怪力乱心を語らず ◆KEN/7mL.JI



 暗闇の中に潜む二つの影がある。
 意識を向ければ、さほど大きくはない声で話をしているのが分かる。
 目をこらせば、彼ら二人はさほど大きくない、痩せた体格の者であることが分かる。
 そしてさらに目をこらし、或いは雲の隙間から漏れる月明かりの助けを借りれば、そのうち一方が異形をしていることも見て取れる。
 一人は犬塚毛野胤智。智の珠の宿命を持つ、八犬士随一の策士。
 一人はオボロ。遙かなる時の彼方より呼ばれし、トゥスクルの若き将。
 そのオボロこそが異形の主であり、猟犬の如き耳と尾を持つ者だ。


 毛野はそれらの言葉を聞きつつも、決して警戒を緩めはしなかった。
 朧と名乗る奇怪な男の言うことは、何から何まで絵空事としか思えぬ事ばかりだし、容貌も実に怪しい。
 耳は、明らかに人ならぬもの。山犬か狐狸の類のそれだ。
 彼は "はくおろ" なる人物を主として仕えているようだが、どうもその人物が毛野と同じ一族なのではないかと言うようなことをしきりに言っている。
 そこで考えたのは二つ。
 この朧という男は、遠く明国かそれよりも彼方の異国の者で、日の本より移住した主に仕えているのではないかという事。
 それとも或いは、"はくおろ" なる人物は、例えばそう、仙人や陰陽師の類で、鬼を使役するが如くこの怪しげなモノを手足としているという事。
 どちらも推量で、確証はない。
 毛野の常識からすれば、獣の耳を持つモノなどは狐狸禽獣、妖怪変化の類だが、朧の主が自分と同じような姿形 ――― 特に、耳を指してそう言っているようだが ――― をしているという。
 であるのならば、一つめの推量を元にすれば、或いは遠い異国にはこのような姿をする者達が普通に住んでいるのかも知れない、とも思う。あり得ないとは言い切れまい。
 ただ何にせよ、一つにこの男に直接的な敵意がないようだということ。
 そして何より、妖怪変化と断ずるにはどうにも人間くさいという二点が、毛野の判断を保留させる。
 毛野の知る妖怪変化というモノは、どちらかというと怨霊に近い。
 この朧が口にする様な忠節や恩義などの徳などとは縁遠いいのだ。
 勿論、朧の語る言葉にどれほど真実が含まれているのか、どの程度の嘘が混ざっているのかは知れたものではない。
 とはいえ毛野としては、信頼はせずとも考慮するに値するだけの情報を得ることが出来たと言える。
 この男をどうするか、は、ひとまず今決めずとも良いだろうと考えるに足る情報だ。
 もし朧が、殺し合いを仕組んだ怪しい者どもに連なる妖怪だとしたら、むしろより多くの情報を引き出してから斬ればいい。

 オボロはというと、頭上から落ちて来たこの少年に対して、何一つ嘘を言っては居ない。
 勿論、頭から信頼をしてのことではない。
 一部トウカの事など、敢えて伏せておいた事柄もあるが、自分と故国のことについては、だいたいが聞かれるままに答えている。
 開口一番に妖怪変化等と言ってきたことには些か面食らったが、見ればまるで少年のような年頃。空間転移術の様な技を立て続けにかけられては混乱もするだろう。
 ここは年長者として、また侍大将として、こいつをひっぱってやらねば、等とも思う。
 それに、話を聞くにこの少年も自分同様、あの奇妙な白石の敷き詰められた庭に居た内の一人だと言うことも分かる。
 ならば、とオボロは判断する。
 ならば、自分もこいつも、同じ立場か、と。
 その時点で、それはさして根拠のないことではあったが、結果として当を得たものであった。
 加えるならオボロ自身、こういう場面でとっさに腹芸が出来るほど器用ではない、というのもある。
 けれどももう一つ、やはりこの少年も先ほどの男同様、ハクオロと同じ耳をしている事が、オボロの判断に影響を与えていた。
 もしかしたら、とオボロは思う。
 彼らは、ハクオロに近しい者達なのではないか、という事を。
 そうなると、どうしても好奇心が勝つ。
 彼らのことを知っておきたいという好奇心だ。
 勿論、それを最優先にしてしまうほどにオボロの現状認識力は鈍くはない。
 最も重要なことは、この奇怪な状況を打破し、主の元へと帰還することだ。
 こんなところでのんびりしている場合ではないと重々心得ている。
 それに聞けばケノと名乗るこの少年も、仲間と共に重大な戦いに身を投じている最中らしいという。
 やはり似た立場の者同士、と思わざるを得ないのだ。


