真宵 ◆IVe4KztJwQ



緋村剣心は、志士雄真実との戦いの中に突如乱入してきた妖怪の如き醜き顔を
持つ男。三合目陶物師に神谷薫を攫われ、疾走し。いま対峙していた!!

「姦夫!」

突如叫び声を上げる三合目陶物師は、緋村剣心へとその白刃を閃かせながら
襲いかかり、樹海にて相対してきた幾多の命を奪ってきた片手剣から
放たれる神速の横薙ぎが剣心の首筋を斬り落とす如く迫ってゆく。
その刃を剣心は裂帛の気合と共に、右手を静かに刀の鍔に添えると
抜刀術の構えを取り陶物師を迎え撃つ!

飛天御剣流・二段抜刀術

「双龍閃・雷!!」

剣心は左足を軸に身体を右へ捻り、陶物師が振るう刃を鞘で弾き返し全身を回転させながら
さらに一歩右足を踏み、遠心力を加えた渾身の抜刀が陶物師の胴に叩き込まれる!!

「・・ぐぼっ!!」

その一撃に堪らず陶物師は後ろに飛び退りながらも剣心を正面から捉え距離を取る。
その隙の無い動きに、無理な追撃を避けた剣心は、再び殺気に近い眼差しを込めて
陶物師を睨む。

「薫殿を、返してもらうぞ」
「・・ぐっ」

対する陶物師は、必殺の初撃を防がれた上に、眼前の男が使う奇妙な
剣術の前に一太刀を受けた事によって蹈鞴を踏む。
思えば、この白州に集められた後に初めて相対した”新免無二斎
の操る妙な獲物(十手)と技に調子を狂わされた。
次に出逢った名も知らぬ隻眼の男には、鏡写しの如き剣技の前に
醜き顔に薄い傷を付けられた挙句、その顔の傷を隠す為に
攫ってきた、女の美しい顔を剥ぐべく意気揚々としている所を
眼前の剣心と呼ばれた男に邪魔をされたのだ。
何一つ、陶物師の思い通りに事が運ばない。
その事に感情を苛立たせる最中、陶物師の腕の中に
捕らわれながらも、再び薫が必死に剣心の名を叫ぶ!

「・・剣心!」

剣心と呼ばれた眼前に立つ男が、その叫びに応え。

「・・薫殿!」

陶物師の間でその視線が絡み合う。

その光景に。

”三合目陶物師”は、忌まわしい記憶と共に。内より迫る、陰鬱な憎悪に身を震わせた。

何故、と?

何故。

妻と同じ美しい顔を持つ此の女は、左頬に『醜い十字傷』を持つ
俺と同じ醜さを持つ男を愛おしそうに呼ぶのだ!!

それは、顔の醜さ故に、妻を寝取られ。
それは、顔の醜さ故に、逃げた妻に誰もが同情し。
それは、顔の醜さ故に、どれ程に主君に仕えた剣の達人だったとしても。

誰にも顧られる事の無かった陶物師にとって、決して許せる事ではなかった・・。

だからこそ、俺は本当の名さえ捨てて、復讐者となり、殺人者と成ったのだ!!

美しい女と眼前の十字傷の男が、かつての妻とその妻を寝取った男に重なる。

「姦婦!」

陶物師は怒りに肩を震わせた手で、再び薫に当身を浴びせる。
否、力任せに殴り飛ばされた神谷薫の身体が吹き飛び。
呻き声を漏らしながら、陶物師の足元に転がり落ちる。

「貴様ぁ!!」

その光景に。剣心は激昂し、疾走と共に陶物師へと斬り掛かる。
だが。剣心の怒りの一撃は、突如膨れ上がった陶物師の膨大な剣気と刃に弾き返され、
陶物師は狂ったように悪鬼の如き表情で、更なる連撃を繰り出し、
そのあまりの苛烈さに剣心は防戦を余儀なくされていく。

「ふふふ・・」

薄笑いを浮かべながら、執拗に獲物の喉笛を食い千切らんとする
陶物師の蛇の如く凶刃が、徐々に剣心の身体に無数の傷跡を付けていく。

「くっ!」
「お前は・・、お前は、殺す!!」

何故、初見では剣心に対して然したる興味も無く、虚ろな視線を向けていた
男が、こうまでも豹変し、まるで旧知の仇を見るが如き恨みがましい眼で
その剣を振るうのか。それを知る由もなかったが、幾度目かの剣を防ぐ最中、
その背後に、剣心は巨大な負の妖気を見た!!

