修羅の道行き ◆cNVX6DYRQU


「っらあ!」
志々雄真実に突進して木刀を振り下ろす千石。剣で払うかと見えた志々雄だが剣を持たぬ方の腕を上げて木刀を受け止めた。
常人なら骨が砕けてもおかしくない勢いだが、志々雄の鋼鉄の如き腕はびくともしない。
負けじと千石は力を籠めて木刀を押し付けるが、意外にも志々雄は逆らわずに退がり、出来た空隙を脇差が切り裂く。
千石の突進を見たトウカが時間差攻撃を仕掛け、志々雄は千石の力を利用して間合いを外し、空振りさせたのだ。
それを知り千石の気が逸れた一瞬の隙を突き、志々雄は斬鉄剣を大振りしてトウカを牽制すると、軌道を変えて千石を襲う。
「くそっ」
転がって斬撃を避けた千石は、咄嗟に鉢金――前に座波が叩き落した志々雄の鉢金――を拾って投げ付けるが、
志々雄が斬鉄剣を振るうと、それはまるで豆腐のようにあっさりと両断されて地に落ちる。

歯噛みする千石。志々雄の尋常でない技量を考えに入れたとしても、あの刀の切れ味は異常だ。
並の剣士なら、この切れ過ぎる刀を畏れ動きが鈍りそうなものだが、この男はそんな素振りもなく存分に使いこなしている。
こんな剣と剣士の組み合わせと打ち合う際に少しでも気を抜けば、たちまち木刀を切り折られてしまうだろう。
仮にどうにか刀をすり抜けて一撃当てられたとしても、この頑丈な怪人を木刀で倒すのは並大抵ではない。
トウカの脇差なら急所に当たれば志々雄を倒せようが、あの剣呑な刀に間合いの劣る武器で立ち向かうのは至難の業。
まして、彼女得意の居合いを放つ為に不可欠な脇差の鞘は、敵である志々雄の腰に差されているのだ。
無論、千石たちにも希望はある。何せ二対一なのだ。数的有利を十分に活かせれば、得物の差など無効に出来る筈。
しかし、現実には一方的に押されっ放し。その責が己にある事を、千石は自覚していた。
トウカは、多数の戦場を経験したというだけあって、こちらの動きを良く見て連携しようと試みている。
だが、自分は駄目だ。今まで幾多の戦いを経験して来たという点では同じだが、少数で多数の敵と戦うのが常だった。
仲間がいても連携して戦うというよりも、三手に分かれてそれぞれに斬りまくるのが自分達の流儀。
敢えて言うならば、三方面で同時に敵を減らして行く事でその士気を挫くのが一種の連携と言えなくもないか。
つまり、千石には現在の状況で有効な戦法の心得が殆どないという事であり、その為にトウカの足を引っ張ってしまっている。
何とかしなければと思っても、達人相手に有効な連携など、付け焼刃でどうにかなろう筈もない。
そんな状況に苛立った千石は、無謀ともいえる行動に打って出た。

「行くぞっ!」
そう言って八相の構えから身体全体を使った振り下ろしを繰り出す千石。
落ち着いて斬鉄剣で受け流そうとする志々雄だが、剣が千石の木刀と接触した瞬間、何の抵抗もなく木刀が切断される。
普通に考えればこれは驚く事ではない。金剛石さえたやすく切り裂く斬鉄剣と木刀で打ち合うなど普通は不可能なのだから。
だが、千石ほどの達人にかかれば、その不可能は可能になる。
微妙な力加減によって斬鉄剣の刃筋を狂わせ、志々雄が漫然と受ければ逆にその手から刀を叩き落す事も可能だろう。
だから、木刀が切れたのは当然の結果ではなく、千石があえて切らせたもの。
志々雄の受けによって木刀は切断されたが、あまりに抵抗なく切れた為、千石の勢いはそれによって全く殺がれなかった。
そのまま身を沈めて志々雄の懐に潜り込んだ千石は、切断されて切っ先の鋭くなった木刀を突き出す。
とはいえ、志々雄とてこの程度の策でやられるほど未熟ではない。咄嗟に片手を剣から離し、素手で木刀を掴んで止める。
「何!?」
だが、その突きもまた偽攻。志々雄が突きに気を取られた隙に、千石は手を伸ばし、志々雄の腰にある脇差の鞘を掴む。
そのまま力を籠めて鞘を引き抜く千石……しかし、次の瞬間、頭に強烈な衝撃を受ける。志々雄の拳撃を受けたのだ。