「俺はひとまず、里に下りようかと思っているんだが…」
 さて、一通りにお互いの情報を (それぞれに差し障りがないと思える範囲で嘘偽りなく) 交換した後、すっくと立ち上がった朧がそう言った。
「…まぁ、それもいいかもな」
 毛野は一応そう答え、朧の顔を伺う。
 暗くてさほど良くは見えないが、僅かに伺えたのは焦り。
 この状況に焦っているのは当然だ。
 里に下りるのは、人が多く集まる場所へと言うことだろう。
 だがそれが、この自分との邂逅のように、下らぬ殺し合い等には乗らぬ者を探してなのか、或いは目当ての誰かが居るのかは分からない。
 毛野は朧が表立った敵意を見せぬからこうしているだけで、朧がたちの悪い妖怪変化ではないかとの疑いはまだ持ち続けている。
 里に下りようという提案にうかうかと乗って、敵のまっただ中に誘い込まれぬとは言い切れない。
 だがしかし、毛野にも又事情がある。
 先ほど話をしている間に一瞥した人別帳。
 そこに、同じく八犬士の同士である犬塚信乃の名があったのを見て取っていたからだ。
 勿論、得体の知れぬ朧にそんな事は言っていない。
 探し人が居ることすらおくびにも出していない。
 この時点で、朧をそこまで信用して良いものかと言えば、答えは否だ。
 かといって、ここで別れるのもどうかと言うと、それも否。

 毛野は懐にしまい込んでいた地図を取り出す。
「一番大きいのは、ここから南に進んだ城下だな。それなりに距離はある」
「城か…!」
 朧は「城下」という言葉に些か反応をする。
 実のところこれも、主ハクオロに近しいと思われる者達の城なのだろうか、という好奇心からなのだが、毛野がそんな内情を察することは出来ない。
「…それと、この今居る山の麓に、呂仁村址…と書かれているな。
 人が住まなくなった村の跡…って事だろう」
 ちらりと朧に目線。
「う~む…。
 まぁ、人が住んでなくても、誰かが来るかもしれないな。
 そんな回り道でもないし、城を見に行くのはその後でも良いか」
 なんだか言っていることが妙な感じだが、毛野としてもそうするつもりで居た。
 城、というのだから、或いはここが奴らの本拠なのかも知れない。
 いざとなればの心づもりもあるが、まずはその前に、仲間の信乃と、何より智の珠を見つけておきたいのだ。
「よし、うだうだしてても仕方ない。
 出発するぞ!」
 毛野の返答などまるで待たず、朧はさっさと歩き出してしまう。
 軽く悪態を付いて、毛野は少し離れて跡を追う。
 さてどうにも、もしかしたら警戒しすぎているのではないかと内心思いながら。

◆◆◆

 山野を歩くのに慣れた健脚の毛野から見ても、朧の足取りはしっかりしたものだ。
 月明かりのみが頼りの山道など、普通ならまともに歩くのも危ういはずだが、朧は毛野以上に迷い無く突き進む。
 気をつけねば毛野ですらも、遅れて取り残されそうになるほどだ。
 時折立ち止まり、鼻をひくひくとさせたり耳をそばだてたりして辺りの気配をうかがっている様子が見て取れる。
 どうにもその仕草が獣くさく、やはり変化の類やもと思わさせられる。

