小ネタ とある依存性
大学生がメインの街、第5学区。
御坂美琴は帰宅の途上にあった。
美琴は今年で大学2年目。年齢も二十歳となっている。
念願だった上条との恋人関係になってから早幾年、美琴が大学に入ってからは第5学区にあるマンションの一室にて同居中だ。
既に結婚を前提としたお付き合いとなっており、両家とも公認済み。後は籍を入れるだけといったような状態で美琴は幸せだった……のだが、現在の美琴は雰囲気があからさまに『私、不機嫌です』と言っている。
一刻も早くといった感じでドアを開ける作業ももどかしげに、上条が待つ部屋へ帰り着く。
上条は既に帰宅しておりドアが開く音を聞きつけて出迎えてくれた。
帰ってきた美琴を見て上条から声を掛けてきた。
「お、おかえり。広域社会見学はどうだった?……っていうか、どうしたよ?えらくやつれてないか?」
そう、今年の美琴は9月3日から9月10日の1週間に掛けて行われる広域社会見学者の対象に選ばれてしまっていたので行って来た訳だが、
「ただいま…………最悪だったわ」
上条は美琴の答えに眉をひそめて問いかけた。
「そりゃまた、どうしてだ?行く前はそれなりに楽しみにしてなかったっけ?施設とか内容が満足できなかったとか?」
「……そこら辺は特に問題はなかったわよ。やつれてんのは当麻の性よ」
「……は?なんで?」
「……、」
「お、おい?どうしたんだよ?」
美琴はそれには答えずに無言で上条の腕を取って、部屋の奥に引っ張って行く。行き着いた先は寝室だ。
やつれてるのが上条の性とか言うので、1週間も離れていたから欲求不満なんです。とかだと上条としてもまだ有難いのだが、
全くもってどう見ても美琴の雰囲気はそういう艶っぽい感じでは無い。
連れて来られた意図が良く分からずに慌てて問いただす上条に対して、美琴はぼそりと答えた。
「……眠いのよ。向こうで全然寝付けなかったのよ」
「……は?ちょっと待て、何故それが俺の性なんだ?っていうか眠いなら寝ればいいと思うけど、俺が必要な理由は?」
「いいから、当麻はそっち行ってよ」
1週間も寝付けなかったと言う美琴はひどく雰囲気が荒れていて逆らい難い。
仕方なく上条は言われたとおり、何時も寝ている通りにベッドの右サイドに寝転がる。
それを確認した美琴はいそいそと上条に寄り添いながら理由を述べた。
「自分でも知らなかったんだけど、私って枕が変わると寝れないのかも」
と言って、上条の右腕を枕にして幸せそうに目を閉じてしまった。
「ちょっと待て!?俺の扱いは寝具かよ!?いくらなんでも酷くないですか!?っていうか1週間離れていたのにいきなりコレはないだろ!!男の事情ってやつも察してくれーーーー!?」
人間の睡眠は時間より質が重要である。
よく眠れない人は気になる事があったりとかする訳で、安心出来る環境だと睡眠効率はあがるそうだ。
寝食を供にする事1年半、美琴はすっかり上条の腕の中……どこよりも安心できる場所で眠る事に慣れてしまっており他の状況ではどうにも眠った感じがしない。
大体、朝起きた時に隣にあるべき暖かいのがないというのはよろしくない。
目の前で寝具が何か抗議しているがそんな事は知った事じゃない。とばかりに美琴は夢の中へ一直線。
――今日は久しぶりに良く眠れそうだ。