岩をも砕く二重の極みに耐え抜いた相楽左之助を一撃で戦闘不能に追い込んだ志々雄真実の拳。
それをまともに受けてただで済む筈もなく、さしもの千石も意識を手放す。
しかし、千石自身は倒れても、志は繋がった。気絶する直前に千石が投げた鞘は、確かにトウカの手に渡っていたのだ。
倒れた千石の胸が上下しているのを見て息を付いたトウカは、鞘に脇差を納めて居合いの構えを取る。
考えてみれば、出会ってから今まで、自分は一度も居合いの技を見せられていない。
にもかかわらず、千石は命を賭けて自分が居合いを使える態勢を整えてくれた。
この信頼に応える為、自分も命を賭けてこの敵を倒さねば……
「エヴェンクルガのトウカ、参る!」

突進して居合いを放つトウカ。確かに相当のキレだが、抜刀斎の天翔龍閃ほどではない。
余裕を持って受け流し、反撃を叩き込もうと振り返る志々雄。だが、その眼前には居合いの構えを取ったトウカの姿が。
一閃!
トウカの再度の居合いをかわしそこねて志々雄の身体から血が噴き出す。
そもそも抜刀術は使いこなせば強力な武器となるが、技を放った後に隙が出来るという不可避の欠点を持っている。
故に、抜刀術を武器とする剣士達は、その欠点を補う様々な工夫をこらした。
或いは二段構えの居合い技を編み出し、或いは抜刀術をどこまでも研ぎ澄ませて何者も回避できないまでに高める。
だが、トウカのように大勢の兵士が入り乱れる戦場に生きる剣士には、その種の方法では不十分だ。
必殺の抜刀術で一人二人を倒しても、別の者に背後から切り付けられる危険が常にあるのだから。
それに対する一つの答えが高速で移動しつつの連続での居合いだ。
居合い切りを放ち、刹那の間に着地・方向転換・納刀をこなして再び跳躍して抜刀する。
四方を跳びつつ切り付けて来るトウカを、志々雄は持て余していた。
斬鉄剣の凄まじい切れ味も、守勢に回っては大した効力を発揮してはくれない。
どころか、鍔がなく柄が木製の斬鉄剣は、防御には向かない刀だと言ってもいいだろう。
ならばと志々雄は反撃に出るが、今度は斬鉄剣の凄まじい切れ味が彼に仇を為すことになる。

脇差を持つトウカは攻撃の際、間合いのかなり内側まで入って来ているので、反撃を当てるのは難しくなかった。
だが、斬鉄剣はあまりに切れ過ぎる為に人体も抵抗なく斬ってしまい、相手に衝撃を伝える事が出来ない。
その分より深い傷を与える事が出来るのだが、高速で駆け続けるトウカの急所を的確に捉えるのは相当に困難。
致命傷を与えられないならば、痛みと失血を無視できるだけの気迫さえあれば、斬鉄剣の傷は無視できるのだ。
長らく無限刃という、切れ味では劣る武器を使い続けていた志々雄にとって、この特性は厄介だった。
対して、トウカの武器はただの脇差なので、一撃を受ける度に衝撃で体勢を崩し、次の反撃と回避を難しくする。
まあ、斬撃を筋肉である程度止められるおかげで重傷を免れている面もあるにはあるのだが。
しかし、この調子で闘い続ければ、先に致命的な隙を曝すのは志々雄の方……そう思えた。

