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結び目が解けるまで 3章

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■事件報告書
  • 発生
 平成○○年×月△日午後五時頃

  • 場所
 埼玉県日部市上大増新田×丁目 陵桜学園高等部校舎屋上~中庭

  • 概要
 ×月△日深夜、見回りの警備員が中庭に倒れている少女二名を発見。
 病院に搬送も発見が遅れたため息を引き取る。
 また同時刻、現場近くを放浪する少女を保護するも錯乱状態。
 唯一の目撃者と考えられたが精神状況が芳しく、精神障害により現在も同地区内の精神病院に入院中。
(意識および思考、知覚障害。今後の事情聴取はほぼ不可能。)
 また現場近くよりナイフが発見、保護された少女の指紋が摘出されるも、事件との関係は不明。
 他殺とも自殺とも結論出ず、捜査打ち切り。

  • 死傷者二名
 詳細は別紙。





「こんにちわ、お久しぶりですね」
 薬の匂いに軽く眩暈を覚えながら、一つの病室に入る。
 あの『事件』から三年、私は今……一人の女性のお見舞いに来ていた。
「覚えていますか? 私、みゆきですよ?」
「……」
 少し見せびらかすように、自分の髪をかきあげる。それでも返事は、返ってくることはない。それは分かっていたつもりだったのに……やはり辛い。
 友人の……親友のこんな姿をみるのは。目はただ何処かを見たままで、それ以外のものを見ようとはしてくれない。
 そして時折、思い出したかのように瞬きを繰り返すだけ。
「近くの河原で、お祭りがあるそうですよ。昔はよく皆で……」
 そこまで言って、口を噤んだ。皆で行ったお祭りも、今では辛い思い出でしかない。だってもう、二度とありえることがないのだから。
「不思議、ですよね……あんなに楽しかった日々が、もう来ないなんて」
 不意に……涙がこぼれた。
「あん、なに……」
 一度零れた涙は、止まってくれない。そうだ、私はだからここに来た。その理由を、知るために。
「教えてください……あの日、何があったんですか?」
 あの事件の後、様々な噂が飛び交った。事故だと言う噂と……自殺、という話。でも、そんなはずがない。あの二人が、自殺なんてするはずがないっ!
「……」
 それでも、どんなに声を荒げても……答えが返ってくるはずが、なかった。分かってたはずなのに、私は落胆する。俯いた私の頬から、涙が流れていくのをただ感じていた。
「それとも、本当に……」
 事故、自殺。そして、もちろん……もう一つ。ない、ありえないと心が否定するのに……『それ』は、私の口から出ていった。
「貴方が……殺したんですか?」
「……」
 静かな部屋の中に、私のすすりなく声だけが響いていた。だがその静寂に一滴、雫が零れた。
「……っき」
「えっ……?」
 思わず、視線を上げる。確かに聞こえた。彼女の声。そう、忘れるはずがない。
「な、何ですか? もう一度っ!」
 必死に耳を近づける。彼女は今、確かに何かを呟いた。それは文章とかじゃない、一つの単語。
「にっ……き」
「に、っき? 日記……?」
 虚ろだった彼女の視線が少し、動いた気がした。その視線を追いかけると……そこにはあった。お見舞いの品の山に紛れて、無造作に置いてあったそれは……日記。
「もう時間ですよ」
「あ、はいっ」
 看護婦さんに声をかけられ、思わずその日記を手に取る。そのまま下げていた鞄に詰めてから立ち上がり、一度頭を下げる。
「では、また来ますね……お大事に」
「……」
 答えは相変わらず、返ってこない。もしかしたら私の見間違いだったのかもしれない。聞き間違いだったのかもしれない。でも確かに私の手の中にはある。この……『柊 かがみ』と書かれた、日記が。


 空を穿ち、巨大な音と共に満開の花が劈く。
 そんな賑やかなお祭りの喧騒も、今はまるで耳に入ってこない。
 私の重い気持ちも空の花火のように、一緒に晴らしてくれればと何度も思った。
 行き交う浴衣姿の中に、つい昔の親友達の顔を捜してしまうのは……まだ、心残りがあるからに違いない。
 この日記を読めば、その心が晴れるだろうか。
 その不安から私は、まだ日記を開けずにいた。
 開いて、読んで……どうなるわけでもない。
 誰一人生き返るわけでもない。誰一人意識が戻るわけでもない。
 ただ私が、真実に歓喜するか……絶望するか。それだけ。
 それでも、私は知りたい。
 彼女達の最後に……何が起こったのかを。
 いっそのこと、全てが夢だったらいいのに……そう考えたことが何度あっただろう。
 そう、全部が夢で。
 いつものように泉さんがふざけて、かがみさんが怒って、つかささんが笑って。
 その輪の中には……私も居て。
 ただゆったりと流れていく日々に、身を任せていくだけ。
 そんな日々が続いていれば、どんなに良かっただろう。
 いや……きっとまだ続いている。
 彼女達はまだ、きっとその夢の中に居る。
 そして終わらない夢をずっと、見続けるのだろう。
 その命の灯を燃やし尽くしても、永遠に。

 それは偽りの輪舞曲。
 繰り返されるだけの、中身のない偶像。
 それでも……

 せめて、どうか夢ぐらいは―――幸せな日々を。















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  • 素晴らしい文章です。天晴れ。
    -- 前原圭一 (2007-09-05 20:08:10)

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