とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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ラプラスの神様 4



 夕焼けの翌日が晴れるというのは、実はそれほど的外れなことわざではない。
 日本の上空は、偏西風と呼ばれる風の影響を常に受けているので、雲は東側に向かって流れていく。そのため、夕方に西側の空が綺麗に晴れ渡ると、翌日も晴れる可能性が高くなるのだ。
 しかし、例外は当然あるもので、折角のデートにもかかわらずこの日は曇りだった。今は雨こそ降っていないが、予報では午後から天気が崩れるとされていたし、本日届いたばかりのメールマガジンのラッキーアイテムは折りたたみ傘だった。
 バッグにいろいろと詰めていたので、前日に準備をしているときは、傘を持っていくか悩ましいところだったが、やはり持ってきておいて正解だったかなと美琴は思っていた。
 電車に揺られながら届きたてのメールを読むと、昨日に続いて素晴らしい結果がそこには書かれていた。自然と全身に力が入るのを美琴は感じた。

 『アクアガーデン』は駅から5分くらい歩いた場所にある。南口の改札を抜けると、道路をはさんで向かい側に広い公園があり、その中を真っ直ぐ進むと入門のゲートが見えてくる。
 電車を降りて、上条との待ち合わせ場所であるゲートの近くまで来ると、そこは自分と同じく、待ち合わせをしている様子の私服の男女で賑わっていた。開園時間前だというのに、なかなかの盛況ぶりである。
(ちょっと早かったかしら。つか、制服で来るのはやっぱり目立ちすぎね…失敗だわ…)
 上条と二人で遊びにいくなんて、今までに何度もなかったことなので、美琴は緊張していた。せっかくだから先週買ったばかりの夏物の服に袖を通してみようか、それともいつも通り制服を来て行くか、前日の夜に大いに悩んだのだが、結局彼女は制服を来て行くことにした。
 休日のレジャースポットは人が多い。いつもの制服を着ていた方が、待ち合わせのときに上条が自分を見つけやすいだろうと考えたからだった。
 代わりにという訳ではないが、普段は殆どしない化粧を少し頑張ってみようと、メイク雑誌まで買い込んでおいたのだが、公共のプール施設の多くは、化粧や日焼け止めの類を禁止しているところがほとんどで、『アクアガーデン』もその例にもれず、化粧品類の使用が禁止されていた。それに気付いたのは今朝になってからだ。
 デートだというのに洒落っ気などほとんどなく、自分で悲しくなるほど空回りしているのがわかった。
 早起きして弁当を作ったまでは良かったが、おしゃれに時間をかける理由がなくなったため、手持ち無沙汰な美琴はついつい早目に寮を出てしまった。プール入り口の手前までたどり着いたとき、時刻は8時半だった。
 陽は陰っているとはいえ、8月の午前は暑かった。さて、約束の時間までの30分間をどこでどうして潰そうか。いや、上条ならさらに遅れてくることも考慮しなければいけないかな、などと思いを巡らせていると、美琴は不意に声をかけられた。
「よう御坂。早いじゃねーか」
 突然の事態に美琴の肩はびくりと震えた。時間にルーズな上条が約束より30分も早く着いていたのだ。
「ななな、何で!?」
「へ?何でって?」
 思わず上ずった声をあげた美琴に、上条はキョトンとした顔を作った。
「な、なんでアンタがこんなに早いのよ!?」
「え、ああ………いや、俺も昨日から結構楽しみだったからさ。つい早く来ちまった。」
 はにかんだような顔でそう答えた上条に、美琴はドキリとした。
 本当のところ、昨日インデックスと喧嘩をした上条は、自宅の居心地が大変悪かったため、逃げるように寮から出てきただけであった。
 朝から慌ただしく彼女の朝食を準備し、昼ごはん用に大量に米を研いでから家を出てきたので、食うには困らないはずだ、と上条は計算していた。お昼用のおかずは何ひとつ用意してこなかったが、昨日まとめ買いした冷凍食品が大量にあるので問題はないだろう。電子レンジくらいは使えたはずである。
「じゃあ、開園まで時間もあることだしその辺で時間潰すか。朝抜いてきたから何か食いたいし」
「…アンタ、お腹空いてるの?」
「ん、まあ、ちょっとバタバタしててな。アイムハングリー」上条は自分の腹に手をやり、そう言った。
「えっと…じゃあお弁当食べる?お昼用に作ったんだけど、ちょっと作りすぎちゃって。たぶん二人じゃ食べきれないし、お昼とメニューが一緒になっちゃうけど、それで良ければ…」
「マジで?そりゃあ助かる!つか、わざわざ弁当作ってきてくれたのか?急に誘ったのに何かわりーな」
「い、いいわよ…べつに。遊びに連れてきてくれたお礼みたいなもんよ」
 思いのほか上条が喜んでくれていたようなので、美琴は嬉しかった。早起きして作った甲斐があったというものだ。
 幸いまだ雨は降っていない。開園までの僅かな時間、二人は近くのベンチで朝食を摂ることにした。

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