志々雄真実とトウカ、両者が交錯して共に負傷し、飛沫いた志々雄の血がトウカに付着してその肌を灼く。
長引く戦いにより志々雄の体温が限界近くまで上がり、返り血を浴びるだけで火傷を負う領域にまで到ったのだ。
斬鉄剣による切り傷と血による火傷、そして志々雄の身体から発せられる熱気がトウカの意識を朦朧とさせる。
だが、トウカはその程度で止まる訳にはいかない。千石の想いに応える為にも、必ずこの男を倒す。
決意を胸に更に加速したトウカの前で、傷のせいか己の体温に耐えかねたのか、遂に志々雄が膝を付いた。
この機に仕留めようと飛び込むトウカだが、志々雄は地面から何かを持ち上げ、居合いに対する盾とする。
仮に、盾にされたのが例えば辺りに散乱している行李の一つだったなら、トウカはそれごと志々雄を両断していただろう。
いや、盾になったのが「それ」であっても、トウカにその気があれば、それごと志々雄を斬る事は可能だった筈。
しかし、トウカは止まった。盾にされた仲間を……千石を斬ることなど、彼女に出来よう筈がなかったのだ。
トウカの甘さか、志々雄の立ち位置を十分に確認していなかった失策か、そもそもこの怪物に脇差で挑むのが無謀だったのか。
何にしろ、トウカは志々雄の眼前で動きを止めてしまった。そして、志々雄にはこの好機を逃すような甘さは微塵もない。

「甘え!」
斬鉄剣が千石の心臓を貫き、そのままトウカの腹に突き刺さる。
そのままトウカの内臓を抉って殺そうとする志々雄だが、その前にトウカが後ろに跳ぶ……いや、突き飛ばされたのだ。
確かに心臓を貫かれていながらトウカを突き飛ばした千石は、そのまま斬鉄剣を抱え込む。
この異常な事態に志々雄は怯むことなく、千石の背を抜き手で貫き、とどめを刺す。
いや、普通に考えれば心臓を貫かれた時点で千石は死亡している筈なのだから、とどめという言い方は妙なのだが。
まあ、とどめを刺したのが斬鉄剣にしろ抜き手にしろ、とにかく千石は完全に死亡し動きを止める。そして、斬鉄剣もまた……
如何に斬鉄剣が切れ味が鋭い刀でも、刃を引かなければ切れないという性質では普通の刀と何ら変わりがない。
千石は死して尚がっちりと斬鉄剣を抱え込んでおり、押しても引いても微動だにしなかった。
このまま千石の筋肉が硬直すれば、その身体を砕かぬ限り斬鉄剣を抜く事は不可能になるだろう。
だが、その程度で諦めるには斬鉄剣はあまりにも惜しい刀。
志々雄は抜き手を千石の傷口辺りに刺し、己の熱でその肉を焼いて隙間を作り、無理に引き抜く。
そして、あらためてとどめを刺そうとトウカを見やれば、千石に突き飛ばされ倒れていた筈の彼女が立ち上がっていた。
彼女を立たせたのは世の理を曲げてまで千石が稼いだ時間か、それとも仲間の為にそこまでする気力か。
「ふん、もう少し楽しめそうだな」

立ち上がったといっても、トウカの目に光はなく、まだ意識を取り戻した訳ではなさそうだ。
だが、その身体には気迫が満ち始めており、殺気を向ければたちまち意識を取り戻して反撃して来るのは明らか。
全力の剣気を叩き付けて再度の開戦の花火としようとする志々雄だが、無粋な第三者の介入で水を差される。
「何をしているでござる!」
時代がかった言葉に振り向くが、そこにいたのはあの男ではなく、駆け寄ってくる見知らぬ二人の男。
志々雄としては、三人相手に闘ってもいいくらい気分が高揚していたが、以前の経験から己の限界が近い事を悟っていた。
戦いの果てに燃え尽きる……それも心地良い体験だったが、それはこの狂った殺し合いをもう少し楽しんだ後でも良い。
この地に幾人も居るであろう、己の血を沸き立たせてくれる修羅達と手合わせもせずに逝くのは非礼というものだ。
そう思った志々雄は剣を引き、手をゆっくりトウカに近付けるとその額に触れる。
「あああああ!!」
志々雄の内なる業火の一端がトウカに移り、その脳をも苛む。
「餞別だ。次に会う事があれば、少しはマシな剣客になってるよう、期待してるぜ」
そう言い残して志々雄は立ち去り、立ち向かうべき相手がいなくなったトウカは地に倒れた。
地獄の業火を撒き散らしながら修羅の道を進む志々雄真実。次にその道と交錯するのは、一体誰か。

