岩崎みなみは焦っていた。
幼少のみぎりに、ある漫画の影響を受けて愛犬の背に乗ろうとして潰してしまった時以上に焦っていた。
無論のこと愛犬は健在ではあるが、1週間吠えてもくれずに無反応で返されたときは死のうかと思ったほどだった。
と、走馬灯という名の現実逃避は、保健室のベッドで自分の上に覆いかぶさる親友の小早川ゆたかの声で儚く失敗した。
「みなみちゃんて……男の子だったの?」
幼少のみぎりに、ある漫画の影響を受けて愛犬の背に乗ろうとして潰してしまった時以上に焦っていた。
無論のこと愛犬は健在ではあるが、1週間吠えてもくれずに無反応で返されたときは死のうかと思ったほどだった。
と、走馬灯という名の現実逃避は、保健室のベッドで自分の上に覆いかぶさる親友の小早川ゆたかの声で儚く失敗した。
「みなみちゃんて……男の子だったの?」
事の起こりはよくある事……といってはゆたかに失礼かもしれないが、彼女が体育の授業中に少々体調を崩したことから始まった。
「ゆたか……大丈夫?」
こういう場合、真っ先にみなみがその変化に気付き声をかける。
時折ひよりが先に気付く事もあるのだが、彼女がみなみに先駆けてゆたかの変調に気付いたことがばれると
みなみの雰囲気が怖くなるので、ひよりは気付かないふりをして二人をそばに寄せるように立ち回ることを覚えた。
その方が創作意欲を掻き立てられるシチュも多い、らしい。
「あぅ……ばれちゃったかな?」
答える表情こそ笑顔ではあるが、運動量の割りに発汗しすぎている。おそらく少し熱を出しているのだろう。
そう診て取ったみなみは、体調不良の生徒を保険委員として保健室に連れて行く旨を教師に宣言し、
返事も聞かずにゆたかをお姫様抱っこで抱き上げると保健室に向けて駆け出していった。
一部女子がその姿を見て熱いため息をついたようだが、みなみは幸いにして気付かなかった。ひよりはそんなクラスの様子を見てニヨニヨしているようだったが。
「ゆたか……大丈夫?」
こういう場合、真っ先にみなみがその変化に気付き声をかける。
時折ひよりが先に気付く事もあるのだが、彼女がみなみに先駆けてゆたかの変調に気付いたことがばれると
みなみの雰囲気が怖くなるので、ひよりは気付かないふりをして二人をそばに寄せるように立ち回ることを覚えた。
その方が創作意欲を掻き立てられるシチュも多い、らしい。
「あぅ……ばれちゃったかな?」
答える表情こそ笑顔ではあるが、運動量の割りに発汗しすぎている。おそらく少し熱を出しているのだろう。
そう診て取ったみなみは、体調不良の生徒を保険委員として保健室に連れて行く旨を教師に宣言し、
返事も聞かずにゆたかをお姫様抱っこで抱き上げると保健室に向けて駆け出していった。
一部女子がその姿を見て熱いため息をついたようだが、みなみは幸いにして気付かなかった。ひよりはそんなクラスの様子を見てニヨニヨしているようだったが。
廊下に出るとすぐ早足にペースダウンするところはさすが優等生といったところであろうか。
そうなると行動に若干の余裕が生まれ、みなみは大人しく抱きかかえられたゆたかの顔を覗き込む。
上気した頬、うっすらと浮かぶ汗の玉、閉じられた瞳、かすかに寄せられた眉、薄く開いた唇からは熱っぽい吐息――
「…………っ!!(ぼんっ!)」
一瞬で顔が真っ赤になり、頭から蒸気が噴出したことを自覚するみなみ。
「ひゃっ!……みなみちゃん、大丈夫?ごめんね、重いよね。歩くから降ろしてくれても……」
「だ、大丈夫。問題ない。ちょっと躓いただけ」
バランスを崩してゆたかが落っこちそうになり、申し訳なさそうに喋るゆたかに、みなみは可能な限り平静を装って首を横に振る。
