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繋がってなくても

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匿名ユーザー

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「ちょっと早く来すぎたかな」
駅構内の電光掲示板を見ながら、かがみは一人呟いた。
まだ約束の待ち合わせ時間より20分以上ある。
時間にルーズにこなたの性格を考えれば、暇をもてあますのは必至だった。
かがみはため息をつくと、目の前を通り過ぎていく人波に目を向けた。
県下有数の繁華街を有する大宮駅は様々な人で溢れている。
(この中にも同性と付き合ってる人がいるのかな)
こなたと付き合うことになって、かがみは常識が案外頼りないものだと知った。
一塊にしか意識していなかった人々の姿が、それ以来妙に鮮明に写る。
すると、その中にバネ仕掛けのように跳ねる青い髪がこっちに向かってくるのが見えた。
「ごめん、待った?」
走ってきたせいか、こなたの頬はいつもより健康的な薄桃色に染まっている。
七分丈のカーゴパンツにラグランの半袖、服装はいつもと同じで飾り気がないのに
なぜかいつもより可愛らしく見える。
「ほんのちょっとだけよ、15分も早く来るなんて珍しいわね」
「そりゃあ初めてのデートに遅れるわけにはいかないでしょ」
「ちょっ、そんな大きな声で言わないでよっ」
「大丈夫大丈夫、みんなそんなに気にしてないって。
 ……あ、かがみ可愛いの付けてるじゃん。それってあれだよね、去年の」
こなたの視線の先、かがみの耳には青い石をあしらったイヤリングが揺れていた。
「そうよ、みゆきにもらったやつ。
なかなか付ける機会がなくってさー、こなたは付けてるの見たの初めてだよね?
どう、似合ってるかな……?」
「可愛いと思うよ。ちょっと大人っぽく見える」
「良かった。
服何着てこうか散々迷ったんだけどね、考えたらあんた私の服全部知ってるじゃない?
だから何か新鮮な物を、って思ってさ」
かがみは愛おしげにイヤリングを指で撫でた。
「……おお何という乙女ちっく」
「ん、何か言った?」
「ううん、なんでもない。さ、まずはご飯食べにいこっ」
こなたは首を振ってごまかすと、かがみの手を掴んで歩き出した。




商店街から、路地を二本程奥に入った所にその店はあった。
旗がたっているものの、気をつけないと民家と間違えてしまいそうな佇まいだ。
「すいません、予約の泉ですけど」
二人が案内されたのは唯一窓際に面した席だった。
こなたは席に着くと早速メニューを手に取って、何を食べるか考え始めた。
「あんた予約なんかしてたんだ」
「うん、ここ見ての通り小さいからさ。予約しとかないと入れないんだよね」
こなたはメニューから目を離さずこともなげに答える。
「ふーん……」
「よし、私は決めた。かがみはどうする?」
「あっ、えっと、どうしようかな……うん、決めた」
かがみはさっとこなたから目を逸らすと、慌てて注文を決めた。
こなたは、エビの入ったトマトソースのスパゲティ。
かがみはイカスミのスパゲティを注文した。
「かがみぃ~……デートに来てそれはないんじゃないの?」
前菜に続いて運ばれてきた、真っ黒なお皿を見てこなたがぼやく。
「しょ、しょうがないでしょ!私これ好きなんだから。
 それに女同士なんだし、そんなこと気にしなくてもいいかなって……。
 ああもう、じゃあ男みたいにここおごってくれる訳?」
「まあ……別にいいけど」
「え、ええっ!わ、私本気で言ったつもりじゃ」
一人で焦るかがみを、こなたは指を立てて制した。
「その代わり、今度はかがみのおごりだよ。どっかいいお店見つけといてね」
「ならいいけど……、じゃあ今回は払ってもらっていいの?」
「私もお金余ってるわけじゃないけど、単純に割り勘にしてもつまらないじゃん?
 ところで、どう?美味しい?」
「まじで美味しい……あんたってオタ方面以外にこういう引き出しもあったのね」
「でしょ!ふふん、ちょっと見直した?」
こなたは顔が輝かせて、料理に関する蘊蓄を語り出した。
その奔流のようなトークにかがみは苦笑した。
(はあ、やっぱ分野が違ってもこういう所は変わらないわね)