 程なくして、地面が平坦になり、立木もまばらになり開けてくる。
 荒れた耕作地の跡や荒ら屋、朽ちかけた小屋が散見し、鬱蒼とした木々に囲まれて、いかにも人無き廃村、さしもの豪傑すら尻込みしかねぬ様相だ。
 暗闇に目をこらして見渡せば、ぽつりぽつりと八軒ばかりか、民家、或いは民家であったであろうものが確認できる。
 人の気配どころか、生ある者はまるでこの世でただ二人きりとでも言わんばかりだが、オボロも毛野も、警戒しながらも躊躇無くその中へと突き進む。
 さて、どうしたものか。
 ほぼ村の中央部と言える場所で立ち止まり、辺りを見回す。
「とりあえず、手分けして家捜しでもするか…」
「家捜し? こりゃどう見たって人っ子一人居ないだろう」
 毛野の言葉に、オボロがそう応えるが、
「人じゃない、モノだよ。
 あの男、武器は自分で探せ、なんて言ってたろ。どっかに隠してあるって」
 言われて、ああそういえば、と思い出す。
 さて、かつては義賊などをしていた自分がそこに気を回せていなかったのは迂闊と言えば迂闊。
「某しとしたことが…、だな」
 毛野に、というより、ここには居らぬ誰かに向けて、小さく呟く。
 確かに、本来二刀流を使うオボロとしても、やはりもう一振りは欲しい。
 まずは人捜し、とは考えていたが、そちらも優先したいことではある。

 結局二人は、それぞれ右回り左回りにと別れて、廃屋を調べて回る。
 このとき、毛野には二つばかり別の思惑があった。
 一つは当然、智の珠を探す、という事だ。
 智の珠についてはオボロには話していない。
 出来るならば、誰にも話さず取り戻したいと考えている。
 自分が直接見つけられるのが一番良いが、仮に朧が先に見つけたら、元々自分の物なのだと言って詳細は伏せたまま譲って貰うか、何かと交換するか、或いは…盗むか奪うか。
 何れにせよ智の珠を取り戻すことは毛野にとって最重要事項の一つなのだ。
 それともう一つ。

 毛野は入っていった家の中から、外をうかがう。
 朧が入っていった民家はきちんと確認している。
 家捜ししつつ、朧を一人にして様子を見る事。
 これも、毛野がしようとしていることの一つだ。
 あの異形の主が、立ち振る舞い通りの者なのか、或いは腹に何等かの企みを抱える人外なのか。
 こちらの目の届かぬ場での振る舞いから、何かしら伺えるやもしれない。
 幸いにも、家の中へ入っているときは無理だが、外の開けた場所に出れば、月明かりのおかげで幾分見やすい。
 さほどの期待は出来ぬが、毛野は注意深く監視をしながら、数軒の荒ら屋廃屋の中を探っていった。
 新たに現れた別の気配に気づくのが遅れたのは、朧に対して意識が向きすぎていた為だと、毛野は後にそう思う。 


 朽ちた物入れをひっくり返し、竈の中をほじくり返し、かなりの煤塗れ埃まみれになること三軒ほど。
 オボロはというと、既にこの家捜しがかなり不毛な物なのではないかという気がしてきている。
 此処には何もない。半ばそう確信している。
 それは内心の焦りによってもたらされた判断でもあったが、同時にやはり、義賊としての経験から来るものでもある。
 こんな事をするよりも、早く人を見つけ、何よりトウカと合流した方が良いのではないか?
 今は成り行きで、ケノという少年と共に行動をしているし、また彼がなかなかに腕が立つだろう事も分かる。
 友好的とも言い切れないが、さてなかなかに利発そうだとも思う。
 思うが、そんな事よりもやはりオボロとしては、居心地の悪い曖昧模糊としたこの状況が好ましくない。
 オボロにとっては、「討つべき敵がいて、共に戦う仲間が居て、従うべき主が居る」という単純明快な場でこそ、己の力が存分に発揮できるのだと、そう思う。
 主、ハクオロはこの場には居ない。
 仲間、トウカとはまだ出会えていない。
 そして敵。
 あの殺し合いの宣言をした男と、その奥にいた連中 ――― 或いは、その手下。甘言に乗せられ、手当たり次第に人を斬ろう等と考える輩。
 敵の姿が明確ではないことが、オボロの意識に僅かな焦りと苛立ち、そして妙に浮ついた、地に足のつかぬ感覚をもたらしている。
 そのことを、オボロは明確には意識していない。
 ただなんとはなしに落ち着かぬ、という思いが付きまとい、結果、早くトウカと合流すべきだ、という焦りに繋がる。
 その焦りが、新たに近づいてきた別の気配に対し、僅かに遅れをとる一因ともなった。

