敷地の中で一緒だった。
でも、いつもそんなふうだった日常も、終わってしまう。
卒業して、進学して、それぞれの道を歩き出したなら、もう交わる事はなくなってしまう。
「ん?」
「そしたらもう――、……同じ学校じゃなくなっちゃうんだよね」
「………」
今までずっと――幼稚園の頃からずっと同じ場所に通っていた。
家を出るのはいつも一緒で、向かう先も同じ所で。
たとえ教室が違っていたとしても、一つの建物の中に、一つの敷地の中で一緒だった。
でも、いつもそんなふうだった日常も、終わってしまう。
卒業して、進学して、それぞれの道を歩き出したなら、もう交わる事はなくなってしまう。
「しょうがないでしょ」
その声に顔を上げると、かがみはじっとつかさの瞳を見つめていた。
「お互いやりたい事が見つかっててさ、それが出来るだけの技術も持ってて……。……それって、いいことなんだから」
「………」
「つかさもちゃんと調理師目指そうって思ってるんでしょ?」
「……うん」
「なら、仕方ないじゃない」
「……そう、だね」
――そうなんだ。
どうしようも出来ない事。
明らかにいいと思える未来があって。
それに向かって、自分たちはしっかりと進めている。
どこにもおかしいと思えるところなんて無い。
――だけど。
その声に顔を上げると、かがみはじっとつかさの瞳を見つめていた。
「お互いやりたい事が見つかっててさ、それが出来るだけの技術も持ってて……。……それって、いいことなんだから」
「………」
「つかさもちゃんと調理師目指そうって思ってるんでしょ?」
「……うん」
「なら、仕方ないじゃない」
「……そう、だね」
――そうなんだ。
どうしようも出来ない事。
明らかにいいと思える未来があって。
それに向かって、自分たちはしっかりと進めている。
どこにもおかしいと思えるところなんて無い。
――だけど。
「………」
机の上に視線を落とす。
空になったお皿と、ティーカップ。
口の中にまだ甘い香りが残っていた。
「今日はもう遅いし……、……寝よっか?」
言ってかがみが立ち上がる。
食べ終わった食器を乗せたお盆を手に持って、ドアに向かって歩き出す。
「――?」
かがみは足を止め、振り返る。
パジャマの裾を、つかさが小さく握っていた。
机の上に視線を落とす。
空になったお皿と、ティーカップ。
口の中にまだ甘い香りが残っていた。
「今日はもう遅いし……、……寝よっか?」
言ってかがみが立ち上がる。
食べ終わった食器を乗せたお盆を手に持って、ドアに向かって歩き出す。
「――?」
かがみは足を止め、振り返る。
パジャマの裾を、つかさが小さく握っていた。
「今日、…………一緒に寝てもいい?」
♪
部屋の中が暗闇に包まれて、窓からの光が白く室内を照らし出した。
仰向けになった視線の先に、蛍光灯が光っていた名残が見えた。
ゴソリと衣擦れの音を立てながら、かがみがつかさの隣に同じように横になる。
枕を並べて、一つのベッドを二人で使う。女の子二人でもさすがに少し狭く感じるけれど、それはそれであったかくて心地いいと思った。
仰向けになった視線の先に、蛍光灯が光っていた名残が見えた。
ゴソリと衣擦れの音を立てながら、かがみがつかさの隣に同じように横になる。
枕を並べて、一つのベッドを二人で使う。女の子二人でもさすがに少し狭く感じるけれど、それはそれであったかくて心地いいと思った。
「あんた、もう夏だっていうのわかってるわよね……」
「え? あはは……」
まあ、ちょっと蒸し暑くもあったけれど……。
それでもやっぱりあったかいと思う。
当たり前だけれど、このベッドには姉の匂いがして、なんだかとても安心できるから。
そしてすぐ触れられる場所に本人もいて、つい顔がにやけてしまう。