「おおっ!!」
「がぁあ!!」

疲れを知らぬように凶刃を振るう陶物師。
その凶刃を、剣筋を読みながら反撃の糸口を探す剣心。
繰り広げられる二人の激しい刃鳴散らす音色に、蹲りながらも薫が微かに擦れた声を漏らす。

「うっ、・・剣・・心・・」
「薫殿!!」
「なにっ?」

地に蹲った僅かな薫の声に反応した陶物師の凶刃に、僅かな隙が生まれる。
その隙に、剣心は暴風の如き剣戟を受け流すと同時に反撃する。

「おおっ!!」

返し刃・飛天御剣流!!

「龍・巻・閃!!」

剣心の渾身の一撃が再び陶物師を強打し吹き飛ばし、続けざまに、
龍巻閃・旋! 龍巻閃・凩! 龍巻閃・嵐!と渾身の連撃を叩き込んでいく!!

「くっ、がはっ・・」

だが、陶物師は呻きながらも連撃に耐えると痛みを無視するが如く
剣心へと更なる妖気をその身体から放出させ、その刃を返してくる。

剣心と陶物師の戦いは激しさを増してゆき、両者の力は今、拮抗していた。

否、剣術だけを見れば幕末最強の剣客『人斬り抜刀斎』と呼ばれた、飛天御剣流を駆る
緋村剣心が、僅かながらも樹海の殺人者である三合目陶物師を、凌駕しているものが
あるように見える。もし先程の会心の連撃が峰打ちでなければ、そこで勝負は決まって
いたのかもしれないが。過去の悔恨から、不殺を貫く剣心の技は一切の防御を
かなぐり捨てたように妖気を揺らめかせながら凶刃を振るう陶物師を相手に
決め手を欠いていた。

(このままでは・・)

この膠着状態の中、剣心に僅かな焦りが生まれる。

それは、攫われた薫を追う為。元維新志士にして
剣心が過去において最も苦戦を強いられた仇敵”志士雄真実”と、
その元に残してきた
久慈慎之介トウカ
千葉さな子、座波間左衛門
白州に呼ばれ、僅かな時ではあるが、信頼の置けるであろう仲間の身が頭を過ぎる。
一刻も早く神谷薫を助け出し、仲間の元に戻らなければ。”志士雄真実”は危険な
相手なのだ。

しかし、刃を交えている眼前の妖怪変化の如き男から、剣心は志士雄真実とはまた違う
危険を感じていた。一進一退ならぬこの状況は、剣心により一層の焦りを生む。
(くっ、このままでは状況は悪くなるばかりだ。)
だが、生半可な技ではこの凶刃を振るう男を倒すには至らず。
思考を巡らす剣心に、陶物師の雷光の如き刃が迫る。

だが、剣心は。
仲間を、薫を、愛する者を守る為に!!
此処で、名も知らぬ妖怪の如き男に、敗れる訳にはいかぬのだ!!

二人の剣戟が一際激しい火花を散らす。
陶物師の苛烈な一撃を全身で受け止めると、剣心は足裏を踏み抜き
全身を後方へと退避させる。

直後、僅かに互いの距離が開き。

「はぁっ!!」

その一瞬に、剣心は己の全闘気を集中する。
再び刃を正眼に構え。飛天御剣流の奥義に全てを賭ける!!

勝機!!

――飛天御剣流――

「・・九頭龍閃!!」

瞬間。剣心の体が残像を残し掻き消える。

ゴウッ!!

――瞬撃九斬――

剣心より同時に放たれる九つの神速の刃が、空気を切り裂き、陶物師の全身を穿つ!!