その言葉にゆたかは「ごめんね、ありがとう」と従うが、落ちかけた恐怖心からか、先ほどよりもしっかりとみなみの首に手を回して抱きついてくる。
(いけない……平常心……素数……)
ゆたかの無意識の攻撃に、みなみは必死に耐えながら歩みを速める。
それは、普段であればどれほど高難度であろうとも、最悪の一歩手前で踏みとどまってきていたのだが……。
(よりによって、昨日に限って『処理』をわすれるなんて……うぅ……)
体育の前日には欠かさなかった行為を怠ったことをみなみは後悔したが、いまはそれどころではない。
湧き出る感情とある身体の変化を抑えようとすることに、みなみは全力を注いだ。
そうなると行動に若干の余裕が生まれ、みなみは大人しく抱きかかえられたゆたかの顔を覗き込む。
上気した頬、うっすらと浮かぶ汗の玉、閉じられた瞳、かすかに寄せられた眉、薄く開いた唇からは熱っぽい吐息――
「…………っ!!(ぼんっ!)」
一瞬で顔が真っ赤になり、頭から蒸気が噴出したことを自覚するみなみ。
「ひゃっ!……みなみちゃん、大丈夫?ごめんね、重いよね。歩くから降ろしてくれても……」
「だ、大丈夫。問題ない。ちょっと躓いただけ」
バランスを崩してゆたかが落っこちそうになり、申し訳なさそうに喋るゆたかに、みなみは可能な限り平静を装って首を横に振る。
その言葉にゆたかは「ごめんね、ありがとう」と従うが、落ちかけた恐怖心からか、先ほどよりもしっかりとみなみの首に手を回して抱きついてくる。
(いけない……平常心……素数……)
ゆたかの無意識の攻撃に、みなみは必死に耐えながら歩みを速める。
それは、普段であればどれほど高難度であろうとも、最悪の一歩手前で踏みとどまってきていたのだが……。
(よりによって、昨日に限って『処理』をわすれるなんて……うぅ……)
体育の前日には欠かさなかった行為を怠ったことをみなみは後悔したが、いまはそれどころではない。
湧き出る感情とある身体の変化を抑えようとすることに、みなみは全力を注いだ。
「ゆたか……保健室に着いたよ。もう少しだから」
半ば自分に言い聞かせるように声をかけつつ、みなみは保健室の前に立つ。
両手が塞がっているので、中にいるはずの保険医、天原ふゆきに声をかけるが返事はない。
戸は少し隙間が開いているので鍵はかかっていないようだ。
ゆたかに降りてもらって自分で開けるか、少々行儀が悪いが足で開けるかを少し悩んでいる間に、
状況を察したゆたかが少しだけ身を乗り出して戸を開けた。
「えへへ……これくらいはできるよ」
小さく笑うゆたかに、みなみは微笑み返す。
たったそれだけのリアクションだが、みなみはそれを不自然さをだすことなく行えた自分を褒めていた。
自分の腕の中でもぞもぞと動くゆたかの感触に、いろいろと限界突破しかけていたためだ。
一刻も早くゆたかから離れる為に、みなみはわき目も触れずにベッドへと向かう。
――もう少しだけ周囲に注意をしていれば、彼女のミッションは危ういながらも達成されていたはずだったのだが――
勝手知ったる保健室、開いている場合はいつも使用している最奥の保健室のベッド。その最短距離。
普段であればそこには無い筈のパイプ椅子の足にみなみは躓いてしまっていた。
「あっ……!?」
「きゃっ!」
この状況で、バランスを立て直すのは困難と一瞬で判断しむしろ勢いをつけベッドに飛び込み、
さらには身を反転しゆたかを下敷きすることなく済ませたみなみの身体能力は賞賛に値するだろう。
ぼすん、と見事ベッドにまで到達し、自分の身体でゆたかを守る。
軽い部類に属するゆたかの身体だが、それなりの勢いで胸や腹に押し付けられるとさすがに息がつまった。
「あぅぅ……あ、みなみちゃん大丈……ぶ……?」