……しまうけれど。
「え? あはは……」
まあ、ちょっと蒸し暑くもあったけれど……。
それでもやっぱりあったかいと思う。
当たり前だけれど、このベッドには姉の匂いがして、なんだかとても安心できるから。
そしてすぐ触れられる場所に本人もいて、つい顔がにやけてしまう。
……しまうけれど。
「………」
左側のかがみのほうに身体を向ける。
長く伸ばした髪を枕の上に広げながら、彼女は天井を見上げていた。
「……何?」
視線に気付いて、かがみは横目でつかさを見返す。
「ううん……。なんでもないよ」
けれど――胸がきしんだ。
左側のかがみのほうに身体を向ける。
長く伸ばした髪を枕の上に広げながら、彼女は天井を見上げていた。
「……何?」
視線に気付いて、かがみは横目でつかさを見返す。
「ううん……。なんでもないよ」
けれど――胸がきしんだ。
はぁ……、とかがみはため息を吐くと、つかさのほうへと身体を向ける。
お互い向かい合って、視線が交わる。
「そういえばさ」
「……?」
「子どものころも、こんなふうに同じ布団で寝てたわよね」
「え? あ……そういえば、そうだね」
小さいころはまだ別々の部屋ではなくて、布団を敷いて一緒に寝ていた。
「しかも“わざわざ”、ね……」
「え?」
お互い向かい合って、視線が交わる。
「そういえばさ」
「……?」
「子どものころも、こんなふうに同じ布団で寝てたわよね」
「え? あ……そういえば、そうだね」
小さいころはまだ別々の部屋ではなくて、布団を敷いて一緒に寝ていた。
「しかも“わざわざ”、ね……」
「え?」
「ちゃんと二つ布団が用意されてるっていうのにさ……。寝かしつけられた後、毎晩毎晩私のほうに潜り込んできたのは誰だったかしら?」
「あー……」
つかさは視線を泳がせる。
確かにその通りだった。
親に言われて自分の布団の中に入っても、電気が消された後、すぐに姉のほうへと移動していたのだ。
それはもう習慣になっていて、親も特になにも言いはしなかった。
「あー……」
つかさは視線を泳がせる。
確かにその通りだった。
親に言われて自分の布団の中に入っても、電気が消された後、すぐに姉のほうへと移動していたのだ。
それはもう習慣になっていて、親も特になにも言いはしなかった。
「別々の部屋になってからも、しばらく私の部屋に通ってたしさ。ようやくそれがなくなったと思っても、朝起きたら時々隣で寝てるし……」
「あ、う……」
「それは今も続いてるしねえ」
そう言ってかがみは意地悪く笑う。
でもどうしたって眠れない日があるのだからしょうがない。
ホラー映画やテレビの怖い話を見た日とか、怖い夢を見てしまったときとか。
そんな時はついかがみのベッドに潜り込んでしまう。
やっぱり彼女の隣が一番安心できるから。
「あ、う……」
「それは今も続いてるしねえ」
そう言ってかがみは意地悪く笑う。
でもどうしたって眠れない日があるのだからしょうがない。
ホラー映画やテレビの怖い話を見た日とか、怖い夢を見てしまったときとか。
そんな時はついかがみのベッドに潜り込んでしまう。
やっぱり彼女の隣が一番安心できるから。
「まあ、別にいいんだけどさー……」
かがみは小さく嘆息しながら続ける。
「あんたもさ。もう子どもじゃないんだから、……そろそろやめなきゃ、ダメよ」
かがみは呆れたような顔をして言う。
「……うん」
「頼ってくれるのは嬉しいけどさ……、そんなんじゃあんたのためにならないし……。高校を卒業したら、今よりもっと別々の行動を取るようになるしさ」
「………」
「もう、………ずっと一緒ってわけには、いかないんだから」
「…………うん」
かがみは小さく嘆息しながら続ける。
「あんたもさ。もう子どもじゃないんだから、……そろそろやめなきゃ、ダメよ」
