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リコレクター・ユイ

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 窓を開けたらコオロギや鈴虫の声が入ってきた。
 少し前までは夜でも蝉の鳴く音が聴こえてたはずなのに。
 そっか。もう新しいアニメの始まる十月なんだ。
 今年も終わっちゃうのかな~早めにカレンダーの絵柄決めて予約しなきゃな~なんて考えてたら、誰かが家にやってきたみたい。

「やほー! いまや史上最強天下無敵のゆい姉さんだよぉ~~!!」
 ハンドルを握ったときと、お酒をしこたま飲んだときのゆい姉さんは別人なんじゃないかと疑いたくなる。
「うわっ今夜もひどい酔いっぷりですねぇ。まさか、また飲酒運転してきたんじゃ」
「ふっふっふ。そのような心配はご無用ですぞこなたクン。ちゃんと電車と徒歩でここまで来たもんね!」
「それならいいんですけど……ゆーちゃん寝ちゃってるからもうちょっと静かにおねがいしますよ」
「……は~い、了解しましたぁ」
 急に小声になっちゃって、なんと極端。
 酔っていてもゆーちゃんのことには反応するあたり、実姉としてのメンツは保ちたいのかな。

「そんなことより聴いておくれよ。もしかしたら今年いっぱいはこっちに帰ってこれないかもしれないんだって」
「きー兄さんのこと? そうちょくちょく帰ってこれるようなものでもないよね」
「せめて七日ぐらいは一緒に祝ってもらいたかったのに……。自分で決めたことだし、お仕事だから割り切らなきゃいけないんだけど」
 あれ、『七日』ってなんの日だっけ? 結婚記念日はもう過ぎてるよね。
「でもやっぱりさみしいよ~。こなた、今日だけは私が許すから一緒に飲も!」
「いや、遠慮しときます。そういえばさ、きー兄さんと姉さんの高校のときの話をもっと聴かせてくれないかな」
「高校時代……というと?」
「前に文化祭の話をしてくれたよね。こっちももうすぐ文化祭だから、どんな感じだったのかなって参考に」
「いいけど、もう十年くらい前になるのか……」
「今でも思い出せる?」
「もちろん。だんなに関係したことならどんな細かいことでも思い出せるよ」
「それは……ある意味すごいね」
「あのとき校内は文化祭一色でドタバタしてたな~……」

   ***  ***  ***

 文化祭の準備自体は結構前から始まってた。
 でも出し物を決めたり、実行委員の人が資材を手配する感じで、一般の生徒は忙しくなかったんだよ。
 みんなが動き出したのは開催の二日前。
 その日から、通常授業じゃなくなって特殊な時間割になるの。
 学校には八時半から十一時までの間に来て、教員室に寄って、担任の先生に出席を伝えればよかった。
 もちろんそれより早く来て準備しても構わなかった。
 だから私は七時くらいから成実さんを待ってたんだ。
「失礼します」
「お? 小早川はやる気が違うな。クラスのほかの奴らも見習って欲しいもんだ。……小早川出席っと」
「へへー、私のやる気は『別の意味で』ですけどね」
「?」
「じゃあ先生、教室へ行ってきま~す」
「ああ、そうしてくれ」
 『教室』とは言っても『自分の』とは言ってないもんね~。
 迷わず成実さんのもとへお手伝いに。
 担任の先生はほとんど様子を見に来ないし、それでも全然ばれなかったよ。

 ……謎解き迷宮をやるってことはもう言ってたっけ?
 教室をまるまる一つ使って大きな迷宮を作るんだけど、迷宮だから壁が必要なの。
 それで有孔ボードを大量に運ぶわけだけど、倉庫から教室までがまた遠いんだ。
 階段を下りて、一階にある倉庫まで行って、また階段を上らなきゃならないから面倒くさくて。
「おーい、誰か手の空いてる奴、有孔ボード取ってきてくれよ」
「じゃあ、僕が行きます」
「あれデカイからもう一人ぐらいいた方がいいんだけど、誰かいねえの?」
「私が一緒に行きます」
「……おめえ小早川だっけ。別のクラスだよな、たしか。そっちはいいの?」
「はい。向こうは十分人手が足りているので。あの、成実さん、行こ!」
「本当にいいの?」
「ええ、だから早く行きましょ!」

 他の人がいると目立った行動は起こせないから、こんな風に二人だけになれるチャンスがくるととっても嬉しかった。
 ただ廊下を歩いてるだけでも十分幸せ。
 ……でもすぐに倉庫に着いちゃって、現実に引き戻されるんだけどね。
「僕はこっち側を持つから、小早川さんはそっちをお願い」
「うん」
 薄暗くて成実さんは見えないけど、優しい声はよく聴こえる。
 ああ、待ちに待った二人の共同作業……二人の共同作業……二人の共同作業……♪