「がはぁう!!」

激しい声と、僅かな血飛沫を上げながら。
陶物師が、妖気を散らしながら後方へと吹き飛ぶ。

「・・ぐぅうぅ」

呻き声をあげる陶物師は、膝をつきながらも刃を地面に突き立て、剣心を睨む。

が、次の瞬間。前のめりに崩れ落ち、鈍い音を立てながら地に伏せる!!

ドサッ。

「・・・」

口から微かな息を漏らしたまま、陶物師は動かなくなる。

「はぁ、はぁ・・」

「なんという・・。何か、恐ろしい執念を持った男だったでござる」

妖怪変化の如き男を倒した剣心は、肩で息をしながらも踵を返す。
薫の元に駆けると肩を抱き寄せる呼びかける。

「薫殿!しっかりするでござる!」
「うっ、剣心、・・よかった!!」
「薫殿っ、怪我はないでござるか?」
「大丈夫っ、大した怪我はしてないわ」

薫は苦痛に身を歪ませながらも剣心へと笑みを返し、支えられながら立ちあがる。

「薫殿、すまぬが志士雄の元に残して来た久慈殿達の事が心配ゆえ、急ぎ戻ろう」
「ええ、私の為にごめんなさい、トウカ達の所に戻りましょう剣心」

「薫殿、肩を貸すでござるよ」
「あ、ありがとう剣心」

剣心は陶物師との激闘に満身創痍になりながらも薫を抱くと
もと来た川の上流へと、急ぎ戻ろうと踵をかえす。

まさに、その時。それは、神谷薫の無事を確認し安堵した
剣心の、一瞬の油断だったのかもしれない。
地に伏せた、陶物師の僅かな視界に。仲睦まじく肩を抱き寄せ合う、二人の姿が映り。
九頭龍閃をその身に受け、倒れたはずの陶物師が”ゆらり”と音も無く立ち上がると、
剣心と薫の背後から刃を振りかぶり、二人の間に割って入る。

「なっ!!」
「きゃあ。」
「ぐぉお!!」

咄嗟の事に驚愕の表情を浮かべながら、剣心は辛うじて
陶物師の奇襲を避け反撃を試みるが、体勢を崩したまま繰り出した斬撃は空を斬る。
そして、勢い余った陶物師の身体が薫を弾き飛ばし
剣心の眼前で、スローモーションのようにその体が川上へと投げ出される。

「・・薫殿っ!!」
「・・剣心!!」

その光景に、剣心と同様に陶物師がしまったという表情を見せる。
必死に手を伸ばした剣心の手は空しくも宙を掴み、
二人の眼前から、薫は川の流れに一瞬にして消え去ってゆく。
慌てて薫を追おうとする剣心を陶物師の刃が阻む。

そして。

陶物師は薫の流された川の先を見やると、次に眼前の剣心を眺める。
獲物を無くした事により、凶行状態より醒めた陶物師の全身を
打撃の痛みが後から襲う。この場は一旦引くと陶物師は即座に決め、
剣心から距離を取り踵を返す。

「その左頬の十字傷、覚えたぞ。お前は誰よりも必ず、俺が殺す。」

陶物師は剣心を睨みながら現れた時と同様に後方の林に一瞬にしてその姿を隠す。
その後姿に思わず待て、と声をかけるが”神谷薫”と”志士雄真実”の二人が
頭を過り、動きを止める。
闇の中。殺気を孕み血走った瞳が、最後まで剣心を睨み消えてゆく。

薫が河川に流され、陶物師が消えた今。

一人取り残され呆然自失と、その場に立ち尽くす剣心。

その頭に、剣心を嘲笑う如く。志士雄真実の言葉が甦る。
”まだ、不殺にこだわっているのか”
いつまでもそんな甘い考えだから、幾多の剣者が集うこの白州で、
神谷薫ひとり、守れなかったのか?と。