かがみは呆れたような顔をして言う。
「……うん」
「頼ってくれるのは嬉しいけどさ……、そんなんじゃあんたのためにならないし……。高校を卒業したら、今よりもっと別々の行動を取るようになるしさ」
「………」
「もう、………ずっと一緒ってわけには、いかないんだから」
「…………うん」
つかさも、もう高校を卒業する歳になってしまった。
それは彼女も同じで、二人はもう……子どもじゃ無い。
あのころみたいに今みたいに、彼女を頼り続けてはいけないんだ。
だけど――。
「つかさ……?」
かがみの胸の中へと、つかさは顔をうずめた。
それは彼女も同じで、二人はもう……子どもじゃ無い。
あのころみたいに今みたいに、彼女を頼り続けてはいけないんだ。
だけど――。
「つかさ……?」
かがみの胸の中へと、つかさは顔をうずめた。
「………」
彼女の匂いが、暖かさが伝わってくる。
体温も呼吸も、鼓動も全部胸の中に染みこんでいく。
そんなこと、判っているんだ。
甘えてちゃいけないなんて、知っているけど。
でもそれでも……、……離れたくなんて、ない。
彼女の匂いが、暖かさが伝わってくる。
体温も呼吸も、鼓動も全部胸の中に染みこんでいく。
そんなこと、判っているんだ。
甘えてちゃいけないなんて、知っているけど。
でもそれでも……、……離れたくなんて、ない。
そばに居させてほしい。
これからも、頼らせてほしい。
彼女と一緒に……いたかった。
「……つかさ」
かがみの手が、つかさの肩に触れた。
いつもならそっと頭を撫でてくれるその手は、つかさの身体をかがみから引き離した。
これからも、頼らせてほしい。
彼女と一緒に……いたかった。
「……つかさ」
かがみの手が、つかさの肩に触れた。
いつもならそっと頭を撫でてくれるその手は、つかさの身体をかがみから引き離した。
かがみはつかさを見つめながら、そっとため息をつく。
「別に……嫌いになったとかそういうわけじゃないのよ」
真剣なまなざしで、かがみは瞳を覗き込んでくる。
「私は、あんたに……、私がいなくても、ちゃんと自分の力で進んでいけるようになって欲しいだけなの……」
「………」
「……私に頼らなくても、ちゃんと生きていけるようになってほしいから。だから……」
わかってほしいと、彼女は言う。
まっすぐな瞳が、つかさをじっと見つめていた。
「別に……嫌いになったとかそういうわけじゃないのよ」
真剣なまなざしで、かがみは瞳を覗き込んでくる。
「私は、あんたに……、私がいなくても、ちゃんと自分の力で進んでいけるようになって欲しいだけなの……」
「………」
「……私に頼らなくても、ちゃんと生きていけるようになってほしいから。だから……」
わかってほしいと、彼女は言う。
まっすぐな瞳が、つかさをじっと見つめていた。
「……お姉ちゃん……」
きっと、彼女の……言うとおりなんだろう。
わかってるよ。
もう、終わりなんだって。
いつまでもこんなふうじゃ、ただ迷惑をかけてしまうだけだなんて。
でも、心はすごく痛くて。
かがみは困ったような顔で、ずっとつかさのことを見つめていた。
もう、やめにしなくちゃ。
これからは、ちゃんと生きていけるようにならなくちゃ。
自分の力だけで、進んでいけるようにならいといけないんだ。
ずっと――一人で。
わかってるよ。
もう、終わりなんだって。
いつまでもこんなふうじゃ、ただ迷惑をかけてしまうだけだなんて。
でも、心はすごく痛くて。
かがみは困ったような顔で、ずっとつかさのことを見つめていた。
もう、やめにしなくちゃ。
これからは、ちゃんと生きていけるようにならなくちゃ。
自分の力だけで、進んでいけるようにならいといけないんだ。
ずっと――一人で。
――ひとりで……?
