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あまごいこなた、おもいでかなた。

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 夏休みも終わりかけのある日。みゆきに勉強を見てもらうつかさと別れて一足先に家に帰ると、妙な奴が妙な歌を歌いながら妙な事をしていた。
「にゃーにゃらっにゃー、にゃにゃーにゃー♪ にゃーららっらー♪ ららーらー♪」
「……ボン太くんのテーマはまあ特別に許すとして、何やってんのよあんた」
 DSのゲームに出てるのが嬉しくて、ついうっかり15段階改造した挙句ずっと一軍で使ってたのは内緒。
「ふも、ふもふも、ふもっふ♪」
 ご丁寧に金田朋子の物真似で答えたのは、いわずと知れたこなただ。人んちの軒先に、せっせと謎の物体を吊るしている。
「……日本語しゃべれ」
「んーとね、これ」
 こなたは脚立(これもうちからの無断借用だ)からぴょこんと降りると、物体の一つを手渡した。
「逆さてるてる坊主? なによ、雨乞いなら自分ちの軒先ででもすればいいじゃない」
「いやあ、毎年やってるとマンネリでさあ。そろそろ新機軸の一つも打ち出そうかなあって」
「新機軸の一つで私んちを巻き込むなっ!」
「んー、今年はちょっと特別だから……彼女と二人で迎える初めてのイベント、ってね♪」
 へらりと笑ってから、小声で付け加える。笑顔の眩しさに私が真っ赤になって、そのままうやむやになるのがいつものパターン。
 そう。私とこなたは、女の子同士の「そういう」関係になっちゃってるんだ。告白された時も初めてのキスも初えっちも、こんな調子でずるずる押し切られて。
「……後できちんと説明しなさいよ?」
 そして、ずるずる押し切られるのがなんだか妙に心地よくって、渋々を装って押し切られてあげるのもいつもの通り。

「雨あめ降れ降れもっと降れ~♪ 誰も知らない素顔の八代亜紀~♪ ……んー、えくせれんと♪」
 やな混ざり方をした歌を歌いながら、こなたは順調に逆さてるてる坊主を吊るし終えた。
「はい、お疲れ」
 それを見計らってよく冷えたアイスティーを淹れているあたり、私もすっかりこいつにやられちゃったなあと思う。
「おー、かがみん気が利くぅ♪ んっく、んっく……お代わりー!」
 早速がぶがぶと飲み干すこなた約一名。やっぱり、薄目に淹れておいて正解だったわね。お代わりを注いでやりながら、私はこなたに尋ねた。
「で? なんでまた雨乞いなんて毎年やってるわけ? やっぱり、野球の延長よけ?」
 スポーツ中継……というか、スポーツ中継の延長はこいつの最も嫌うところだ。タイマー録画の予定が狂うから、って言ってたっけ。
「うんにゃ、違うよ」
 けど、こなたは一言の元に否定した。
「違うって……じゃあ、一体なんでよ?」
「それは雨が降ってのお楽しみ」
 むふふ、と笑うこなた。ていうかこいつ、いつもより気持ちハイよね? ううん、ハイとも違う。なんでか知らないけど、今こいつすごく含蓄ありそうな顔してる。例えて言うなら、過ぎ去った思い出を懐かしむような……。
「雨が降ってのお楽しみ、って……逆さてるてるくらいでそう簡単に雨が」
 降るわけ無いでしょ、と言いかけた言葉は、ぬめるような風と湧き上がる黒雲に遮られた。あれよあれよと言う間に空は暗くなり、空の彼方で稲光が光る。続けて雷鳴。って、かなり近くない!?
「ほんとに降ってるし!?」
 ひとしずく、ふたしずく。湿った匂いがあたりに立ち込めたかと思うと、大粒の雨が降り始めた。

「……来た……来てくれたっ!!」
 いつものだらけた様子はどこへやら、速攻で庭に飛び出すこなた。
「ちょっと、わざわざ濡れに行く気?」
 呼び止めると、こなたは振り向いて言った。いつもと違う、すがるような眼差し。
「大事なことなの、かがみも来て!」
 ああもう、そんな顔されたら突っ込みなんてできる訳無いじゃない!
「3分待って、ううん1分!」
 一瞬で最短ルートを構築すると、私はバスタオル二枚を持ち出しにお風呂場へ走った。往復所要時間は30秒。こなたに言わせりゃ「愛だよ♪」とか言うところかしら。
 バスタオルを着せ掛けようとするとなぜかぶんぶん首を振られたので、諦めて縁側に置いてこなたと一緒に庭に出る。
「うええ、すごい雨! ていうかこなた、大事なことって何なの!?」
「……あさん」
 答えは囁くような声。それを聞いたとき、私はなんとなくこいつの奇行の理由に思い当たってしまった。
 こなたが私の手を取る。両の手で私の左手を取って、胸にしっかりとかき抱く。体勢的に、私が片手でこなたを後ろから抱きすくめるような形になった。
 表情は後ろからで見えない。のぞき込む気にはとてもなれなかったので、私は雨の降り注ぐ空を見上げた。左手が離れる感触と鼻をすすり上げる音で、こなたが涙していたのを知る。大きく息を吸う気配、そして彼女は叫んだ。


「お母さぁん! こなただよ! こなたはここにいるよー!! 私、わたし、元気だよー!!」


 こなたのお母さんは、若くして亡くなったと聞いた。なんでもない事のようにこいつは話していたけど……こいつなりに思うところがあったのだろう。気の利いたことも言えないので、両手でぎゅっと抱き寄せる。抱き返すこなたの力は私以上に強くて、痛いほどだった。
 顔に身体に、容赦なく夕立が降る。けれど私は顔を下ろすことが出来なかった。ったくどこのどいつよ、「涙がこぼれないように」なんて歌った馬鹿は。……上向いてたってそんなのとっくに溢れてこぼれて、雨と一緒くたにずぶ濡れじゃないの……!