自分の下敷きになったみなみの身を案じるゆたかの声が尻すぼみになる。
それを疑問に思ったみなみだが、呼吸を整え返事をしようとしたとき、下半身に違和感を覚えた。
嫌な感じではなく、どちらかといえば心地よいのだが、それが非常にまずい気がする。
「…………えっと……これって……」
困惑声。
と同時にゆたかは左手に触れているある『もの』を確かめるように視線をそちらに向け、手をずらす。
みなみも、自らが置かれた状況を察し、表情を青ざめさせた。
だけでなく、動かされた手の感覚にぴくんと反応したりもするのだが、それに浸っている程能天気な性格はしていなかった。
彼女らの視線の先には、みなみの下半身……ショートパンツを窮屈そうに押し上げる『なにかカタくて立ってるモノ』。
半ば自分に言い聞かせるように声をかけつつ、みなみは保健室の前に立つ。
両手が塞がっているので、中にいるはずの保険医、天原ふゆきに声をかけるが返事はない。
戸は少し隙間が開いているので鍵はかかっていないようだ。
ゆたかに降りてもらって自分で開けるか、少々行儀が悪いが足で開けるかを少し悩んでいる間に、
状況を察したゆたかが少しだけ身を乗り出して戸を開けた。
「えへへ……これくらいはできるよ」
小さく笑うゆたかに、みなみは微笑み返す。
たったそれだけのリアクションだが、みなみはそれを不自然さをだすことなく行えた自分を褒めていた。
自分の腕の中でもぞもぞと動くゆたかの感触に、いろいろと限界突破しかけていたためだ。
一刻も早くゆたかから離れる為に、みなみはわき目も触れずにベッドへと向かう。
――もう少しだけ周囲に注意をしていれば、彼女のミッションは危ういながらも達成されていたはずだったのだが――
勝手知ったる保健室、開いている場合はいつも使用している最奥の保健室のベッド。その最短距離。
普段であればそこには無い筈のパイプ椅子の足にみなみは躓いてしまっていた。
「あっ……!?」
「きゃっ!」
この状況で、バランスを立て直すのは困難と一瞬で判断しむしろ勢いをつけベッドに飛び込み、
さらには身を反転しゆたかを下敷きすることなく済ませたみなみの身体能力は賞賛に値するだろう。
ぼすん、と見事ベッドにまで到達し、自分の身体でゆたかを守る。
軽い部類に属するゆたかの身体だが、それなりの勢いで胸や腹に押し付けられるとさすがに息がつまった。
「あぅぅ……あ、みなみちゃん大丈……ぶ……?」
自分の下敷きになったみなみの身を案じるゆたかの声が尻すぼみになる。
それを疑問に思ったみなみだが、呼吸を整え返事をしようとしたとき、下半身に違和感を覚えた。
嫌な感じではなく、どちらかといえば心地よいのだが、それが非常にまずい気がする。
「…………えっと……これって……」
困惑声。
と同時にゆたかは左手に触れているある『もの』を確かめるように視線をそちらに向け、手をずらす。
みなみも、自らが置かれた状況を察し、表情を青ざめさせた。
だけでなく、動かされた手の感覚にぴくんと反応したりもするのだが、それに浸っている程能天気な性格はしていなかった。
彼女らの視線の先には、みなみの下半身……ショートパンツを窮屈そうに押し上げる『なにかカタくて立ってるモノ』。
そしてこの話は、冒頭部分にようやく到達するのだった――
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- ちゃんと続いてるんだぜ。
続きリンクがないから解りにくいかもしれんが、検索使ったり、作者ページに行ってみたりすると吉。 -- 名無しさん (2007-09-29 22:02:27) - ぜひ続きをお願いします!!! -- ひろ (2007-09-29 20:51:35)