約束通りこなたが会計を済ますと、二人は映画館に向かって歩き出した。
車が多数行き交う大通りを真っ直ぐに進む。
「そういや男女だとさ、男が車道側を歩くって言うよね」
「確かにそうね、まあ紳士的な所をアピールしたいんじゃないの」
「じゃあ私が車道側!」
歩道側にいたこなたが、かがみの腕を掴んで位置を入れ替えた。
「もう、私より背が低いくせに何言ってるのよ」
かがみがこなたを押しのけて元の位置に戻った。
「でも運動神経は私のほうがいいもん」
「いつもよそ見ばっかりしてふらふらしてるくせに」
「今日の私の服装男の子っぽくない?」
「もうわけわからん」
いつしか二人はお互いの腕を掴んで周りだしていた。
どちらからともなく、笑いが漏れ出して止まらなくなる。
結局二人は映画館に着くまでそうして踊り続けていた。


 「それなりにはお客入ってるんだね、もっとがらがらかと思った」
「まあまあ評判いいらしいよ。作者も結構名が知られてるしね。
……あ、前の方で真ん中の席が空いてるわね。じゃここでお願いします」
チケットを買って館内に入ると、クーラーの冷気がかがみの肩を撫でた。
半数以上の席は客で埋まっており、方々から談笑する声が聞こえてくる。
「カップル率高いなー、ああでもこっち側の人もやっぱりいるな」
「あんたは嫌な観察の仕方をするな。ま、ラノベが原作だしそうゆう人もいるでしょ」
程なくして場内の明かりが消え、上映が始まった。

物語は孤独な二人の男女が、頭の中にだけ存在する携帯電話で繋がる所から始まる。
電波状況も通話料も気にする必要はない。おかげで二人はいつどんな時でも一緒だった。
日々の些細な会話、携帯を通じた擬似的なデート。二人の距離は少しづつ縮まっていく。
そしてとうとう二人は実際に会う約束をする。
しかし実際に二人が会えたのはほんの一瞬だった。
最後の別れ際、男は声にできない言葉を女に伝える。
『きみは一人じゃない』




映画が終わって、二人は同じビルの喫茶店に入った。
ぼろぼろに泣き出してしまったかがみのために休憩していくことにしたのだ。
スタンド席に二人並んで座る。
「かがみは泣かない人だと思ってたよ」
「普段は泣かないんだけどね……ちょっと設定がツボっちゃって」
かがみはちょっとしたことで長電話を繰り返してる自分たちと、映画の二人を重ねあわせ
て見ていた。
勿論そんなことは気恥ずかしくて、とても言えなかったが。
「ふ~ん、でもいいよね。あの携帯。
 持ってたらすぐにかがみにかけるんだけど」
これを聞いてかがみは危うくコーヒーを吹きそうになった。
「ちょ、あんた……何恥ずかしいこと言ってるのよ」
「えー?私はただあれがあったら、テストも楽勝じゃーんとか思っただけだよ。
 原作でもやってたよね。あれ?かがみってば何赤くなってんのぉ?」
こなたは身を乗り出してさらに追求する。
食品のものではない、甘い匂いがかがみの鼻をついた。
「う、うるさい……!わかったわよ! 私もちょっと欲しいなって思ったのよっ。
あれならあんただって、家に置いていったりしないでしょ!」
「ほほう、つまりかがみは私とずっと繋がっていたいと」
「いちいち恥ずかしい言い方すんなよ、もう!」
こなたの言葉のせいで、かがみの妄想はどんどんエスカレートした。
夏休みだろうが、クラスが別れていようがずっと一緒。
卒業しても、就職しても、あの携帯がある限り二人が離れることはない。
「まあほんとのこと言うと、私は欲しくないけどね」
現実のこなたの声が、一瞬でかがみの妄想を断ち切った。
「あ、そう……やっぱりこなたは携帯とか嫌いだった……?」
「そういうわけじゃなくてさ。いつでも繋がってたらきっとすぐに飽きちゃうよ。
 なんの驚きもなかったら、恋なんてすぐに冷めちゃう」
「何よ……急に真面目なこと言っちゃって。普段は私のこと散々茶化すくせに」
 ちょっとくらい想像に付き合ってくれたっていいじゃない」
「かがみんは甘えん坊だなー、そんなこと言ってるとまたみさおに泣かれちゃうよ」
これからはこっちででお弁当を食べる。
そう言った時のみさおの嬉しそうな顔が、かがみの脳裏に浮かぶ。
女と付き合うことになったと聞いても、笑って受けて入れてくれた単純バカの顔が。