「つかさ?」
心配そうにいうかがみの顔が、ぼやけて見えた。
「………。あ……」
透明な雫が、ひとつふたつと頬をすべり落ちていく。
それは自分でも止めることができなくて、次から次へとこぼれていった。
かがみが驚いた顔でつかさを見ていた。
心配そうにいうかがみの顔が、ぼやけて見えた。
「………。あ……」
透明な雫が、ひとつふたつと頬をすべり落ちていく。
それは自分でも止めることができなくて、次から次へとこぼれていった。
かがみが驚いた顔でつかさを見ていた。
いけない。
これじゃあ変わらない。
変わらなくちゃいけない。
そんなふうに彼女が望んでいるんだから。
「えっと、……その」
ごしごしと目をこする。溢れ出す涙を拭って、かがみに微笑みかける。
これじゃあ変わらない。
変わらなくちゃいけない。
そんなふうに彼女が望んでいるんだから。
「えっと、……その」
ごしごしと目をこする。溢れ出す涙を拭って、かがみに微笑みかける。
「ありがとう……、お姉ちゃん」
「………」
「そんなに私のこと、気にしてくれて……」
まだ不安そうなかがみに向かって、つかさは言葉を続ける。
「これからは、もう……頼ったりしないから……。お姉ちゃんがいなくても、ちゃんと出来るようになるから……」
精一杯強がって、笑みを浮かべる。
この想いが伝わらないように。
大好きな人に、迷惑をかけないように。
「………」
「そんなに私のこと、気にしてくれて……」
まだ不安そうなかがみに向かって、つかさは言葉を続ける。
「これからは、もう……頼ったりしないから……。お姉ちゃんがいなくても、ちゃんと出来るようになるから……」
精一杯強がって、笑みを浮かべる。
この想いが伝わらないように。
大好きな人に、迷惑をかけないように。
「だから……、もう心配しなくても、大丈夫だよ……」
涙はこぼさなかった。
胸は、張り裂けそうだった。
「……そっか」
「うん」
彼女はようやく、笑みを浮かべてくれた。
つかさはぎゅっと、シーツを握りしめた。
涙はこぼさなかった。
胸は、張り裂けそうだった。
「……そっか」
「うん」
彼女はようやく、笑みを浮かべてくれた。
つかさはぎゅっと、シーツを握りしめた。
「お姉ちゃん……」
「……?」
「今まで……、…………ゴメンね」
「………」
「……おやすみなさい」
暗がりの中に見える、姉の顔を目に焼き付けながら、つかさはそっと瞳を閉じた。
あの人のにおいが、少しだけした。
「……?」
「今まで……、…………ゴメンね」
「………」
「……おやすみなさい」
暗がりの中に見える、姉の顔を目に焼き付けながら、つかさはそっと瞳を閉じた。
あの人のにおいが、少しだけした。
「……うん。おやすみ」
♪
「――でーきたっ!」
ひとりの少女が元気良く、机の前で大きな声をあげた。
そして隣の少女の顔を覗き込む。
「つかさは?」
机に広げられているのは、七夕の短冊。
そして鉛筆と消しゴムとサインペン。
ひとりの少女が元気良く、机の前で大きな声をあげた。
そして隣の少女の顔を覗き込む。
「つかさは?」
机に広げられているのは、七夕の短冊。
そして鉛筆と消しゴムとサインペン。
「うんっ、ほら」
言って、小柄なほうの少女が顔を上げる。
満面の笑みを浮かべながら、活発そうなほうの少女に短冊を見せた。
その紙の上に躍る字は、拙いながらも精一杯気持ちを込めて書かれていた。
「よしっ、じゃあかざりに行こっか」
少女はふたり、立ち上がると部屋を飛び出した。
手に持った短冊が揺れる。
それには幼い字で、ただこう書かれていた。
言って、小柄なほうの少女が顔を上げる。
満面の笑みを浮かべながら、活発そうなほうの少女に短冊を見せた。
その紙の上に躍る字は、拙いながらも精一杯気持ちを込めて書かれていた。
「よしっ、じゃあかざりに行こっか」
少女はふたり、立ち上がると部屋を飛び出した。
手に持った短冊が揺れる。
それには幼い字で、ただこう書かれていた。
――ずっといっしょにいられますように――
笹の葉が、風に揺られて音を立てた。
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- できた!
のところで、一瞬ひよりんが同人誌書いてるのかと・・・
すいませんm(__)m -- オビ下チェックは基本 (2009-06-04 19:36:09)