「薫殿ーーー!!」

慟哭が辺りに木霊する。


【へノ伍 水田/一日目/黎明】

【三合目陶器師(北条内記)@神州纐纈城】
【状態】右目損壊、顔に軽傷、全身に打撲裂傷 疲労大
【装備】打刀@史実
【所持品】なし
【思考】:人を斬る
一:顔を剥いで自分の物にすべく新たな獲物を探す
二:緋村剣心は必ず殺す
三:柳生十兵衛を殺す
四:新免無二斎はいずれ斃す
【備考】
※柳生十兵衛の名前を知りません
※人別帖を見ていません
※神谷薫と緋村剣心はお互い名前を呼び合うのを聞いており
 薫は無事であれば再度狙う可能性があります。


【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】全身に打撲裂傷、極度の興奮状態 疲労大
【装備】打刀
【所持品】なし
【思考】基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。
一:川に落ちた神谷薫を探す。
二:志士雄真実と対峙している仲間と合流する。
三:三合目陶物師はいずれ倒す。
【備考】
※京都編終了後からの参加です。
※京都編での傷は全て完治されています。
※座波の異常性に少し感づいているようです
※三合目陶物師の存在に危険を感じましたが名前を知りません。
※剣心は極度の興奮状態により冷静さを失っており
 その後の行動については次の書き手様にお任せします。


 ◆ ◆


刻は黎明。城下の入口で武田赤音は、ぼやいていた。

昨夜、東郷重位瀬田宗次郎の刃鳴散らす剣戟の音色に誘われた赤音は
二人の対決と結末の最中、東郷重位の示現流・雲耀の太刀を垣間見る事になった。
その鮮烈な光景は、自らが納めた兵法刈流が薩摩の示現流の影響を
色濃く受けている事もあり、赤音の心に久方ぶりの衝撃を与えた。
赤音は重位といずれ相対した時に、その魔剣を破るべく、術利を理解するために
その太刀筋を模倣し、自らの技との類似を比較をしながら修練を行っていた。
だが、その試行錯誤の修練の様子を、当の東郷重位に見られたのが不味かった。
門外不出の剣を盗まれた。そう考えられた重位に、一晩中追い駆けまわされたのだ。
赤音は遁走の最中、重位をまいた後にへろな村の海岸沖から城下の入口に辿りついた所だった。

「あんの糞爺。夜通し、人の事を追い駆け回しやがって」

そりゃ、ぼやきの一つや二つは出るわな・・。

「ったく、年甲斐もなくハッスルし過ぎだろうが」

思わぬマラソンの果てに若干の疲れを感じるが、必死の形相で追い駆ける老人の
様子を思い返すと老人が重位本人だろうと確信し、胸中で不敵な笑みを浮かべる。
(この借りは、俺のツバメを鍛え直して必ず返してやる)
赤音はひとり不敵な笑みを浮かべ、その口元が妖しく半月にひらく。
(重位との対決の為にも早くマトモな刀を手に入れなきゃな)
未だ彼の腰に刺さっている獲物は、アルミ製の殺戮幼稚園と竹光のみであり、
それを考えると泣けてきた赤音だったが、城下町ともなればへろな村と違い
刀も見つかるだろう。

そう思い、川を越え、橋を渡ろうとした赤音の視界に妙なものがうつる。

「なんだ?」

然したる興味があった訳ではなかったが、赤音はその物体に歩み寄る。

それは、緋村剣心と三合目陶物師との戦いの最中に、
河川へと流された神谷薫であった。
剣心は知る由もないが、浅瀬に辿り着いた薫は、そう遠くまでは流されていなかった。
しかし、陶物師に受けた打撲と、川の流れにのまれた事で、運良く身を上げたものの
体力の限界を向かえ、気を失ってしまったのだ。

赤音は更に近づき、顔を覗き込むと、幼さを残した可憐な少女がそこにいた。
全身が濡れている所を見ると、おそらくは上流から流されてきたのだろう。
赤音は腕を取り、脈と呼吸を確認する。
多少の衰弱は見てとれるがしっかりと息はあるようだ。

果たして、神谷薫の人生のこれからの悲劇は、
その無防備な表情を武田赤音という、一見好青年に見えるものの、
その実、関わる者を例外なく不幸へと叩き落としてきた剣狂者の前に
その無防備な肢体と表情を晒している事であろうか。