 ◆◆◆

 「成る程。合点が行きました」
 と、そう言うと、その女、奥村五百子はするすると歩き始める。
 不意のその行動に、やはり毛野は後れを取る。
 この女、どうするつもりだ?
 五百子に敵意がないことは分かった。
 あれば、小屋の中から朧の様子を伺っていた間抜けな首が、地面に落とされていたとしても不思議はない。
 しかし ―――。

 「もし」
 声をかけられるまでに近づかれた己の不覚を悔い、素早く脇差しを抜き放ち構えはしたが、意に反して暗がりに現れたのは、黒の袷に灰色袴を身につけた、日に焼けた肌をした一人の女であった。
 まだ夜明け前という事もあり、面差しは漠としてとらえどころがないが、その眼は些か細く鋭い。
 旅芸人として育った経験もあり、男装はしていても女であるとは察せられたが、物腰にしろ立ち姿にしろ、男と言われればそう信じたやもしれぬ様な凜としたものがある。
「肥前佐賀、奥村五百子と申します。率爾ながら、御名前を伺いたい」
 腰に太刀、背には行李。隙はないが、かといって戦いを仕掛けようという気配もない。
「…犬坂毛野胤智」
 警戒はしたまま、構えはとき、そう答える。
 五百子と名乗ったその女は、名を聞いて些か思案したような表情をする。するが、その姿勢も崩さず、
「なら、旅の途上かね」
 少し目を細めてそう返してきた。
 毛野は表には出さずに、さらに警戒を強める。
 この女、何かを知っている。
 何を知っているのかは分からぬが、自分の名を聞いたときの反応が妙だった。
「そうだ」
「先程の様子、隠れていた様に思えたが…」
 毛野が切り返すよりも先に、五百子がそう問うて来た。
 問いかけて、視線が毛野越しに向こうを見、止まる。
 しまった。毛野がまたも己の迂闊を恥じて、素早く背後に目線を送ると、朽ちかけた荒ら屋から出てくる妙に薄汚れた朧の姿。
 そして、五百子は先程の言葉を発する。


 オボロの前に突然現れた一人の影。
 その影は何等気配も出さずに、ぬらりとただそこに立ち、僅かに高い、しかし何ら抑揚のない声で話しかけてきた。
「肥前佐賀、奥村五百子と申します。率爾ながら、御名前を伺いたく」
 どうすべきか、素早く判断する間もなく、引きずられるようにただ、
「トゥスクルの侍大将、オボロ」
 と返した。
 その端から、白刃が眼前に迫る。

 五百子は抜き打ちに一閃。
 不意でありながらも反射的に身を引くオボロは、その手に刀を抜く。
 切り返しを受けるべく右手の刀を上げたとき、五百子の脚が腹を打っていた。
 衝撃に屈むところに、頭上からの返し。
 それを受けつつ、さらに右に転がった。