「確かにそうだけどさ……あんたはそれでいいの?
普通付き合ってる人が他の……ええと男、女?を気に掛けてたら怒るもんじゃないの?」
「最近の女子は恋愛だけしてればいいわけじゃないのだよ、かがみん。
 プリキュアだってそう言ってるじゃん。
っていうか、ようはかがみはさ、特別、が欲しいんでしょ?」
「え、え、ちょっと顔近いって、こんな所でするなよ!」
ふざけてキスしようと迫るこなたの顔を、どうにか両手で押しとどめる。
濡れたように光る唇が妙に艶めかしい。
「ってこなた……あんたもしかしてメイクしてない?」
こなたが急に身を引いて、顔をそむけた。
「いや、そんな見せるようなもんでも……」
「こら、ちょっとこっち向きなさいよ」
「いたっ、ちょっと痛いって、解ったから髪引っ張らないで」
こなたは観念して身体をかがみのほうに向けた。かがみは存分にこなたの顔を観察する。
「やっぱりグロス付けてる。あとチークもか。今日なんーか血色がいいなと思った。
おーおー、よく見たら結構色々手加えてるじゃん。
へー、あんたもこういうの気にするお年頃になったのねー」
さっきまでの仕返しとばかりに、かがみは思いっきり意地悪く言ってやった。
こなたが恥ずかしそうに目を伏せるのが、たまらなく快感だ。
「まあ、私も少しくらいできたほうがいいかなって……おかしいかな?」
「ううん、おかしくないよ。ちゃんと可愛いから大丈夫だって、こなたちゃん!」
冗談交じりではあるが、そこは本当だった。
元々出来の悪くないこなたの顔に、メイクが新たな彩りを加えている。
「もう、かがみの意地悪……」
「褒めてるんだから、拗ねるなよー。ねえ、何使ってやったの?」
「えっと、確か……」
結局こなたは、メイクのことで延々かがみにいじられ続けるはめになった。



夕日の差し込む電車内で、二人は別れを惜しむかのように話し続けた。
今日の出来事、受験の悩み、借りた漫画の感想。話題は尽きなかった。
「そうだかがみ、今度の誕生日はケーキ買わなくっていいからね。
私が作って持っててあげるから」
次のデートの話になった時こなたが、唐突に言った。
「ケーキって、あんたそんなんもん作れるの?あれ道具とか色々必要なんじゃないの?」
「ふふふ、うちのお父さんは凝り性だからね。オーブンだってちゃんとあるんだ。
 ま、せいぜい期待しときなさい」
自信満々なこなたの様子にかがみが微笑む。二人は今確実に幸せを共有していた。
そんな二人にアナウンスが別れの時が近いことを告げる。
「もう次だよね、今日は随分一日が早かった気がするよ」
「私も楽しかったよ。まあ、やってることは普段と変わらなかった気もするけどね」
「だからキスしようと思ったのに、かがみ拒否ったじゃん」
「あんな所でできるかっつーの」
電車の扉が開くと二人揃って、ホームに降りた。ここでかがみは乗り換えとなる。
しかしかがみはなかなか動こうとしなかった。
一緒に降りた乗客はとっくに改札の向こうに消えて、人はまばらにしか見えない。
「かがみどうしたの?行かないの?」
「……まあこれくらいならいいかな」
そう言ってかがみは、こなたの顎に指を添えて上を向かせた。
「あ……」
「……じゃあね、また明日学校で」
ほんの一瞬かすめるようにキスをすると、かがみは足早に去っていった。
「かがみってば、ほんとシチュエーションに弱いなぁ……ちょっと心配だよ」
余裕ぶった口ぶりとは裏腹に声は上ずっていた。


この日メイクを落とした後も、なぜかこなたの頬から色が引くことはなかった。













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  • 鏡の前のこなた
    「逢い引きのメイク! スキンスタート!」
    とか言ってたりして… -- 名無しさん (2011-04-28 19:17:10)
  • かわいいかがみさんですね
    学生時代はやっぱり一番いいですよね 世間の目を気にせずに済むんですし
    小説を頑張ってください 応援してます -- 7 (2009-08-04 14:27:12)
  • GJが止まらない!! -- 将来ニートになるかも (2007-10-23 23:14:28)

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