【久慈慎之介@三匹が斬る! 死亡】
【残り六十二名】

【はの伍 河原/一日目/早朝】

【志々雄真実@るろうに剣心】
【状態】高体温、軽傷多数
【装備】斬鉄剣(鞘なし)
【道具】支給品一式
【思考】基本:この殺し合いを楽しむ。
1:土方と再会できたら、改めて戦う。
2:無限刃を見付けたら手に入れる。
※死亡後からの参戦です。
※人別帖を確認しました。

戦闘の気配を感じて駆け寄って来た烏丸与一は、男の無惨な死体を見て立ち尽くした。
この男が何者なのかは知らぬが、誰であろうとこのような形で命を奪われて良い筈などない。
「女性の方は息があります。手伝って下さい」
呆然としていた与一は山南敬助の言葉で我に返り、応急処置を手伝う与一。しかし、その心は自責の念に囚われていた。
死体の様子から見て、男が殺されてからまだそう時間は経っていない。
つまり、与一達がもう少し早く仁七村を出発してここに来ていれば助けられたかもしれないという事だ。
村からの出発が遅れたのは土方歳三との戦いで疲弊した与一の回復の為。
だから、この男の死、そして女人の負傷は自分の責任だ……与一はそう考えて己を責めている。
無論、神ならぬ人の身で全てを救う事など出来る筈もなく、女性の方を救えただけでも良かったという考えもあるだろう。
しかし、山の中の狭い世界で育ち、大抵の事は己の力でどうにかできる環境が常態であった与一にそんな思考はない。
この世間慣れしていない少年にとり、己以上の実力の修羅が跋扈し、世界そのものが悪意を持つこの島はあまりに過酷な地。
そのような地で少年は果たしてどんな道を進むのか。或いは、道を選ぶ暇もなく強者の糧となってしまうのだろうか。

【トウカ@うたわれるもの】
【状態】:気絶、腹部に重傷、軽傷多数
【装備】:脇差
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者と試合に乗った者を斬る
一:志々雄真実を斬る
二:神谷薫を救出する

【山南敬助】
【状態】健康
【装備】エクスカリバー@Fate/stay night
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この死合からの脱出
一:トウカの手当てをする
二:与一と行動を共にする
三:日本刀を見つける。
四:芹沢や新見が本人か確認したい
五:現在の日本がどうなっているか情報を集める
【備考】
新撰組脱走~沖田に捕まる直前からの参加です。
エクスカリバーの鞘はアヴァロンではなく、普通の鞘です。またエクスカリバーの開放は不可能です。
柳生宗矩を妖術使いと思っています。

【烏丸与一@明日のよいち!】
【状態】肩に打撲
【装備】木刀@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:人は殺さない。
一:山南と行動する。
二:愛用の木刀を探す。
三:あの男(柳生宗矩)を倒す。
【備考】
登場時期は高校に入学して以降のいつか(具体的な時期は未定)


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妖怪たちの饗宴 志々雄真実 波紋(前編)
妖怪たちの饗宴 久慈慎之介 【死亡】
妖怪たちの饗宴 トウカ 寛永四年八月の虎/哭いて血を吐く不如帰
束の間の邂逅 山南敬助 寛永四年八月の虎/哭いて血を吐く不如帰
束の間の邂逅 烏丸与一 寛永四年八月の虎/哭いて血を吐く不如帰

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最終更新:2010年06月25日 22:09