「何をっ…」
 言いつつ、体勢を直す。
「狐の類か…。さて、長崎に天狐、地狐なる妖物が居ると聞く。狸は四国が本場と聞くが、何れにせよ退治すれば分かったいね」
「何だって?」
 ゆらりと揺れて、八双から袈裟斬りに仕掛けてくるのを、受けて力で押し返す。
 そのまま鍔迫り合いになるところを、急速に切り下ろされ脚を狙われた。
 ぐん、と上体で押し返す。
 その軸にした右足を、再び蹴られた。
 気が削がれ、右半身が密着する。
「師、宣わく、怪力乱心を語らず」
 何だ?
 蹴り脚の次に、言葉でさらにオボロの意が乱れる。
「在るものは在り、在らぬものは無い。
 在らぬものを在ると言い、それに頼り縋るは愚。されども…」
 オボロの鳩尾に、五百子の刀の柄頭が打ち込まれた。
「眼前にあらば、それは怪異で無く現世のことったい。
 ならば、狐狸妖怪の類、この凶事を仕組みし妖しき者とて討ち果たせよう」
 息が数瞬止まり、反応が出来ない。
 頭上に月の光を浴びた刃が閃くのを感じる。
 そうか、死ぬかと、数瞬の間に思った。

 五百子の刃を止めたのは、毛野の叫びであったが、そのことはオボロの意識には入ってない。
「待て、駄目だ!」
 事態の急変に毛野はいつになく焦っていた。
 五百子の行動理由は、ほぼ見当は付いている。
 自分が疑いつつも保留としていた結論。つまり、オボロが狐狸妖怪の類ではないかという問いに、素早く答えを出したのだ。
 そしておそらく、自分が物陰から様子を伺っていたことから、自分がその妖怪を恐れ、或いは襲われていたとまで思ったのかも知れない。
「こどんは待っとんしゃい」
 どこぞの方言か、毛野には分かりにくい言葉を使ったが、待てと言われて待てるわけもない。
「駄目だ、今は、まだ…っ!」
 言い終わるより早く、五百子の身体が跳ね、毛野に覆い被さるように立つ。
 見ると、オボロが下から刀を跳ね上げるように切り上げて、そのまま脱兎の如く闇へと駆けていった。
「おい、待てよ…っ!」
 毛野ですら舌を巻くオボロの健脚は、この闇の中を瞬く間に駆け去り、追う間もなく消え去った。
 大きく息をつく毛野。
 五百子はその闇の中を見つめ、暫くして刀の血を拭ってから鞘に収める。
「血が…」
 五百子の二の腕に、傷があった。
「筋も血管もやられてなかけん、血止めをすれば問題なかよ」
 血。
 五百子のものと、そして闇に点々と続くオボロのもの。
 ほんの数瞬の間に、斬り合いとなり血が流れた。
 毛野は五百子を見る。
 戦いの後の昂揚も、或いは敵を逃した口惜しさも、他あらゆる感情も伺わせぬ。
 殺気も、剣気もなく斬り合う五百子の姿が脳裏に残っている。
 毛野の視線を見返して、五百子は再び眼を細めた。
「私もな、八犬伝は好きたい。妖怪退治なら、八犬士の方が上手ばいね」
 そう言った。
 言葉の意味は分からなかったが、この僅かに眼を細める表情が、五百子の笑みなのだと言うことは分かった。


【ろノ仁/呂仁村址/一日目/黎明】

【奥村五百子】
【状態】:左手に刃傷
【装備】:無銘の刀
【所持品】:支給品一式
【思考】 ひとまず殺し合いに乗る気はない。
1: 犬塚毛野を名乗る少年と行動を共にするかどうか…。
2: この凶事は妖怪やそれに類する者の仕業ではないか。
【備考】
※1865年、20歳の頃より参戦。
※犬塚毛野のことを、八犬士の犬塚毛野の役を演じている旅芸人か放歌師の類と考えています。
※オボロの事は、狐か狸の変化と考えています。また、それら妖物がこの凶事の原因かと考えています。

【犬坂毛野@八犬伝】
【状態】:健康
【装備】:脇差
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者の思惑を潰し、仲間の元に戻る。試合に乗った連中は容赦しない。
一:オボロを追うべきか? 五百子と話すべきか? 或いは…?
二:五百子が八犬士の何かを知っているのか気になる。
三:智の珠を取り戻す。
四:主催者に関する情報を集める。柳生十兵衛との接触を優先。
【備考】
※キャラクター設定は碧也ぴんくの漫画版を準拠
※漫画文庫版第七巻・結城での法要の直前から参加です。
※智の珠は会場のどこかにあると考えています。
※オボロを妖怪変化の類だと認識しています。