「ゆーちゃんがうちに来たよ、それからゆーちゃんにも友達ができたよ! あとね、あとね……!」
 こなたは空に向かって話し続ける。いつもより少し甘えた涙声。

 ……たぶん。これはこなたなりの、こなただけのお弔いなんだ。

 思えば、こんな風に涙を流すこなたを見た事なんてなかった。普段こんな風に泣かないこいつだから、雨の降る日にこうやってこっそり一人で泣くのだろう。

(……はじめまして、柊かがみといいます)
 声を出すのも気恥ずかしいというか、出してしまうとそのままさらにもらい泣きしそうだったので、心の中だけで空にいるだろう人に呼びかける。が、私の腕の中のこいつは、さらにその斜め上を行った。

「あとね、好きな人もできたよ! とってもいい子だよ! ツンデレだし!!」
「ば、ばかーっ!?」

 泣き照れ怒り、という新ジャンルが誕生した。主に私の顔面周辺で。こなたを見下ろすと、一足先に雨上がりのような笑顔。トッピングはいつものチェシャ猫笑いだ。
「ねーかがみ、私好きな人が出来たって言ったけどかがみの事だって一言も言ってないよ? あーあー、せっかくかがみの顔を立ててご近所に配慮してあげたのに、自分から自爆にいくんだもんなー」
「ううううう、うっさいわね! い、いいからなんかその、話すこと話しなさい!」
「もう一通り話したよ? とっておきはたった今話したし♪」
「とっておきって私のこと!?」
「もち。言ったよね、二人で迎える初めてのイベント、ってさ」
「もう……ばかこなた」
 自分自身、こんな穏やかな顔で「ばか」って言えるなんて思ってなかった。一度腕をほどき、左手で肩を抱き寄せて空いた右手で改めてこなたの手を取る。雨足は緩みはじめ、今まさに止もうとしていた。二人並んで空を見上げる。
「……女の子同士ですけど、ふつつかものですけど……こなたのそばにいようと思います。よろしくお願いします」
 小声で空へ呼びかける。
「また逢おうね、お母さん。……私もかがみも当分そっちには行けないけど、また来年お話に来るからね」
 雨が止む。雲は風に流されて去り、空には虹がかすかにかかり始めていた。

「ねえ、こなた」
「んー?」
「さっきのあれって、その……こなた流のお盆みたいなの、なのかな」
「お盆はお盆でちゃんとやるよ? あれはね、秘密の儀式」
 冷え切った身体をお風呂で温めた後(まあ、それ以外の事もちょこっとだけしたけど)。私は秘蔵の水羊羹をこなたに振る舞っていた。黄昏時の縁側には、澄み切った風が吹いている。
「秘密の儀式?」
「物心ついたときの最初の記憶がね、お母さんのお葬式だと思うんだけど、なんか煙突みたいなのに雨が降ってて、お父さんが『お母さんはお空にいるんだよ』って言ってるの。だから、雨が降ったらお母さんに逢えるかなって思って、さ」
「そっか……」
「そんでまあ、命日の後の最初の雨の日に秘密の儀式を毎年執り行ってるって訳なのだよ。なんで秘密にしようかなって思ったのかは、正直あんまり覚えてないんだけどねー」
「でもさ、そんな大事な儀式なのに……私なんかがいて良かったの?」
 こなたにとって、誰はばかることなく涙を流し、亡きお母さんに語りかける機会は何よりも貴重なもののはずだ。けれどこなたは指を振り振り言った。
「ちっちっち。かがみがいないと意味がなくなったんだよ。今年から、ね」
「……ありがとう、こなた」
 とびっきりのこなたスマイル。いつもなら真っ赤になってフリーズしちゃうところだけど、雨上がりのせいか素直に返す事が出来た。
「また来年も……雨乞いしようね、こなた」
「もっちろん。ふたりっきりで、ねっ」
 素直ついでに、そっとこなたに口づける。ちょっぴり抹茶の味がした。



 え? 実家で堂々とキスなんかして大丈夫だったのかって?
 とりあえず……見られたのがつかさだけで良かったとは言っておくわ……。(どっとはらい)



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  • GJ!泣 -- 名無しさん (2022-12-29 00:26:16)
  • ↓「雨ふりエピソード」って? -- 名無しさん (2012-11-02 16:01:45)
  • 本編の雨ふりエピソードで泣かされたのに、
    またしても、このSSであっさり泣かされてしまいました。不覚だ~! -- 名無しさん (2011-02-21 09:01:54)
  • GJでしたっ(T-T)! -- 名無しさん (2011-02-05 23:39:36)
  • 泣けます!これ最高の作品です! -- 名無しさん (2010-05-12 15:13:37)
  • かなたさんは何時迄も
    見守っててくれてますよ(;_;)
    -- ユウ (2010-04-08 14:48:02)
  • 泣けるよこれ

    いい作品をありがとう -- オビ下チェックは基本 (2009-10-20 08:00:53)
  • あまりにもきれいな話で、涙が出そうになった。 -- 名無しさん (2009-10-19 23:14:07)
  • この話を作った人は天才だと思う。 -- 名無しさん (2009-10-19 23:01:07)
  • きっとこなた流の報告の儀式なんでしょうね。
    ホロリと来ました。
    二人の絆が続く限り途切れることはないでしょう。 -- こなかがは正義ッ! (2009-02-11 23:37:16)
  • うわあ、泣ける -- 名無しさん (2009-02-11 12:28:23)




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