 もともと有孔ボードってのはベニヤ板を張り合わせた仕切りみたいなもので、そんなに重くはないんだよ。
 それに加えて、成実さんと持ってるって思ったらなんだか嬉しくて、重さなんてまったく感じなかった。
「小早川さん、階段曲がるからそっちをちょっと持ち上げてくれないかな」
「はーい」
 二人の共同作業♪ 二人の共同作業♪ 二人の共同作業♪
「こ、小早川さん? 持ち上げすぎ、持ち上げすぎ」
「あ、考え事しててつい……本当にごめんなさい」
「気にしない気にしない。こっちが実害を被ったわけでもなし」

   ***  ***  ***

「うわー、ゆい姉さんってその頃から深めにアクセル踏んでたんだね……」
「こらこら、まだ話は終わっちゃいないよ。ここからがいいところなんだから」
「……すいません」
 愚痴を聴かされることは回避したけど、こっちもこっちで地雷だったか……。
「何回かボードを運んでてね、だんだん慣れてきたときなんだけど――」

   ***  ***  ***

 階段を上がるとき、後ろ向きだとつまづいたり誰かにぶつかったりしてあぶないからって、私が前を向くように運んでたんだ。
 だけどそれでも段を踏み外してバランス崩しちゃってね~。
 ボードからガツンと一発空手チョップをおでこに受けちゃって……。
「いてて」
「だ、大丈……夫? じゃないよね。どうみても、これは」
「へへ、やっちゃった」
「傷になってないかな? ちょっと見せてみて」
「あ……」
 成実さんの手が私の額に触れてる……予想外の展開だけどラッキー!
 でも心の準備ができてないのにこんなことされたら、顔が赤くなっちゃう……。
「うーん、ちょっと赤くなってるみたいだね。一応保健室に寄っておこう」
 よかった、勘違いしてくれてるみたい。だったらこのまま話をあわせちゃえ。
「じゃあ行ってみるね」
「僕も一緒に行くよ。僕にも責任があるし」
「ラッキ……げふん、げふん、ありがとう。」

  ***  ***  ***

「お、これはきー兄さんフラグが立ったね」
「フラグってそんなもんじゃないよ」
「それで、その後は?」
「むぅ、いきなり食いついてきたな……ちゃんと話すから急かさない急かさない」

  ***  ***  ***

「すいません、誰か居ますか」
 とりあえず訊いてみるけど、へんじがない。
 保健室はガーゼや脱脂綿が待ってるだけだった。
「ベッドには誰も寝てない。準備室にも居ない。先生は留守か」
「探しに行く?」
「いや、ちょっと手当てするぐらいなら僕たちだけでも大丈夫でしょ。確かここに利用者カードが……」
 落ち着いてるし、ずいぶん手際がいいような気もするけど、よくここに来てるのかな。
「あった。ここに名前を書いておけば先生も分かるでしょ」
「何から何までありがとう」
 シャーペンを取り出してさらさらと私の名前を書いていく。
 優しいだけじゃなくて頼れる人。
「冷凍庫の氷で氷水を作って、それでおでこを冷やそう。氷嚢も一緒に入ってたかな?」
「ねえ成実さん、なんでそこまでしてくれるの?」
「ん? ボードを頭にぶつけたのは僕にも責任があるんだ」
 それに責任感も強い。やっぱりいい人だよ、成実さんは。
「本当にそれだけ?」
「女の子の顔に傷とか付けちゃったら償い切れないしね。素人でも、手当てはしておかないと」
「たんこぶの一つや二つならキズモノにはならないよ。大げさだね」
「そうだね。……でも、もしこれでお嫁に行けなくなったら、そのときは責任を持って僕が――」

  ***  *** ***

「ひとつだけ言わせて。『それなんてエロ』……って姉さん!?」
 色々ツッコミを入れようとしたのに、すでに倒れてた。
「もうダメ。お酒が体中に回っちゃって眠い」
「せっかくいい所だったのに。今夜もお泊り?」
「そうして~布団敷いて~」
 姉さんの顔が赤いのはお酒のせいか、ノロケ話をしてた恥ずかしさのせいか、どっちかは知らない。



 ピ……ピロリロリ~ピロリロリ~
「姉さんの携帯じゃない?」
「ごめん、今、頭が痛いから代わりに出て」
「しょうがないな~。はい、泉……じゃなくて成実です……あ、きー兄さん……寝ちゃってるんで私が代わりに出たんです」
「きよたかさん? ちょっと代わって。もしもし……え……一日だけ空けてもらった!? 帰ってこれるの!? やったー!! 一緒にお祝いしよ!」

 姉さんが別人に豹変する場合がもう一つあった。
 きー兄さんと一緒に居られるときだ。
 まあいいや。なんだか知らないけどよかったね、姉さん。










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