 ◆◆◆

 迂闊だった。
 暗闇の中を走りながら、オボロは己の不明を恥じる。
 初めの抜き打ちをかわせたのは、それがトウカの剣筋に似ていたからだ。
 運良く、かわせただけ。それが分かる。
 技量において格段の差があったとは思わない。
 だが、何より恐ろしかったのは、その殺気の無さである。
 意識の外から現れて、名乗りを上げたそのときから、とどめを刺そうと白刃をかざすそのときまで、五百子には殺気が感じられなかった。
 殺してやろう、打ち負かそう、勝ってやろう、という意志。
 まるで全てが平時同様。飯を食い、用便を足し、床に着くが如く、斬りつけてきた。
 何かを守ろうとする、或いは何かを奪おうとする剣。
 憎しみや恨みに塗れた剣。
 悲しみや怒りに震える剣。
 それらは、分かる。
 だが、五百子のように何ら意志や感情の見えぬ剣は、分からない。先が読めない。
 オボロにとってはむしろ、そのぬらりと底の見えぬ剣筋こそ、妖怪のもののようにすら思えた。
 死人の剣だ。
 不意に、そんな言葉が浮かんだ。
 あれは、生ある者の剣ではない。
 生き延びよう、打ち負かそうという意志のない、死人の剣筋だ。

 右手で、左手の傷を押さえる。
 筋も血管もやられていない。痛みはあるが、何処かで薬草でもまいて血止めをすれば問題はないだろう。
 この傷も、迂闊さ故だ。
 普段の、二刀の時の癖で、初めの抜き打ちに対して左手で受け太刀をするかの如く前に出してしまっていた。
 引くのが僅かに遅れていたら、おそらく左手はなかっただろう。
「…クソッ!!」
 オボロは歯がみをする。
 自分の迂闊さに。
 そして、毛野のことに。

 あの女は、毛野と組んでいた。
 そう思う。
 確証はない。確証はないが、そんな気がしてならない。
 自分とトウカのような初めからの知り合いか、或いはあの村で会って組んだのかは分からぬ。
 分からぬが、鳩尾を打たれたときに走り寄ってくる毛野の姿が僅かに目の端に映っていた。
 少年を使い、相手を油断させてから斬るという事か。
 或いは毛野が、あの女を言いくるめてけしかけてきたのか。
 斬り合いの最中、なにやら訳の分からぬ事を話し続ける五百子の様は、その殺気の見え無さとも相まってオボロに得体の知れぬ輪郭を描かせる。

 拙い。
 オボロは自分を賢いなどとは自惚れては居ない。
 しかし、今思うのは何よりもトウカの事だ。
 自分よりも遙かにお人好しのトウカが、このような敵も味方も分からぬ場において、どのようにされてしまうものか。
 オボロはそれを思うと、怒りとも恐怖ともつかぬ青黒い感情に包まれる。
 拙い。
 とにかく、トウカを探さねば。
 五百子のような、或いは毛野のような、奸智に長けた、得体の知れぬ輩から守るためにも、余計なことなどせずに真っ先にトウカを探し出し、合流せねば。

 果たしてそれが、仲間の安否を思っての事なのか、或いは己の中に生じた得体の知れぬ者への恐れからのものなのか。
 オボロ自身、それが分かるはずも無かった。

【はノ仁/山林/一日目/黎明】

【オボロ@うたわれるもの】
【状態】:左手に刀傷、煤、埃などの汚れ
【装備】:打刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:男(宗矩)たちを討って、ハクオロの元に帰る。試合には乗らない
一:五百子、毛野を警戒。まずは離れて、傷の治療をしたい。
二:トウカを探し出す。
三:刀をもう一本入手したい。
※ゲーム版からの参戦。
※クンネカムン戦・クーヤとの対決の直後からの参戦です。
※会場が未知の異国で、ハクオロの過去と関係があるのではと考えています。



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最終更新:2010年06月05日 19:54