赤音は白州で女子供を見かけた事を思い返し、
刀の一振りでもないかと身のまわりを漁る。
だが、目に付いた物は「正義」と書かれた扇子があるだけだった。

「・・なんだこりゃ?・・もっとマシなもんはねえのかよ。」

シケてんな、と呟いた後に無造作に扇子を川へ放り投げる。
なんとはなしに、幼さの残る女の頬をペチペチと叩く、
ふと、少女の顔を眺めているうちにまだ若かりし、刈流道場時代の記憶が頭を過る。


 ◇ ◇


それは、己のたった一つの想いの為。
全ての他者を例外なく地獄に叩き落してきた。
剣狂者”武田赤音”という存在が産み落とされる以前。

おだやかで幸せであった日常。

決して戻らない過去。
否、戻る必要のない遠い日々。

赤音が、彼の宿敵である伊烏義阿と刈流道場において兄弟子して、
刈流の跡取り娘である鹿野三十鈴らと、共に修練に励んでいた時代。

アノ日までは、何もかもがうまくいっていた。

刈流の、新たな宗主を決する兄弟子との仕合。
それは、三十鈴の想いよって、空しく穢され。
怒りに震えるまま、三十鈴を刃にかけるも、殺しきれず、
震災の中で三十鈴を助け。死の淵を彷徨いながらも
大部分の記憶と視力を失くし一命を取り留めた彼女。
そんな彼女に、貴方はおれの姉だと偽り、生かし。
復讐の果てに散っていった。

偽り姉の事を・・。

 ◇ ◇

遠くの空が明るくなりだした事に気付く。

いつのまにか、虚空を見上げていた赤音は視線を戻す。

眼前の少女の道着袴姿が、鹿野三十鈴のそれを連想させたのか?


幾度目かの赤音の呼び声に、薫の瞳が僅かに開き、
赤音の瞳を正面から覗き込む。赤音は一瞬たじろぐが
内心とは裏腹に表情を切り替え、人の良さそうな笑みを浮かべる。

「・・やあ、可憐なお嬢さん。お怪我はありませんか?」

その瞳は、未だ意識が朦朧としているらしく。

「けん・・しん・・」

と、一言だけ呟き。赤音の腕の中で再び昏倒してしまう。

「・・・おい」

どうやら赤音の顔を見て誰かと勘違いしたらしい。
心当たりの全くない赤音は再度、薫を見る。
このまま放置して置いても、余程の聖人君子か。
はたまた、先程の 「けんしん」という名の白州にいるかさえわからぬ者が通り
かかるような奇跡でもない限りは、見つけた相手に手籠にされるのがオチだろう、と。
(俺が聖人君子じゃない事だけは確かだけどな)
赤音は数瞬の思考を巡らせるとおもむろに薫を抱きかかえ、歩みだす。
(あの時も三十鈴の事をこうして担いだっけ)
小柄な少女とはいえ、大量に水を含んだ道着の重さに顔をしかめながら城下の門を
くぐり 、いくばか歩みを進める赤音の往来に、頭と胴が見事に切り離された
巨漢の遺体が目に入る。

「・・へぇ、さっそく殺ってるみたいだな」

一撃で両断されたであろう遺体の切り口と、その光景に自然と笑みが漏れる。
巨漢の遺体の脇に抜身の刀と鞘が無造作に転がっているを見つけた赤音は
おもむろに刀を拾い上げるが、その刀身を見て表情を曇らせる。

「なんだこりゃ?刃と峰が逆になってる刀なんざ、どこの酔狂が打ち上げたんだ?」

赤音の古くからの知人に、殺戮幼稚園という銘の、リサイクルのアルミ缶から
刀を打った変わり者の女鍛冶師がいるの思い出し。
(あいつとイイ勝負なんじゃないか?これを打った奴は?)
腰の二振りの獲物と手にした逆刃刀を暫く見比べる。
(刀自体はアレだけど、造りはしっかりしてるみたいだな)
まともな得物がない状態に、あるだけマシだろうという結論を出し、鞘を拾い上げる。
納刀する時に、赤音は刀の目釘が一つ緩んでいる事に気付く。
(こいつは、後で直しておくか)

それは、本来”緋村剣心”が「不殺」の念を貫く為に使用している逆刃刀・真打であった。
優男風の剣心と、一見似通った容姿を持つ赤音であったが。
我が道を塞ぐ者、その全てを、一切の慈悲なく斬り伏せてきた。
赤音がこの刀を手にするは、天の悪戯か。
(”犬も歩けば棒にあたる”とはいうけどよ、今日は朝から妙なモノばっかり拾ってんな)
三本目の奇刀を腰に差す赤音の心中は複雑だった。

その場を離れる事暫く歩きだし、近くの無人の民家へと足を踏み入れると、
赤音は背負ってきた薫をようやく降ろし、囲炉裏を見つけ火を灯す。
ずぶ濡れだった薫を抱えてきた赤音は、今や薫と同じ水も滴る有様だったが
剣豪集うこの白州でつまらぬ風邪等ひいて目も当てられぬ、とばかりに
濡れた朱色の小袖を無造作に脱ぎ捨てると民家を漁り、箪笥から二人分の
羽織衣服一式を見つけると濡れた衣服を着替え、薫の元へ歩み寄る。
(何やってんだ、おれは)
苦笑を浮かべ、未だ意識が戻らぬ濡れた神谷薫の道着を新しい羽織と
着替えさせながら、道着の裏地に神谷活心流・神谷薫の名が掘り込まれて
いるのに赤音は気付く。
(聞いた事のない流派だな。まあ、古今東西集う剣者の時代さえ怪しいんだ)
赤音の生きる時代においては、一時期とはいえ全国に普及した刈流さえ、ここでは
知られているのかどうか、知らない流派の一つや二つはいくらでもあるだろう。
そう考えながら、他にも何か無いかと暫く民家を漁るが、多少の食料と生活用品が
あるだけで、特にめぼしい物は見つからない。武田赤音はここでようやく一息をつく。
(さて、これからどうするか)
赤音は囲炉裏の火の照らされた神谷薫の顔をおもむろに見る。
身体が暖まってきたのだろうか。青ざめていた顔に多少の赤みが差したようだ。

「色気が少し足りないけど、可愛い顔してるじゃん」

その横顔を眺めているうちに深夜の遁走と薫を背負ってきた疲れを思い出す。

「まあ、流石に今は少し休むか」

眠気に襲われ、貪るように眠りについた。

【へノ肆 城下町の空家/一日目/早朝】

【武田赤音@刃鳴散らす】
【状態】:健康、疲労(中)
【装備】:逆刃刀・真打@るろうに剣心
     現地調達した木の棒(丈は三尺二寸余り)
     竹光
     殺戮幼稚園@刃鳴散らす
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:気の赴くままに行動する。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。
     一:強そうな剣者がいれば仕合ってみたい。
     二:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。
     三:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。
     四:あの老人(東郷重位)の魔剣を凌駕すべく、己の剣を更に練磨する。
     五:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。
     六:神谷薫、拾ってきたものの、どうするか?
【備考】
   ※人別帖をまだ読んでません。その上うわの空で白州にいたので、
   ※伊烏義阿がこの御前試合に参戦している事を未だ知りません。
   ※逆刃刀・真打の目釘の緩みは武田赤音が直しました。
   ※道着より、神谷活心流と神谷薫の名を把握しました。
   ※目覚めた後の武田赤音の行動と神谷薫への接し方は
    次の書き手様にお任せします。


【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】打撲(軽症) 睡眠
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。
     一:現状を把握する。
     二:人は殺さない。
     三:間左衛門の素性、傷は気になるが、詮索する事はしない。
【備考】
   ※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
   ※人別帖は確認しました。
   ※正義の扇子は武田赤音が川に捨て、そのまま流されました。



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妖怪たちの饗宴 緋村剣心 活人剣の道険し
妖怪たちの饗宴 神谷薫 活人剣の道険し
妖怪たちの饗宴 三合目陶物師 夢十夜――第一夜『青木ヶ原の血吸鬼』――
ジゲンを穢す者 武田赤音 活人剣の道険し

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最終更新:2010年05月10日 00:40